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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
43/384

1-10.


 千春たちは何も考えずに、間野 朋絵という爆弾をわざわざ連れてきた訳では無い。

 事情を聞く限りこの間野という有情の熱狂的なファンは、有情から見ても重要な存在である。

 ヒーローに有るまじき卑怯な手であるが、最悪彼女を人質に取って有情の動揺を誘う選択肢も頭の片隅にあった。

 勿論このような小細工は有情にはとっくに読まれている筈であり、普通に間野を出してもそれほど効果は無かった筈だ。

 どちらかと言えば間野を野放しにするリスクの回避が主な目的であったが、まさかこのような結果になるとは夢にも思わなった。


「…クリスタルの一部は貰って行くぞ。 これでお前に魔法少女の力は戻らない、普通の中学生に戻れたんだよ」

「そんな、聞こえない。 何にも聞こえないよ…、はははは…」

「先輩…。 しっかりして下さい、先輩!!」


 間野に取っては非常に不本意なことであろうが、あの時に有情を擁護するために現れた彼女の存在は良くも悪くも場を支配した。

 千春を通して近くに間野が潜んでいる事を事前に把握していた筈の有情でさえも、流石にあれには動揺を抑えきれずに集中力を無くしてしまったようだ。

 それは有情に取って天敵と居るシロを野放しにしてしまう事を意味しており、結果だけ言えば間野の乱入のお陰で千春は勝利したと言える。

 その望まぬ勝利の立役者は今、魔法少女の力を失ったショックから茫然自失となっている有情を介抱していた。


「お疲れ様、千春。 ほら、これでも飲みなさい。

 いやー、ヒーローとは思えない戦いぶりだったわ…。 良かったわね、これを投稿していたら人気が急降下してたわよ」

「仕方ないだろう、相手は中学生なんだぞ。 どんなやり方でも穏便に納められただけ、大大成功だよ。

 あー、マジで疲れた!? これなら相手のことを気にせず戦える、モルドンを相手するのが百倍楽だっつーの。 ああ、冷たくて旨えぇ…」

「○○っ!!」

「お、シロもお疲れな! 上手い具合に有情の隙を突いてくれたな、お前は賢い奴だなー」


 ただ相手を倒すだけなら他にもやりようはあったが、女子中学生を相手にそのような鬼畜な真似がヒーローに出来る筈が無い。

 相手を傷つけずに倒すと言う縛りプレイをするには、あのサイキック系魔法少女の超能力は面倒過ぎた。

 あの厄介なテレパシーと瞬間移動を攻略して、相手を無傷で拘束するには今回のような姑息な手段に頼るしか無かったのである。

 変身を解いた千春は朱美が気を利かせて持ってきた飲み物を口に含みながら、シロと共に勝利の余韻に浸っていた。







 千春は暴走する魔法少女、有情 慧を拘束した上でその力の源であるクリスタルを砕くという役割を果たした。

 既に今の有情はただの犯罪歴のある中学生であり、後の仕事は千春に仕事を依頼した婦人警官平井の役割である。

 学校の教師や現役警察官である上村を負傷させた上、能力を使って度々破壊行為をしていた有情をこのまま見逃す訳にはいかない。

 千春の力で無力化されたとは言えこれまでの経緯もあったせいか、平井は拘束用の手錠を取り出しながら有情へと歩み寄る。


「…有情さん。 私と一緒に来てもらうわね」

「っ!? 何よ、この糞警官! 先輩は渡さないわよ!!」

「ははははは…」


 平井は有情に手錠を掛けた上で、彼女をを警察署まで連れて行って色々と話を聞くつもりなのだろう。

 しかし近づいてきた平井に対して、それに気づいた間野は当然のように有情を庇おうと前に出てきた。

 顔を青ざめながら力なく笑い続ける有情を守るために、間野は断固たる決意で平井の前に仁王立ちする。


「…馬鹿野郎。 子供の前で手錠なんて出すなよ」

「う、上村さん!? 病院に居る筈では…」

「今回の件は俺にも責任の一端があるからな…、流石に病院なんかで寝ていられないだろう。

 結局、有情を救ったのは同じ魔法少女の力を持つ人間か。 こんなことなら、もっと早く動くべきだったな…」


 睨み合う平井と間野を仲裁するように、入院服の上にスーツを羽織った上村が姿を見せた。

 どうやら今夜の事を聞いていた上村は、居ても立っても居られずに病院から抜け出してきたらしい。

 上村はまるで痛ましい物を見るかのような表情で、魂が抜けたように呆然としている有情の姿を見やる。

