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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第一部 魔法少女専門動画サイト"マジマジ"
31/384

7-9.


 基本的に魔法少女の力はモルドンを上回るように調整されており、相性などが原因で苦戦することはあれど敗北することは滅多にない。

 その前提を覆すように、川沿いの土手で行われている戦いで渡りの蜥蜴型モルドンは千春たちを圧倒していた。

 戦場から少し離れたとあるファミレスで天羽たちは、例の生配信を通して千春たちの激闘を観戦していた。

 見るからに劣勢な千春たちの様子を前に、自然と彼女たちの口数は少なくなっている。

 特に魔法少女の力によって生み出した家族、言うなれば我が子と言っていいリューを戦場に送った形になる星川の表情は青ざめていた。


「うわっ、何時の間にか凄いコメントが付いていますよ。 お兄さんのことも結構書かれているし、NIOHチャンネルの良い宣伝になったわねー」

「コメントの内容を見る限り、半信半疑って感じよね。 こんなモルドンが居る筈無いって言う人もあれば、この映像が偽物だと思えないって人も…」

「…」


 そんな暗い雰囲気を誤魔化すように、天羽や朱美は急激に増えていく生配信のコメント数について話題に出していた。

 二つのクリスタルを持ち、魔法少女四人分の戦力を圧倒する前代未聞のモルドンが突如マジマジに登場したのだ。

 この生配信の存在はSNSなどを通して、瞬く間に魔法少女関係者やファンに広まったらしい。

 常識外の渡りのモルドンの存在を信じられずに映像の信憑性を疑うもの居て、コメント欄で議論が行われている程の盛況ぶりである。


「…ごめんなさい、まさか渡りのモルドンが此処まで強いなんて…。 大丈夫、あいつには命に代えてもリューちゃんは守れって言ってあるから」

「いいんです。 あの子が決めたことですから…」


 コメントの話題でも肝心の星川の表情は一向に変化なく、今回の件で彼女を誘った張本人である朱美から謝罪の言葉が出てくる。

 確かに星川は朱美の誘いに乗って、自分とリューを離れ離れにしたあのモルドンに挑むことに決めた。

 しかし正直に言えば星川は今でも、リューが渡りのモルドンと戦うことを望んでいないのだ。

 ならば何故彼女は愛する子を望まぬ戦場に出したのか、それはリュー自身があのモルドンとの再戦を望んだからだ。


「リューがあのモルドンに食べれて私の前から居なくなった時、私は凄いショックでした。

 だからウィッチさんのお陰でリューが戻ってきた時は、本当に嬉しかったんです…」

「千穂さん…」

「でも私は不安だった、一度あることは二度あるって言いますし…。 またリューが居なくなるんじゃ無いかって何時も不安で…。

 そんな気持ちがあの子に伝わっていたんだと思います」


 ウィッチの活躍によって渡りに喰われたクリスタルが戻り、魔法少女としての力を取り戻した者は星川だけではない。

 しかし朱美の呼びかけに応えて今回の戦いに参加したのは、この場に居る星川ただ一人であった。

 他の魔法少女は自身を倒した渡りの力に恐怖し、中には普通のモルドンを見ただけで震えるだす程のPTSDを抱えた者も居る程だ。

 星川自身も渡りとの再戦なんて考えたこともなく、また渡りに家族を奪われるのではと日々恐れていた。

 そんな怯える母親の姿を見て入れれず、リューは無理を言って渡りとの再戦に臨んだのだろう。

 自身の生みの親である星川 千穂の心の安寧を得るため、リューは千春たちと共に渡りの蜥蜴型モルドンへと挑んだようだ。


「"○○○○○○○○!!"」

「頑張って、リュー! お願いだから生きて戻って!!」

「お兄さん、お願いです…。 シロちゃんもしっかり!!」

「NIOHさん…」


 画面の中で巨大なドラゴンとなったリューが咆哮する。

 渡りの圧倒的な力を前にしても未だに戦意を衰えさせる事無く、リューは果敢にも攻め掛かった。

 そんな我が子の姿に星川は拝むように両手を握りしめて祈り、天羽たちもまたリューと共に戦う千春たちの武運を願った。











 この蜥蜴型モルドンが居る限り、リューに取っては生みの親である星川 千穂の心は安らげない。

 自身の仇、そして母親のために戦うリューは、雄たけびと共に渾身のドラゴンブレスを放った。

 千春たちが足止めをしてくれている隙に、これまで以上に溜めを作って放たれた火球は先ほどの倍近くのサイズである。

 これならばある程度のダメージを受けるのではと期待して、千春は火球が迫るモルドンの姿を注視した。


「ヲヲヲ、ヲォォォォォ!!」

「○○○○!!」

「炎、ウィッチの能力か!? お前がそれを使ってるんじゃねぇぇ!!」


 結果的にリューのドラゴンブレスは迎撃されてしまい、火球は蜥蜴型モルドンに当たる事は無かった。

 クリスタルを備えた巨大な口から離れたそれは同じく火炎、火炎放射器のように放たれた炎がリューの火球を呑み込んだのだ。

 千春はその炎の動きに見覚えがあった、威力は違うがあれはマジマジでかつて見たウィッチの火炎魔法に違いない。

 知り合いの魔法少女から奪った能力を堂々と見せつけるモルドンに怒りを覚えた千春は、後方から不意を突いてヴァジュラを放つ。

