5-6.
友人である友香から魔女狩り壊滅の報を聞いたとき、苺葉は拍子抜けした感情を覚えていた。
魔女狩りの脅威に対抗するため、長年に渡って封印してきた魔法少女の力へ再び手を伸ばしたのだ
死神に翻弄されるだけだった私の力では対して役に立たないだろうが、微力ながら協力する気であった。
しかし蓋を開けて見れば魔女狩りは自分たちの知らない所で、勝手に壊滅していたと言う。
「あれから一週間くらい経ったけど、何も起きないものね。 やっぱり魔女狩りは壊滅したのかしら? ゲームマスターの抑止装置ねー」
「詳しいことは朱美さんが調べているみたいだから、何か分かったら教えてくれるわよ」
「これも自業自得って言うのかな…」
学校からの帰り道、友香と苺葉は二人並んで歩きながら魔女狩りとの顛末に付いて話していた。
最初の魔法少女として散々な目にあった苺葉としては、全ての元凶であるゲームマスターと呼ばれている存在に対して言いたい事は山ほどある。
しかし話を聞く限りでは今回の件に限って言えば、そのゲームマスターは良い仕事をしてくれたらしい。
ゲームマスターの放った刺客によって、苺葉たちを困らせていた魔女狩りたちは一網打尽となった。
まだ残党が居る可能性もあるらしいが、そんな悲惨な状況では苺葉たちにちょっかいを出している余裕は無いだろう。
ほぼ十年振りにスィート・ストロベリーになった時、苺葉はあの魔女狩りの死神に対抗できなかった。
そもそも苺葉が最初の魔法少女になった頃、モルドンはまだ存在してなかったのだ。
苺葉は不思議な力を使える少女として周囲からチヤホヤされて、戦いとは無縁の日々を過ごしていた。
そこから徐々にモルドンが出るようになり、魔法少女しか対処できないモルドン相手と戦ったことはある。
しかしそれは数える程度の回数であり、長年のブランクも合わさって今の苺葉は素人同然の状態であった。
「友香、次にモルドンが出るのって何時かな? 魔法少女の練習がてら、私も一緒に戦って…」
「いっちーは戦わなくて大丈夫よ、この街には私と千春さんが居るもの。 あの時は緊急避難的な物で、いっちーはもう魔法少女を引退しているの」
思うように戦えなかった事が悔しかったのか、苺葉は魔法少女らしくモルドンと戦闘訓練したいと考えているらしい。
しかし友香は苺葉の願いを叶えようとはせず、戦いは現役の自分たちに任せてくれと返答する。
あの喫茶店メモリーでの一件は例外的な物であり、事実上魔法少女を引退していた友香がわざわざ現役に復帰する必要は無い。
それは最初の魔法少女という重い過去を持つ苺葉は、このまま一般人として過ごした方がいいと言う友香の気遣いなのだろう。
「でも…、私が戦えた方が…。 また友香に何かあったら困る物」
「大丈夫だって、私には正義のヒーローが付いている物。 それに正直言うとね、いっちーはもうあの姿にならない方がいいと思うの」
「え、どうして?」
友香と共に魔女狩りから襲われた苺葉としては、自衛手段として魔法少女の力を手元に置いておきたいらしい。
自分の家族をぶち壊した忌まわしい力であるが、これは魔法少女の力を悪用する相手に対抗できる唯一の手段なのだ。
そんな苺葉に対して心変わりを促すために、友香は取って置きの切り札を場に出してきた。
「…痛い人がするようなコスプレ姿に見えた。 今のいっちーには、あのフリフリの衣装は正直似合わないって…」
「なっ!? ちょっと、それってどういう意味!!」
魔法少女の能力は一度固定されたら変更不能であり、それは能力に紐づく衣装も同様である。
成長に合わせて魔法少女衣装のサイズも自動で調整されるので着れなくなることは無いが、そのデザイン自体は決して変わることは無い。
そして可愛らしい子供時代には似合っていた衣装が、成長するにつれて似合わなくなってしまう事はこの世界での魔法少女あるあるであった。
魔法少女としての苺葉の衣装は、当然スィート・ストロベリーが着用していたイチゴのショートケーキを思わせる非常に可愛らしい衣装だ。
それは小学校低学年の苺葉には非常によく似合ったが、今の高校生となった大人の苺葉には少々可愛らしすぎる物だった。
友香より頭一つ大きい身長、モデルのように長い手足、私服だと高校生には全く見えない大人びた風貌。
その全て可愛らしいスィート・ストロベリーの衣装と相反しており、見る者に違和感を覚えさせる佇まいであった。
「そんなに私って老け顔なの! 私が可愛らしい衣装を着てはいけないの!!
ええ、そうよ!? 私は学校の制服を着ていても、偶に本当の学生か疑われるくらいの老け顔よ!!」
「そ、そこまで言ってないって。 でも成長した自分と衣装とのミスマッチで引退する魔法少女も結構居るんだよ、いっちーもそれと同じって事に…」
実はクラスメイトたちより一歳年上であることを差っ引いても、苺葉の見た目は高校生離れした物であった。
しかしそれは幼い頃にスィート・ストロベリーに憧れていた、可愛いもの大好きの彼女が求めている物では無かった。
友香としては魔法少女衣装のミスマッチで引退した者は多いと言う理屈で、苺葉の翻意を促したいだけだったのに思わぬ地雷を踏んでしまったらしい。
それから苺葉は友香に対して暫くの間、当人的には至って不本意な自身の大人びた容姿や体形に関する愚痴を吐きき続けるのだった。
苺葉の魔法少女との関わり方については要相談であるが、とりあえず当面の危機は去った。
また元の女子高校生としての日常に戻った友香は、先ほど友人と別れて一人自宅へと向かっていた。
小学校時代からの付き合いである二人の家は近く、数分も歩けば家に着くだろう。
しかしその僅か数分の時間は、その死神が犯行に及ぶのには十分過ぎる間であった。
「…あっ!? お、お前は…」
「悪いけど少し付き合って貰うよ、お嬢さん」
いきなり何もない空間から突然体を押されて、友香は民家の塀に体がぶつけられてしまう。
塀に叩きつけられた痛みに苦悶の表情を浮かべる友香の目の前には、あの死神の姿があるでは無いか。
自身を透明にする能力を備えている死神は、姿を消した状態で友香を待っていたらしい。
友香は咄嗟にクリスタルに手を伸ばすが、用意周到に準備していた死神の方が一手早い。
即座に鎌を突き付けられた友香は、魔法少女に変身する事すらできない。
「生きていたの!? 魔女狩りは壊滅したって…」
「死神は不滅さ! 魔法少女を全て滅ぼすまでは…。 今は傷つけるつもりは無い、大人しく車に入れ」
「くっ…」
「さぁ始めようか、魔女狩り最後の復讐劇を…」
壊滅したと聞いていた魔女狩りの残党が現れて、再び自分を襲いに来るとは考えもしなかった。
予想外の事態に呆然とする友香に対して、死神なその仮面の下で不敵に微笑んでいた。
そして死神に制圧された友香の元に、何の変哲もないワゴン車が横付けされる。
何も出来ない友香はされるがままにワゴン車に押し込められて、魔女狩りに連れ去られてしまうのだった。




