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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
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2-2.


 NIOHチャンネルの元の届けられた新たな依頼を前にして、千春はこれを受けるかについて非常に悩んだ。

 マスクドナイトNIOHという正義のヒーローを自称している立場としては、困っている人を放置するのはまずい気がする。

 しかし此処で依頼を受けてしまったが、例の動画で魔法少女退治を請け負う千春の存在を宣伝した糞野郎の思惑通りでは無いか。

 暫く考え込んでいた千春は、そもそも新たに届けられた依頼の内容すらまだ把握していない事に気付く。


「…とりあえずそのメールを見せてくれ。 その内容から判断する」

「断る気があるなら、見ない方がいいわよ。 バカ春のことだから、事情を知ったら引き返せなくなることは目に見えているから…」

「千春くんは意外とお人好しだからね。 面倒に巻き込まれたくないなら、見て見ぬふりをするのも立派な戦略だと思うよ」

「えっ、どうしますか、お兄さん? 私のほうで断っておいてもいいですけど…」

「五月蠅いな、とりあえずメールを読んでから考えるって言っているだろう! くだらない話なら、そこでちゃんと断るって!!

 ほら、さっさと俺の携帯に転送してくれ」


 メールを読んでしまったら後戻り出来ないと忠告してくる周囲に反発して、千春は天羽の元に届けられたメールを転送して貰う。

 自身の携帯から依頼メールを読み始めた千春は、すぐに食い入る様な視線で携帯の画面を見始める。

 そしてそれを読んでしまった千春は結局の所、朱美たちの懸念した通りの展開を迎えることになった。











 数日後、メールの送り元である人物が住む街に千春の姿があった。

 前回のこともあったので屋内での合流は避けて、依頼人に指定された地元駅に設置された屋外オブジェ前に来ていた。

 移動時間も考えて時間に余裕を持って来たため、まだ約束した時間までそれなりに有る。

 しかし別にやることも無いので、千春は待ち合わせ場所で依頼人の到着をただ待ち続けていた。


「うーん、もう俺の職業はマスクドナイトNIOHでいいんじゃ無いか? でもマスクドシリーズの主人公は普通の肩書を持っているし…。 いや、逆に無職とかの方がヒーローっぽいかな?」


