2-1. VS ????
ある日マスクドナイトNIOHチャンネルの主である天羽の元に届いた、一通の電子メール。
現役婦人警官である平井から持ち込まれた厄介な依頼により、千春はあの面倒なサイキック系魔法少女たちと関わることになる。
色々と苦労はさせられたが無事に一件落着となり、千春は無事に無事に住み慣れた街に戻っていた。
後はまたモルドン退治やチャンネル用の動画撮影を行う、これまでと同じ日常が戻ってくると千春は考えていたのだ。
しかし帰宅から数日後、朱美から掛かってきた一本の電話から千春はとんでもないを知らせることになる。
「"何だよ、これ!? 一体だれがこんな物を…"」
「"やっぱりあんたも心当たりは無いわよね。 こんな映像を撮っている奴は居なかった筈なんだけど…"」
朱美の指示に従って検索を掛けた千春は、すぐにその動画を見つけることが出来た。
それはマスクドナイトNIOHとなった千春の戦闘映像であり、マジマジのNIOHチャンネルに行けば同じような動画は幾らでも投稿されている。
しかし問題はマスクドナイトNIOHでは無く相手、なんと動画には先日に千春が戦ったあの有情らしき姿があったのである。
動画内での有情の方は目線加工で個人情報が守られており、一応断言は避けたがこれはほぼ間違いなくあのサイキック系魔法少女だ。
動画リストを確認したら間野との戦闘動画も上がっているようで、あの街で行った千春の戦闘の様子が殆ど全て投稿されているのだ。
当事者である千春や朱美も知らない動画が、不特定の第三者に公開されている事実は千尋の心胆を寒からしめた。
その動画の存在を知ったその日の内に、千春たちは関係者を招集していた
動画の主役である千春と、端役であるが動画の隅にしっかり登場していた朱美と言う当事者たち。
集まる場として閉店後の店を快く貸してくれた、喫茶店メモリー店主の寺下。
魔法少女絡みの案件ということでアドバイザーとして呼び出された、この街の先輩魔法少女ウィッチこと早坂 友香。
最後に正体バレを防ぐために暫く千春たちと接触を避けてきた、NIOHチャンネルの主である天羽の姿もそこにあった。
「…一応、あの婦人警官には私の方から連絡入れておいたわ。 あれは私たちが投稿した物でないことは、彼女も納得してくれたみたい。
ずっと一緒に居た彼女なら、私たちがあんな動画を撮った筈は無いって事は分かっているでしょうしね」
「関係者はそうだろうけど、そうで無い奴は違うだろうな。 本当に何なんだよ、あれは…」
幾ら何でも警察関係者からの依頼で有り、加えて相手は怪物ではなく人権が保障された未成年の女子中学生である。
最初からあの依頼での活動をNIOHチャンネルに投稿するつもりは無く、実際に千春たちは一切の動画撮影を行っていない。
精々朱美が取材と称して軽く写真撮影をしていたくらいで、千春たちはあの動画の出所に全く心当たりが無かった。
それは千春たちと行動を共にしていた平井も認識しており、少なくとも彼女はあれを投稿したのは千春たちとは考えないだろう。
しかし逆を言えば事情を把握している者でなければ、あの動画は千春たちが投稿した物だと考えるのが普通だ。
「凄いですよね…、この動画。 映像もそうだけど編集技術もまた凄い、完璧に相手の魔法少女の顔を隠してますよ。 こんなに派手に動き回っているのに、コマ送りにしても全シーンに目線が入っている」
「あんた、結構ネットで叩かれているわよ。 やっぱり、あの卑怯な戦い方が不評のようね」
「蒸し返すなよ、朱美!! あれは仕方なかったって、言っただろう!!」
「そ、そうですよ。 NIOHさんは頑張ってたと思います!!」
NIOHチャンネルに投稿する動画編集も担当している天羽は、投稿された例の動画の完成度の高さに関心を示してた。
一体どれほどの高級な機材を使ったのか、動画の画質は本家である筈のNIOHチャンネルの動画とは比べ物にならないくらい鮮明だ。
加えてその動画編集技術も凄まじく、完璧に千春の相手役となった魔法少女たちのプライバシーを守っていた。
ちなみに肝心の動画の内容については以前に朱美が評した通り、余りヒーローらしくない千春の戦いぶりが不評であるらしい。
最後の間野戦は兎も角、その前の有情戦はほぼ追いかけっこに終始した塩試合だったのでその感想は仕方ないかもしれない。
同じ前線に立つ魔法少女であるウィッチがフォローをしてくれるが、残念ながら彼女と同じ感想を抱く者は少数であるだろう。
「…話を戻そう。 君たちはこの動画を撮影した覚えはなく、撮影された覚えも無い。 けれども君たちの覚えのない映像が、ネット上に投稿されているんだね?」
「ミステリーよね。 盗撮染みた能力を持った魔法少女が、悪戯でもしたのかしら?」
「悪戯にしては、この映像の完成度が凄すぎますって。」
「もう、これはあれだろう…。 十中八九、ゲームマスター様の仕事じゃ無いか?」
ゲームマスター、この世界に魔法少女とモルドンを生み出したと思われる存在。
