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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
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2-3. VSご近所迷惑系魔法少女


 魔法少女たちの力で地域一帯の住人が被害を受けている、それがNIOHチャンネルに届けられたメールの内容である。

 メールに添付されていた写真ではその話を裏付けるように、まるで災害にあったかのような有様の住宅街の姿が写っていた。

 本当に災害が原因で有れば住人達も納得できるだろうが、残念ながらこれを行ったのは彼らの街の魔法少女たちであると言う。

 "たち"と複数形でも語ったように、この惨状を引き起こしたのは二人の魔法少女たちなのだ。


「メールは読ませてもらったので、事情は把握してます。

 身も蓋も無い言い方ですけど、この地域は魔法少女たちの縄張り争いの被害を受けているんですよね」

「ええ、その通り。 あの小娘たちはどちらも此処は自分の縄張りだと言い張って、遂には喧嘩を始めたんですよ。

 派手に暴れてくれたお陰で、この辺の住人は殆ど全員が被害を受けました…」


 田中家の客間に案内された千春は、出されたお茶を飲みながら早速本題について話を始める。

 客間には田中夫婦と千春、それに千春より前にこの家に着いていたらしい先客の姿があった。

 事前に情報として伝えられており、先ほど実際に見せつけられた住宅街の被害。

 これが魔法少女とモルドンとの戦いで起きたとなれば、運が悪かったと諦めも付くかもしれない。

 しかしそれが魔法少女同士の喧嘩の余波で起きたとなれば、それに巻き込まれた方はいい面の皮だろう。

 実際に被害を受けた夫婦も今の状態に全く納得していないようで、憎々し気にこれまでの経緯について語る。






 以前に触れたように魔法少女の中には自身が管理する地域を縄張りと称して、その地域内での他の魔法少女の活動を嫌がる場合がある。

 縄張りと言ってもそこに明確な基準は無く、魔法少女たちは漠然とした線引きで自分たちの領土を決めていた。

 田中家を含むこの地域にとって不幸なことは、彼らの居る場所は二人の魔法少女たちの縄張りの境目であった事らしい。

 別に魔法少女たちが縄張りの広さで競い合っている訳でも無いので、線引きが曖昧な地域があっても基本的に不都合はない筈だ。

 しかし一体のモルドンが田中たちが居る地域に現れたことで、魔法少女たちの縄張り争いの火が付いたのである。


「あの小娘たちが丁度家の前の道路でやり合ってたんで、その時の事はよく覚えています。

 小娘たちは何処からか聞きつけたのか、この辺に現れたモルドンを倒すためにやってきました。 そこでばったり出くわした二人は、この辺りは自分の縄張りであると互いに譲らなかったんですよ」

