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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
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3-2. VS 魔法少女の使い魔


 月が雲で覆われた薄暗い夜の中、二匹の異形たちが争っていた。

 一方は厚い毛皮に覆われた二足歩行の熊のような異形、一方は外骨格に覆われた虫を人型にしたような異形。

 街中に居る筈も無い大型の動物サイズのそれらは、どちらも夜の闇に溶け込む黒い体である。

 熊型の異形は相手の喉元のクリスタルを、虫型の異形は相手の額のクリスタルにめがけて襲い掛かる。

 二体の異形は自身の破損を厭わずに、互いの体に備わるクリスタルを破壊しようと削り合っていた。


「■■■■■!!」

「□□□□っ、□□!、」

「…何だよ、あれ? モルドン同士が共食いか?」


 偶然にもこの異形同士の決闘を目撃した若い男は、思わず携帯でその映像を捉えていた。

 基本的にモルドンが複数現れることは無く、二体のモルドンが同時に存在する姿などまず見られない。

 加えてモルドンが同士討ちをする話などは聞いた事が無く、男性の好奇心が恐怖を押し切ってこのような危険な撮影に臨んだらしい。

 物陰に隠れながら撮影をする男性の目の前で、モルドン同士の戦いの天秤が一方に傾いていく。


「□□□□、□っっ!!」

「■■…!?」

「□□□□、□□□□!!」

「…なんだ、喜んでいるのか?」


 熊のようなモルドンの鋭い爪が一方の喉元に届き、そこにあった黒いクリスタルを砕いたのだ。

 クリスタルを破壊されたモルドンは、奇妙な声を震わせながらその体を消滅させてしまう。

 勝利したモルドンは興奮しているのか四足歩行となり、その場でぐるぐると周り始めたでは無いか。

 モルドンの奇妙な行動に目を奪われてしまった男は、そのモルドンがこちらの方を振り向くまでその場から動くことは無かった。


「□□…、□!!」

「やべ、気付かれ…」

「…□□□」

「…えっ、帰っていく?」


 モルドンに気付かれたことを察した男は今更ながら自身の危険な状況に気付いたらしく、慌ててその場から立ち去ろうとする。

 しかしどういう訳かそのモルドンは男の顔を一瞥した後、興味を失ったかのように後ろを向いて歩いて行ってしまう。

 人を襲わず周囲の物を破壊しないモルドンなど聞いたことの無い男は、唖然としながらそれが夜の闇に消えていく様を見ていた。

 後日、この時の映像はマジマジに投稿されたのだが、大した注目も集めずに埋もれてしまっていた。











 天羽が密かに彩雲へデジタルイラストを依頼したように、彼女が運営するNIOHチャンネルの内容は千春の戦闘動画一本槍という訳では無い。

 モルドンが出現する間隔は早くても週一ペースであり、それだけで移り気な視聴者を引き留めるのは難しい。

 例えば彩雲のイラスト紹介、千春のマスクドナイトNIOHの力を使った"***をやって見たシリーズ"、一部のコアなファン以外には不評な千春によるマスクドシリーズの解説動画。

