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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
51/384

2-7.


 言ってしまえばこの時の佐奈は油断していたのだろう。

 かつて面倒を見ていた小学生の教え子たち、それが佐奈に取ってのあんずと梨歩への認識だった。

 しかし年齢や経験の差は有れども、二人は佐奈の同等の戦力を持つ魔法少女である事に変わりない。

 これが対モルドンであれば違った展開になっていただろうが、この時の佐奈は完全にあんずと梨歩にやり込められていた。

 NASAとしての佐奈の能力を知り尽くし、その欠点を見事に突いたあんずの放った銃弾は憧れの彼女に届く筈だった。


「えっ…」

「大丈夫か、佐奈。 結構危なかったな…」


 仮にこの場に居たのが彼女たちだけであれば、次の能力始動までのタイムラグを狙われた佐奈は撃ち抜かれていた事だろう。

 しかし此処にはマスクドナイトNIOHこと千春が居て、彼が佐奈がやられるのを黙って見ている訳が無い。

 後方で援護射撃をしていた千春は梨歩の誘導弾の細工に気が付いた瞬間、警告を出しながら佐奈の元へと駆けていたのだ。

 そしてNASAでは無いが夜空に向かって大跳躍を行い、銃弾が迫る彼女の体を掻っ攫ったのである。


「此処に来て連携プレーかよ、そんなに仲が良いなら初めから喧嘩なんてするなよな。

 さて、これからどうするか…」

「…あ、あわわわわ…!? 矢城さんが近い…」

「あー、NASAさんが!?」

「NASAさんから離れろ、この変態!!」


 佐奈の体を抱えたまま着地した千春は、あの二人の魔法少女の息の合った戦いぶりに溜息を漏らす。

 千春から見ても先ほどの佐奈を嵌めた手口は淀みが無く、どれだけ息の合っていると言うのだ。

 意外に厄介な相手だとあんずと梨歩の評価を改める千春の腕の中で、佐奈は見るからに狼狽えていた。

 男性経験が殆ど無い佐奈に取って、異性と密着しているという自身の状態は少々刺激が強いらしい。

 それはあんずと梨歩と同じようで、二人を離すために一斉に機械杖と二丁拳銃からの射撃を再開したのだ。


「うわっ!? 佐奈、俺は正面から行く! お前はその隙に…」

「ど、どどどどうすれば…、えっ…」


 迫り来る二人の魔法少女が放つ緑と黄色の弾幕を前に、千春は意を決して前進の道を選択する。

 千春が佐奈を助けている間に遠距離型である二人は距離を取ったようだが、戦闘開始時よりは確実に近付いていた。

 あんずと梨歩を相手に遠くから撃ち合っても勝ち目はなく、千春の勝ち筋は先ほどの佐奈のように前進あるのみなのだ。

 防御力が高いAHの型へと姿を変えた千春は弾幕から外れるように混乱中の佐奈の体を横に放りながら、前に向かって突撃した。











 NASAこと佐奈の元を卒業したあんずと梨歩は、これまで佐奈が一人で守ってきた街の一部地域を任されることになった。

 自分たちの街を守ってきた佐奈の手伝いが出来る事への喜びと、同年代のライバルの存在が彼女たちを切磋琢磨させたようだ。

 厳密に互いの担当区域を決めていなかった事もあり、田中家の周辺が二人の魔法少女の意地の張り合いの場になるという不幸もあった。

 しかしあそこで行われた魔法少女同士のガチな喧嘩は、結果的にあんずと梨歩が互いの戦い方を理解し合う場となったらしい。

 今も二人の魔法少女はつまらない事で喧嘩していた事など忘れたかのように、迫り来る鎧のヒーローを前に共に奮闘していた。


「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「ああ、おっさん、硬い!!」

「パワータイプか、押しとどめられない!!」


 仮にも魔法少女の放つエネルギー弾であるので、千春の自慢の鎧でも喰らい続けていたらまずいことになる。

 しかし逆を言えばある程度は耐えられると言うことであり、それだけの時間があれば二人の元に辿り着くには十分だった。

 千春は体に受ける衝撃で浮きそうになる所を、AHの型のパワーで無理やり抑えつけながら前へと進んでいく。

