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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第四部 始まりの魔法少女
293/384

6-1.


 魔女狩りから受けた被害の影響で、未だに閉店中の喫茶店メモリー。

 壊れていた扉の修復もようやく終わり、店内も綺麗に片付けられたので近日中に営業再開の予定である。

 そんな店内の新調された机の上に置かれた端末から、とある映像が流されていた。

 部外者である筈なのに平然と閉店中の店に来ていた朱美は、開店準備を手伝っていた友香と共に端末を覗き込んでいる。


「"…視聴者のみなさんには、マスクドナイトNIOHに関して虚偽の情報をお伝えしていました。 本当に、申し訳ございませんでした!"」

「「"申し訳ございませんでした"」」


 それは魔法少女専門動画サイト"マジマジ"内で開設された、NIOHチャンネルの最新投稿動画である。

 動画の中では千春に加えて、何時ものマスクを外して素顔を晒した香、そして彩雲が一緒に頭を下げているでは無いか。

 これまでマスクドナイトNIOHとは、魔法少女であるNIOHチャンネル主こと香一人の力で誕生したと説明していた。

 しかし先日に魔女狩りが無断で投稿した隠し撮り動画によって、この説明が嘘である事が暴露されてしまったのだ。

 そのため千春たちは事情説明を兼ねて、今回のような謝罪動画を作成したらしい。


「香ちゃんたちもよくやるわよね…。 まあ、NIOHに香ちゃん以外の魔法少女が絡んでいるって予想は、前々から出ていたからね。 もう一人の魔法少女が千春の妹だってことは少し驚かれたみたいだけど、それ程大きな反響は無さそうよ」

「香ちゃんも彩雲もちゃんも、顔バレしちゃいましたからね。 今更顔を隠しても仕方ないのか…」


 魔法少女一人分のリソースでは到底足りない、マスクドナイトNIOHの驚異的な性能。

 AH-UNの型の時に現れる二つのクリスタル、そのクリスタルの片割れを破壊されても稼働していたNIOHの能力。

 マスクドナイトNIOHが二人の魔法少女の合作では無いかと言う説は、一部の魔法少女関係者の間ではほぼ確信近い仮説であった。

 それが魔女狩りの一件で彩雲というもう一人の魔法少女が出てきた事で、この仮説が真実であると証明されたのである。


「彩雲ちゃん、大丈夫なんですかね? 魔法少女だってバレちゃいましたが…」

「本人はそれ程気にして無さそうよ。 逆にNIOHのデザインが自分の作品であると言えるようになって、喜んでいるみたい…」


 魔法少女の力を授かりながら、彩雲自身はその力にそれ程興味を持てなかった。

 それ故に魔法少女の力を全て兄である千春に譲渡したし、NIOHチャンネルなどで自分の存在を隠す方針にも素直に従ったのだ。

 千春は妹である彩雲を守るために彼女を魔法少女では無いただの一般人として扱い、彩雲は素直に兄の庇護を受け入れていた。

 しかし魔法少女については全く未練が無い彩雲であるが、趣味の絵画については話が別らしい。

 マスクドナイトNIOHのデザインは彩雲にとっての会心作であったのだが、魔法少女である事を隠すためにはNIOHのデザインの事も秘密にした方がいい。

 一応NIOHのデザイン担当という名目でその存在は示唆されていたが、その正体が彩雲であることは今日まで明かされることが無かった。

 そして魔女狩りの一件で彩雲が魔法少女であると明かされたことにより、彼女は堂々とあれは自分の作品であると自慢出来るようになる。


「本当ならもう少し騒がれても良さそうだったけど、丁度同じタイミングで爆弾が投下されたからね。 ベテラン魔法少女の友香ちゃんとしては、この動画をどう見た?」

「衝撃的でしたね…」


 別に狙った訳では無いのだが結果的に千春たちの謝罪動画は、同時期に投稿されたとある動画の影響で余り話題にはならなかった。

 朱美は端末を操作して、千春たちの謝罪を掻き消したもう一つの動画を再生する。

 既にオリジナルである動画はマジマジから消されてしまっているが、あちこちに転載されている映像を見つけるのは容易い。

 そして朱美たちは魔法少女がただのモルドンに敗北すると言う、世間に強いショックを与えた動画を視聴する。


「何度も見てもこのモルドンは、ただのモルドンですよ。 渡りやキングモルドンなんていう規格外のモルドンでは無い、私たちが定期的に処理している普通のモルドンです」

「やっぱりそうよね…。 素人目に見ても、このモルドンが特別な感じはしないわ…」


 蝉をそのまま人型にしたような悍ましい姿を持つ、漆黒の蝉型モルドン。

 しかしキワモノが多いモルドンの中でも外れに位置しそうな蝉型であるが、見た所その動きなどは極まったものは無い。

 蝉らしく飛行能力と音波攻撃を持っているようだが、どちらも魔法少女であれば対処可能であろう。

 仮にウィッチこと友香がこの蝉型モルドンと戦った場合、特に苦戦することなく処理できた筈だ。


「規格外のモルドンの話なら、千春さんの意見も聞いた方がいいのでは…」

「…そうね。 バカ春の意見も聞いた方がいいわよね…」


 マスクドナイトNIOHこと千春は、幾度となく普通ではないモルドンとの戦いを行ってきた。

 友香は千春からも話を聞くべきだと、朱美の背後に位置するカウンター席の方に目を向ける。

 それに釣られるように朱美も後ろへ振り向き、嫌そうな表情でそこに腰掛けている千春の姿を視界に入れた。

 最初から店内に居た千春であるが、どういう訳か朱美たちの会話に入ることなく、何やら手元にある薄い本のような物を捲っているでは無いか。

 見られていることに気付く様子は無く、時折何やら小声で呟きながら自分の世界に没入しているようだ。


「…ああ、もう!? いい加減、こっちの話に入りなさい! このヘボ役者!!」

「いてぇ!? 何するんだ、朱美!! 折角集中出来ていたのに…、もうすぐ撮影が始まるんだぞ!!」

「台本読みは家でやりなさいよ! どうせ今度も出演時間数分のちょい役なんでしょう!!」


 矢城 千春、マスクドナイトNIOHに変身する高卒フリーターの青年。

 少し前にマスクドシリーズの劇場作品、劇場版マスクドメビウスに本人役として出演した事で半ば公的にマスクドヒーローとして認められていた。

 作中でのNIOHの登場シーンが中々好評であったこともあり、マスクドシリーズの製作元は早々に次の手を打ったらしい。

 マスクドナイトNIOHこと千春に対して、マスクドシリーズ・オリジナルビデオ映画の出演オファーが舞い込んで来たのだ。


「今度は前より出番が増えて、台詞もしっかりあるんだ! スタッフの迷惑が掛からないように、練習しておかないと…」

「今はこっちの話に集中しなさい! すっかり舞い上がっちゃって…」

「待っていろよ、飛鳥くん! いや、マスクドメビウス!!」

「はぁ、どうしてこのタイミングで出演オファーが来るのよ…」


 本来であれば魔女狩りの件やスィート・ストロベリーの話に集中するべきだろうが、今の千春にはそんな事に構っている暇は無いらしい。

 オリジナルビデオ映画の件で夢中になっている浮かれた千春の姿を前にして、朱美は額に手を当てながら溜息を付いた。



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