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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第一部 魔法少女専門動画サイト"マジマジ"
8/384

3-2.



 千春が妹から魔法少女の力を譲渡されて、あの夜に天羽を助けに入るまで数日のタイムラグがある。

 その間に千春がやっていた事は何を隠そう、例のオリジナル変身ポーズの研究であった。

 あの日妹から貰った力で初めて変身を果たした千春は、ふとあることに気付いたのだった。


「初めてあの姿に変身したとき、おれはこう思ったんだ。 この姿に相応しい変身ポーズが必要だと…」

「…続けて」

「俺は変身ポーズについて悩みぬいた。 魔法少女の力がベースだから、魔法少女をモチーフにすることはすぐに決まった。

 しかし魔法少女の可愛らしい身振りと、特撮ヒーローがどうしても噛み合わなくて色々と試行錯誤してたんだ」


 マスドシリーズの醍醐味は変身であり、その変身時に欠かせない物は変身ポーズだろう。

 各マスクドシリーズのヒーローには、その作品を象徴する独特の変身ポーズが存在している。

 マスクドシリーズには変身ポーズが不可欠であり、気合の入ったファンはポーズの動作だけで作品を言い当てることが出来る。

 千春は"マスクドナイトNIOH"と言う名称となった姿、あれに相応しい変身ポーズを作り出すために昼夜を問わずに悩んだ

 それは本来なら仕事に集中するべきバイト中でも同じであり、無意識の内に試行錯誤中の身振りが出てしまったのだろう。

 この間抜けな顛末を弁明するならば、この時点で千春自身が動画投稿者となる気は欠片も無かった事だ。


「ど、どうしよう!? もしかしたら他の客にも見られてたかも…」

「はぁ…。 一応、お客さんが居なくて暇なときだけやってたみたいよ。 寺下さんが見ている限りでは、店の外では分からないけど…」


 知り合いが突然奇妙な身振りを始めた所を目撃した当時の朱美は、心配になってこの店の店長である寺下に事情を聞いていたらしい。

 とりあえず客が来たら仕事はしっかりやっていたと言う情報から、気が狂った訳ではないと一応納得はしたそうだ。

 そして今回の動画を目にした朱美は、少し前の千春の奇行と動画内の変身ポーズを結びつけられた。

 今更ながら己の失敗を自覚して見るからに狼狽する千春、そんな元同級生の姿に朱美は呆れたと言わんばかりの冷たい視線を送る。


「…それでは、詳しい話を聞かせて貰えますよね? 矢城 千春さん」

「うわ、早速スイッチ入れたよ、この聞屋め…」


 先ほどまでの気軽い口調から、落ち着いた敬語調に切り替えた朱美の姿に千春は疲れたように溜息をつく。

 これは朱美が取材の時の猫かぶりであることを熟知している千春は、彼女が情報を聞き出すまで自分を逃すつもりは無いと確信する。

 少なくとも妹の存在は隠さなければならないと気合を入れて、千春は言葉を選びながら動画投稿者となった経緯を話し始めた。











 あの聞屋見習いの元同級生の追及から数日後、千春は相棒である動画投稿者の少女と共にいた

 後ろに天羽を載せた千春は、とある場所に向かってバイクを走らせている所だ。

 妹と同年代の少女を事故に巻き込めないので、一人の時より気持ち丁寧な運転を心掛けたこともあって目的地にはすぐに着いた。

 建物の横に設けられた小さな駐車スペースにバイクを置いて、千春は天羽を連れて目的の建物へと向かう。


「へー、昼間だと雰囲気が違いますね。 前は暗かったから、外観がよく分からなくて…」

「わざわざ呼び出したんだ、うちの店おすすめのケーキセットでもサービスするよ」

「うわっ、楽しみです」


 向かった先はなんてことも無い、千春のバイト先である例の喫茶店である。

 見た目からしてレトロな雰囲気の純喫茶の佇まいは、今時の少女には中々評判が良さそうだ。

 前回は撮影目的のために閉店後に店に来てもらったが、今日は普通に昼からの来店である。

 入口に臨時休業との札が掛けられた店には当然のように客はおらず、店に入ってもあの中年店長の姿は何処にも居ない。

 代わりに千春たちを出迎えてくれたのは、千春の元同級生の女性であった。


「おう、来たぞ、朱美」

「いい心がけにね、時間通りよ、千春。 こんにちは、あなたが天羽ちゃんね」

「こんにちは…」


 ジャーナリスト志望らしく外向けの顔は完璧な朱美は、いかにもな営業スマイルで天羽と挨拶を交わす。

 対する天羽は千春から話を聞いているとは言え、初めて出会う女性に対して少し警戒している様子だった。


「店長はどうした?」

「奥に居るわよ、店は好きに使っていいって。 こんなに簡単に貸しちゃって、商売になるのかしら?」

