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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
52/384

2-8.


 田中家とその周辺に迷惑を掛けた、ご近所迷惑系魔法少女たちとの戦いは終わった。

 流石に小学生にはノックアウトの衝撃は耐えられなかったのか、あんずと梨歩は仲良く気絶している状況だ。

 とりあえず外に二人の少女を放置している訳にはいかず、千春はそれらを俵のように担ぎながら田中家へと運び入れる。

 二人を寝かした所で変身を解いた千春は、同じように元の制服姿に戻った佐奈と向かい合う。


「いやー、終わった、終わった。 小学生もやるな…、これは教師が良かったのかな?」

「そんな…、私は何もしてませんよ。 この子たちがあんなに成長してたなんて、考えもしなかった…。

 私は無意識の内に、この子たちのことを魔法少女に成り立ての頃と同一視していたんです」


 確かに佐奈は同じ街で誕生した新米魔法少女である、この二人の面倒を見ていた時期がある。

 しかし先ほどの戦いでは佐奈の油断もあったろうが、あんずと梨歩は確実にかつての師の想像を超えて見せたのだ。

 本人の口から語られるように、あの瞬間まで佐奈に取って二人は庇護すべき未熟者であったのだろう。

 自分の手が離れた後で急激に成長した教え子たちの力を実感した佐奈は、複雑そうな表情で未だに意識を取り戻さない二人の様子を見る。


「まあ、こいつらも努力したって事だよ。 佐奈の隣で戦うためにな…」

「私の…?」

「この悪ガキどもの能力は、敵に突っ込んでいく戦いをする佐奈を援護するのに最適だろう? きっと、こいつらは佐奈に並ぶために強くなったんだよ。 最もそれが周りに迷惑を掛ける理由にはならないけどな…」

