2-5.
その後も魔法少女たちは田中家の正面で、姦しく話を続けていた。
千春という男性が佐奈の隣に居る事は、彼女たちに取って余程意外な事であったらしい。
異性関連の話は若い女性たちに取っては格好の話の種のようで、あんずと梨歩は口々に千春と佐奈の関係を問い質す。
「…ねぇ、二人は本当に付き合ってないのよね?」
「あんず、良く考えて見たら佐奈さんに彼氏なんて居る訳無いよ。 あの人の男っ気の無さは筋金入りだし…。
僕が知る限り、男友達どころか同性の友達すら殆ど居ないしね…」
「えぇ、だからこそ悪い男の人に騙されている場合もあるじゃないか? 友達が居ない寂しい心を付けこまれたりして…」
「ああ、そのパターンも考えられるか…」
「や、止めなさい! あなたたち…、矢城さんの前でそんな…」
かつて師弟関係であった二人の魔法少女の話が本当であるならば、佐奈は余り友人に恵まれていないらしい。
真面目そうな委員長タイプの外見に、その見た目に相応しい人柄であることは田中家での会話で何となく理解できた。
今日初めて会ったばかりであるが、千春としては佐奈の交友関係が狭いと言う話は意外に感じられた。
しかしあんずと梨歩がこんな事で嘘を言う筈も無いので、佐奈に友達が居ないと言う話は事実なのだろう。
「…本当に友達が居ないのか? もしかして、魔法少女の力が怖がられているとかなのか?」
「うん、違う違う。 どっちかっていうとその逆だよ」
「NASAはこの街で有名人だからね、言うなれば高嶺の花って奴さ。 まぁ、NASA自身にも問題があるけど…」
「本当だよね。 海外映画オタクなんてマニアックな趣味をしてなければ、もう少し友達も出来ただろうに…」
「ふーん、そういうことか…」
とりあえず佐奈の友達が少ない理由を魔法少女絡みと推測した千春の予想は、ある意味で正解だったようだ。
田中家の反応から分かる通り、佐奈がこの街を守っている魔法少女であることは周知の事実らしい。
目の前の小学生魔法少女たち程に心酔しているどうかは分からないが、此処の住人たちは少なからず佐奈を重要視していた。
その評価が周囲との壁を作ってしまい、佐奈自身の一般受けしない趣味と合わさって彼女の交友関係を壊滅させたようだ。
二人の話を聞いて人間関係は一筋縄では無いと納得していた千春は、隣にいる佐奈の異変に全く気付いていなかった。
どうやら友人関係云々の話は、まだ高校生になったばかりの小娘に取っては触れて欲しくないセンシティブな話題であったようだ。
先ほどまで隣の千春の様子を伺いながら、顔を赤くしたり青くしたりして忙しかった佐奈が何時からか顔を俯かせていた。
俯いた姿勢のまま全身を微かに震わせる佐奈の姿は、まるで破裂寸前の爆弾のような印象を与えた。
そんな佐奈の異変に今更ながら気付いたあんずと梨歩は、付き合いの長さからその先の展開が予測できたのか慌て始める。
「あ、まずい…」
「ご、ごめんなさい、NASAさ…」
「…あなたたち! もう謝って許さないんだからねぇぇぇっ!!」
「…うわっ!?」
千春の目の前で佐奈に取って地雷と言うべきプライバシーを赤裸々にされたことで、彼女の堪忍袋の緒が切れてしまったらしい。
謝罪する二人の言葉を遮るように佐奈が怒りの叫びをあげた次の瞬間、彼女の全身は光に包まれてしまう。
そして光が止んだそこには、あんずと梨歩が憧れる魔法少女NASAの姿があった。
ボディースーツ風の近未来的な宇宙服を身に纏い、頭には黒いアイマスクを付けて素顔を隠している。
委員長風の見た目だった佐奈とはイメージが正反対の、中々大胆な魔法少女としての衣装と言えた。
「へー、それが佐奈の魔法少女の姿なのか」
「っ!? あんまり見ないで下さい!! ちょっと恥ずかしいんで…。
昔は気にならなかったんですけど、今はこの姿をあんまり人に見られたくないです…」
「はははは、魔法少女あるあるだな。 魔法少女の衣装チェンジは出来ないから、成長してからだと衣装が合わなくなるパターンだな…」
千春は初めて見る佐奈の変身した姿を前に、興味深そうにその全身を見渡した。
怒りの余り勢いで魔法少女の姿になった佐奈であるが、隣に千春が居る事に気付いた途端に羞恥が怒りを上回ったらしい。
制服の上からでも察することは出来たが、佐奈は同年代の中では中々発育の良い少女なのだろう。
その豊かに育った身体つきの詳細は、体にフィットする今のボディースーツ風の衣装でははっきりと見て取れた。
佐奈は千春の目から逃れるため、まるで裸でも見られたかのように両腕で胸を隠しながらしゃがみ込んでしまう。
魔法少女たちが自身の能力を構築出来るのは一回限りであり、その後で能力の変更や修正は決して行うことは出来ない。
