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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
61/384

3-9.


 モルドンと化したホープを倒すと決めた千春は、すぐさま青い鎧のUNの型へと姿を変える。

 男性の中では体格が良い方の千春であるが、相手は自身より二回りは大きい巨大熊型の元使い魔であった。

 その体格を活かしたパワーファイトは、AHの型のパワーで真っ向から受け止めるのは厳しい。

 ホープの状況が分からずに受け身で居なければならなかった先ほどまでと違い、倒すだけであれば相手の馬鹿力に付き合う必要なない。


「■■■■っ!?」

「…硬いな。 流石にただのモルドンよりは強いか」


 柔よく剛を制す、UNの型の強化された感覚を最大限に活かして千春はホープの剛力を往なす。

 そしてすれ違い様に両刃を展開したヴァジュラを振るい、まずは動きを止めるために足を集中的に狙っていく。

 既に何度も交差を繰り返しながら足を切りつけているのだが、ホープの太い脚は傷だらけになりながらも未だに健在である。

 感覚的に普通のモルドンであれば既に足を切断していてもいいのだが、元が魔法少女と使い魔であるだけに体も頑丈らしい。


「…だがやはりお前は渡りのモルドンより弱い! 悪いがこのまま押し切らせて貰う」

「■■■っ!!」


 似たような経緯でモルドンと化したホープであるが、その実力はあの渡りのモルドンには遠く及ばないようだ。

 実際に相手があの化け物と同等であったら、千春一人の戦力ではとても太刀打ち出来ない。

 千春が互角以上に立ち回れている時点で、モルドンとかしたホープの力は使い魔であった頃と殆ど変わらないレベルであることが分かる。

 魔法少女より格下の存在であるモルドンのクリスタルを幾ら喰っても、その実力が向上することは無いらしい。

 しかし相手は元使い魔であり、ホープにはただのモルドンには無い独自の能力が備わっていた。


「■■…、■!!」

「お、透明化か…」


 透明化、悪戯好きな子供だった美香が使い魔であるホープに与えた能力。

 ホープは自身の不利を悟ったのか、その透明化の能力を発動させて背景に溶け込んでしまう。

 完全に姿を消してしまったホープは、視覚ではどうやっても追うことは出来ないだろう。

 このまま危険な千春から逃走するのか、それとも姿を消した優位を活かして不意打ちをしかけてくるのか。

 そんな危険な状況にも関わらず千春は臆することは無く、UNの型によって強化された五感を研ぎ澄ます。


「…甘いぞ、そこだ!!」

「…■■■■っ!?」


 幾ら姿を消したとは言え、ホープの存在が完全にこの世から消えてしまった訳ではない。

 その場から動けば微かな音が漏れるし、長年の放浪生活によってホープの体に外界の色々な匂いが染みついている。

 五感を強化するUNの型であれば少し意識を集中するだけで、視覚以外の感覚を駆使してホープの居所を掴むのは決して難しいことでは無い。

 どうやら逃走を選んだらしいホープに対して、千春は遠ざかっていく背中へ向かって銃形態にしたヴァジュラを乱れ撃ちする。

 それは千春の感覚通りにホープの体に命中して、その衝撃で透明化が解かれたホープはそのまま地面に倒れてしまう。








 事前に動画でも確認した通り、ホープのクリスタルは顔の額部分に埋め込まれている。

 あの巨体の額を直接狙うのは難しいため、それを壊すためには相手の体を倒すしか方法が無かった。

 先ほどの銃撃で上手いことホープが地面に倒れ込んでくれたので、あとは起き上がる前にクリスタルを叩き割るだけである。

 千春は勝負を決めるために再びヴァジュラの刃を展開して、その場から起き上がろうとするホープへと向かった。

 タイミング的に相手が起き上がるよりこちらの攻撃が早い、この時の千春は自身の勝利を確信していた。


「…ガロロ、お願い!!」

「なっ!?」

「☆☆☆☆っ!!」


 しかし予期せぬ横やりによって、残念ながら千春の勝利は手から離れてしまった。

 真美子の指示に瞬時に反応したガロロは一瞬の内に戦闘用の形態、巨大な狼の姿へと変貌する。

 バイク形態のシロと互角の速さを誇る俊足のガロロは一瞬の内に距離を詰めて、今にも剣を振り下ろそうとする千春に飛び掛かったのだ。

 想像もしてなかった味方からの奇襲に動揺した千春は、ろくに抵抗も出来ずにガロロに押し倒されてしまった。


「おい、どういうつもりだ…」

「行って、ホープちゃん! 行ってぇぇぇ!!」


 突然の真美子の暴走に対して千春は声を荒げながらその真意を問うが、彼女の目的はすぐに判明した。

 何とあの女は、生みの親である魔法少女を見境なく襲った危険な元使い魔モルドンをこの場から逃がすつもりなのだ。