 ネタに困った時などは天羽が自身の睡眠時間を犠牲にして、マスクドシリーズの全話マラソン視聴の第二弾・第三弾などに挑戦することもあった。

 そして最近のNIOHチャンネルでは、ある動画が人気コーナーとして注目を集めるようになっていた。


「"○○〇!!"」

「"かわいーー"」

「"シロちゃぁぁぁぁんっ!!"」


 "今日のシロちゃん"、千春の元で生活するあの不思議な白いぬいぐるみもどきの私生活の一部始終を捉えた動画である。

 天羽の指示でシロの何気ない風景が定期的に撮影されており、加えて千春の部屋に設置された固定カメラでシロの自宅での生活が四六時中撮られていた。

 これを適当に編集してあげた動画が意外に好評であり、NIOHチャンネルの名物コーナーにまで発展していた。

 その人気はシロの何気ない仕草一つでコメント欄が埋まる程であり、今ではこのぬいぐるみもどきはNIOHチャンネルの不動のマスコットとなっていた。

 やがて魔法少女の業界の中でもシロは名の知れた存在となり、NIOHチャンネルにそのオファーが届いたのだ。







 それは喫茶店メモリーの休憩室で、彩雲の描いたデジタルイラストの練習作品を見せて貰っている時だった。

 千春と朱美はパソコンに表示されたデジタルのマスクドナイトNIOHの姿を眺めて、その隣で彩雲と甲斐がシロと戯れていた。

 どうやら彩雲たちの中学校でもシロの存在はそれなりに有名になっているらしく、女子中学生たちは代わる代わるにシロを抱っこしている。

 そんな中でいきなり裏口の方から入ってきた天羽が、千春の姿を見るなり異様なテンションで迫ってきたのだ。


「お兄さん、居るーーーー!!」

「っ、天羽さん!? ああ、ごめんね、シロ」

「○○っ!!」

「…ああ、居た居た! ついに来たわよ、お兄さん。 ついにシロちゃんにあのオファーが来たわ!!」

「何だよ、藪から棒に…。 シロにオファー? 俺への魔法少女絡みの依頼じゃなくてか?」


 天羽の突然の襲来に驚いた彩雲が抱き上げていたシロを落としてしまい、床に転がるシロに向かって謝っていた。

 そんな彩雲たちの事など目に入っていない様子の天羽は、千春の腕を取りながらつい先ほど受け取った素晴らしい話について語り始める。

 オファーと言う言葉を聞いて千春が最初に想像したのは、ここ最近立て続けに起きている魔法少女絡みの案件である。

 しかし天羽の言うオファーはシロに対しての物と聞いて、意味が分からない千春は怪訝な表情を浮かべた。


「本気なの、お兄さん!? シロちゃん…、魔法少女が作り出した使い魔に対して名指しのオファーをするチャンネルは一つしか無いじゃ無い。

 いい、シロちゃんはあの"ファミリアショー"のゲストとして呼ばれたのよ!!」

「"ファミリアショー"…、それってマジマジの人気シリーズ動画だよな? 魔法少女の使い魔が色々とする奴…、それにシロが呼ばれた?

 おいおい、お前も大物になったなー、シロ!!」

「○…、○○?」


 自身の説明不足であることを棚に上げて、千春の察しの悪さに怒りを感じたらしい天羽は若干キツメの口調でオファーの意味を告げる。

 天羽の説明を聞いた千春は、ようやく彼女が興奮している理由に納得が言った。

 マジマジで注目を集めることに燃えている天羽に取って、このオファーはNIOHチャンネルの知名度を上げる絶好の機会なのだ。

 千春の方もようやく事の重大さを理解出来たようで、笑みを浮かべながら今回の立役者であるシロを褒める。

 しかし当の本人は何のことか分かっていないらしく、小首を傾げる白いぬいぐるみもどきの姿がそこにあった。











 魔法少女専門動画サイト"マジマジ"、そこには有名無名の魔法少女たちが投稿した様々な動画が存在する。

 それは幾つかのジャンルに分類することが出来るが、その中で魔法少女黎明期から根強い人気を持つ題材が存在した。

 使い魔ジャンル、魔法少女が生み出した不可思議な存在をネタにした動画である。

 まさにファンタジーの存在と言うべき魔法少女の使い魔は、その手の存在に憧れていた人々を魅了した。

 好みの差が大きい戦闘動画や同性の視聴者は期待出来ない魔法少女自身の可愛さをアピールした動画と違って、使い魔を全面に出した動画は万人向けと言えるだろう。


「…このマジマジの使い魔ジャンルの中で、一番人気のあるシリーズが"ファミリアショー"なのよ。

 "Familiar spirit"…、つまりは使い魔。 その名通り魔法少女たちが生み出した、数々の使い魔たちを紹介する動画よ」

「私も何回か見たことがあります。 確かテレビでも出てましたよね」

「使い魔は分かりやすくて素人受けもいいからね。 テレビとかでもネタにしやすいんでしょう」

「ファミリアショーですか、使い魔ってシロちゃんみたいな子の事を言うんですよね。 それを紹介する動画ですか…」


 天羽や千春と違いファミリアショーの事を理解していない彩雲に対して、その手の話に詳しい朱美が説明をしてあげていた。

 しかし話だけではイメージが付かないのか、彩雲は今一つ分かっていない様子である。

 その様子を見た朱美は実物を見た方が早いと判断したらしく、自前の携帯を操作して彩雲に差し出す。


「ほら、これがファミリアショーだよ」

「えっ!? これって前に兄さんと一緒に戦った子ですよね。 名前は確か…」

「リューよ、この子は少し前にファミリアショーに出たんだよ」


 そこにはかつて千春が渡りのモルドンとの決戦時に共闘した、あの小さなドラゴンの姿が映しだされているでは無いか。

 どうやらシロより一足早く、魔法少女の使い魔であるリューがファミリアショーに出演していたらしい。

 まさにファンタジーの生き物であるドラゴンの登場に、その回のファミリアショーは中々評判だったようだ。


「いやー、何で私たちより先にそっち何だと内心で不満でしたけど、いよいよ私たちのターンがやって来た感じですね!!

 ふっふっふ、頑張ってNIOHチャンネルをアピールするんですよ、シロ!!」

「まあ、何でもいいさ…。 俺の出番が無いならな…」


 密かにリューに先に越されたことを嫉妬していた天羽も、今回のオファーで溜飲が下がる思いなのだろう。

 シロに対して発破を掛ける天羽を横目で見ながら、今回は魔法少女との戦いは無さそうだと一安心していた。





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