5-4.
公衆電話でこの街で起きている事件の噂を朱美に伝えた千春は、何時もの様にその情報の裏付けを丸投げする。
そして夜に再びに連絡を取った所、確かにそれらしい話が出てきたと朱美が言うのだ。
詳しい内容は朱美も現地入りして直接に話す事になり、千春は彼女の到着を待つことになる。
本当に帰宅することなく街で一夜を明かした千春は翌日、この街の中央駅の改札前に立っていた。
「あれ、会長さん。 なんで此処に…」
「ははは、ちょっと前に会ったから、久しぶりでも無いかな。 矢城さん、彼女のことは自分で聞いた方が早いと思うよ…、ほら」
駅の改札前に居た千春の前に現れたのは、朱美では無く別の人間だった。
魔法少女研究会、先日の家庭内暴君となった魔法少女に関する依頼を持ち込んだ朱美の大学の変人集団。
その連中の頭である会長の浅田は、前も一緒だった由香里と少し太り気味の男性会員を引き連れて改札から出てきたのだ。
また研究会の連中を連れてきたのかと千春は朱美の姿を探すが、何処を探しても肝心の彼女の姿は見当たらない。
訝しむ千春に対して、浅田は手に持っていた持っていた旅行用バックを差し出した。
「お、俺の荷物。 サンキュー、会長さん。 よーし、携帯もちゃんとあるな…」
「彼女からの預かりものだよ。 矢城さん、やっぱり君たちは付き合ってるのかい? 部屋から着替えや携帯を持って来させるなんて…」
「違う違う、この荷物は妹に用意させたんだよ。 あいつに俺の神聖なプライベートルームを荒らさせるかよ…」
浅田が持って来た荷物は、昨日の内に千春が朱美に頼んでいた着替えと自室に放置してきた携帯である。
ただしこの荷物の準備をしたのは、朱美では無く千春の妹である彩雲だ。
彩雲にアパートの合鍵を預けていた千春は、それを使って自室から携帯や着替えなどを回収して貰った。
本来なら彩雲がまとめた荷物を朱美が預かる筈だったが、恐らくそこから朱美が浅田に預けたのだろう。
「え、でも彼女は君の部屋が酷い有様だったって、楽しそうに語っていたよ」
「はぁ!? あいつ…、妹に着いて行って俺の部屋に勝手に上がり込んだな!?くそっ…」
浅田の言葉が本当であれば、どうやら朱美は彩雲に同行して勝手に千春の自室に進入したらしい。
よくよく考えて見れた朱美を通して彩雲に荷物の件を頼んだので、あの女は妹が千春の部屋に入ることを当然把握している。
恐らく彩雲を適当に言いくるめた朱美が、便乗して一緒に部屋と入ったのだろう。
血を分けた妹ならまだしも、完全なる第三者に自室と言うプライベートを覗かれた事実を知った千春は怒りのままに下手人へ電話を掛けた。
「"おい、朱美。 勝手に俺の部屋に入ったな!!"」
「"ああ、千春。 研究会の連中と合流したのね。 ふん、人を召使いのように使った罰よ。 それにもう少しくらい部屋を綺麗にしときなさいよ、彩雲ちゃんも荷造りに苦労してたわよ"」
「"五月蠅いな。 ていうか、お前は何で来てないんだ? 昨日は来る気満々だっただろうに…・"」
「"わ、私は暇人のあんたと違って忙しいの! 今日は出ないとまずい講義があったのよ、昨日はすっかり忘れてたけど…。 だからわざわざ魔法少女研究会に声を掛けてやったのよ、感謝しなさい"」
現役大学生である朱美は、残念ながら絶賛無職中の千春ほど身軽に動けない。
どうやら今日は大学関係の予定が入ったようだが、朱美はそのことを失念していたらしい。
今日になって自分が動けないことを知った朱美は、自身の代理として魔法少女研究会を此処に向かわせたようだ。
「"まあ呪いなんて下らなそうな事件そうだし、私はそこまで興味も無かったからね…。 研究会の連中と精々頑張り…"」
「"嘘つけ、昨日の夜に電話掛けた時にはノリノリだったじゃ無いか。 魔法少女が絡む呪いの事件、いかにお前が喰い付きそうな話だからなー。 ははーん、事件の調査に参加できなくて拗ねてるんだろう?"」
「"…多分明日にはそっちに行けるから、それまで勝手に事件を解決するんじゃないわよ、バカ春!!"」
こんな事件など興味が無いと強がる朱美だが、付き合いの長い千春はすぐにその虚勢を見破った。
そもそも昨日の電話の時点で朱美の喰い付き具合は尋常では無く、下手すれば千春以上にテンションを上げていたのだ。
今更そんな物に興味が無いと言われても、説得力の欠片も無いだろう。
千春の追及によって図星を突かれた朱美は、捨て台詞と共に乱暴に電話を切った。
千春が地元学生から聞いた噂の内容は、以下のような内容であった。
学生たちの通う学校で、あるクラスに所属する人間が生徒・教師を問わずに呪われたそうだ。
呪われた者たちは突発的な睡魔と悪夢に悩まされて、一部の人間は未だにその呪いが解けてはいない。