 今回は朱美の同行は無い、現役大学生である彼女はフリーターの千春と違って色々と忙しいのである。

 そもそも例の意図せぬテレビ出演の直後から、千春はまともに喫茶店メモリーで仕事をした覚えがない。

 最早バイトをしているとは言い難い状況であり、もしかしたら今の千春はフリーターという肩書すら名乗れないかもしれない。

 元ネタであるマスクドシリーズを参考にすれば、主人公はまともな職に付いていないパターンがそれなりにあった。

 マスクドシリーズをリスペクトして無職を名乗るのも有りか、一般常識を気にして自称フリーターで通すべきか。

 待ち時間の間にふと自身の立ち位置について悩み始めた千春は、その場でぶつぶつと独り言をしながら考え込でしまう。


「あの…、NIOHさんでしょうか?」

「…あ、すいません、少し考え事をしていまして。 はい、俺がマスクドナイトNIOHをやっている、矢城 千春です。 よろしく」


 千春が考え事をしている間に、何時の間にか待ち合わせ場所へ依頼主が現れたようだ。

 時計を見れば既に約束の十分前と言う時刻になっており、千春がくだらない事に悩んでいる間に時間が過ぎていたらしい。

 テレビ出演などで既に顔を把握しているようで、依頼人である女性は迷うことなくオブジェ前の経つ千春に声を掛ける。

 それに対して千春はとりあえず今日はマスクドナイトNIOHとして来たのだからと結論付けて、そのように自身について説明するのだった。






 今回の依頼人は前回と違って、警察関係者でも何でもないただの民間人であった。

 言い方は悪いかもしれないが、その女性は何処にでも居そうな中年主婦と言えるだろう。

 田中(たなか)となる女性が運転する軽自動車にバイクで着いて行き、千春は郊外の住宅街の一角へと来ていた。


「これは…」

「酷いでしょう。 これはあの魔法少女たちがやったんですよ」


 千春が連れられてきた田中の家は、見るからに酷い有様だった。

 田中の家は二階建ての一軒家であり、家と車一台の駐車スペースがある程度の狭い庭の周囲をフェンスで覆っている。

 中流家庭の住まいと言う以外には感想が抱けない平凡な家屋でるが、現状の惨状はその印象を一変させていた。

 まずはフェンスは所々が破壊されており、窓ガラスの一部も割られていて新聞紙か何かで補強していた。

 壁や屋根の部分にも何らかの破壊跡があり、この家にとんでもない災厄が降りかかったことは明白である。


「帰ったかのか。 おお、彼が噂の…」

「あなた! ええ、この人ならあの悪ガキどもを取っちめてくれるわ」

「どうも…」


 ボロボロの家の玄関から現れた中年の男、此処の主である田中の旦那さんが千春に挨拶する。

 主婦の田中と同じく、この旦那の方も草臥れた中年サラリーマンと評するの一番適切な気がする。

 旦那の方も千春の来訪について把握しているらしく、本当に千春が来たことを喜んでいるようだ。


「…こ、こんにちは」

「ああ、こんにちは」

「息子です。 息子はあなたのファンなんですよ、実はあなたのことも息子から聞きましてね…」


 人見知りなのか旦那の後ろに隠れて顔だけ出している息子は、小学校低学年と言ったところか。

 これまた平凡な夫婦に似合いの、何処にでも居そうな特徴の無い男の子だ。

 中年夫婦ではなく小学生の男子ならば、確かにマスクドナイトNIOHの事を知っていてもおかしくない。

 そしてこの夫婦は藁にも縋る気持ちで、魔法少女を何とかして貰うために千春に対して助けを求めたのだ。


「ねぇ、変身してよ、変身!!」

「こら、我儘を言うんじゃないの」

「いや、いいですよ、その位は。 ええっと…、いきますよ」


 純粋に千春のことをヒーローとして見ている息子が、子供らしく変身が見たいと強請り始める。

 息子の我儘を母親が諫めるが、マスクドオタクである千春としては彼の願いは非常に共感できた。

 もし千春がこの子供くらいの年齢の時に家にマスクドナイトが来たら、何としてでも生変身を見たいと思う筈だ。

 自分に対しての期待が込められた視線に抗えず、千春は息子のためにマスクドナイトNIOHへの変身を披露してあげる事にした。






 これが魔法少女由来の能力ということで、千春は魔法少女のステッキに見立てた二本の指をピンと伸ばした状態で右腕を前に構える。

 すると千春の腰部分が光に包まれて、赤いクリスタルが嵌ったベルトが出てきたでは無いか。

 そのままOPアニメで魔法少女がステッキを回す様に、前に構えていた右腕を大きく回して円を描く。

 360度回転させて元に戻った所で右腕を勢いよく前に倒すと共に、千春は自己を改変させるためのお決まりのフレーズを呟いた。


「…変身っ!!」

「わー、凄い! 本当に変身した!! ねぇねぇ、写真撮っていい」

「おお、なんて強そうなんだ!! これならきっと、あいつらを倒してくれるわね、あなた!!」

「ああ、そうだな」


 光が千春の体全体を包み込んだ次の瞬間、そこには中華風の赤い鎧を纏ったヒーローの姿があった。

 マスクドナイトNIOH、千春の愛するマスクドナイトと仁王像を合体させたオリジナルヒーロー。

 千春の変身を前に息子は文字通り飛び上がるように喜び、夫婦の方も実際に千春の力を見たことでより期待を持つことが出来たらしい。


「凄いじゃ無いか、田中さん!」

「彼ならきっとやってくれるよ!!」

「警察や役者は全然役に立たなかったけど、物騒な魔法少女を倒した実績のある彼ならば…」


 千春の変身ショーは田中一家だけでなく、何時の間にか集まってきた周辺家屋の住人に目撃されていたようだ。

 道中で千春が確認した限りでは、この辺りの住宅街に建てられた家屋は大なり小なり被害を受けていた。

 前回の有情 慧の時と同じ、魔法少女の力によってこの平凡な住宅街の住人が苦しめられているらしい。

 マスクドナイトNIOHとなった千春の姿を見て、周辺住民たちも元凶である魔法少女を何とかしてくれる人物がやって来たと知る事になる。

 事情はメールでも把握していたが、実際に平凡な家族が魔法少女によって被害を被っている様子には思う所がある。

 普通の人間は力を行使する魔法少女に逆らえない現状、千春は改めて魔法少女の力の歪さや恐ろしさを実感させられていた。



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