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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
75/384

4-8.


 魔法少女の力の源であるクリスタルを砕く事で、家庭内暴君であった鈴美をただの少女へと戻せた。

 このまま魔法少女の力を没収する気ならば、砕かれたクリスタルの一部を何処かに隠せば少女が力を取り戻すことは無い。

 クリスタルが修復すされるまで時間はあるので、力の扱いについて考える時間は幾らでもあるだろう。

 戦いの後で切れた鈴美の父親が即座に千春たちを家から追い出したので、どちらにしろ後はあの家族次第と言う事だ。


「…なぁ、この街の魔法少女に会えないかな?」

「残念ながらこの辺りで活動している魔法少女は、素性を隠しているようです。 姉たちも最初は地元の魔法少女に相談しようと思ったらしいのですが、連絡する手段も無くて…」

「ふーん、あの子の事がそんなに心配なんだ、あんたも何だかんだでお人好しね…。 意外とヒーローらしくなってきたんじゃない」

「うるせー」


 鈴美の家を後にした千春たちは、最初の待ち合わせ場所に使った店に逆戻りしていた。

 貴重な資料を取れた魔法少女研究会の面々が笑顔を見せる中、千春だけは浮かない顔を浮かべている。

 魔法少女スィート・アンミツを止めると言う、千春に依頼された当初の役目は無事に果たした。

 千春としてはこのまま帰っても問題ないのだが、この後に鈴美がどうなるか気になっているようだ。

 そこで鈴美へのアフターフォローとして、彼女と同じ目線に立てる先輩魔法少女と関りを持たせられないかと千春は考えたらしい。






 確かにこの街には既に活動している魔法少女が居たため、幸か不幸か鈴美が即座に戦場へと出される必要は無かった。

 荒療治であるが鈴美をモルドンとの戦いに出していれば、あの我儘少女ももう少し矯正されていたかもしれない。

 今となっては意味の無い仮定だろうが、兎に角この街には他の魔法少女が居ることは確かである。

 しかし正体を隠して活動している地元魔法少女との伝手が無いため、残念ながら千春の案は実現不能のようだ。


「…モルドンが出てくれば、魔法少女も現れるよな」

「へー、そこまでやるんだ」

「まあ、乗り掛かった舟って奴だよ。 さて、頼れる先輩にお願いでもするかな…」


 鈴美の面倒をこの街の魔法少女に見て貰うと言う考えを、千春はどうしても捨てきれないのか。

 諦めの悪い千春は、正体不明の地元魔法少女と接触するために動き始める。

 やる事は前に有情 慧と戦った時と同じで、魔法少女が必ず現れる機会を狙えばいい。

 モルドンが現れる所に魔法少女の姿があり、そして千春にはそれを予測できる頼れる魔法少女の伝手があった。

 千春はまた先輩に借りが出来たなと内心で考えながら、携帯でウィッチに連絡を取ろうとする。


「おお、やっぱりマスクドナイトNIOHが最後に頼るのはウィッチさんなんだな!! よしよし…」

「会長、流石に空気を読みましょうよ…」


 当然のように千春たちの会話は、その場に居合わせている魔法少女研究会の面々にも聞かれていた。

 そしてウィッチ推しの浅田としては、千春がウィッチを頼りにする展開は非常に喜ばしいことらしい。

 場を弁えずに興奮しだして、会員である友里恵に苦言を呈される残念な会長の姿がそこにあった。











 スィート・アンミツこと鈴美との戦いから数日経った頃、千春は再びあの街を訪れていた。

 魔法少女ウィッチの持つ能力の一つ、モルドンの出現を予測する占いの結果には何度も助けられた。

 今更ウィッチの占いの精度を疑う余地はなく、千春は教えられたモルドンの出現予想地点の近くに潜む。

 そして今回もウィッチの占いは的中して、そこにモルドンとそれを討伐に来た魔法少女が姿を見せたのだ。


「■■■■っ!!」

「いくわよ、はぁぁぁ!!」


 コック風にアレンジをしたドレスを纏った魔法少女が、泡だて器のような武器を持ってモルドンへと挑む。

 年齢的には中学生くらいで、魔法少女としては平均的な歳頃だろう。