 AHの型の強力なパワーと頑丈な鎧、この二つが合わさった千春は文字通りの力技であんずと梨歩の弾幕を攻略する。


「…さて、これからどうする?」

「近づかれたら何も出来ないと思ったら、大間違いだよ! 直接、この弾丸をお見舞い…」

「この杖にはこういう使い方も…」


 腰のベルトに嵌められたクリスタルを庇いながら弾幕の雨を潜り抜け、千春は先ほどの佐奈と同じく少女たちに手が届く所まで来ていた。

 頑丈な千春が相手では先ほどの佐奈のように、梨歩の誘導弾で背後から不意打ちをしても効果が薄いだろう。

 此処からあんずと梨歩が距離を取ろうとしても、恐らくその前に千春が自分たちを捉える方が早い。

 しかし佐奈ほどの経験値は無いとは言え、魔法少女として活動していた二人が敵に懐に入られた経験は初めてでは無い。

 あんずは二丁拳銃の取り回しを活かして、銃口を相手の体に付けた状態でのゼロ距離射撃を狙おうとする。

 梨歩は機械杖の先端にエネルギー弾を展開することで即席の鈍器として、これで千春に殴りかかった。






 遠距離攻撃を主体するあんずと梨歩であるが、自分たちの弱点が近接距離にあることは重々承知していた。

 恐らくこの戦い方は、二人が敵に懐に入れた場合での対抗策として用意した物なのだろう。

 事前に訓練を積んでいるのか、二人の魔法少女はこれまた息の合ったタイミングで同時に千春へと襲い掛かる。

 あんずに気を取られれば機械杖の先端に維持されたエネルギー弾で殴られ、梨歩に対処したら銃口を体に付きつけられて撃たれてしまう。

 一方を対処すればもう一方にやられてしまう、千春は難しい二択問題を突き付けられた。


「悪いが…、此処は俺の距離なんでね!!」

「なっ!? これ受け止めた!? でも拳銃はまだ…、って!?」

「ほーら、空の旅にご招待だ!!」

「うわぁぁぁぁぁ、離せぇぇぇっ! 目が回るぅぅぅっ!!」

「僕の杖がびくともしない…。 片腕だけでこんな…、この脳筋野郎!!」


 二択問題でどちらかを選ぶのがまずいのならば、両方の回答を選んでしまうだけの事である。

 千春は二人の抵抗を嘲笑うかのように、左右の腕であんずの拳銃と梨歩の機械杖の両方を掴み取ってしまう。

 あんずは咄嗟に二丁拳銃のもう一方を放とうとするが、それに先んじて千春がそのまま片腕の力で彼女の体を振り回し始めたのだ。

 大事な武器を離せないあんずは、ヘリコプターのように千春の頭上で旋回してしまう。

 その最中に梨歩の方も必死に千春の拘束から逃れようとするが、幾ら力を込めて千春が握る機械杖はびくともしなかった。


「舐めるなよ、おっさん。 この状態でも僕は攻撃を…」

「うん、そう来るよな。 だからこっちは任せたぞ、佐奈!!」

「なっ、うわぁぁぁぁっ!!」

「…鮮やかです、矢城さん!!」


 千春の拘束から逃れる事を諦めた梨歩は、意を決してこの状態のまま反撃に出ようとする。

 体ごと振り回されているあんずとは違い、今の梨歩であれば機械杖から誘導弾を出すことは可能だ。

 両腕を使用中である千春にはこの梨歩の抵抗に対する手が無い、そのため彼は自由となっている足を使った。

 機械杖から手を離すと同時に千春は、梨歩の体を手加減をして蹴り飛ばしたのである。

 梨歩の体は当然吹き飛ばされてしまい、悲鳴を上げて飛んでいくその先には感心した様子の佐奈の姿があった。


「ふぇぇぇぇ、私の銃…」

「ま、これも仕事なんでな」

「梨歩ちゃん、ごめんね…」

「NASAさんっ!?」


 あんずの体を振り回すのを止めた千春は、目を回しながらも決して手放さなかった拳銃を空いた片腕を使って力尽くで引き離す。

 そのグリップ部分には黄色のクリスタルが光っており、千春は即座にAHの型のパワーで容赦なくそれを砕いた。

 千春の背後では佐奈が機械杖から緑色のクリスタルを破壊したようで、梨歩の悲し気な声が聞こえてくる。

 此処に田中家の周辺を荒らし回った、ご近所迷惑な魔法少女たちは千春と佐奈の手によって倒されたのだ。



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