そして学生たちが言うにはその呪いを掛けた者は、クラス内で苛めを受けており不登校になった少女であるらしい。
実際に少女の虐めに関わった者への呪いは特に強烈であり、彼女たちは彼女たちも不登校になっていると言う。
「なんだよ、これ…、集団食中毒? この記事は…」
「とある中学校で同じクラスの教師と生徒たちが、一斉に病院に運ばれたそうです。 此処は学校給食を出しているので、それを食べた教師と生徒が一クラスまとめて食中毒を起こしたのではと疑われて…」
「実は食中毒じゃ無くて、呪いだったか…。 この記事にある事件が、俺が聞いた呪い騒ぎだよな。 多分、魔法少女絡みの事件だろうけど、よくこんな不祥事が記事になったな…。 ゲームマスターのやり口なら…」
「調べられたのはこの記事だけですよ、これ以降に事件の続報は無く完全にシャットアウトされてます。 多分、矢城さんが言うゲームマスターとやらの介入でしょうね…」
まずは情報共有という事で、浅田たちと合流した千春は駅前の飲食店へと訪れていた。
千春が地元学生から聞いた噂を裏付けると情報とやらを、朱美に代わって魔法少女研究会のメンバーが語り始める。
彼らの話によると確かにこの街では、千春が聞いた噂を裏付けるような不可解な事件が起きたらしい。
この世界では魔法少女の評判を下げないためか、何らかの力が働いて彼女たちの悪行は外に広まらないようになっている。
例えば過去に千春が倒した有情 慧の悪行については、彼女の居る街の外には全く広まっていない。
魔法少女の力で傷害や器物破損などの犯罪を冒せば、普通であれ十分に全国規模のニュースに成り得る筈なのにである。
クラス単位で犠牲者が出たこの街の呪い騒ぎも、同じように情報が外に広まらないように介入されていてもおかしくないだろう。
しかし実際には浅田たちが見せた記事に有る通り、どういう訳か魔法少女が絡んでいる筈の事件が普通に公開されていた。
「面白いですよね…。 矢城さんが言う通り、明らかに魔法少女が関わっていたこの事件は普通に報道されていた。 魔法少女が関係する可能性が出た途端に、報道がストップしてますがね」
「ああ、そういう判定なのね…」
魔法少女研究会の見解としてはゲームマスターによる情報操作は、それが魔法少女が関係していると判明するまで行われないのではと語る。
記事に有る通り1クラスが一斉に病院送りにされた事件は、最初の頃は集団食中毒などの常識的な原因が考えられた。
しかし恐らく病院に運ばれたことで彼らの不可解な状況が把握されていき、やがて魔法少女の関与が疑われるようになる。
この瞬間に初めて介入が行われて、以降にこの事件に関する情報が一切に流れなくなったのではと言うのだ。
「ええ。 そして逆を言えばそれが魔法少女絡みと認識されない限りは、情報操作が行われないんです! これは凄い事なんですよ、矢城さん!!」
「え…、うん」
「もしかしたら魔法少女に関係する他の事件も、今回のように断片的な情報が報道されているかもしれません。 上手くいけば、私たちもまだ把握していない魔法少女の事件を探せるかも…」
「大学に残った研究会の面々も今、過去の事件記事を片っ端に探しています。 今回の事件のように、唐突に続報が途切れた事件があれば魔法少女が関わっている可能性が高いですからね! いやー、NIOHさんに会ってから、研究が捗りますねー!!」
今回の事件からゲームマスターの介入の仕組みを理解した浅田たちは、千春が若干引くほどに興奮していた。
魔法少女の研究を行う彼らは、魔法少女に関わる全ての事柄を研究材料として収集したいと考えている。
しかし彼らが喉から手が出る程に欲しい魔法少女の情報の一部は、ゲームマスターの介入によって遮断されていた。
そんな時に今回の事件を調査する過程で、ゲームマスターの介入にも穴がある事を知った彼らは狂喜した。
既に魔法少女研究会たちは動き始めており、今回と同じような情報操作の後が無いか探し始めているらしい。
「わ、分かった、分かったから…。 頼むからゲームマスターの考察なんかは、後でやってくれよ。 今はそれより、この街の呪いの事件を調べようぜ」
「勿論です。 この街で起きている呪いの事件も非常に興味深いですからね。 魔法少女研究会は一同、マスクドナイトNIOHさんに全力で協力することを誓いますよ」
「いや、そこまで気合を入れなくてもいいから…」
既に先のことを見据えている浅田たちに、千春はこの街で起きた事件のことを忘れるなと釘を刺す。
それに対して浅田は心外とばかり、自分たちの力で千春を助けて見せると語る。
浅田たちの異様な熱意に押された千春は、自分が話を持ちかけた筈なのに何処か置いて行かれているような感覚を覚えていた。