 千春の見る限りはその戦い方には迷いは見られず、それなりに経験のある魔法少女らしい。

 危なくなれば助けに入ろうとも考えていたが、この様子なら無用の心配になりそうだ。

 そして千春の見立て通り、この街の魔法少女は危うげなくモルドンを倒してみせた。






 泡だて器風の武器で見事にクリスタルを破壊した魔法少女は、その場で崩れ行くモルドンの残骸を見ている。

 此処でこの少女を逃がしたら元の子も無いので、千春は潜んでいた場所から出てきて少女に声を掛けた。


「…よぉ、君がこの辺で活動している魔法少女か。」

「っ!? その顔は…、まさかマスクドナイトNIOHの矢城 千春!!」

「おお、俺も有名になったな。 実は君に話が…」

「ど、どうしてマスクドナイトNIOHが私の所に!? 何で、私は真面目にモルドンを倒してたのに…」


 突然話しかけれた少女は、月明かりに照らされて現れた千春の姿を確認して驚愕の表情を浮かべてしまう。

 どうやら千春は予想以上に有名になったようで、変身していない自分がマスクドナイトNIOHであると一目で察したようだ。

 いきなり現れた男の話を信じてくれるかと心配していたが、千春が魔法少女の関係者であると分かって貰えば話が早い。

 千春は早速、本題である鈴美の件について話を始めようとした。

 しかし少女にはこちらの言葉が届いておらず、どういう訳か千春に怯え始めたのだ。


「あの…、聞いてる?」

「ああ、前に勢い余ってあの店の看板を壊したことを恨まれたのかな? それとも別の何かかしら…。

 どちらにしろ魔法少女ハンターのNIOHに狙われたら、私はもうお終いね…。 はぁ、短い人生だったわ…」

「もしもーし! お願いだから正気に戻って!!」


 全く千春の言葉が届いていない様子の少女は、一人でぶつぶつと喋りながら表情をコロコロと変える。

 その独り言を聞く限りではこの少女は、マスクドナイトNIOHこと千春が自分を倒しにやって来たと勘違いしているらしい。

 この少女はマスクドナイトNIOHの存在だけでなく、問題を起こした魔法少女の断罪者としての役割も把握していた。

 半ばゲームマスターに嵌められる形で魔法少女絡みの案件をこなしていた千春は、何時の間にか一般の魔法少女にも恐れられる存在にまでなっていたようだ。

 結局この少女が正気に戻って千春の話を聞いてもらうまで、もう暫く時間を要するのであった。











 鈴美が持っていた魔法少女と言う特別な力は失われてしまい、スィート・アンミツはただの小学生に戻ってしまった。

 ノックアウトの衝撃から目覚めた鈴美は、自分がスィート・アンミツになれなくなった事実を嘆き悲しんだ。

 両親は落ち込む鈴美を励ましたが、魔法少女の力を失った悲しみが癒えない少女に明るさが戻ってこない。

 相変わらず学校にも行こうとせずに部屋に引き込もり続ける鈴美の姿に、彼女の両親たちは危機感を募らせていく。

 そんな危機的状況となった家族の元に、鈴美の救い主となりえる魔法少女が現れたのだ。


「初めまして、鈴美ちゃん。 私は多恵(たえ)、あなたと同じような力を持っているの」

「同じ…?」

「ええ、私を見てて! 美味しいお菓子を一杯作っちゃおう、スィート・ホイッパー!!」


 勉強机に座って何か落書きをしていた鈴美は、部屋を訪れた見知らぬ女性の姿を警戒する。

 それに対して多恵は自分が鈴美と同じ存在であると証明するため、彼女の目の前で華麗な変身を行う。

 泡だて器のようなステッキを持ち、コック風のアレンジをしたドレスを身に纏う。

 一目でスィート・アンミツと同じ物であると察した鈴美は、久方ぶりに目を輝かせていた。


「うわぁ、お姉ちゃんも変身するんだ。 私、お姉ちゃんの格好見た事ある。 昔やってたスィートシリーズの…」

「スィート・ホイッパー、スィート・クッキングって作品に出てくるキャラクターよ。 お姉ちゃんが昔、とっても大好きだった作品よ」

「いいなー。 私も本当は変身できるのに…」


 幸運なことに多恵の魔法少女としての姿は、鈴美が愛するスィート・アンミツの先輩にあたるキャラクターであった。

