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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
63/384

3-11.


 便宜上はホープという名前を継続して使うが、それは既に元ホープであった熊型モルドンでしか無い。

 目的も無くただ破壊行為を繰り返し、魔法少女によって倒されるだけの敵役と成り果てた。

 元使い魔の能力で魔法少女を返り討ちにすると言うハプニングもあったが、モルドンとして見れば十分合格点な活躍であろう。

 日が昇る時間にはまだ遠く、未だ闇に覆われている街はモルドンの世界であった。


「■■■■!!」

「っ!? モルドン!!」

「早く非難するんだ! 車なんて置いていけ!!」

「ママー、怖いよぉぉぉっ!!」


 姿を消したまま移動していたホープであったが、そろそろ破壊活動を再開する気になったらしい。

 先ほど暴れ回ったた住宅街から離れて、とある店舗に隣接している駐車場の真ん中でホープが再び姿を現す。

 まだ営業中である店舗の駐車場にはちらほらと客の姿はあり、彼らはすぐにその黒い熊型モルドンの出現を察した。

 彼らは慌てて駐車場から出来るだけは慣れるため、一斉にその場かから駆けだしていく。

 しかし逃げ惑う人たちに逆らう様に、バイクに乗った一人の青年が駐車場のホープへと向かってきたのだ。


「…■■っ!?」

「ホープ、また会ったな…。 先輩の占い通り、やっぱりお前はもうモルドンなんだな…」


 ホープの真正面でバイクを止めた青年はヘルメットを外して、その素顔を晒した千春はモルドンに向かって不敵に微笑む。

 まるで図ったかのようにホープの元に辿り着いた千春であるが、これは偶然などでは無くちょっとした種があった。






 モルドンとの戦いが義務付けられている魔法少女の中には、戦いを有利に進めるためにモルドンの出現予測を行える能力を備える者は少なくない。

 マスクドナイトNIOHこと千春が住まう街の先輩魔法少女ウィッチも、占い能力によってモルドンの出現予測を行える人間の一人である。

 千春は美香たち母娘を街まで送り届けている間に、密かに朱美経由でウィッチにモルドンの出現位置を占って貰っていた。

 予想通り完全なモルドンと化したホープはウィッチの占いの対象となり、こうして千春はホープと再会できたのである。


「多分、ガロロの方はもうお前の匂いを辿れないだろうな、本当に使い魔に特化した能力って言ってたし…。 まあそっちの方が邪魔が入らなくって都合いいさ」

「■■■…、■■■!!」


 逆に使い魔専門の追跡能力しか持たないガロロには、完全にモルドンと化したホープを追う事は出来ない。

 美香と再会するまでの辛うじて使い魔であった頃のホープなら対象に入ったようだが、今のホープは能力の対象外であろう。

 そして今のホープをガロロが追えなかった結果は、ホープがモルドンである事の証明と言える。

 真美子がこれに気付かなかっただけなのか、その事実を直視したくなくて見て見ぬふりをしていたかは分からない。


「そういえば俺に取っては久々のモルドン退治だな…。 気合を入れていくぞ、シロ!!」

「○○○○○○っ!!」


 最近の千春は魔法少女絡みの厄介ごとに巻き込まれるようになり、モルドンの相手は街の先輩魔法少女であるウィッチに任せきりでである。

 元使い魔と言う変則的なモルドンであるば、これも千春に取って少し前の日常であったモルドン退治には違いない。

 モルドンを相手に出し惜しみなど無意味なので、千春は既にバイクと一体化して準備万端のシロへと声を掛ける。


「…変身っ!!」


 千春は魔法少女のステッキに見立てた右手二本指を立てて、そのまま右腕を弧を描くように一回転させた。

 正面へと戻ってきたステッキを真正面に振り下ろすと共に、己を変える叫びによって千春は妹から貰った力を引き出した。

 次の瞬間に千春の全身が光に包まれて、そこには東洋風の鎧姿を纏ったマスク姿のヒーローが居たのだ。

 マスクドナイトNIOH、架空の特撮ヒーローであるマスクナイトと仁王像の要素を融合させたオリジナルヒーロー。

 青い鎧のUNの型となった千春は、ヴァジュラの両刃を展開させて構えて見せた。











 ヴァジュラとは元々、仁王様こと金剛力士が持つとされる伝説の武器である。

