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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
73/384

4-6.


 魔法少女研究会の会長によれば、最初は研究会のメンバー総出で押し掛けるつもりだったらしい。

 研究会の奴らの意見としては、魔法少女の戦いを間近で観察できる機会を逃すことは有り得ないと主張したそうだ。

 しかし一見真面目な主張とは裏腹に、彼らの瞳は遊園地に行くのを楽しみにしている少年・少女のような輝きが見えた。

 明らかに個人的な楽しみのために同行を望んでいるのは明白であり、結局此処に来る面子は搾ったようだ。


「よう、会長さん。 …何だよ、そのゴツイカメラは?」

「うわっ。 これってプロ用の機材よ。 研究会はこんな物まで持っているの?」

「ああ、これは借り物だよ。 貴重な研究資料を取れる機会だからね、機材もそれなりの物を用意した」

「置いてきた仲間から、出来るだけ良い画質で記録を取ってくれと頼まれましてね…。 後は携帯の方で実況映像も取る事になっています」


 研究会との待ち合わせ場所にやって来た千春は、高そうなビデオカメラを弄っている会長の浅田の姿を発見する。

 隣では同じく研究会員の友里恵も機材の一部を確認しており、これが今日のためにわざわざ用意した撮影機材らしい。

 今回は記録用の映像だけでは無く、この場に居ない研究員のためにリアルタイムでの撮影を行うという熱心さである。


「それでは、姉に連絡しますね。 あの子も魔法少女の力を失えば、きっと元に戻ってくれる…」

「まあ、そこまで苦戦しないでしょう。 相手は搦め手の無いスィート・アンミツで、実戦経験も殆どない。 怪我一つ付けずに終わらせますよ」

「あんまりでかい口を叩かない方がいいわよ。 それで苦戦したら、マスクドナイトNIOHファンにネタにされるでしょうし…」

「だ、大丈夫だよ、多分…」


 千春たちと合流したので、今回の依頼を持ち込んだ梢が姉に対して携帯でメッセージを投げる。

 事前の打ち合わせでは家庭内暴君となった魔法少女は自宅に居る筈であり、彼女が千春たちが来ることを伝えては居ない。

 魔法少女と言えども相手はモルドンと戦った経験すらなく、それなりに経験豊富な千春が遅れを取るとは思えない。

 しかし甘く見ていた所で痛い目を見るのも創作の世界では良くあるパターンなので、朱美の言葉を受けて千春は気を引き締める。

 その直後に梢の姉から了解の返信が来たため、千春たち一行は魔法少女が待つ自宅へと向かった。











 最初は梢の姉であり魔法少女の母にあたる女性に出迎えられて、千春たちは居間まで案内された。

 彼女の娘である魔法少女の鈴美は、二階の自室で録画したスィート・ジャパンを楽しんでいるそうだ。

 チャイムを鳴らさずに入ってきた千春たちの来訪は、二階に居る鈴美には気付いていないと言う。


「みなさん、鈴美のためにわざわざ来て頂いて、本当にありがとうございます」

「姉さん、もう大丈夫だからね。 このNIOHさんが、あの子を止めてくれるわ」

「全力を尽くします…」


 梢の姉にあたる女性は今の生活に疲れているのいか、年の割に白髪が目立ち顔色もあまりよく無い。

 千春たちが来ることが分かっていて綺麗にしただろうが、壁には不自然な修繕の跡が見える。

 恐らくこれが話に聞いていた、魔法少女である娘が癇癪を起した結果なのだろう。

 部屋の状況だけ見てもこの家の生活が異常であることが分かり、この女性の気苦労が伺える。

 それを救いに来たという千春たちに対して、鈴美の母は救われたような笑みを浮かべていた。






 千春に対して注意した物の、朱美自身も今回の一件はそこまで苦労することは無いと考えていた。

 まともに千春が戦えばすぐに決着が付き、家庭内暴君はただの少女に戻る筈だった。

 しかし梢の案内で彼女の姉の家まで来た千春たちの前に、予想外の障害が現れたのだ。


「…娘は此処には居ない、帰ってくれ!!」

「あなた、どういうことなの! 話したじゃない、この人たちは鈴美を救うために…」

「だ、駄目だ! あの子はまだ小学生なんだぞ、万が一のことがあったら…」

「別にあの子が死ぬわけじゃ無いって、何度も説明したでしょう。 クリスタルを破壊すれば魔法少女の力が無くなる、そうすればもう一度鈴美と向き合える筈だわ」

「やっぱりだめだ、子供にはノックアウトは危険すぎる。 僕が独自に調べた情報だと…」


 早速この場に鈴美を呼んで貰おうとした所で、彼女の父親がいきなり現れて千春たちに待ったを掛けたのだ。