 余りの馬鹿な行動に千春が呆気に取られてている間に、元々逃げる予定であったホープは再び透明化の能力を発動させた。

 UNの型で強化された感覚はホープが一目散に離れていることを知らせる、どうやらあのモルドンは千春たちの手から離れてしまったらしい。


「…説明してくれるよな?」

「…ごめんなさい、ごめんなさい」


 やろうと思えばガロロへの反撃も行えたが、此処で下手に抵抗すれば同士討ちが発生する可能性が高い。

 千春はその選択肢を諦めて、ガロロに抑えられた状態を甘んじて受けれていた。

 ホープがこの場から消えてから暫く経ち、もう追撃が不可能となった所で千春はようやくガロロから解放される。

 立ち上がった千春は当然の権利として真美子を睨み、それに対して彼女はただただ謝り続けていた。











 とりあえず説明を求めて見たが、真美子の先ほどの行動の理由は言われなくても千春には察しがついた。

 使い魔に恋していると言っていい真美子には、単純に目の前で使い魔が殺される姿を見るが耐えられなかった。

 かつて一緒に動画を撮った事もあるホープのクリスタルが砕かれる事が許せず、咄嗟にガロロを千春へと差し向けたのだ。


「あんただって分かっているだろう、あれは完全にモルドンだ。 あれを放っておいたらどうなるか…」

「けどホープちゃんは使い魔でもあります! それを殺すなんて…」

「俺はあいつのクリスタルを砕こうとしただけだ! 分かっているよな、これの意味は…」


 あのホープをあくまで使い魔と主張するならば、あそこで千春を止めた真美子の選択には矛盾が生じる。

 何故なら魔法少女の使い魔であるクリスタルは、手順と時間を踏めば修復は可能であるからだ。

 過去に渡りのモルドンにやられたリューも、クリスタルを取り戻したことで復活することが出来た。

 使い魔のクリスタルを破壊することは残酷なことであるが、それは使い魔の完全な死とはイコールでは無い。

 しかし相手が魔法少女の使い魔では無く、モルドンであれば事情は大きく変わる。


「あんたも内心では、あのホープは完全なモルドンになったと思っているだろう? モルドンのクリスタルは治らない、あそこで俺がクリスタルを破壊したらホープは完全に死ぬだろう」

「それが分かっていて、どうしてあんな残酷なことを!? もしかしたら、あの子が使い魔に戻る可能性があるかもしれないのに…」

「渡りのモルドンまではいかないけど、元使い魔のあいつは普通のモルドンよりは強力だ。 あれを野放しにして、他の魔法少女に被害が出たとして責任が取れるのか?」

「…取ります! あの子は私が責任を持って預かりますから、NIOHさんはもう手を出さないで下さい!!

 行くわよ、ガロロ! ホープちゃんを保護してあげないと…」

「おい、まだ話は終わって…」


 確かに使い魔がモルドンとなったのならば、そのモルドンを再び使い魔に戻す手段はあるかもしれない。

 その可能性を諦めきれない真美子は、危険を避けるためにあそこで倒すべきだったと主張する千春を受け入れられない。

 あくまでホープのクリスタルを破壊して始末するのではなく、あの状態のまま保護するべきだと主張する真美子は千春と決裂してしまう。

 戦闘用の形態となったガロロは、女子高生一人を運ぶには十分過ぎるほどの力があった。

 ガロロの背に乗った真美子は千春たちをその場に置いて、ホープを保護するためにその後を追っていく。






 先ほどのホープと同じように、ガロロに乗った真美子もあっという間に消えてしまった。

 町外れの田舎道に残された千春は暫く真美子が消えた方向を眺めながら、これからの行動を思案する。

 しかしその前にやる事があるのに気付いた千春は、マスクドナイトNIOHの変身を解きながら振り向いた。


「…さて、残ったのは俺たちだけか? あんたはどう思う、ホープを殺すべきか、それとも活かすべきか?」

「分からない、分からないよ…。 うわぁぁぁぁぁぁぁ…」

「美香、落ち着いて…」

「はぁ…。 とりあえず街まで戻ろう、そこからは勝手に帰っていいから」


 千春は此処までの足に使った車の傍に座り込む、母親の腕に抱かれたままのホープの生みの親に声を掛ける。

 しかし現状は既に美香の手に負えない物らしく、全ての元凶である少女は母親の腕に抱かれながら子供のように泣き喚くだけだった。

 自身の使い魔に殺され掛けた事が余程恐怖だったらしいが、これは自業自得の結果だと言えなくもない。

 とりあえず美香に同情する気は全くないが、流石に置いていく訳にはいかないだろう。

 千春は仕方なくホープの対処を後回しにして、まずは彼女たちを街まで送り届けるのだった。


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