 しかしまるで来ることを予想したかのように、ヴァジュラの雷はまたしてもあの障壁に防がれてしまった。


「また盾か!? こいつ、後ろにも目が付いているのか…。 もしかしてこれも魔法少女から奪った能力?」

「ど、どうするのおじさん!? 悔しいけど、このままじゃ負けちゃうかも…」

「に、逃げようよ、お姉ちゃん、おじさん!? あんなモルドン、勝てる訳無いよ…」


 これまで千春が確認した蜥蜴型モルドンの能力は、魔法少女を上回る身体能力、障壁を張る能力、炎を操る能力。

 そしてあの反応を見る限り、UNの型の強化された五感のような周囲の動きを察知するような能力まであるらしい。

 もし仮にリューのクリスタルがまだあのモルドンの中にあったならば、あいつは翼を生やして空すら飛んで見せたかもしれない。

 蜥蜴に翼が生えたらもうそれはドラゴンだろう、渡りの蜥蜴型モルドンの異常さが嫌というほど分かる。

 なし崩し的に戦いに加わった花音と楽人の双子が言う様に、このまま勝機が見えないまま戦うよりは一度撤退を選ぶのが正解かもしれない。


「…○○○○っ○○○!!」

「リュー! あいつ、頭に血が上ってやがる。 初戦の俺たちと違って、あいつはリベンジマッチだからな…」

「○○…」

「あいつ、一瞬こっちを見た!? …まさか、俺が適当に考えたあの作戦を本当にやる気なのか!?

 くそっ、博打もいいところだぞ。 お前たち、耳を貸せ。 これからな…」


 敗色濃厚な状況に撤退も視野に入れた千春たちを尻目に、リューが何度目になるか分からない突撃を行う。

 リューに取って蜥蜴型モルドンは因縁の相手であり、むざむざこのまま逃げることなど出来ないと言うのか。

 しかしリュー自身もこのまま普通に戦っては勝てない事は理解しており、勝つためには普通でない手段が必要であった。

 その手段に心当たりがあった千春は、リューの決意を感じ取ったのかあのドラゴンの無茶に付き合うことを決めたようだ。






 蜥蜴型モルドンとの決戦が始まるまでの短い時間、千春とシロとリューの即席チームは事前に簡単な打ち合わせを行っていた。

 見た目がぬいぐるみのシロとドラゴンのリューを相手に、千春が会話している光景は傍から見て凄い絵面だっただろう。

 その中で千春は数少ない渡りの情報から、あるとんでもない奇策をシロとリューに披露していたのだ。

 それは本人に取っても冗談のつもりで言った内容であり、まさか本当にそんな馬鹿な策に頼るほどに追い詰められるとは思っても見なかったのだ。


「うわぁぁぁっ!?」

「きゃぁっ!?」

「□□□っ!?」

「○○っ!?」


 馬鹿の一つ覚えのような四方からの一斉攻撃は、いとも容易く破られてしまった。

 正面は勿論のこと、上空や背後からの攻撃すら正確に把握した蜥蜴型モルドンは複数の障壁を展開して全ての攻撃をシャットダウンしてしまう。

 障壁は防御だけではなく千春たちの動きを封じるように設置されて、動けなくなった千春たちは尻尾の一振りで一斉に薙ぎ払われた。

 空に居た者は地面に叩き起こされて、地上に居た者はそのまま地面に転がってしまう。

 此処までの戦いで受けたダメージで最早全員が限界なのか、千春たちは地面に蹲ったまま立つことが出来ないでいた。


「□□□っ…」

「シロぉぉぉ!!」


 ようやく千春たちの抵抗が収まったことを理解した蜥蜴型モルドンが、次に行おうとする事は明白だろう。

 食事の時間、蜥蜴型モルドンは自分から一番近くに倒れている巨大なバイクの方へ近づいていく。

 それを見た千春は必死にシロへ呼びかけるが、シロは機械の翼を弱弱しく動かしては居るのだがそれ以上の事が出来ない。


「○○!? ○○…」

「ヲヲヲヲッ…」

「リュー、逃げろ…」


 這うようにシロへと近づいたリューは無理やり立ち上がり、背後を庇う様に翼を広げて仁王立ちをする。

 しかしその足元はふらついており、もはやリューに抵抗する力が無いことをは明白だった。

 そして翼を広げて立っているということは、今のリューは胸元のクリスタルをモルドンに晒している事を意味する。

 ようやく有り付けた食事の時間が嬉しいのか、渡りの蜥蜴型モルドンはあの奇妙な声を笑っているかのように響かせた。

 そしてモルドンは躊躇う素振りも無く、クリスタルが見える口内を晒しながら大口を開けてリューのクリスタルへと迫った。


「…ああ、たっぷり喰えよ。 俺の剣の味をな!!」

「○○…!?」

「ッヲ!? ヲヲヲ…!?」


 モルドンの側から見たら、それは一瞬の出来事であった。

 念願のご馳走に有り付つこうと、蜥蜴型モルドンは大きな口を開けて胸元のクリスタルを喰らおうとしたのだ。

 そしてクリスタルを噛み砕こうとした刹那のタイミングで、蜥蜴型モルドンは数か月前と同じような痛みを口の中で覚える。

 蜥蜴型モルドンが見た光景、それは地面に転がていた筈の千春が光の剣を自身の口内に突き刺している光景であった。

 先ほどまでそこに居た筈のリューは何処に行ったのか、その答えは千春の足元で非戦闘用のサイズに縮んだ手乗りドラゴンの姿が答えだろう。

 過去に蜥蜴型モルドンを相手に唯一ダメージを与えたウィッチ、彼女がこの規格外の相手にそんな奇跡を起こせた理由は何か。

 食事の時間、ウィッチは偶然にも生物が最も隙を晒してしまう瞬間を突つ事が出来たのだ。



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