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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
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3-10.


 使い魔に対する愛が強烈過ぎるマジゴロウこと真美子であるが、流石の彼女も使い魔以外の全て捨てられる程の狂人という訳ではない。

 客観的に見ればモルドンと化したと思われるホープを倒そうと言う、千春の意見の方が正しいという事は理解している。

 それでも真美子はホープを死なせたなく無いと言う、身勝手な我儘を貫いたのだ。

 自身を優先してホープを捨てた美香と、自身を優先してホープを守った真美子。

 やっている事は正反対だが本質的にはどちらの少女も、他を顧みない自己中心的な行動を取ったと言えよう。

 今の自分では美香を悪く言えないと、真美子はガロロに乗ったまま自嘲気味に笑う。


「…もう後戻りは出来ないよ、ガロロ。 私は決めたの、何を言われようとも私はあの子を救って見せるよ。

 それにあの子はずっと、美香さんの言う通りにモルドンと戦ってきたんだ。 モルドンみたいに街や人を襲っていない、きっとあの子はまだ使い魔なんだよ…」

「☆☆☆☆!!」

「早く、早くホープの匂いを捕まえて。 NIOHさんに先を越されたら…」


 ただし真美子としても完全な考えなしの行動という訳でも無く、彼女なりの勝算を一応持っていた。

 普通のモルドンは魔法少女に倒されるまで、ただただ暴れまわるだけの存在である。

 魔法少女を輝かせるための都合の良い舞台装置、それがモルドンの現実であった。

 仮にホープが完全にモルドンと化して居たのなら、モルドンだけを倒して人を襲わないと言う複雑な行動を取れる筈が無い。

 美香と母親の命令に今日まで従って活動していたホープはまだ使い魔である、それが今の真美子の理屈である。

 計算と言うよりは願望と言った方がいい理由に縋りながら、真美子はホープを追うためにガロロを走らせた。






 透明化によって姿を消すことが出来るホープに辿り着けたのは、使い魔の匂いを探知できるガロロの能力があったからだ。

 本来であればホープが幾ら姿を消そうとも、最初の時と同じようにガロロの鼻で追跡が可能な筈である。

 しかしどういう訳かガロロは何時まで経ってもホープを見付けらず、真美子たちは仕方なくすっかり日が暮れた夜の街を彷徨っていた。

 初めて訪れた土地勘の無い街を走り回っている間に瞬く間に時は過ぎていき、その分だけ真美子へ焦りが募っていく。


「なんで、なんでホープちゃんの匂いが辿れないの? ガロロの匂いが届かない程に遠くまで逃げたのかしら、でもホープちゃんはガロロ程は速く走れない筈だし…」

「…☆☆、☆☆!!」

「えっ、何か分かったの? …うん、確かにあっちの方が騒がしいわね。 ちょっと様子を見に行きましょうか、ガロロ」


 真美子の知る限りホープには、ガロロの足から逃げられるほどの移動手段は存在しない。

 透明化についても匂いを辿ることが出来るガロロには効かない筈なので、どう考えても未だにホープが見つからない今の状況はおかしい。

 悩む真美子に代わって辺りを警戒していたガロロは、ホープでは無いが何かに気付いたらしく上に載っている主へと伝えた。

 ガロロのお陰で真美子も遠くから響いてくる騒ぎに気付き、そこに向かった彼女は自身の願望が最悪の形で裏切られた事を理解する。


「…何よ、これ?」

「おい、救急車を呼べ! 頭を打っているぞ、そのままにしておけ…」

「信じられない!? 魔法少女がモルドンにやられちまう何て…」

「手を貸してくれ! この奥にはまだ人が残っているんだ」


 ガロロの上に乗る真美子の目の前に、まるで大型トラックが突っ込んできたかのような惨状が広がっていた。

 塀を突き破って家屋の横っ腹に大穴が開いており、自立できなくなった建物の一部が倒壊している。

 どうやら破壊された家屋の中には住民が残っているらしく、近所の人間たちが集まって救助活動を行っていた。

 そして何より真美子の目を引いたのは、壊れた家屋の脇で横になっている少女の姿である。

 この場に倒れている煌びやかな戦闘装束を身に纏う少女が一般人である筈も無く、彼女がこの街の魔法少女であることは間違いない。

 しかしその少女は頭から血を流しながら地面に横たわっており、素人目に見ても重症そうだ。


「何よ…、これ…」

「うわっ、でかい狼! あんた、もしかして新顔の魔法少女か!! 

