4-1. VS家庭内暴君系魔法少女
八幡 朱美、小学校の頃から千春と付き合いのある彼女は現役大学生である。
生来の野次馬根性で魔法少女絡みの案件によく顔を出しているが、現在の朱美の本業はあくまで勉学になる。
地元大学の社会学部に在籍する朱美は、進学のための単位を確保するために今日も大学キャンパスに来ていた。
「はぁ…、何やっているのよ、あいつは。 小学生の女の子にバイクを買って貰うなんて、殆ど紐じゃない…」
講義の合間なのか学内のベンチに座っている朱美は、呆れたような表情を浮かべながら携帯の画面を見ている。
そこには当然のように投稿された、マスクドナイトNIOHと魔法少女の使い魔の一件が映し出されていたのだ。
千春から直接話を聞いていたので事前に大筋は把握しているが、実際に映像として見ると印象が変わってくる。
特に朱美が気になったのは千春の懸念通り、動画出演を果たしてしまった白奈とのやり取りにあった。
現状の千春は恐ろしい事に、身に覚えのない自身の動画を勝手に投稿されてしまう状況にある。
そんな中で白奈がシロの魔法少女であると千春に明かしたならば、今のように動画のネタにされるに決まっているのだ。
本人はそれを承知の上で千春に接触したので、白奈の方は同じく動画出演を果たした看護師の山下と共に逆に喜んでいるかもしれない。
シロの正体については察しが付いていたので驚きは無かったが、最後に千春がニューバイクを手に入れたやり取りが問題である。
見方を変えれば小学生の女の子に貢がれたような形であり、動画のコメントでも千春を揶揄するコメントは多数見られた。
「"幼女からの貢ぎ物キター"」
「"病弱系小学生からの贈り物で戦う正義のヒーロー、それは有りなのか?"」
「"ていうかNIOHさんは、シロを通して小学生とずっと同棲してたって事だろう!? ヒーロー云々以前に、犯罪者じゃんか!!」
「"彼女こそがマスクドナイトNIOHのマスコットにして、真のヒロイン!! やっぱり幼馴染は負けフラグなんだよ"」
「何が負けフラグよ、勝手なことを言ってくれて…。 晒し物にされるって、こういう感覚なのね…。 逆の立場になってみなければ、分からないものね…」
千春たちと直接関わりの無い、動画を見ているだけの人間たちに取ってマスクドナイトNIOHは架空の作品と何ら変わりない存在だ。
不本意ながらこの作品の一キャラクターとして巻き込まれた形である朱美は、視聴者から幼馴染系ヒロインと言う有り難くない立ち位置として認識されていた。
確かにマスクドナイトNIOHである千春との付き合いはそれなりに長く、恋愛関係を度外視しても朱美のポジションはヒロインと言える物かもしれない。
どちらかと言えば相手の秘密を暴いて晒し物にする立場が多かった朱美としては、期せずして被害者の立場を理解させられていた。
「居たー、朱美ちゃんが居ましたよ! 会長!!」
「確保ー、確保だ! 友里恵くん」
「あ、あんたたちは…、魔法少女研究会!? なんで此処に…。 ちょっと、離して…」
しかしベンチで物思いに耽っていた朱美を邪魔するように、予期せぬ来客が彼女の前に現れる。
細身の体に眼鏡を掛けている不健康そうな男と、黒一色の喪服のような服装の女が素っ頓狂な声をあげながらベンチに来たのだ。
情報通である千春はこの謎の来客の正体が、大学の魔法少女研究会に属するメンバーであると察する。
そして朱美はあれよあれよと言う間に、魔法少女研究会のメンバーに無理やり何処かへと連れて行かれてしまった。
大学敷地内の奥には、サークル棟と呼ばれている三階建ての建物があった。
建物はアパートのように個室が幾つも作られており、その各部屋に大学公式の文科系サークルの活動拠点として貸されていた。
朱美が所属する新聞部室のこのサークル棟の中にあり、此処には何度も足を踏み入れている。
しかし魔法少女研究会に連行されていく朱美が向かう場所は当然、新聞部室である彼らのテリトリーだ。
「…もう逃げないから離しなさいよ。 これ以上やると、新聞部であんたたちの批判記事をぶちまけてやるわ」
「ははは、すまない。 少し乱暴だったね…。 さぁ、我が魔法少女研究会にようこそ、朱美さん」
「みんなー、朱美ちゃんを連れてきたわよー!!」
連れて行かれる先が部室棟であると分かった朱美は、とりあえず危険性は無いと判断したのか話を聞く姿勢を取る。
それを受けた会長と呼ばれた男は、朱美に謝りながら魔法少女研究会が使う部屋へと彼女を招き入れた。