つまり能力の一部である変身時のコスチュームも、魔法少女は一度決めた物から変えることは出来ないのだ。
流石にサイズの自動調整は付いているようで、成長した魔法少女が自身のコスチュームを着れないことは無い。
しかしそのデザインは変えようがなく、後でどんなに後悔しても魔法少女として活動するならばそのコスチュームに一生付き合わなければならない。
恐らく佐奈のボディースーツ風の衣装は、体の凹凸が殆ど無かった昔ならばそこまで恥ずかしがることは無かったのだろう。
しかし高校生となり体付きが女らしくなった今の佐奈がそれを着ると、非常に性的な印象を与える姿となってしまうようだ。
「これはあれか、確か昔のヒーロー映画に出てきた…、ムーンだったかな? それと同じ衣装だよな」
「っ! はい、そうです! 矢城さんもヒーロー映画が好きなんですか?」
「まあそれなりに嗜んでいるよ。 俺の変身した姿を見ても分かると思うけど、俺はそっち系の趣味だからな」
話題を変える意味で、千春は佐奈の衣装のネタ元について予測していみる。
以前に千春が視聴した映画のキャラクターと似ていていたので、それをネタ元と予想したのだが的中したらしい。
魔法少女の能力の参考にする程にその映画が好きらしい佐奈は、千春もその映画を知っていた事が嬉しかったようだ。
千春に対しての羞恥心すら忘れれて、楽し気に映画の話を始めてしまう。
「ああ、よく考えたらこいつらの衣装も、あのヒーロー映画のシリーズ作品に出てきたキャラクターの物か…」
「はい! この子たちから自分の能力をどうするか相談されたんで、私はこれを参考にしたって教えてあげたんです。 そしたら彼女たちが、それを参考にあの能力にしたらしくって…」
「佐奈はそういう映画が好きなんだ。 そういえば、海外映画マニアだって言われてたもんな。 正直言って意外だよ、もっと硬い小説なんかを読むタイプだと思ってた…」
「よく言われます。 女の子には変ですよね、周りの子たちともあんまり話が合わなくて…」
「いやいや、いい趣味してるって。 もしかしてマスクドシリーズとかも知っている?」
「ええ、全部じゃ無いですけど何シリーズかは…。 マスクドナイトは見ましたよ、凄く面白かったです」
特撮ファンである千春に取って、少々ジャンルが違うが海外ヒーロー映画も趣味の射程圏内である。
自身だけでなくあんずと梨歩のネタ元にまで言及した千春に、佐奈は彼が同じ趣味人であることを察したようだ。
正直言って女性向けとは言い難い海外のヒーロー映画を愛好する佐奈は、その趣味を語り合える存在は殆ど居なかった。
男子ならばヒーロー映画の話題に付いて来てくれるかもしれないが、先ほどあんずと梨歩が触れたとおり異性と殆ど関わった事の無い佐奈にそのような真似が出来る筈も無い。
目を輝かせながら千春とオタクトークにのめり込む佐奈の姿に、あんずと梨歩は徐々に危機感を募らせていた。
「こら、私たちを放っておいて、勝手にイチャイチャするな!! ていうか名前を呼び捨てするなんて馴れ馴れしいんだよ、おっさん!!」
「これは危ないよ。 オタク趣味が分かってくれるのが余程嬉しいのか、引っ込み思案な筈のNASAさんがぐいぐいと話に喰い付いている。 このままだとNASAさんが、あの男に取られちゃうよ!!」
正直言って先ほどの恋人云々の話題は、半分以上は冗談であった。
しかし今の佐奈の様子を見るとそれが冗談では無くなっており、このままでは尊敬する佐奈を千春に取られてしまう可能性もあるだろう。
つい先ほどまで喧嘩していた筈のあんずと梨歩は、千春と言う共通の敵を前に何時の間にか一致団結してしまう。
「おい、おっさん! NASAさんはまだ高校一年生だぞ、年の差を考えてから口説けよな」
「このロリコン、変態!!」
「あ、あなたたち、馬鹿なことを言うのは止めなさい! それに矢城さんはまだ二十歳よ、この位の歳の差なら全然有りよ!!」
「NASAさん、チョロ過ぎるよ!」
「あなたはその男に騙されているんです! 目を覚ましてください、NASAさん!!」
「ええっと…」
佐奈を奪われまいとあんずと梨歩は、息の合った様子で口々に千春を糾弾する。
しかし二人の健気な思いは佐奈には通じておらず、あくまで彼女は千春を庇う立場を取っていた。
どさくさに紛れて千春と関係を結ぶ可能性にまで言及しており、佐奈の言葉を聞いた聞いた二人はますます反発する。
最早この場は当初の目的であった二人の魔法少女を倒して、そのクリスタルを破壊するなどと言うような殺伐した行為を行う雰囲気では無くなっていた。
女の口喧嘩に男が入り込めないのは何時の世も同じであり、千春は何処か狼狽えた様子で佐奈たちの話を横で聞いていることしか出来なかった。




