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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
70/384

4-3.


 始まりは単なる千春の好奇心だった。

 千春への魔法少女絡みの依頼話は終わり、この魔法少女研究会での目的は達成した。

 後はシロと一緒に大学内を見学するくらいだったが、千春がこの研究会の活動について興味を持ったのだ。

 折角だから軽く魔法少女の研究の成果を教えてくれと言われた研究会の面々は、喜んでそれに応じた。


「へー、やっぱり分かりやすい能力が多いんだな。 比率だけ見れば、使い魔が一番か…」

「やはり自身が戦うことに忌避感を抱く魔法少女が多いんだと思います。 変身願望を持った少女がスウィート系何かの魔法少女になるパターンも多いので、飛びぬけて高い訳では無いですが…」

「ふーん、この感じだと独自で情報を集めているようね。 意外に侮れないな…」


 最初の頃は外面を意識したのか、研究会の人たちは真面目な研究結果を披露して見せた。

 魔法少女の能力を幾つかのカテゴリーに分けて、その比率をグラフにまとめた資料。

 一つの街で魔法少女が発生する条件と確率についての考察と、それを補強するための実証データ。

 全ての魔法少女が能力を公開している訳も無く、これだけの資料をまとめるにはそれなりの伝手が必要になってくる。

 自身でも魔法少女関連の情報網を構築している朱美は、自身の知らないルートで情報を集めている魔法少女研究会の実力を見直していた。


「例えば矢城さんが前に戦ったホープ、あれの全長が魔法少女が再現できる最大サイズとほぼ同等です。 他の魔法少女の使い魔を見ても、あれより大きなサイズを持った物は居ないです。

 成長するという能力を与えられた使い魔があの時点で成長が止まった所から見ても、あのサイズが魔法少女としての限界であることは間違い無いでしょう」

「モルドン化した使い魔や、能力に翻弄されるサイキッカー、魔法少女を喰らう渡りのモルドン! マスクドナイトNIOHの戦いは、我々の研究を何歩も進めてくれました!!」

「出来れば今度、NIOHさんの能力のデータを取らせてください! AHの型とUNの型という二形態に分かれた能力、それは魔法少女のリソースを超えた物にも見えます。 一体どんな仕組みでそれを実現しているのか…・」


 一人の魔法少女の力で実現できる能力の幅なども、魔法少女研究会の重要なテーマになっている。

 実際に魔法少女相手に戦っているマスクドナイトNIOHの動画は、研究会の面々に取っては貴重な研究資料のようだ。

 当たり前のように千春の動画はこの場に居る全員が見ているようで、マスクドナイトNIOH自身についても興味津々らしい。

 自身の研究内容について話していく内に熱が入ってきたのか、彼らは徐々に千春に対しての遠慮が無くなっていった。


「ほら、この資料を見て下さい。 実は私たちも密かに、渡りのモルドンやホープの存在には気付いてたんですよ!」

「魔法少女を倒すほどの強力なモルドンの噂、モルドンを共食いするモルドンの噂。 研究テーマとしてこれらの噂を追うって話もあったんですが、その前にNIOHさんと出会ってしまいましたけどね」

「いやー、流石は主人公属性とも言いますか。 矢城さんは私たちには垂涎物のレアケースによく遭遇しますよね、実に羨ましい…」

「へ、変身するってどんな感覚なんですか? あのヘルメットを被っている時の視界なんかは、どんな感じなのかを…」

「今度、やって見たシリーズを撮影するなら家の研究会が全面的にサポートします! 大学の伝手を頼って、精密な測定器でマスクドナイトNIOHのデータを丸裸にしてみせますよ!!」


