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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
41/384

1-8.


 魔法少女の力によって作り出される能力は融通が利かず、本人が意識的・無意識的にイメージした物をそのまま形にしてしまう。

 一般的な魔法少女のイメージは、普通の少女が可愛らしい変身フレーズや変身アイテムを使って魔法少女となる物だ。

 その前提を元に魔法少女としての能力を構築した者たちは、無意識の内に能力のオン・オフ機能を組み込んでいる。

 しかし創作の世界で設定されている不思議な力の中には、常に能力がオンとなっている物も存在した。

 この架空の能力を魔法少女として再現したとき、それを本当にそのまま再現したら模倣元と同じように能力のオフが出来なくなってしまう。


「何だよ、これは…。 黙れよ、黙れぇぇぇ!!」


 魔法少女が誕生してから十年、今日までに誕生してきた魔法少女たちの中には今の有情と同じような失敗をした者も居る。

 流石に世間一般に知られている程にメジャーな情報では無いが、ネットで魔法少女関連の情報を少し深掘りて漁れば見つけることが出来た筈だ。

 残念ながら魔法少女についてそれ程興味を持っておらず、街の平和を守るため嫌々魔法少女となった有情は適当に超能力としての能力を構築してしまう。

 こうして有情は変身というプロセスを行うことなく、常時能力を行使できる超能力者となってしまった。

 常時発動するテレパシーという最悪の組み合わせの能力を構築してしまった有情が、今のような転落人生を迎えたのは彼女の自業自得と断じる人も居るかもしれない。

 しかし有情が自ら魔法少女としての力を望んだ訳では無く、押し付けられた力に振り回される彼女をそこまで責められるだろうか。










 対人戦闘において絶対的な優位に立てるテレパシー能力も、種さえ分かれば幾らでも対策が出来る。

 平井から聞いた情報を鑑みて、有情のテレパシーの効果範囲は精々十数メートルという狭い範囲だ。

 倒すだけであればテレパシー範囲外の距離で、気付かれないように背後からヴァジュラを撃てば簡単に有情を倒すことが出来るだろう。

 しかし今回の目的は殺害では無く捕縛なので、流石にそこまで殺意の戦い手段をとることが出来ない。

 そこで千春が選んだのは、テレパシー能力の効果範囲以外の欠点を突いた作戦だった。


「どうした、顔色が悪いぞ!!」

「この位…、くっ!?」

「○○○○○○っ!!」

「…なんなんだよ、その化け物は!?」


 テレパシー、その瞬間の人の思考を読むことが出来る有情の超能力。

 この力で持って有情から見たら、目で追う事も難しい変身した千春の動きには対応できる。

 今もこちらの手を取ろうとしていた千春の動きを予期して瞬間移動を発動させて、彼の背後へとエスケープをした。

 しかし完全に千春の手から逃れた筈の有情は、横から来る何かが視線を掠めた瞬間に慌てて瞬間移動を再び発動させる。

 そして先ほどまで有情が居た所に、機械できた白い翼が通り過ぎるのだった。

 瞬間移動があと一歩遅ければあの翼に捕まっていたことは明白であり、有情は忌々し気に翼の生えた奇妙なバイクを睨みつける。


「ははは。 これが俺の相棒の力だよ? お前は人間相手は得意だけど、モルドンやこいつみたいなタイプは不得手だろう」

「○○○…、○○○○○!!」

「糞ったれ…」


 非生物の心を読み取るなどと言う特殊な用途を考えていなかった有情のそれは、あくまで対人限定の能力だった。

 そのため有情のテレパシーは肝心のモルドン相手では無力であり、実際に彼女は動きの読めないモルドン相手に苦戦を強いられることが常である。

 そしてその力は、どこぞの魔法少女が放し飼いをしている白いぬいぐるみもどきの心も読むことが出来ない。

 必然的に有情は動きの読めないシロを注視するしか無く、千春の動きを読みながらシロの動きを観察するという離れ技を強いられていた。

