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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
72/384

4-5.


 鈴美(すずみ)という名の少女に取って、世界は自分に中心回っていた。

 優しいパパとママは、鈴美が望むことを何でもしてくれたのだ。

 欲しい玩具や食べたいお菓子があったならば、鈴美が強請ればすぐに用意してくれた。

 両親の過保護な環境下で成長した鈴美は、見事に癇癪持ちの我儘な悪ガキへと成長していた。


「こら、駄目じゃ無いか。 こんな悪戯しちゃ…」

「うぇーーん、ごめんなさーい」

「ははは、その位でいいじゃないか。 鈴美も反省したようだし…」


 嫌いなピーマンは絶対に口へは入れず、楽しいからという理由だけで悪戯を繰り返し、困ったら泣いて許して貰う。

 自分を特別である信じて疑わない少女は、思うが儘に生きていた。

 普通であれば少女が成長するに連れて、何処かで自分がそれ程に特別では無い事を知る機会が訪れる筈だった。

 しかしその機会が訪れる前に、鈴美は本当に特別な存在になってしまう。


「わーい、見て見てー! 私、スウィート・アンミツになったよー!!」

「あなた、これは…」

「魔法少女…。 凄いぞー、鈴美。 魔法少女になった何て、お前は本当に凄い奴だ!!」

「ええ、そうね…。 鈴ちゃん、私にもう一回変身を見せてくれない?」


 "スウィート・アンミツ"、和スィーツをテーマにしたスィートシリーズの最新作である"スウィート・ジャパン"のキャラクター。

 現在進行形でスウィート・ジャパンを見ていた鈴美は、何時かのスィート・ストロベリーの様にスィート・アンミツとなる自分を夢見ていた。

 そして魔法少女として目覚めた鈴美は、その念願が叶ってスィート・アンミツになったのだ。

 和服をアレンジしたドレスを纏うスィート・アンミツとなった娘の姿に、両親は驚きこそすれ拒絶することは無かった。

 魔法少女という存在が定着した現在に置いて、この家族はすんなりとスウィート・アンミツとなった娘を受け入れたのである。






 鈴美を溺愛する両親に取っては、娘が魔法少女と言う特別な存在になった事への喜びが不安を上回った。

 彼らは今まで以上に鈴美を甘やかし、娘が選ばれた存在であると持て囃した。

 勿論、彼らが魔法少女について何も調べなかった訳でも無く、魔法少女に詳しい母親の妹を通して色々と勉強なども行った

 幸運なことに街には既に活動している魔法少女があり、鈴美が今すぐにモルドンと戦う必要性は無い。

 もう少し鈴美が大きくなったらモルドンとの戦い方を学ぶ必要があるなどと、夫婦で話し合ったりもして彼らなりに準備はしていたのだ。


「駄目じゃ無いか、食べ物で遊んじゃ…」

「…うるさぃぃ!!」

「…あぁ!?」

「ああ、あなた!!」


 それは食事中に悪ふざけをした鈴美に対して、父親が珍しくきつめにお説教をした時だった。

 父親の説教を受けて癇癪を起した鈴美は、楽しい食事の席で暴れ始めたのだ。

 小学生に上がったばかりの子供が暴れるだけなので、精々皿などがひっくり返されるだけで済んだだろう。

 しかし魔法少女となった鈴美はスウィート・アンミツとなり、大の大人である父親の体を壁に叩きつけてしまったのだ。

 この瞬間に鈴美の両親は魔法少女となった娘が、自分たちの手に負えない存在になったことを理解させられてしまう。


「ご、ごめんなさい…、パパ」

「い、いいんだよ、気にするな、鈴美…」

「そ、そうね…。 鈴ちゃんは悪くないわ。 ちょっとパパが言い過ぎちゃったわね…」


 この時に両親が鈴美の癇癪を強く諫めて、二度としてはいけないと教え込めば話は違っていただろう。

 しかし若い夫婦である彼らは魔法少女である娘に圧倒されてしまい、今までの様にその我儘を許してしまったのだ。

 この日を境に親子の力関係は逆転してしまい、この家の暴君となった娘を止められる者は誰も居なくなった。











 家庭内での暴君となった少女は、当然のように学校でも問題を起こした。