「うわっ…。 噂には聞いていたけど、よくこんな活動が大学で認められたわね。 こんなの、ただのオタク系サークルじゃない…」
「これでも真面目に魔法少女の研究をやっているんだよ。 魔法少女学部なんて物を設立した大学もあるくらいだし、もう彼女たちの存在そのものが学問なのさ」
「だからって、この部屋の惨状は無いでしょう。 この等身大ポスターは何よ、それに魔法少女だけでなく、魔法少女アニメのグッズもあるし…」
「研究資料ですよ、研究資料」
新聞部である朱美は大学で活動しているサークルの情報は一通り把握しており、その中で際物に属する魔法少女研究会の事も耳にしている。
この世界に魔法少女と呼ばれる存在が誕生しなければ、こんなふざけた名前の活動にサークル棟が割り当てられることは無かった筈だ。
しかし現実に魔法少女たちが幅を利かせるようになり、実在する存在を研究すると言うならば話が変わってくる。
既に魔法少女という不可思議な存在を研究する学問まで誕生している程に、その存在はこの世界に浸透していた。
ただし魔法少女に惹かれる人間はどうしてもそっち寄りの人種が多いのか、朱美が初めて入る魔法少女研究会の部屋は完全なる趣味人の部屋となっていた。
会長と呼ばれていた男も自覚はあるのか、朱美の白い目に対して苦笑で返すしか無いようだ。
一応賓客として扱われているのか、朱美はペットボトルのお茶とコンビ二のお菓子を出されていた。
朱美は遠慮なくペットボトルのお茶を口に含みながら、さり気なく部屋の中の住人たちの様子を見る。
会長と呼ばれた男と友里恵と呼ばれていた女、その他も合わせて10人ほどの人間が室内で朱美の方を見ていた。
どうやら彼らは朱美のことを一方的に知っているようだが、その出所は説明されなくても分かるので今は置いておく。
少なくとも自分に対して敵意を見せる者は無いことを確認した朱美は、ペットボトルを机に置いてから本題に入る。
「…それで、私に何の用なのかしら? どうせマスクドナイトNIOH…、バカ春絡みの話なのは分かっているからさっさと本題に入ってくれる?」
「おお、バカ春キター!」
「本物だ、本物だよ!」
「こら、止めなさい!! ごめんね、朱美ちゃん。 こっちのことは気にしないで…」
「はぁ…」
魔法少女研究会などに入っている連中が、例のマスクドナイトNIOHの動画を見ていない筈は無い。
予想通り朱美のことはその動画を通して知ったようで、彼女の何気ない言葉一つで興奮する始末だ。
一部の界隈の人間に取っては朱美は有名になってしまったようで、それを改めて理解した彼女は自然と溜息を漏らしてしまう。
「まずは自己紹介をさせて貰うよ。 僕は浅田、この魔法少女研究会の会長を務めている。 ちなみに三代目の会長になる。
新聞部である君は既に知っているかもしれないけど、僕たちは魔法少女の研究をしているが基本的には直接彼女たちに関わらないようにしているんだ」
「相手は未成年だからね…。 前に問題を起こして廃部に成りかけたって話は聞いているわ。 だから私の事も、今日まで放っておいたのでしょう? でもだから気になるのよね、どうして今になって私に声を掛けたの?」
魔法少女について研究するため、魔法少女本人と接触することは自然な流れであろう。
しかし魔法少女と呼ばれる存在は例外なく未成年の少女であり、それと接触することはリスクと伴うことになる。
この大学の魔法少女研究会は過去の過ちもあって、基本的に魔法少女はノータッチの精神で活動していた。
その方針があったからこそ彼らは、明らかな魔法少女関係者である朱美にこれまで接触していなかったのだ。
相手の事情を把握している朱美としては、その禁をわざわざ破ってまでして今日此処に自分を連れてきた理由を説明しろと要求する。
「実は君を通して、マスクドナイトNIOHに依頼をしたいんだ。 魔法少女絡みの案件についてね」
「そんなことだろうと思ったわよ…。 今度は何なの?」
「今回はそこまで複雑な話では無いよ。 言うなれば、家庭内暴君となった魔法少女にお仕置きをして欲しいって所かな」
「はぁ? 家庭内暴君って…」
朱美が半ば予想していた通り、魔法少女研究会の会長である浅田から出てきた言葉は千春への依頼だった。
家庭内暴君系魔法少女、それがマスクドナイトNIOHこと千春の新たな戦いの相手であるらしい。
しかし家庭内暴君という予想外の単語が出てきた朱美が、それがどのような魔法少女かイメージ出来ないのか戸惑っている様子だった。