 瞬間移動という小回りの利く能力によってどうにか千春たちの手から逃れているが、このままではジリ貧であることは明白だった。


「よーし、このまま畳みかけるぞ、シロ!!」

「ちぃ、調子に乗るな…。 怪我をしてもしらないぞ、くらえっ!!」


 千春の軽口に苛ついた有情は、怒りのままに懐から釘などの金物を取り出した。

 恐らく前回の戦いでは対人ということもあって控えていたらしい、念動力による金物の弾丸が千春とシロに襲い掛かる。

 先日の石礫とは明らかに異なる殺意の込められた金属の弾丸は、有情の非力さを補いモルドンのクリスタルを破壊するだけの威力があった。

 念動力によって加速したそれをまともに受けたら、鎧を纏った今の千春もそれなりにダメージを負うことだろう。


「…甘いぞ、シロ!!」

「○○○○!!」

「なっ、そんなのありかよ!!」


 しかし幾ら念動力によって飛ばしたとは言え、それ自体は中学生が手に入るレベルのホームセンターで売っている商品でしか無い。

 加えて感情のままに真正面から放たれた弾丸など、千春とシロのコンビには簡単に対処ができた。

 千尋の呼びかけに応えたシロが機械の羽の一部を分離させて射出して、釘や金物の弾丸を迎撃していく。

 駄目押しでシロの取りこぼしを千春がヴァジュラで撃ち落とせば、有情の鋼の弾幕を容易に防ぐことが出来た。


「おい、見てろよ。 魔法少女通しの戦いだぜ。 へへへ、これは凄い映像だぞ…」

「あの鎧の奴、知っているぞ! 世界初の男性変身者だろ、ニュースに出ていた奴だ。 そうか、あのクソガキを倒しに来てくれたのか!!」

「いいぞ、ヒーロー! そんな犯罪者なんてやっちまぇぇぇっ!!」


 突如始まった有情と千春の戦いの舞台である街の広場には、その前に行われていた有情とモルドンの戦闘を観察していたギャラリーたちが残っていた。

 彼らは街の鼻つまみである地元魔法少女では無く、見るからにヒーローという姿をした千春を応援する。

 つい先ほども街の脅威になるモルドンという異形を有情に排除して貰った事実を忘れて、心の底からヒーローであるマスクドナイトNIOHを応援する地元住人たち。

 そして彼らの本音はテレパシーの範囲内に居る有情にも届いており、彼女から見ればとんでもない恩知らずな連中に対して怒りが募っていく。


「…っ!? 黙れ、黙…」

「黙りなさい、このクズども!」

「な、なんだよっ!」

「なんで先輩のことをそんなに悪くいうんですか! 先輩はずっとこの街のために戦っているのに…。

 そんなに先輩が不満なら、あんたたちがモルドンと戦えばいいのよ!!」


 まさに有情の怒りが爆発する直前、広場に駆け寄ってきた間野が彼女の怒りを代弁する。

 間野の言う通り曲がりなりにもこの街は、有情が魔法少女となってから今日まで戦ってきたのだ。

 確かに有情は罪を冒していることは確かであるが、それは彼女が守ってきた者たちに罵倒される程の物なのか。

 はっきり言って有情に対する贔屓が入ってる間野の糾弾であるが、ギャラリーたちも思う所があるのか反論の言葉に詰まっていた。

 彼らも胸の内では、モルドンを倒して貰わなければ困るのは自分たちであると理解しているのだろう。


「おい、朱美!! これはどういうことだ?」

「ごめんなさい、この子が私たちを振り切って…。 朱美さんなんか、足の小指を蹴られて悶えているわ」

「くぅぅぅ…、あの餓鬼…」

「○○…」


 間野の後ろから申し訳無さそうな表情をした平井が、痛みに悶える朱美を連れて姿を見せる。

 実は有情のテレパシーの範囲外に潜んでだ朱美と平井は、間野と共に今回の戦いを観戦していたのだ。

 本当であれば何かあるか分からない戦場に来ること自体まずいだろうが、流石に此処まで来て蚊帳の外になることを二人が認められなかった。

 加えて有情を慕う間野の暴走も心配だったので、朱美と平井には彼女の監視を頼んでいたのだが結果はこの通りである。

 人目を気にせずに手錠でも掛けておくべきだったと、千春は混沌してきた戦場の様子に仮面の下で溜息を洩らした。



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