 見覚えのあるキャラクターに変身した多恵の姿を見て、鈴美は暗い顔を一変させて笑顔を見せる。

 しかし残念ながら鈴美の喜びは、自身がスィート・アンミツになれない事実を思い出したことで儚く消えてしまう。


「ふっふっふ、お姉ちゃんに任せなさい。 私があなたをスィート・アンミツに戻してあげるわ」

「ええ、本当ー」

「勿論、スィート・ホイッパーに不可能は無いんだから!」


 そんな暗い表情の鈴美に対して、多恵は魔法少女を取り戻してあげると持ちかけて来たのだ。

 魔法少女の力を取り戻したい鈴美は当然その話に喰い付き、再び目に力を取り戻した。

 多恵は屈んで鈴美と視線を合わせて、彼女の小さな手を握りしめながら語り掛ける。


「ただし、これから話すお姉ちゃんとの約束を守ってくれればね。

 まずはスィート・アンミツの力は正義のための物だから、もう勝手に使っちゃ駄目よ。 次にこれから学校にもちゃんと通うこと、お勉強も真面目にするの。 最後にパパとママの言う事を守って、清く正しく生きること。 いいわね」

「うん、もうスィート・アンミツの力を勝手に使わない、学校にも行く、パパとママの言う事を聞くよ!」


 砕かれたクリスタルの欠片が一揃い、持ち主の魔法少女の手元にあれば勝手に修復は行われる。

 多恵がどうこうしなくても、暫くすれば鈴美は自然に魔法少女の力を取り戻せるのだ。

 しかし幼い鈴美は魔法少女の仕組みを把握しておらず、自分が永遠にスィート・アンミツになれなくなったと思い込んでいた。

 その認識を逆手に取って、多恵は鈴美を真っ当な道に戻すための幾つかの約束を取り付けることに成功する。

 この展開に持っていくために鈴美の両親と共謀して、彼女にクリスタルの仕組みが伝わらないようにした苦労が報われたようだ。


「よーし、いい子ね。 君が本当に私の約束を守ってくれたなら、あなたはまたスィート・アンミツになれるわ。 楽しみにしていてね」

「うん、私はスィート・アンミツに絶対なって見せる。 そしてあの鎧のお化けをやっつける!!」

「…え?」


 スィート・アンミツと言う目的のために、これから鈴美は暫くは良い子で居ようとするだろう。

 暫くしてスィート・アンミツの力が戻って依然と同じようになっても、ストッパーとして多恵が近くに居れば何とかなる筈だ。

 鈴美の更生計画としては凡そ予定通り事が進みそうであるが、一つだけ些細な問題が発生していた。

 どうやらこの前の戦いでやられた事が余程許せないのか、鈴美はマスクドナイトNIOHに強い敵意を抱いているようだ。






 困惑する多恵がふと先ほどまで鈴美が座っていた勉強机に目をやれば、少女が書き殴った落書きノートが視界に飛び込んでくる。

 そこには子供の下手糞な絵であるが、マスクドナイトNIOHがスィート・アンミツに倒されている落書きが書かれていた。

 鈴美に初めて敗北を味合わせたマスクドナイトNIOHは、彼女に取っては決して忘れられない相手になったらしい。


「私がスィート・アンミツに戻ったら、一緒にあの鎧のお化けと戦ってくれるよね! 二人の力を合わせれば、あんな奴はちょちょいのちょいよ!!」

「え、ええ…、分かったわ」

「やったー! 私、絶対に強くなるわ!! もう、あんな奴に負けないんだから!!」

「だ、大丈夫よね…、私も巻き添えを食わないわよね…」


 此処で下手に鈴美を止めたらまた話が拗れそうなので、多恵には少女の申し出を受けるしか選択肢が無い。

 共闘を約束してくれたことに鈴美は喜び、マスクドナイトNIOHへの勝利を堅く誓う。

 鈴美が笑顔を見せる傍で、多恵の方は万が一にもあのマスクドナイトNIOHと戦う羽目になったらと心配しているのか憂鬱そうである。

 復活したスィート・アンミツが、マスクドナイトNIOHへリベンジを挑む日はそう遠くないのかもしれない。

 



これで四話目は終わりです、五話目は明日か明後日から開始するのでよろしく。

次は少し毛色を変えて、ミステリっぽい展開にしようと思います。多分、なんちゃってな感じになるでしょうが…。


では

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