 ダイヤモンドの如き硬さと雷を操るという架空の兵器であるが、残念ながら千春の持つヴァジュラはそこまでの性能では無い。

 仁王像を参考にデザインされたマスクドナイトNIOHに合う武装として、デザイン担当の彩雲が誂えただけの代物なのだ。

 しかしモルドンを相手にするには十分過ぎる武器であり、これを振るうマスクドナイトNIOHこと千春の姿は中々様になっていた。


「どうした、このままだとさっきの二の舞だぞ!!」

「■■■■…、■■■!」

「○○○○!!」


 基本的に千春はホープのパワーを往なしながら、少しずつ相手を切り裂いていく先ほどと同じ戦い方を繰り返していた。

 そもそも前回の戦いもガロロの妨害が無ければ勝利していたのは千春で間違い無く、此処であえて戦い方を変える必要は無い。

 加えて今回は最初からシロが援護に回っており、合間合間に降りかかる機械羽の弾丸はホープを苛つかせているようだ。

 自慢のパワーは千春には通用せず、切り札である透明化の能力も既に無効化されている。

 普通のモルドンであれば此処で勝利は付いていただろうが、しかし相手は元の使い魔と言う極めて特殊なモルドンであった。


「…■■■■っ!!!」

「ふん、同じ手を…。 お前の動きは手を取る様に…、えっ?」


 このままで一方的にやられるだけの判断したのか、まずホープは一度破られた透明化の能力を使って姿を消す。

 当然千春はUNの型の感覚を研ぎ澄ませて、姿なきホープの動きを読み取ろうとする。

 しかし千春は透明化したホープが突然始めた奇妙な行動に動揺してしまい、一瞬だけ攻勢の手を止めてしまう。

 ホープは逃げる事も不意打ちもしようとはせず、あろうことか駐車場に残された車を掴んだのだ。

 巨大な熊の姿をしたホープの見た目通りの超パワーであれば、家庭用の自家用車などは簡単に持ち上げられる。


「○○っ!?」

「うわぁっ!? あいつ、なんて無茶なことを…」

「■■■■!!」

「…って、おい!? まだ足りないのかよ!!」


 そして千春がホープの目論みを理解した時には、既にホープの腕から放たれた車が他の車へと衝突事故を起こしていた。

 逃げる際にエンジンを掛けたままだった車は衝突のショックでエンジンに火が回ったのか、そのまま派手な爆発を起こしてしまう。

 思わず手で顔を庇いながら爆発炎上する車の様子を確認する千春の背後で、また別の車両通しが衝突事故を起こした。

 千春が目の前の被害に気を取られている間にも、ホープが次々に別の車をスクラップにしてこの惨状を広げているらしい。


「ホープは此処を火の海にする気か!? ああ、熱いし五月蠅い、UNの型にこれは厳しい…。 おい、まさかあいつ!?」

「…■■■!!」

「ちぃっ…、がぁっ!?」

「○○っ!?」


 駐車場を火の海とするホープの行動は、ただのモルドンとしての意味のない破壊活動では無かった。

 その真意は千春のUNの型の封じ込め、駐車場で起きる爆発音や火の熱を透明になった自分の隠れ蓑としたのだ。

 あくまでUNの型の力は千春の感覚の強化だけであり、そこから必要な情報だけを集めるような取捨選択は出来ない。

 駐車場がこのような惨状になってしまったら、今の千春は嫌でも周囲の熱やらガソリンなどの異臭やら爆発する車の破砕音で飽和してしまう。

 そんな情報の洪水で正確にホープを見つけるのは不可能であり、まんまと透明化したホープからの不意打ちを許してしまった。


「○○、○○!!」

「ああ、大丈夫だよ、シロ。 くそっ、小細工をしやがって。 こんなの普通のモルドンのやることじゃ無いぞ…」


 直前でホープの思惑に気付いた千春は、紙一重でホープの動きを察知できたらしい。

 咄嗟に飛び退いて直撃は避けられたが、体を掠めただけで吹き飛ばされてしまい地面に叩きつけられてしまった。

 これをまともに喰らってしまえば、頑丈な鎧を纏っている千春と言えども大ダメージを受ける事は間違いない。


「○○…、○○○○っ!!」

「ああ、警戒するんだ、シロ! 悪いが今の俺にはあいつの位置を見つけることは出来ない!!」


 最早この状況ではUNの型のアドバンテージは無に等しく、逆に強化された感覚が余計な情報を拾い続けてしまうデメリットの方が大きい。

 赤い鎧姿のAHの型となった千春はシロと共に、姿なきモルドンの痕跡を見つけようと駐車場の惨状を見回した。


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