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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第一部 魔法少女専門動画サイト"マジマジ"
3/384

1-2.


 マスクドナイトと名乗る変身した千春の姿であるが、その姿は世間一般で認識されているマスクドナイトの姿と異なっていた。

 少女の知るマスクドナイトは、その名に相応しい西洋風の騎士然とした姿をしていた筈だった。

 一方の千春の纏うそれは、東洋系の鎧を思わせる丸みを帯びた赤と茶のパーツで構成されていた。

 顔を覆う金属製のマスクには逆ハの字の眉を思わせるアンテナと鋭く吊り上がった目、そして大口を開いているかのような口元のパーツ。

 一般的なマスクドナイトと異なるその姿に、少女はそれを何処か他の場所で見たことがあるように思えた。

 しかし切羽詰まった状況もあってか少女は、どうしてもそれが何なのか思い出せない。


「…下がっていろ」

「は、はい…」


 魔法少女と一言で言っても多種多様であり、世間には様々な力を持つ魔法少女たちが存在する。

 その中にはテレビや漫画の架空作品の力をそのまま真似る者も居れば、完全にオリジナルの力を持つ者も居る。

 恐らくあれはマスクドナイトをモチーフにした、彼独自の魔法少女としての力なのだろう。

 男性が魔法少女の力などと口に出すとおかしい感じであるが、実際に目にしてしまえば信じるしかない。

 千春の指示によって思考を中断した少女は、言われるがままに後ろの方へと下がっていく。






 襲われる少女の前に颯爽と現れて、助けた少女の前で格好よく変身を決める。

 此処までは百点満点であると、千春は自分の行動を自画自賛していた。

 しかし本人が口にしていた通り、これが初陣である彼に取って初めて対するモルドンは脅威でしかなかった。


「うわっ、改めて見るとこわっ…」

「■■■!!」

「なっ、あぶねっ!!」


 見るからに恐ろしい異形の姿に手を出しあぐねていた千春に対して、八本足のモルドンの動きは素早かった。

 モルドンは自重を後ろの足に任せて、千春に向かって前の足の先端を槍のように振るったのだ。

 その攻撃に驚いた千春は慌てて後ろに下がり、前足の射程範囲外へと逃げだす。

 挨拶代わりに繰り出された攻撃を前に先ほどの威勢のよさはすっかり鳴りを潜めた仮面の戦士は、腰が引けた様子で異形を伺っていた。


「よ、よしっ、今度こそ…」

「■■、■■」

「やっぱりだめだ…。 くそっ、もう少し手加減しろよ、俺は初心者だぞ!!」


 その後も恐る恐るモルドンに近づいたと思えば、威嚇するかのように振りかざされた足を前に慌てて後退する千春。

 格好良かったのは最初だけであり、今の千春は変身した姿が逆に情けなくなるようなヘタレっぷりであった。

 勢いのまま助けに入ったものの、戦う決意やら事前の戦闘訓練やらを全く行っていない状況でいきなりモルドンに挑むのはチャレンジ過ぎたらしい。

 正直言って後ろに助けた少女が居なければ、さっさと逃げ出していたかもしれない程に今の千春は追い詰められていた。


「ちょっと、本当に大丈夫なの!?」

「だ、大丈夫だから…、多分」


 そんなやり取りを何時までも続けていたら、守られている少女の方もヒーローの力に疑問を感じるだろう。

 思わず声に出てしまった少女の突っ込みに律義に応じてしまった千春の意識は一瞬、モルドンから離れてしまう。

 そしてモルドンが狙ってやったことかどうかは分からないが、その間隙を縫って振り下ろされた足の一撃は初めて千春にクリーンヒットしてしまう。


「うわっ…、しまっ!?」

「■■■!!」

「あれ、あんまり効いてない?」

「モルドンの攻撃を…、弾いた!?」


 モルドンの攻撃は普通の人間に取ってはどれも必殺であり、かつてその怖さを知らなかった人間たちがどれだけ被害にあっただろうか。

 その攻撃は警察が使うライオットシールドや防弾チョッキでさえ防ぎきれず、伝聞よりその怖さを知る千春はどうしても恐怖心が抜けずに及び腰であった。

 しかしモルドンに対抗できる唯一の存在である魔法少女は、その必殺の一撃に対抗できる力を持っている。

 そして魔法少女の力によって作り出された千春の纏う鎧は、その役割を果たしてモルドンの攻撃を防ぎきった。


「■、■■!!」

「ははは、流石は魔法少女パワー! サンキュー、妹よ!!」


 それからモルドンは何回も前足を振るうが、その攻撃は全て千春の纏う装甲によって弾かれてしまう。