「あんずちゃん、梨歩ちゃん…」


 かつての有情に対する間野のように、この二人の構築した能力は明らかに佐奈との共闘を前提にした物だった。

 方向性は違うが佐奈の戦い方は千春と同じく、相手の懐に飛び込み近接戦闘を仕掛ける物だ。

 軽やかに夜空を掛けながら進むNASAの背後を守り、彼女を援護するための弾幕を放って支援する。

 それはつい先ほど千春がやった行為でもあり、皮肉にも二人の少女の夢を自分が叶えてしまったようだ。


「ありがとうございます、矢城さん…。 結局、私は何にもできませんでした」

「いやいや! 佐奈が上手く気を逸らしてくれたら、俺は簡単にあいつらまで近づけたんだ。 立派に仕事はしたって…」


 先ほどの戦いで二人の魔法少女に近づけた理由の一つは、佐奈の攪乱にあったことを千春はしっかりと認識している。

 あの戦いで千春が弾幕の雨を強行突破している時、その頭上から佐奈が同じようにあんずと梨歩の元に向かっていた。

 二方向から来る千春と佐奈を同時に対処するため、必然的に一人一人に降りかかるエネルギー弾の圧力は小さくなった。

 結果的には一直線に最短距離を突き進んだ千春が、佐奈に先んじて二人の元に辿り着いた。

 しかし仮に千春側の圧力を大きくされて足止めされたとしても、その隙を突いて佐奈が先に二人に届いていただろう。

 千春の意図を察して動いてくれた佐奈には感謝こそあれ、不満などある筈は無かった。


「そうだよ、お兄ちゃんもお姉ちゃんも凄かったよ!!」

「○○○○!!」

「お、坊主。 それにシロもか、一緒にいたのか?」

「そうだよ! 家の庭でこっそり観戦してたら、この子がバイクから出てきたんだ」

「おお、悪かったな…、出番なしで。 流石にあの状況でお前まで出したら、袋叩きみたいだからな。 空気を読んでくれて助かったぞ…」


 田中家の家の中で話をしていたので、当然ながら千春と佐奈の会話はこの家の住人にも聞かれていた。

 昼にNIOHの変身を強請ったこの家の一人息子は、その腕にシロを抱えながら現れて千春たちの健闘を称える。

 事前に聞いていた通りこの子は千春たちの戦いを見ていたようで、そこに今回出番なしだったシロが合流していたらしい。

 当初の予定では佐奈は参戦しない予定だったので、万が一の場合は田中家敷地内に控えていたシロが奇襲を掛ける算段になっていた。

 しかし佐奈の登場によって千春たちと相手の戦力は、魔法少女二人分という形で釣り合いが取れてしまう。

 状況的に自分の出番は無いと判断したシロは、自主的にバイクとの合体を解除して息子と一緒にいたようだ。


「ありがとうございます、矢城さん。 佐奈ちゃんもご苦労様ね、これでこの辺りもまた静かになるわ」

「また、派手にやりあってくれたな…。 明日はまた、後始末に苦労するぞ…」

「すいません…、明日は俺も手伝いますんで…」

「わ、私も…」


 田中家の息子に続いて、彼の両親である夫婦も千春たちの話に加わった。

 当初の依頼通りにこれまで散々迷惑を掛けられた、あんずと梨歩が倒されたことに奥さんの方は満足気な様子だ。

 一方の旦那の方は、今日の勝利の過程で発生した被害状況を見て憂鬱そうに溜息を漏らす。

 千春と佐奈を相手にやり合ったあんずと梨歩は、これでもかと言わんばかりに撃ちまくっていた。

 その流れ弾は当然のように田中家やその周辺に届いており、またしてもご近所の塀や家屋に傷付いてしまったらしい。

 此処ではい終わりという訳にもいかず、千春と佐奈は明日からの片付け作業を手伝うと申し出た。











 戦いの翌日、ご近所が総出となって行われた片付け作業はその日の内にあっさりと完了した。

 これが良いことは分からないが、田中家の話によるとこの辺の人間はこの手の作業が上手になってしまったらしい。

 もう何回もやっているのか、慣れた様子で淡々と片付けを行う住人たちの姿には一種の圧力すら感じる程である。


「ああ、疲れた…」

「もう腕が上がらないよ…」

「当然よ、これはあなたたちがやった始末なんだから」


 片付けを行う人間の中には、一晩経ってノックアウトから目覚めたあんずと梨歩の姿もあった。

 クリスタルを破壊された衝撃がまだ体に残っている状況での肉体労働は堪えたのか、二人は見るからに疲弊した様子である。

 しかしそもそも今回の事態を起こしたのは彼女たちなので、この場に同情する人間は誰も居なかった。


「田中さん…、今回のことは本当に申し訳ございません。 この子たちが二度とこんなことをしないように、私の方でしっかりと面倒をみますので」

「はっはっは、佐奈ちゃんがそう言ってくれるなら安心だよ。 しっかり鍛え直して、今度こそ佐奈ちゃんのように立派な魔法少女にしてくれよ」