 マスクドナイトNIOHとしての千春の経験は、魔法少女研究会に取っては宝の山のようだ。

 彼らは目をギラギラと輝かせながら、千春に質問をしたり研究の協力を要請してくる。


「…なぁ、何かこの人たち、色々と凄いな?」

「あら、マスクドシリーズについて語るあんたも正直こんな感じよ」

「えぇぇ、そんな事は無いだろう…」

「○○…」


 段々と早口になりながら持論をまくし立てる研究会の雰囲気に、軽い気持ちで話を振るんで無かったと千春は後悔する。

 しかしテーマこそ違えどオタクスイッチが入った千春は、この研究会の面々と同じ状態になることを朱美は知っていた。

 朱美からして見れば、何を言っているのだと千春に呆れ顔を見せても仕方ないだろう。

 人の振り見て我が振り直せと言うが、千春は今度マスクドシリーズの事を話すときは気を付けようと思うのだった。











 魔法少女研究会の話はやがて、実際の物理法則に当てはめた時にどれだけ異常なことを魔法少女がしているかと言う非常にアカデミックなテーマにまで発展してしまう。

 学の無い高卒フリーターの千春に殆ど理解出来ない話であり、念仏を聞かされているのと大して変わらない状況になっていた。

 正直言ってもう帰りたい気持ちで一杯だが、話を振ったのは自身であるし隣に居る朱美が興味深そうに耳を傾けているので此処で帰るとは言い出し辛い。

 せめて理解出来る話をしてくれと願う千春であったが、その願いは意図しない方向ではあるが実現することになる。


「だから…、幼馴染ヒロインは負けフラグなんだって! 時代は共闘できるヒロイン、NASAちゃんで決まりさ!!」

「いやー、現実的に考えて小学生と高校生には手を出せないでしょう。 何だかんだで仲良さそうだし、このまま幼馴染ルート一直線じゃ無いか?」

「お前はNIOHさんとシロちゃんの絆の深さを知らないのか! もう実質親公認みたいな物だし、シロちゃんの魔法少女とゴールするに決まってる」

「こいつら…」


 今日初めて此処に来た千春は知らないだろうが、この大学に所属して昨日の部屋の惨状も見ている朱美は魔法少女研究会が真面目なだけの集団では無いと知っていた。

 どうやら話している内に箍が外れたらしい研究会のメンバーは、徐々にマスクドナイトNIOHの動画に関する雑談に移行していく。

 研究目的もあってマスクドナイトNIOHの動画を何度も見ているらしい彼らは、当事者である千春から動画では分からない情報などを聞き始めたのだ。

 その内に動画コメント欄と大して変わらない不毛なヒロイン議論を関係者の前で始めてしまい、その出汁になっている朱美は怒りを募らせていた。


「矢城さん! 今でもNASAちゃんとは絡みがあるんですか?」

「あ、ああ…。 メッセージアプリでやり取りはしているけど…」

「いやー、NIOHさんって硬派ですよね。 最近の流行りだったら、出会った魔法少女を全部落としてハーレムを作ってるでしょうに…」

「馬鹿野郎、そもそもマスクドシリーズのヒーローに女は要らないんだよ!」

「それは昭和までだろう! 平成なら、ヒロインの一人や二人くらい…」

「…馬鹿な話は止めるんだ、お前たち!!」


 マスクドナイトNIOHの人間関係について勝手に語り始める研究会の面々に対して、浅田はその場で立ち上がり待ったを掛けた。

 この研究会の頭である会長としてこの馬鹿話を止めてくれるのだと思い、千春は期待に籠った目で浅田を見る。


「か、会長…」

「いいかぁ、矢城さんには年下の先輩という強属性を持った、ウィッチさんも居るじゃないか! ヒロイン談義に彼女の名前をあげないのはあり得ない!!」

「ええ、だってあの子、滅茶苦茶影薄いじゃ無いですか…」

「NIOHさんに代わって街の平和を任されているし、縁の下の力持ちって感じですけど正直絡みが…」

「ほら、会長ってマイナーヒロイン好きだから。 ああなると五月蠅いぞ…」


 しかし残念ながら所詮はこの男も、この魔法少女研究会の一員でしか無かったようだ。

 千春も関係ない第三者であれば確実に、彼らのような馬鹿話をしていた筈なので余り強くは言えない。

 マスクドシリーズの傾向から幼馴染ヒロインはまず成立しないので、NASAルートか独り身ルートが妥当だと持論を展開していたに違いない。

 しかし当事者から見れば朱美はただの腐れ縁だし、佐奈は今でもやり取りはしているが顔を合わせたのは一回だけだし、病弱な小学生に自分が手を出すなどあり得ない。


「…オタクって迷惑な存在なんだな」

「それが分かったならこれからは自嘲しなさいよ、バカ春」


 場の空気に置いてけぼりになった千春と朱美を尻目に、研究会の面々はマスクドナイトNIOHのヒロイン談義で非常に盛り上がっていた。

 自分がマスクドナイトNIOHという偶像になったことを、千春は魔法少女研究会を通して嫌という程に思い知らされたらしい。

 珍しく弱気な表情を浮かべながらこちらに話しかける千春に、朱美は優しく微笑みながら肩を叩いて励ましていた。



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