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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
35/384

1-2.


 魔法少女になる基準は明確になっておらず、その共通項は若い少女であることくらいだろう。

 つまり魔法少女になった人間が、必ずしも善人であるとは限らない。

 魔法少女の全てが人々のためにモルドンと戦い、街の平和を守るために無私無欲で働く訳では無いのだ。

 モルドンを倒せるのは魔法少女だけであり、魔法少女ではない人々はモルドンに決して勝つことは出来ない。

 それならばモルドンにすら勝てない人々に、モルドンを超えた力を持つ魔法少女が従う道理は無い。

 魔法少女が悪意を向ければ、ただの人間は決して太刀打ちできないのである。


「…うるさい、お前に何が分かるっていうんだぁぁ!!」

「なっ!? や、やめ…、あぁぁぁぁっ!!」

「喚くな! 黙れ、黙れぇぇぇ!!」


 その中学校の教室内は、異様な雰囲気に包まれていた。

 不可思議な力によって黒板に貼り付けにされている中年の教師、その姿を嘲笑うセーラー服を着た女子学生。

 女子学生は右腕を黒板の方に向けて突き出しており、その周囲の机や椅子はなぎ倒されていた。

 他の生徒たちは恐々とした様子で貼り付けになっている教師と、その前に立つ女学生の姿を見ているだけである。

 やがて女学生が右腕を下すと、ほぼ同時に教師が解放されて黒板の下に落ちてきた。

 微かに痙攣している所を見るとまだ息はあるようだが、気絶しているのか起き上がってくる様子はない。


「…お前らもうるさいんだよ、さっさと私の前から消えろ!!」

「ひぃぃぃっ」

「ママぁぁぁぁっ!!」


 教師に残っていた他の生徒たちは、この惨状を作り出した女学生に言われるがままに教室から出ていく。

 まるで化け物から逃げるかのように悲鳴を上げながら逃げていく同級生たちを、その女学生は険しい表情を浮かべながら見ていた。

 魔法少女とそうでない者の隔絶した差、既に同級生たちに取って女学生は同じクラスの仲間では無くただの化け物でしか無いのだ。

 逃げした同級生の中にはかつて女学生の友人だった者も何人か居たのだが、かつての友人たちは他の同級生たちと共に一目散に教室か出て行ってしまった。


「…くそっ、ようやく静かになった。 何が魔法少女だ、こんな物があるから…」


 この教室に残った人間は、未だに起き上がらない教師と女学生のみだけである。

 教師の外に人が集まっているのか若干騒がしくなっていたが、教室に入ってくる勇者は未だに現れない。

 女学生、有情(うじょう) (けい)は右手首に嵌めている、魔法少女の証であるクリスタルが埋め込まれたブレスレットを忌々し気に見ていた。











 平井(ひらい) 裕子(ゆうこ)、千春ことマスクドナイトNIOHに助けを求めた女性の名前である。

 NIOHチャンネルに届いた一通のメールの扱いについて、千春と朱美と天羽の話し合いはそれなりに紛糾した。

 しかし最終的に千春が朱美が言っていたヒーローらしくしろと言う言葉を逆手に取り、ヒーローとして平井の話を聞くべきという意見が通したのだ。

 そして数日後、数回のメールでのやり取りを経て、千春と朱美は平井という名の女性と対面を果たしていた。


「平井 裕子と言います。 すいません、突然あのようなメールを出してしまって…」

「初めまして、私は八幡 朱美、こっちは知っての通り屋城 千春です」

「ち、千春です、よろしくお願いします」

「早速ですが本題に入りましょう。 事情はメールの内容で既に把握してますが、平井さんから直接お話を聞かせて貰えますか?」


 千春たちのホーム言うべき喫茶店メモリーに現れた平井は、二十代くらいの小柄な女性だった。

 童顔な平井と言う女性は今のようにスーツを着ていなければ、もしかしたら十代と言われても千春たちは信じたかもしれない。

 簡単な自己紹介を終えた後、平井は朱美に促されるままに本題である魔法少女の捕縛を依頼した経緯を話し始めた。






 この平井と言う女性の素性は、この国の平和を守る警察官であった。

 実際に警察手帳を見せて貰ったので、平井と言う女性が本当に警察官であることは間違い無いだろう。

 彼女は地元の警察署の少年課に勤めているようで、未成年である地元の魔法少女に関りを持つことになったと言う。


「メールでも書いた通り、恥ずかしい話ですが私の担当する地域の魔法少女には少々問題がありまして…。

 私たちが確認しただけでも、器物破損、窃盗、恐喝などの容疑を受けています」