「うーん、そこでどっちかが引けばこんな事にはならなかったんだけどな…」


 地元の魔法少女たちはどちらも、田中家近くに現れたモルドンは自分の獲物だと譲らなかったらしい。

 聞く所によると別にマジマジ投稿用の撮影している訳でも無く、彼女たちがモルドンに拘る理由は無いと言っていい。

 しかし人間関係の面倒くさい所は、実利を無視して感情だけで動いてしまうことにある。


「二人は同い年で魔法少女になった時期もほぼ同じなんです、一時期は私が二人一緒に面倒を見ていた事もあって…。

 私が面倒を見ていた頃から、二人は互いをライバル視して何時も意地を張り合ってたんですよ」

「君が彼女たちの先輩だったんだよな? それなら、君が二人を止めてやれば…」

「駄目です、あの子たちはどちらも意固地になってしまって…。 私が幾ら止めて、相手が悪いの一点張りで…」

「それで気が付けば、毎日のようにこの辺で喧嘩を始めるんでよ。 此処は自分の縄張りだからお前が出てけって…、本当にふざけた話です!!」


 今日のために田中が呼んでいた先客の少女、地元の魔法少女である佐奈(さな)は今回の事態を引き起こした後輩たちについて説明する。

 彼女の話よると二人の魔法少女は以前、地元の先輩魔法少女であるこの少女の教えを受けていたようだ。

 高校一年生だと言う佐奈は、地味な眼鏡や休日にわざわざ学校の制服を着ている所を見ると真面目な委員長タイプの子なのだろう。

 しかしその優し気な表情や口調から察する通り、強気な態度で相手を従わせるような真似は出来ない性質らしい。

 既に後輩魔法少女たちは先輩である佐奈の制御を離れており、今でもはた迷惑な喧嘩を続けいるのだ。

 ヤンチャな後輩魔法少女の扱いには彼女も苦慮しているようで、田中家の夫婦と同じような疲れた表情をしていた。


「本当にごめんなさい。 本来なら私が彼女たちを止めるべきなのに…」

「いいのよ、気にしないで。 悪いのはの悪ガキたちで、佐奈ちゃんのせいじゃ無いんだかから」

「そうだ、そうだ。 あの連中はきっと、この矢城さんが止めてくれるよ。 だから君もそんなに気に病むことは無い」

「はい…」


 自身の不甲斐なさを嘆く佐奈に対して、田中家の夫婦たちは彼女に責任は無いと慰めの言葉を送る。

 確かに一時的には師弟関係に近い状態だったとは言え、既に佐奈の元から離れている魔法少女たちの問題を背負いこむ云われは無いだろう

 しかし田中たちの立場で言えば、教え子であった魔法少女たちを止められない佐奈に恨みを抱くこともあり得た。

 現状そうなっていない所を見ると、この佐奈と言う少女は印象通り田中家が逆恨みを躊躇うほどの良い子なのだろう。

 聞く所によると佐奈は結構なベテラン魔法少女のようで、長年この街を守ってきた実績も田中家の信頼に繋がっているに違いない。

 千春はこんな優しそうな先輩にまで迷惑を掛ける魔法少女たち対して、ますます怒りを覚えてしまう。











 既にメールで凡その事情は把握していたが、改めて聞いても実にくだらない話であろう。

 被害という面では前回の有情 慧の一件の方が明らかに大きい筈だが、今回に比べてまだマシだったと感じてしまう程だ。

 有情には自業自得の面も有るとは言え、自身のテレパシー能力に苦しめられていると言う同情すべき理由があった。

 しかし今回の一件は田中夫婦が何度も言う通り、ただの悪ガキたちが仕出かした事でしか無いのだ。


「…その二人の魔法少女は、どういう子たちなんです? どんな容姿なのか、どんな能力を使うかとか?」

「ああ、それならこれを見て下さい…」

「これは…、隠し撮りですか?」

「ええ、何かの証拠になるかと思って撮影しておいたんです。 まあ、これを警察やら役所に持ち込んでも、連中は何にもしてくれませんでしたけどね」


 田中家の周辺で喧嘩に明け暮れているならば、その時の映像を撮るのは簡単なことだったのだろう。

 恐らく千春に見せるために準備していたパソコンを開き、そこに田中たちが撮影していた映像が映し出される。

 時刻はモルドンの活動時間であり、魔法少女の仕事時間でもある日が完全に落ち切った夜。

 月明かりの下で互いに緑色と黄色の閃光を放ちあう、二人の少女の姿がそこにあった。


「"いい加減にしてよ、梨歩。 此処は私の縄張りって言ってるでしょう!!"」

「"そっちこそ、もう諦めなよ。 あんず、君は僕に絶対に勝てない!!"」


 一人はアメリカ映画でも参考したのか、黒いロングコートと二丁拳銃を構える魔法少女、あんず。

 もう一人もSF映画でも参考したのか、未来的な機械杖とローブを纏う魔法少女、梨歩(りほ)

 右手側の拳銃に嵌められた黄色のクリスタルを光らせながら、あんずの二丁拳銃から黄色のエネルギー弾が一直線に射出される。

 機械杖に嵌められた緑色のクリスタルを光らせながら、梨歩の周囲に浮遊していた緑色のエネルギー弾が楕円を描きながら飛んでいく。

 映像の中で二人の魔法少女たちは、互いに罵りながら物騒な撃ち合いを行っていた。


「これが悪ガキ共の姿ですか…、この感じだとまだ小学生ですか?」

「はい、確か小学五年生ですね。 銃を持っているのがあんずちゃん、杖を持っているのが梨歩ちゃんです」

「こんな物を撃ち合ってたら、そりゃ流れ弾も飛んできますね…」


 どちらも明らかに遠距離攻撃を得意とする魔法少女であり、住宅街でこんな物を撃ち合えばあの惨状は当然の結果だ。

 飽きもせずに撃ち合いを続ける小学生たちの姿に、千春はどのようなお仕置きをすべきかと検討を始めていた。



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