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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第四部 始まりの魔法少女
299/384

6-7.


 ビデオ映画撮影が行われている埠頭の一角に、NIOH目当てに多数の野次馬たちが集まっていた。

 その中には特撮関連に興味無さそうな若い女性が多く、恐らく彼女たちは魔法少女当人かその関係者なのだろう。

 元々マスクド映画にNIOHなどと言う異物を招いた理由の一つは、これまで特撮に縁の無かった層を集めるための広告塔になって貰うためだ。

 NIOH目当てに集まった彼女たちを通して、魔法少女ファンが今回の映画に興味を持ってくれればまさに当初の目論見通りに事が運んだと言えよう。

 そのような思惑もあってか撮影スタッフたちは集まった野次馬たちを積極的に排除しようとせず、邪魔しなければ黙認する姿勢を取っていた。


「…どう、何か異常はある?」

「おや、八幡さん。 今日は留守番では…」

「少し気になってね…、私も様子を見に来たわ。 何か言われそうだったから、千春には黙って来たわ」


 他の野次馬たちに交じって撮影風景を見学していた魔法少女研究会の浅田に、後ろから一人の女が小声で話しかける。

 それは千春とは小学生から腐れ縁の朱美であり、その姿を見た浅田がこの場に居る事を不思議に感じていた。

 先ほどの千春の口振りではシロ以外に連れは無く、朱美は留守番している筈なのだ。

 その答えは簡単な事であり、朱美は千春に黙って今日の撮影現場を訪れたらしい。

 特撮に全く興味の無い立場を取っている朱美としては、自分から撮影現場に行きたいと言って千春から揶揄されることを嫌ったらしい。


「特に何も…。 昨日と同じで、今の所問題は起きて無いです」

「あ、千春が出てきた…。 うわ、滅茶苦茶緊張しているじゃない、あれで演技なんて出来るのかしらねー」

「いやいや、NIOHさんは意外と本番に強いらしいですよ。 昨日の撮影も一発オーケーだったようですし…」

「そもそも本人役なんだから、演技する必要ない物ねー。 素の自分を出せばいいんだし、楽なもんよ…」


 朱美たちの視線の先で、千春はカメラの前で俳優の長谷 飛鳥と話していた。

 飛鳥の方は流石に本職らしく、カメラの前ではしっかりと永路(えいと)というキャラクターになり切っている。

 それに対して千春は何時もと同じノリで、何やら格好付けた台詞でも口にしているようだ。

 距離があるので会話の内容まで聞こえてこないが、どうやら台本通りに喋れたらしい。


「八幡さんは何か起きると思いますか?」

「さっきも言ったけど、少し気になっているだけよ。 このタイミングでバカ春の撮影予定がリークされたのが、単なる偶然とは思えなくて…。

 しかし一番怪しい魔女狩りは既に壊滅状態、生き残った連中も既にキングモルドンが始末しているに決まっているわ…」


 仮に千春の撮影予定をリークした理由が何かの策略であれば、その下手人は十中八九魔女狩りたちであろう。

 しかし魔女狩りたちはゲームマスターの虎の尾を踏み、キングモルドンという最悪の刺客を差し向けられている。

 ゲームマスターがキングモルドンという奥の手を繰り出して、中途半端な所で事を終わらせる筈は無い。

 キングモルドンは魔女狩りを一人残らず処理するように命じられているだろうし、魔女狩りの残党がそれに抗え無いだろう。

 既に魔女狩りは全滅している可能性が高く、万が一に生き残りが居たとしてもキングモルドンから逃げ回っている中で千春を貶める作戦を遂行できるとは考えられない。


「千春も何か感じる物があって、佐奈ちゃんたちの見学を断ったんでしょう。 ほら、さり気なく辺りを警戒している、何かあったら体を張って止める気よ。

 運悪く野良モルドンや馬鹿な魔法少女が撮影現場に乱入しても、完全に回復した今の千春なら瞬殺出来るわ。 流石に今夜の撮影は潰れるだろうけど、その位ならいい映画の宣伝になるんじゃない?」

「マスクドナイトNIOH・AH-UNの型ですか…。 あれは実に興味深い形態です、是非私たちの研究に協力して欲しいものです」


 一度だけなら悪戯で済むかもしれないが、マスクドナイトNIOHこと千春の撮影予定がリークされたのはこれで二度目である。

 今回の撮影予定のリークが、ただの悪戯であれば問題無い。

 しかしこれが何かの策略であれば力尽くで止めるだけだと、千春は撮影を邪魔する不埒者が居ないか警戒する。

 本当ならば憧れのマスクドシリーズの撮影風景を純粋に楽しめたのだと、千春は内心で怒りを覚えながら一人撮影現場を守護していた。

 そんな千春だからこそ、リーク情報を見て集まった野次馬たちの異変に一早く気付いたのだろう。






 その少女は魔法少女専門動画サイト"マジマジ"で活動している、無数の魔法少女たちの一人であった。

 若者らしく自己承認に飢えている少女は、少しでも世間の注目を集めたかった。

 それ故に彼女は今魔法少女業界の中心に立っていると言える、あのマスクドナイトNIOHの話題に飛びついたのだ。

 マスクドシリーズを含む特撮関連に全く興味の無い少女にとって、ビデオ映画の撮影風景など興味の埒外である。

 しかしそれにあのNIOHが参加しているなら話が別であり、彼女は喜んでその撮影現場まで飛んできた。


「うわっ、流石NIOH、こんなに評価を貰えるなんて…。 生飛鳥くんも格好良かったし、早起きしていよかったー。 でももうちょっと波乱があったら、もっと注目を集められるのに…。

 私もNIOHの動画に出られれば、良い宣伝になるんだけどなー」


 昨日に行われた撮影風景を自身のSNSなどに上げた少女は、その反響の大きさに驚きを隠せずにいた。

 人気イケメン俳優の長谷 飛鳥も撮影現場に居た事により、NIOHと飛鳥のダブル効果で今まで見たことの無い程の評価を得たのだ。

 しかし少女はこの成果だけでは満足できないようで、何か事件が起きてくれればもっと反響を得られたなと残念がる。

 事件有るところにNIOH有りというべきか、ここ最近の魔法少女絡みの事件はほぼ全てでマスクドナイトNIOHがその渦中に居た。

 その事件に巻き込まれた魔法少女たちは自然と注目を集めており、今の自分の何倍・何十倍もの知名度を持っているであろう。

 あの撮影現場で何かの事件が起きて、それに巻き込まれれば自分も世間に知られるようになるのでは無いかと無邪気に夢見ていた。


 そのような甘い考えを持っている少女が、この埠頭での撮影現場に顔を出さない筈は無い。

 少女は昨日の評判を聞いて更に人が増えた野次馬たちに交じり、自身のSNS上に投稿するネタを求めてNIOHの撮影を見学していた。


「えっ…、これって…。 嘘、本当に…」

「■、■■■■■■!!」


 そして結果だけ言えば、期せずして少女の身勝手な望みは叶えられた。

 まさに撮影現場をぶち壊すような波乱、漆黒の体を持つ異形の存在がいきなり彼女たちの野次馬たちの中に躍り出たのだ。

 少女は望んでいた筈の緊急事態を目の前にして、呆然とした表情でその場に固まってしまう。

 現れた黒い異形、獅子の姿を取っているキングモルドンはそんな少女を無視して、彼女の後方に居るフードで顔を覆っている謎の人物に吠えかけていた。

 歴戦の魔法少女すら心胆を寒からしめるであろう咆哮を前にしながら、その少女はフードの中で不敵に微笑んでいた。




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