「勿論です、今度はもっと厳しくしますよ。 あんまり自信は無いですけど…、頑張ります!!」


 クリスタルを破壊されたあんずと梨歩であるが、ご承知の通り時間を掛ければ彼女たちの魔法少女の力は復活してしまう。

 魔法少女の力を取り戻した後で同じことをされては困るので、彼女たちを躾直さなければならない。

 一度二人の教育に失敗している佐奈であるが、住民たちは文句ひとつ言わず彼女が再びあんずと梨歩の面倒を見る事に同意してくれた。

 これもこれまで培ってきた信頼関係の賜物であり、その期待に応えるためには佐奈は心を鬼にしなければならない。

 性格的に厳しい教育は得意ではない佐奈であるが、同じ失敗を繰り返すまいと気合を入れ直した。


「よし、俺の仕事もこれで終わりかな…。 それじゃあ、俺はそろそろ帰ります」

「えっ、もう帰っちゃうんですか? ちょ、ちょっと待ってください、最後に少しお話を…」


 田中家とそのご近所に迷惑を掛けていた魔法少女は倒されて、その後の面倒は佐奈が見る事になった。

 昨日の後始末も終わったの千春にやり残したことは無く、この街での役目は済んだと言えよう。

 ヒーローらしく風のように去ろうとする千春であるが、佐奈は慌てて話があるとして千春を引き留めた。






 千春と佐奈は互いに向かい合い、その周囲には先ほどまで片付けをした住人たちに加えてあんずと梨歩の姿もあった。

 ギャラリーたちは興味津々と言った様子で、若い男女の会話に聞き耳を立てている。

 当然千春は自分たちが好奇の目に晒されている事を理解して、場所を変えようかと一瞬考えた。

 しかし周囲の状況に全く気付いていない佐奈は動揺しているのか、眼鏡の蔓を小刻みに揺すりながら千春に向かって口を開く。


「や、矢城さん…。 私は昨夜のことで、自分がまだまだ未熟だったこと分かりました。 私もこの子たちと一緒に鍛え直して、みんなの期待に応えられるような魔法少女になってみせます」

「そんなこと無いって、俺の方が全然未熟者だよ。 佐奈の方が魔法少女歴は長いんだし、もう十分立派な魔法少女…」

「駄目なんです。 今のままだと、矢城さんと隣に立てないって分かりましたから…。

 あっ、変な意味では無いですよ! …矢城さんの足を引っ張ってしまうって事ですから!!」


 昨晩の戦いであんずと梨歩にしてやられた佐奈は、千春に比べて自分は未熟であると感じたらしい。

 しかし千春側からすれば佐奈は、長年に渡って魔法少女を続けてきた大ベテランである。

 昨夜はあんずと梨歩に対する油断から失敗してしまったが、それまでの動きは完全に能力を使いこなしている事がわかる洗練した物だった。

 千春はもう佐奈は未熟とは正反対であると諭すが、当の本人はあくまでそれを認めようとしない。

 どうやら昨夜の一件で佐奈は千春のことを過大評価したらしく、千春と共に戦えるようになりたいとまで言ってきた。

 それはあんずと梨歩がNASAこと佐奈に抱いた思いと同じであり、奇しくも師弟は共に同じような心境になったらしい。


「あ、あの…。 そ、そそそそそれで…、わ、わわわわわわたしの…」

「落ち着けよ、何を言っているか分からない」

「…わ、私と連絡先を交換してくだしゃいっ!!」

「え、別にいいけど…」


 これまで男性経験が殆ど無かった佐奈に取って、これは一世一代の決断だったのだろう。

 まともな日本語として聞き取れない程に言葉をつかえながら、佐奈は千春との連絡手段を求めたのだ。

 凄まじく動揺している佐奈とは対照的に、千春は至極あっさりと承諾して携帯を取り出した。


「あ、最後がどもった」

「NASAさん、やっぱりチョロいな…」

「青春だね、若い頃を思い出すわー。 頑張ってね、佐奈ちゃん」


 そしてこの若い男女のやり取りは、聞き耳を立てていた住人たちと元魔法少女たちに当然聞かれていた。

 昨夜の戦いで千春のことを少しは認めたのか、あんずと梨歩は横やりを入れる事なく呆れたような表情で二人の姿を見ている。

 その近くでは田中家の奥様はかつての青春時代を思い出したのか、昔を懐かしみながら佐奈のことを応援していた。

 彼女たちの視線の先では佐奈が焦って携帯を取り出した所で、手が滑ったのかそれを地面に落としてしまう。

 その携帯を千春と佐奈が同時に拾おうとして、手と手とが触れ合う少女漫画の風景が田中家の前で繰り広げられていた。




これで二話は終わりです。

明日か明後日から三話目を開始できると思うので、よろしく。


では。

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