 見るからに弱っている有情の姿であるが、そこからは常にテレパシー能力に追い詰められていた頃の切迫感は消えていた。

 有情が魔法少女の力と言う呪縛から解放されたことを察した上村は、頑なに魔法少女の助力を拒んできた自身に対して今更ながら後悔を覚えてしまう。


「すまん、有情。 俺が意地を張ったばかりに、お前を随分と苦しめてしまったようだな…」

「…!? おっさん、ごめん…。 私は、私は…」

「俺に謝ってどうする。 お前が最初に頭を下げる人間は、別に居るだろう?」


 こちらに向かって頭を下げて来る上村の姿を見て、ようやく有情は正気に戻ったらしい。

 病院着姿の上村の姿は自身の過去の過ちが生んだ結果であり、それを見た有情はぼろぼろと涙を零しながら上村へ詫びる。

 しかしそんな有情に対して上村はお前が謝るのは別の人間だと言いながら、未だに仁王立ちを続けている後輩の姿を指さした。

 それを見た有情は何かに気付いたように目を見開き、慌てた様子で首から下げていたポーチを取り出した。


「…蒔絵、ごめんなさい」

「先輩、これは…。 あっ!?」

「この街のことをお願いね…」


 今まで常に自分の味方で居てくれた後輩に対して、有情はポーチにしまっていた中身を差し出しながら謝ってみせる。

 謝罪の言葉と共に有情から渡された小さなな欠片…、かつて奪われた間野のクリスタルの一部が彼女の元に戻ってきたのだ。

 一度は有情に破壊された間野のクリスタルも、それから時間が経った今では奪われた部分を除けば完全に修復している状態であった。

 そこに最後のクリスタルが戻ってきたことで、この瞬間に間野の魔法少女としての力が蘇ったのである。

 街の平和を守る魔法少女としての役割は此処に継承されて、新たな守護者である魔法少女間野 朋絵が誕生した瞬間だった。











 間野のクリスタルを返した有情は、そのまま平井と共に地元の警察署まで連れて行かれた。

 上村も脱走した病院へと戻っていき、野次馬をしていた地元住人たちは此処を既に平井たち警察官が追い払っている。

 戦場となった街の広場に残されたのは、千春と朱美の他は間野だけであった。

 クリスタルが完全に修復されたブレスレット、明らかに有情を真似たらしいそれは間野が作り出した魔法少女の形だ。

 期せずして戻ってきた魔法少女の力を眺めながら、間野は先ほどから千春たちに背を向けながら一人黙り込んでいた。


「奪われたクリスタルが戻ったことで、彼女の魔法少女としての力が戻ったのね」

「…お揃いのブレスレットか、そんな所まで先輩推しかよ。 あの感じだと有情と同じサイキック系魔法少女なんだろうけど、まさかテレパシー能力まで真似してないだろうな?」

「あ、ブレスレットを嵌めるわよ。 そろそろ気持ちの整理が着いたのかしらね…」


 先ほど有情に警察署まで付いてくるのを止められた事がそれ程ショックだったのか、間野はその場から全く動こうとしなかった。

 流石にこのまま間野を放置して帰るのも寝覚めが悪いので、仕方なくその場に残っていた千春たちは軽く雑談をしながら様子を伺っていた。

 暫くの間その場でじっと立っていた間野であるが、やがておもむろに復活したブレスレットを腕に嵌めようとする動きを見せたのだ。


「…これは先輩からのお返しだぁぁぁ!!」

「…はっ? はぁぁぁぁぁぁっ!!」


 有情とお揃いのブレスレットを身に着けて、再び魔法少女として返り咲いた間野が体を反転させて千春たちの方を向いた。

 最後に別れの挨拶でもするのかと呑気に構えていた千春は、自分の体が不可視の力場に締め付けられている事を知って顔色を変える。

 どうやらブレスレットだけでは無く能力の方まで真似た間野は、先輩と同じ念動力を使うことが出来らしい。


「ちょっと、これはどういう事なの!?」

「先輩の敵討ちです! 先輩が受けた屈辱は私が晴らします!!」

「おい、待てよっ!! へ、変身っ!!」

「○○、○○○○!!」


 どこまで行っても有情のファンらしい間野は、先ほどの戦いで有情をやり込めた千春の事が許せないようだ。

 有情の敵討ちを称して復活したばかりの魔法少女の力を振るう間野の姿に、千春は慌ててマスクドナイトNIOHへと変身する。

 はた迷惑なサイキック系魔法少女の先輩の方を倒したと思えば、今度は後輩の方を相手にしなければならないらしい。

 千春とサイキック系魔法少女との対決は、残念ながらこれから延長戦に突入するようである。



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