 助けてくれ、突然熊みたいなモルドンが暴れて…」


 巨大な狼であるガロロに乗っている真美子は、派手なゴスロリ衣装の少女と同様に明らかな魔法少女だ。

 惨状を前に呆然としていた真美子の存在に気付いた人間が、彼女に取っては一番聞きたくないであろう情報を伝える。

 熊の姿をしたモルドン、それは余程の偶然が無ければ真美子が千春の手から逃がしたホープであることは間違いない。

 生き残ったホープは千春が懸念した通り、モルドンとして破壊行為を行い魔法少女を倒したのだ。


「…ごめんなさい!!」

「ああ、ちょっと…。 あの熊公はまだその辺に居る筈だ、何とかしてくれ!!」


 自分がホープを逃がしたから目の前の惨状が起きた、千春を止めなければこんな事は起こりえなかったのだ。

 真美子は自身の我儘が生んだ結果を直視できず、逃げるようにガロロを走らせてその場から離れていく。

 やはりホープはもうモルドンになってしまったのか、ホープにやられたらしい魔法少女は無事なのか、何故ホープは美香の命令に従わなくなったのか。

 様々な疑問や後悔が真美子の脳内を駆け巡り、自然と彼女の瞳から涙が溢れていた。











 真美子の考えた通り、昨日までのホープは確かに紙一重であるが使い魔と呼べる存在だった。

 生みの親である美香の命令通りにモルドンを倒し、その母親の要らぬお節介を受けて倒したモルドンのクリスタルを喰らって行く日々。

 定期的にモルドンのクリスタルを取り込んでいったホープは、知らず知らずのうちに自身をモルドンへと近づけていた。

 しかし生みの親に捨てられたホープが唯一持っていた物、捨てる前に指示された最後の命令がホープを今日まで持たせた。

 九割九分がモルドンへと変質しても尚、ホープは美香と再会するまで死ねないと言うかのように使い魔で有り続けていたのだ。


「□□……、っ□!? …■■!!」

「ど、どうしたの…、きゃっ!!」


 美香がホープを迎えに来たことで、迎えに来るまでと前置かれていたホープへの最後の命令はその時点で満了した。

 皮肉にもあの美香との数年ぶりの再会が、ホープが命令という縛りから解放されて完全なモルドンへとなるための最後のキーだったのだ。

 最後の最後で生みの親と再会したホープがどのような感情を抱いたかは分からないが、それもすぐに真っ黒に塗りつぶされた。

 あの瞬間に使い魔としてのホープは完全に居なくなり、ただのモルドンとなり果ててしまう。

 そしてモルドンとなったホープがやる事は一つだけ、魔法少女に倒されるまで夜の街で暴れ続けるだけだ。






 完全なモルドンとなったホープは、至極モルドンらしく街で破壊行為を行っていた。

 そのパワーで体ごと家屋に突っ込んで建物を倒壊し、意気揚々と隣接する建物の破壊を目論む。

 巨体に相応しいパワーファイターであるホープの活躍は、すぐに地元魔法少女の耳に入ることとなる。

 現れた魔法少女はホープをただのモルドンとしか思っておらず、自分が負ける未来などは考えもしなかっただろう。

 ゴスロリ風の衣装を纏った魔法少女は、可愛らしい姿には似つかわしくない巨大なライフルを片手に華麗に登場した。


「そこまでよ、熊さん! 正義の魔法少女アヤリンが相手に…」

「■■■■■!!」


 千春やガロロにはあっさり対処されたのは事実だが、その結果だけでホープの透明化能力を無価値であるかとは判断できない。

 彼らは事前にホープの透明化を把握していた上、その力に対応できる能力を保持しているという幸運に恵まれていた。

 逆を言えばホープの透明化を知らず、視覚以外で相手の位置を察知できない魔法少女が相手ならばどうなるか。


「えっ、消えた!? 何処、何処に…」

「…■■■■!!」

「きゃっ!? う、嘘っ…」


 その問いの答えは先ほど真美子が目撃した重傷を負った魔法少女であり、彼女は透明化で姿を消したホープに後ろから殴られてしまったのだ。

 目の前で突然消えてしまったモルドンを前に魔法少女は見るからに動揺してしまい、その隙に背後へと移動するホープに全く気付けない。

 そして無防備な背後から受けた頭部への一撃、しかもそれを行ったのは力自慢のあのホープである。

 流石の魔法少女にもそれはとても耐えられなかったようで、彼女はその場で意識を失って崩れ落ちてしまう。


「うわあぁぁ、アヤリンやられた!」

「逃げろ、逃げるんだぁぁぁ!!」

「また消えたぞ、何処に行ったんだ…」


 どうやらこの魔法少女は千春と同じく、自身の魔法少女活動を公開するスタイルだったらしい。

 恐らく魔法少女の仲間であった撮影役の人間が、初めて見る少女の敗北に見るからに狼狽する。

 それは周囲で野次馬をしていた者たちも同じであり、人々は魔法少女を倒した規格外のモルドンに恐れ戦く。

 当のモルドンは姿を消したまま移動して新しい遊び場を探しに行ったのだが、その場に居る人間がその事に気付くのにはそれなりの時間を要した。



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