「その魔法少女犯罪者をどうにかして欲しいって話は分かりますが、何でわざわざ俺なんかに…。

 そもそも何でその魔法少女は、警察に逮捕されないですか?」

「私たちも何度か彼女を補導しようとしたのですが、彼女の力を使われてはどうしようも無いんです」

「うわっ…」


 幾ら警察官とは言え、所詮は魔法の力を持たないただの人間である。

 魔法少女が本気を出したら太刀打ち出来る筈もなく、その犯罪魔法少女を止める者は誰も居ない状況なのだ。


「けれども何でその魔法少女は、今の今まで放置されているんですか? 実際に今の平井さんのように、警察が魔法少女に協力を仰いだ前例は過去にもあります。

 その魔法少女が犯罪に走ってからそれなりの月日が経っているようですが、わざわざ私たちに頼らなくても他に頼れる魔法少女が居る筈では…」

「まず前提として魔法少女と呼ばれる少女たちの扱いについては、未だに警察組織内でも議論されており明確にルール化されていません。

 魔法少女と言えども彼女たちはまだ未成年であり、我々から見れば庇護対象なのです。 彼女たちを守るべき立場にある警察が、彼女たちの助けを借りるなどと言う本末転倒な行為を認めないと主張する声も少なくないのです」

「大人の意地って奴ですね。 俺も大人になったばかりの若造ですが、少し分かります…」


 まだ幼い少女を矢面に立たせるしかない大人の立場、特に平井のような警察関係者は忸怩した思いを抱いているだろう。

 モルドンを倒せるのが魔法少女だけであり、平井たち警察官は魔法少女に街の平和を託すしかない。

 警察官であるにも関わらず無力な自分を悔いているのか、平井の表情は見るからに曇っていた。


「…実は警察が依頼するまでも無く、彼女の悪行を聞きつけた家の近くで活動している魔法少女たち来てくれたことがあったんです。 けれども逆に返り討ちにあってしまって…」

「近場の魔法少女は全滅、下手に他の魔法少女に助けを求めても同じことの繰り返しか…。 厄介だなー、その魔法少女」


 テレビなどのお約束であれば、悪の道の堕ちた魔法少女が正義の魔法少女に敗北するのは既定路線であろう。

 しかし現実はテレビのようにはいかず、どうやら平井の街で行われた善と悪との戦いは悪が勝利してしまったようだ。

 立場的に大っぴらに魔法少女へ助けを求められず、下手な魔法少女ではまた返り討ちに遭う可能性が高い。

 この平井が所属する警察署も、その犯罪者魔法少女の対応に苦慮している事だろう。


「た、確かその地域の魔法少女が機能不全に陥っている場合、代わりの魔法少女が誕生する筈ですが…」

「現れましたが、先の魔法少女たちと同じく返り討ちに遭いました。 しかもその時に魔法少女の力の源っていう、あの宝石みたい物を奪われたとかで…」

「ああ、クリスタルの一部を奪われて、修復不能になったんですね。 徹底しているな…、その魔法少女は…」

「同じ街で誕生した魔法少女はいわば仲間ですよね、そんな存在を生むも言わさず倒すなんて…。 彼女をこれ以上放っておけません、出来るだけ早く彼女の暴走を止めないと…」


 かつて渡りによってウィッチは戦闘不能となり、千春たちの街はモルドンから無防備な状況に陥った。

 その穴を埋めろと言わんばかりに、千春の妹である彩雲は唐突に魔法少女としての力に目覚める事になる。

 魔法少女とモルドンが誕生してからこの世界は一事が万事この調子であり、千春は平井の街でも同じようなことが起きたのでは無いかと推測したようだ。

 その千春の予想は当たったのだが、今回も悪が正義に勝ったようで新米魔法少女は犯罪者魔法少女に敗れてしまったらしい。

 一体その魔法少女は何人の魔法少女を倒したのか、その戦績には千春たちも唖然とさせられた。


「…そんな危険な相手との戦いに、未成年の魔法少女を巻き込むわけにはいかない。 そこで一応お酒を飲める年齢になった。俺にお鉢が回ってきたわけですね」

「お願いします、私と一緒にあの子と戦ってくれますか。 もう頼れる人はあなたしか居ないんです」

「……」

「…はぁ、仕方ないわね」


 話を終えた平井は深々と頭を下げながら、千春に対してその魔法少女の捕縛をお願いする。

 その願いに対して千春は無言のまま、未だに頭を下げ続ける平井の姿を見ていた。

 モルドンを相手にするとは訳が違う、魔法少女と戦闘が前提となる依頼である。

 簡単には承諾できずにYESともNOとも言えない状況なのだろうが、その葛藤を横で見ていた朱美には既に千春の答えが見えていた。

 当の本人より先に千春とその魔法少女との戦いを確信した朱美は、明日以降の千春の仕事をキャンセルする算段を立てるのだった。


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