 自らをマスクドナイトと名乗った千春の姿は、文字通り全身鎧にフルフェイスマスクの重装甲である。

 モルドンは何処を攻撃しても千春の鎧に弾かれてしまい、焦ったように前足を振い続けていた。

 そんなモルドンとは対照的に、ようやく自分の持つ力の凄さを理解できた千春は落ち着きを取り戻し、モルドンの動きを注意深く伺い始めた。

 そしてタイミングを見計らって腕を伸ばして、こちらに向かって振り下ろされたモルドンの足を逆に掴んで見せたのだ。


「うぉぉぉぉぉぉっ」

「■■■!?」

「きゃっ!? あわわ…」


 そのまま千春はモルドンの足を力を込めて引っ張り、人間を食い殺せそうな程に巨大なモルドンを持ち上げてしまったでは無いか。

 一瞬宙に浮いたモルドンの体はそのまま地面へと叩き落されてしまい、地震でも起きたかのような地響きが発生する。

 その衝撃にバランスを崩しそうになった少女は、手に持っていたある物を落とすまいと必死に踏みとどまっていた。






 千春が掴んでいた前足の一本は先ほどの衝撃で千切れてしまい、モルドンは体の自由を取り戻していた。

 地面に倒れたモルドンは残った足で慌てて起き上がろうとするが、それなりダメージがあるのか動きに精彩が無い。

 そんなモルドンに向かって手に持った前足を捨てた千春は、これまた人間離れした速度でモルドンに駆け寄っていく。

 モルドンが体勢を整えたころには、既に千春は手の届くところまで近づいていた。

 弓を引き絞るかのように後ろに引かれた右拳には、千春の気合に呼応するかのような赤いスパークが迸る。


「喰らえぇぇぇ!!」

「■■■!!」


 駆けてきた勢いのままに振られる、何の工夫もない大振りのテレフォンパンチ。

 しかし身体能力が飛躍的に向上している今の千春のそれは、まるで大砲のような風切り音と共にモルドンの顔面へとぶち込まれる。

 その一撃はモルドンの顔、その額に埋め込まれていた宝石状の物質を容易く砕いてしまう。

 次の瞬間、まるでそんな物は世界に存在しなかったかのように、黒き異形の姿は夜の闇に消えてしまった。


「…勝ったのか、本当に?」

「凄い…、これが魔法少女の戦い…。 いえ、マスクドナイトって呼んだ方がいいわね。

 いける、彼なら私の夢が叶えられる!!」


 未だに赤いスパークが走る拳を振りぬいた姿のまま、千春は自らの勝利に確信を持てずに呆然とした様子で呟く。

 そんな千春に守られた少女、天羽あまは かおりは自分を救ってくれたヒーローの背後で喜びの声をあげるのだった。

 レンズ横が赤く点灯しているスマホを、その手に携えながら…。











 少女を助けた千春はその後、呼び止める少女を無視してそのままバイクで立ち去っていた。

 ヒーローは何も言わずに去る物だと、自分の行動に一人悦に入っていた千春はそのまま自宅へと帰宅する。

 親元を離れて安アパートで生活をしている千春は、部屋に着いた所で急な眠気に襲われてしまう。

 まだ寝るには全然早い時間なのだが、どうやら初めての戦いは予想以上に千春を消耗させたらしい。

 気楽な一人暮らしもあって千春は、そのまま自らの体の欲求に従って眠ってしまう。


「…ん、電話か」


 しかし千春の眠りは、机の上に放り出されていたスマホの着信音によって強制的に覚醒させられる。

 部屋の時計を見れば半日近く眠っていた事がわかり、既に窓の外は明るくなっていた。

 こんな時間に煩わしい勧誘電話も来るはずもなく、一体誰からの電話と思えばそこには妹の名前が出ているではないか。


「"なんだ、妹"。 どうした、こんな朝早くにいきなり電話なんて…"」

「"兄さん、急いでパソコンを開いて下さい。 "マジマジ"のトップページを…"」

「"なんだよ、藪から棒に…。 …えっ、えぇぇぇぇぇぇっ!!"」

「"どういう事ですか、兄さん? 何で私に黙って、こんなことを…"」


 突然、電話を掛けてきた妹に言われるがままに、千春は自らのパソコンを操作する。

 そして開かれた魔法少女専門動画サイト"マジマジ"、そのトップページには急上昇した投稿動画が表示されていたのだ。

 赤と茶の鎧に身にまとう青年がモルドンと戦うその動画には、千春は物凄く見憶えがあった。

 "マスクドナイト初陣"、そう題された動画を前に千春の思考は停止してしまい妹の声も耳に入っていなかった。



今日の更新はこれで終わりです。

書き溜めはそんなに無いので、週一か週二くらいのペースでだらだら投下していきます。


では。

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