 恐らく以前から癇癪持ちで何をするか分からない鈴美は、学校では浮いた存在だったのだろう。

 そんな少女が魔法少女の力と言うとんでもない凶器を持ってしまったら、教師たちの手に負えないことは目に見えていた。

 そして予想通り、学校で事件が発生する。

 詳しい説明が不要なくらいに些細なやり取りで癇癪を爆発させた少女は、ある日に教室の机を叩き割ってしまったのだ。


「鈴ちゃーん、今日は学校は…」

「今日も行かない! ママー、今日はチョコレートケーキが食べたいー」

「…分かったわ」


 スウィート・アンミツとなった鈴美が教室の机を破壊した時、幸運にも怪我人は出なかったようだ。

 しかしその事件が教師を含むクラスと鈴美との間に決定的な亀裂を生んだようで、その日を境に鈴美は不登校となってしまう。

 鈴美に逆らうことの出来ない母親は甲斐甲斐しく娘の面倒を見て、少女は快適な自宅生活を送っていた。


「今日も鈴美は学校に行かないのか…」

「あなた、このままだとあの子が駄目になるわ! あなたからも、あの子に学校に行くように言ってよ!!」

「ま、まだ様子見でいいんじゃないか? 無理に学校に行かしても逆効果になるだけだよ。 それに担任の先生も、急がせなくていいって…」

「そんな事を言ってたら、あの子は何時まで経ってもあのままよ!! ああ、ママはどうすればいいの…」


 魔法少女になった鈴美を恐れているのか、腰の引けた様子の父親は娘に立ち向かう勇気は無いらしい。

 学校の教師は魔法少女の面倒を見る事を恐れたのか、形式的な家庭訪問だけして積極的に鈴美を学校に戻そうとしていない。

 ある意味で両親や教師にも見捨てられた少女がこのまま成長してしまったら、ほぼ確実に悲惨な未来が待ち受けているだろう。

 今の状況が非常にまずいと分かっていながら、父親と同じく娘と向き合う勇気の無い母親は嘆く事しか出来ないでいた。


「…あら、梢からのメッセージ。 あなた、これを見て!!」

「おお、これなら…」

「ママー、ジュース頂戴!!」


 悲嘆に明け暮れる夫婦に対して、その日救いをもたらす一通のメッセージが届けられた。

 それを見た夫婦は希望を取り戻したのか、先ほどまでの暗い顔を一変させて互いに抱き合う。

 久々に笑顔を見せあう夫婦は喜びの余り、鈴美の命令も耳に届いていない様子だった。











 鈴美たちの家族が住まう街に、派手なカラーリングの一台のバイクが姿を見せる。

 バイクの後ろに朱美を乗せた千春は、魔法少女研究会の依頼を果たすためにやって来たのだ。

 街の入り口らしい看板の近くでバイクを止めた千春は、現在位置と目的地までのルートを改めて確認する。

 ふと看板の下を見れば赤く色づいた葉っぱが落ちており、季節の移り変わりを千春に教えてくれた。


「もう秋も真っ盛りだなー。 マスクドナイトNIOHになってから、あっという間に時間が過ぎた感じだよ…」

「道理で寒くなってきている筈よね、もう少し厚着をしてくれば良かったわ…」


 千春がマスクドナイトNIOHになったのは初夏の頃なので、そこから半年ほどの月日が経ったことになる。

 今年の夏はマスクドナイトNIOHの活動で忙しくて、瞬く間に夏が通り過ぎて行った。

 気が付いたときには周りは秋になっており、今では自分はマスクドナイトNIOHと言うヒーローとして認識されていた。

 去年まで千春であれば自分がこうして、魔法少女の元に訪れることになるとは夢に思わなかっただろう。


「さて、此処が悪ガキが居る街で間違いないな…、もうちょっとで着くからな」

「まずは研究会の連中と合流よね。 それにしても新しいバイクの割には、あんまり乗り心地が良くないわねー」

「バイクにそんな物を期待するなよ。 二人乗りが嫌なら、連中と一緒に来れば良かっただろうに…」


 魔法少女研究会の面々は別ルートで現地入りの予定なので、千春たちはそのままバイクで待ち合わせ場所まで向かう。

 ニューバイクの乗り心地に不満を漏らす朱美の言葉を聞き流しながら、千春は再びバイクを走らせた。

 マスクドナイトNIOHと家庭内暴君となった魔法少女の対決は、もう間近に迫っているようだ。



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