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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
42/384

1-9.



 その中学生離れをした容姿もあり、有情 慧の存在は中学校内で密かに注目を集めていたようだ。

 実際に有情の知名度が加速的に上がった彼女の魔法少女化の前から、間野 朋絵はその存在を把握していた。

 しかし有情とは学年も違い接点の全くない間野は、その時まで彼女と言葉すら交わしたことは無かった。


「ああ…」

「くそっ、硬すぎるだろう。 この化け物が…」

「■■■■■っ!!」


 とある用事から帰りが遅くなってしまい、間野は運悪く夜の闇の中から現れたモルドンと遭遇してしまう。

 そんな彼女をモルドンから救ったのは、何を隠そうあの有名人の有情であった。

 間野は今でも有情とモルドンの戦いの光景を、鮮明に思い出すことが出来る。

 瞬間移動を駆使して辛うじて攻撃を避けながら、モルドン相手には非力な念動力で少しずつ相手を削っていく。

 マジマジに投稿されているような可憐な魔法少女たちとは比べ物にもならない、泥臭くて地味な戦いである。


「なんで私がこんな目に…。 糞っ、糞ぉっ!!」

「凄い…。 先輩、格好いい…」


 それでも有情は決して諦めることなく、魔法少女としての役割を果たすためにモルドンと戦い続ける。

 愚痴を零しながらも決して諦めずに戦うその姿、その凛々しい表情に間野の視線は釘付けなっていた。

 疲労のためか若干顔を紅潮させながらも、その鋭い視線は異形を決して逃さない。

 間野はこの時に自分が、自分だけでなくこの街自体が有情 慧と言う美しい女性に守られている事を理解した。

 そして有情に対して憧れを持った間野は、彼女のために何かをしたいと強く思う様になったのだ。


「こ、これも全部お前らが悪いんだぞ! お前らが出てくから…、おらぁぁぁぁっ!!」

「■■■■っ!?」

「きゃぁぁぁっ! 先輩、やっちゃぇぇぇぇっ!!」


 ちなみにこの時の間野の心情は当然のように、有情のテレパシー能力で読まれている。

 自分に対する過剰な憧れの感情を読み取った有情は、疲れからでは無く恥ずかしさから顔を赤くしている事に間野が気付くことは無かった。






 心の底から有情を慕っている間野の存在は、テレパシーの力で苦しんでいる有情には救いだったのだろう。

 強制的に聞かされる雑音に苦しみ、人との関りを敬遠するようになった後でも有情と間野の中は続いていた。

 それは学校で教師を病院送りにした後でも変わらず、怒りに任せて破壊行為などの犯罪を冒すようなった後でも間野は有情の味方だった。

 有情の無軌道を止めるために現れた魔法少女と戦った時など、間野は堂々と有情のことを応援して見せた程だ。

 しかし間野が魔法少女の力に目覚めたことによって、二人の関係に傷が入ってしまう。


「せ、先輩、何を…」

「この力は私だけの物だ…、この街の魔法少女は私だけでいいんだよ!!」


 有情はそのテレパシー能力によって、魔法少女の力に目覚めた間野が自分に取って代わろうなどとは微塵も考えていないことは理解していた。

 これで先輩を助ける事が出来ると純粋に喜ぶ間野の心は、今の有情から見れば眩しく感じる程である。

 しかしそうであっても間野が手に入れた力は、魔法少女の力によって辛うじて保っている自分の立場を崩しかねない物だった。

 魔法少女の力に縋るしかない今の有情にとって、間野の手に入れた力は危険すぎたのである。


「よしっ、これでお前はもう魔法少女じゃない。 この街の魔法少女は私だけ…、私だけなんだ!!」

「…っ!?」

「っ、何だよ、お前まで…。 くっ、消えろ、私の前から消えろ!!」


 恐らく有情自身も心の中では、罪を冒し続けている今の自分の状態はまずいと考えていたのだろう。

 右手首に嵌めているクリスタルが埋め込まれたブレスレット、これを壊せば有情は魔法少女の力を捨てられる。

 テレパシーの能力に苦しむことも無くなり、もう周りに迷惑を掛けることも無くなる筈だ。

 しかしそれは魔法少女の力によって無理やり蓋をしていた物を開く行為であり、有情にはどうしてもそれが出来なかった。