「道楽でやっている店だ、本人が良いっていうなら構わないだろう。 この前も理由も聞かずに、店を貸してくれたしな…」

「…ねぇ、もしかして例の動画はこの店で撮った物なの? バカ春、あんたは本当に正体を隠す気があったのかしら?」

「べ、別にいいだろう!? それで、わざわざ俺たちを呼びつけた要件を聞かせろよ」


 目の前のジャーナリストもどきの追及によって千春は、結局は妹の件以外の全ての情報を吐かされてしまっていた。

 そもそも長年の腐れ縁である朱美は千春の弱みなど幾らでも握っており、元々勝てる勝負では無かったのである。

 朱美が天羽と顔を合わせて話をしたいという要望にも、こうして応える羽目になっていた。


「あ、その前にコーヒーでも入れてよ。 あんたのまずいコーヒーで我慢してやるから…」

「はぁ、俺のコーヒーがまずいだと? いいだろう、次期店長と目されている、敏腕アルバイターの俺の腕を見せてやるからな!!」

「へー、お兄さんのコーヒーですか。 楽しみですね」

「あんまり期待しちゃ駄目よ。 多分、30点くらいの味しか出せないから…。

 けどセットのケーキは美味しいわよ、寺下さんがわざわざ用意してくれた物があるの。 勿論、こいつの奢りでね」


 朱美の挑発と天羽の期待を受けて、千春は此処で引いたら男が廃るとばかりの勢いで調理スペースへと向かう。

 高校時代からこの店でバイトをしている千春としては、まだ店長に負けるとしてもそれなりのコーヒーを出す自信がある。

 たまに店長の好意でコーヒーの淹れ方を教わっている自分の成長を見せてやると、千春は腕捲りをしながらコーヒーを淹れ始めた。

 …40点くらいの味は出せました。






 微妙なコーヒーと共に美味しいケーキを頂いた女性陣たちは、それぞれ対照的な感想を千春に伝えた。

 朱美の本音と天羽の世辞のどちらにショックを受けたか分からないが、それを受けた千春は虚ろのな目をしながら机に倒れこんでしまう。

 そんな千春のことを半ば無視して、朱美は空になったコーヒーカップを置きながら本題へと入る。


「そろそろ本題に入るわね。 事情はこのコーヒーの才能ゼロの男から粗方聞いているわ、その上で一つ提案があるの。

 どう、私をあなたたちのチームに入れてくれない?」

「…協力ですか? お姉さんも動画に出たいんですか?」

「違う違う、私は表に出る気はないわ。 私がしたいのは情報提供、聞いているかもしれないけど私は趣味で魔法少女関連の情報を集めているわ。 その情報をうまく使えば、あなたたちの動画つくりに役立つと思うの」

「…その見返りに、お前は俺たちを通して魔法少女業界の情報を集める気なんだろう?」

「外から調べるだけでは限界があるわ、あなたたちが活躍すれば自然と内側からの情報が流れ込むでしょう。 私はもっと魔法少女の事を知りたいのよ」


 朱美が千春たちに持ち掛けたのは、情報提供という形での協力関係の構築であった。

 そして情報提供の報酬として朱美は、魔法少女投稿者として活躍することになる千春たちの元に入るであろう魔法少女たちの裏情報が欲しいと言う。

 あくまで外野でしかない朱美の立ち位置では、魔法少女たちの真に迫る情報を得ることができない。

 しかし実際に魔法少女として活動することになる千春たちならば、やがて出来るであろう魔法少女同士の繋がりを通して何らかの情報が得られるかもしれない。

 朱美は魔法少女関連の取材の新たな情報源として、千春と天羽という新米魔法少女投稿者と関わりを持とうと言う。


「例えばあなたたちがこの街で魔法少女として活躍するとして、一つ問題があるわよね?」

「…縄張りの話ですか」

「よく調べているわね、この地域には既に活動している魔法少女がいる。 通称、"ウィッチ"がね…」


 そう言いながら携帯電話を取り出した朱美は、千春たちの前にとある写真を見せる。

 それはフードで顔を隠している、フード付きの黒ローブを纏った人影であった。

 顔はフードで隠されて全く見えないから、フードの上から伺える体系からそれが小柄な人物であることが分かる。

 その手には灰色のクリスタルが嵌め込まれた木製のようにも見える杖が握られており、杖の先端から炎らしき物が噴出していた。

 黒ローブに木の杖、一昔前の童話に出てくるようなクラシカルな魔女のような佇まいの魔法少女。

 "ウィッチ"と呼ばれている、千春たちが住む街を守る魔法少女の姿がそこに映っていた。



活動報告でも書きましたが今回の更新から、こっそりサブタイトルをあらすじの方に持っていきました。

どうせ趣味100%の作品ですので流行りに乗らず、シンプルなタイトルで直球勝負していきます!!


…実は他の魔法少女と絡むのはもう少し先の予定なんで、タイトル詐欺な気もしたので。


では。

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