此処まで露骨な介入は覚えは無いが、これまでも千春たちは魔法少女関連の事柄に作為的な流れを感じる事が多々あった。
この世界に魔法少女とモルドンを生み出し、可憐な少女の戦いを管理するいけ好かない管理者。
明らかに人の範疇を超えた今回の動画投稿は、ゲームマスターと思われる存在がしでかした事であると考えるのが一番しっくり来た。
そして荒唐無稽に思える千春の言葉に反論する者も居ない、魔法少女に関係する者たちは多かれ少なかれゲームマスターの存在を感じているのである。
「そうね。 少なくともあの街には以前から、何らかの介入があったでしょうし…」
「えっ、前からってどういうことだ?」
「よく考えて見なさい。 あの有情って魔法少女の存在が、世間に広まっていなかった事自体が異常なのよ。
例えば最初に彼女とあんたが立ち回った件、真昼間にあれだけ騒ぎを起こせば普通は全国ニュースになるわ。 けれども魔法少女の能力を悪用する彼女の情報は、あの街の中で留められていた。 SNS全盛期の今の世の中で、そんな事があり得ると思う?」
魔法少女の存在が既に認知されている今の世の中でも、有情のこれまでに犯してきた罪は軽視できない。
中学校内でクラスメイトが見ている中で教師を病院送り、暴走する自分を止めようとした魔法少女たちを返り討ち。
最初に千春たちに襲い掛かった時に店のガラスを破壊したように、能力を使用した器物破損の罪も何度も犯している筈だ。
こんな異常な魔法少女が今の今まで世間に知られていなかった事実は、それ自体が何らかの介入が行われている事への証明であった。
「あの動画のコメントの中で、あんたと戦う有情って子の事を言及している物もあった。けれどもそれは能力に振り回された可哀そうな魔法少女っていう、オブラートで何枚も包んだ情報くらい。 彼女の仕出かしてきた悪行の具体的な内容には、一切触れられていないわ」
「つまりゲームマスターが、今でも有情 慧の事を守っているって言うのか? 魔法少女の評判を守るために、今まで情報規制をしてたって事なら一応納得は出来る。
しかしそれなら何でわざわざ、こんな動画を投稿して…。 くそっ、訳がわからない!!」
ゲームマスターは有情の悪行をこれまでひた隠しにしており、それは今現在も継続しているようだ。
魔法少女の能力を悪用した有情の存在が世にでる事は、ゲームマスターに取ってそれ程に都合が悪いことなのか。
しかしそれなら何故、有情の存在を世に広めるような動画を投稿したのかが分からない。
千春はゲームマスターの意図がどうしても読めず、それに振り回されている自身の立ち位置に苛立ちを覚えていた。
ゲームマスターの存在について考察する千春たちの話を聞いていた天羽は、この場に居る者たちの中で誰よりも早く真相の一端まで届いていた。
それは現時点で天羽のみが持つ情報アドバンテージのお陰であり、彼女はこの時点でゲームマスターの意図を何となく察する事が出来たのだ。
そしてわざわざ秘密にする必要も無いので、天羽は煮詰まりつるある千春たちの前で自身の考えを披露し始める。
「…お兄さん。 多分、この動画を投稿した人は、またお兄さんにこういうお仕事をして欲しいと考えたんですよ」
「…仕事?」
「はい、放っておくと危ない魔法少女を倒すお仕事です。 やり方については意見が分かれますが、見事に魔法少女を倒したお兄さんの手腕については概ね好評ですよ。
お陰でNIOHチャンネルの閲覧者も増えていて、あの動画は私的にはいい宣伝になりましたね」
魔法少女がモルドンと戦う動画は世間に数あれども、魔法少女同士が戦う動画は滅多に存在しない。
稀に縄張り争いをする魔法少女の醜い様子が上がっているくらいであり、魔法少女たちが互いに矛を交えることはレアケースと言えよう。
加えて世界初の男性変身者であり見た目的にも魔法少女と一線を画すマスクドナイトNIOHが、魔法少女と戦う姿は非常に絵になっていた。
詳細は省かれているが千春に倒された有情は、自身の能力に振り回された危険な魔法少女であると動画の視聴者には認知されている。
そんな魔法少女を見事に止めて見せた仮面のヒーロー、魔法少女に悩まされている者がその存在を知ったらどのような行動に出るだろうか。
「…おい、天羽。 もしかして、また来たのか?」
「はい、来ましたよ。 お兄さんに街で暴れる魔法少女をどうにかして欲しいって依頼が、NIOHチャンネルの窓口に…」
「つまりあの動画はコマーシャルってことかよ、くそっ!!」
何時かの平井の時と同じように、マスクドナイトNIOHチャンネルの窓口に届けられた一件の電子メール。
それはマスクドナイトNIOHこと千春を、新たな魔法少女との戦いに引き込む招待状であった。
自分を便利屋扱いするゲームマスターの意図を察した千春は、沸き上がる感情のままに悪態を付いていた。
第二話開始です。とりあえず次の魔法少女はネタバレ防止のために隠してみました。
どうせ次か次の次で出てきますが、一応お約束という事でよろしく。
では。