 この時も有情は自分自身の立ち位置を守るために、自分を慕う後輩のクリスタルの一部を奪うという強硬策を取ってしまう。

 その瞬間に間野が一瞬抱いた自身に対する不信感、それを読み取った有情は身勝手なことに怒鳴りつけていた。


「なんでだよ、なんでこんなことに…」


 まさに今の有情の状況は、底なし沼に嵌まり込んだ哀れな獲物であった。

 もがけばもがくほどに苦しみは増していけ、抜け出す所かどんどんと沼の底へと嵌っていく。

 間野が居なくなり一人になった有情は、自身に対する嫌悪から人知れず涙を流していた。

 この日以降に有情は決して間野とは顔を合わせなくなり、辛うじて通信のやり取りをするだけになっていた。











 間野のクリスタルを砕いたことで、二人の関係も一度は確かに砕かれた。

 しかし破壊されたクリスタルはやがて再生するように、人間関係も修復できないことは無い。

 こちらに野次を飛ばしていた地元住人に対して食って掛かる間野の心を読んだ有情は、そこに自分に対する不の感情が全くないことに唖然としてしまう。


「おい、有情だったな…。 いい後輩を持ったじゃ無いか、それに比べてお前はどうだ?」

「っ!? わ、私は…」

「こら、おっさん! 何ども言うけど、先輩を悪く言うなぁ!!」

「だからおっさんは止めろ…、俺はまだ二十歳だってーの!!」


 魔法少女の力に固執する身勝手で救いようのない自分が、あの後輩に慕われるような人間でない事を有情自身が一番理解している。

 千春の軽口にも激しく反応して自身を擁護する間野の姿に、有情は改めて自分の薄汚さを自覚させられていた。

 今こそ魔法少女の力を捨てて罪を償うべきだと考え、しかしその後のことを想像してしまって行動に移せない。

 幾ら大人びた見た目をしているとは言え、この有情 慧という魔法少女は所詮は中学生の小娘なのだろう。

 そして一人迷い続ける子供を救ってやるのが、立派な大人の仕事というものだ。


「まぁ、お前も色々大変だったみたいだし…、そろそろ楽になっておけよ」

「っ!? しまっ…」

「遅いよ、シロっ!!」

「○○○○っ!!」


 テレパシー能力に対するもう一つの対策、それは有情自身が人の心を読んでいる暇のない状況に追い込むことだろう。

 間野という予想外の乱入者が現れたことで、有情だけでなく千春の意識までがそちらに寄せられていた。

 その間に悪戯好きな白いぬいぐるみもどきが、隠密にバイクから生えた羽を有情の足元に近づけている事など誰も気付いてなかったのだ。

 間野に気を取られていた千春が遅まきながら相棒の悪戯に気付き、その思考を有情が読んだときには既に詰みの状況であった。






 有情が瞬間移動で退避するより早く、シロの翼はまるで鞭のように足元から絡みついて彼女の体を拘束してしまう。

 そのまま羽の先端は有情の体を這っていき、彼女の右腕を持ち上げてそこに嵌められたクリスタルをさらけ出した。

 今まさに自分に襲い掛かっている流れは、事前に千春とシロの間で考えられた幾つかあるプランの一つであった。

 当然、有情は千春を通してこのプランの存在や、この後に起こるであろう展開も把握していた。

 しかし幾ら先のことを分かっても、直前まで間野に気を取られていて後手に回った今の有情には僅かな抵抗する機会すら与えられない。


「や、止め…」

「…終わせてやるよ、これで!!」


 シロによってクリスタルがさらけ出された瞬間、有情が何かをする前にそれは破壊されていた。

 まるで西部劇のガンマンのように、千春がヴァジュラで有情のクリスタルを撃ち抜いたのである。

 まずは事前にシロと打ち合わせしていたので、千春はクリスタルが出た瞬間にヴァジュラを放つ準備をすることが出来た。

 そして器用さが自慢のUNの型であれば、この距離で正確にクリスタルを打ち抜く事など朝飯前だ。

 この流れるような千春のシロの連係プレーを前に、有情はされるがままである。

 クリスタルの破壊は有情の魔法少女としての力の消失を意味し、彼女はあっさりとただの中学生に戻ってしまった。




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