 父親は野球経験でもあるか、その手に金属バットを持ちながら居間に乱入してくる。

 どうやら父親は千春たちから娘を守るために居間へ現れたようだが、母親に取っては寝耳に水の行動だったらしい。

 そして千春たちを置いてけぼりにして、居間で娘である鈴美の扱いについて家庭内会議を初めてしまう。


「…なぁ、どうすればいいかな?」

「すいません…。 姉が旦那さんを説得してくれたって聞いてたんですけど…」

「そもそも頑張るところが違うでしょう、旦那さん。 そこで私たちに立ち向かう勇気があるなら、何でその前に娘に立ち向かわなかったの」


 突然始まった夫婦喧嘩を仲介をするのは難しく、千春たちは黙って彼らの口論を聞いているしかなかった。

 自然と小声になった千春たちは今後の動きについて相談するが、有効な打開策は出て来ない。

 事前に姉とやり取りをしていた梢が言うには、父親の方も当初はマスクドナイトNIOHこと千春の介入を認めていたらしい。

 しかし土壇場になって父親の方が、娘を危険な目に合わせるのはまずいのではと日和ったようだ。


「えっ、もう撮影を開始するんですか、会長」

「おいおい、夫婦喧嘩を撮影するなんて不謹慎だろう…」

「待ってくれ。 これだけ大騒ぎをすれば、多分そろそろ…」


 相変わらず口論を続ける夫婦を横目に、魔法少女研究会の浅田たちがいそいそと撮影の準備を始めていた。

 機材を取り出して撮影を始める浅田たちだが、今取れる映像をと言えば夫婦喧嘩の風景だけだ。

 流石に人の家のプライバシーを撮影する行為はまずいと考えた千春は、浅田たちを止めようとする。

 しかし浅田たちの目的は別にあるようで、夫婦の姿ではなく居間の入り口付近にカメラを向けていた。


「もう、ママもパパも大声で喧嘩しないで! 五月蠅くてスィート・ジャパンを見てられ…、誰?」

「鈴美!?」

「鈴ちゃん!!」

「何、知らない人が一杯!? パパもバットなんかを持って…、もしかして泥棒さん!! よーし、鈴美がやっつけてあげる!!」


 この家に訪れた時に母親の女性は、鈴美は二階に居ると言っていた。

 そして一階居間で互いに大声を出しながら夫婦喧嘩をしていたら、同じ家に居る鈴美がそれに気づかない筈が無いのだ。

 どうやら浅田は鈴美の行動を読んだらしく、彼女の登場の備えてカメラを準備していたらしい。

 今に降りてきた鈴美の目に飛び込んできたのは、見知らぬ大人たちの姿に加えで普段と比べて様子がおかしい両親たち。

 加えて父親の方がバッドなどで武装している物だから、鈴美は千尋たちのことを短絡的に招かれざる客だと認識したようだ。


「蜜豆に餡子、白玉にアイスもトッピングして、甘くて美味しい仲間たちが大集合! …スィート・アンミツ、参上!」

「おお、これが彼女の変身シーンか!」

「流石は会長! 会長のお陰で、完璧な変身シーンを収められました!!」

「うーん、流石と言うべきなのかな…」


 少女向けアニメのスィート・ジャパンに登場する劇中キャラクター、スィート・アンミツ。

 テレビの中にしか居ない筈のキャラクターの力を手に入れた鈴美が、劇中の台詞と共に華麗な変身を遂げた。

 スィート・アンミツのシンボルである、アンミツのマークが描かれたステッキ。

 その先端の部分に埋め込まれた薄緑色のクリスタルを光らせながら、鈴美はアニメ顔負けの決めポーズをする。

 着物をアレンジした和風ドレスを纏った魔法少女の変身シーンは、事前に撮影準備をしていた魔法少女研究会によって余すところなく撮影された。

 この展開を予想して撮影準備を始めた浅田たちを褒めるべきなのだろうが、どうもそういう気にはなれず千春は苦笑を浮かべる。


「ま、待て! 鈴美、この人たちは危ないから逃げないと…」

「安心して、パパ! 私が悪い人たちをやっつけちゃうから!!

「お願いします、此処であの子を…」

「分かってますよ…。 行くぞ…、変身っ!!」


 鈴美を守るために体を張った筈なのに、肝心の娘が現れてしまい動揺する父親が慌てて逃げるように促した。

 しかし魔法少女の力に絶対の自信を持っている鈴美が逃走を受け入れる筈も無く、ノリノリで千春たちを倒そうとする。

 父親に取って不幸な展開であるが、このような展開を望んでいた母親にとっては願っても無い機会だ。

 母親は都合よく変身してクリスタルを晒してくれた鈴美を、魔法少女と言う呪縛から救ってくれと千春に向かって頼む。

 それを受けた千春は何時もの魔法のステッキに見立てた二本指を立てながら、マスクドナイトNIOHへの変身を始めた。




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