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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第四部 始まりの魔法少女
281/384

5-3.


 魔女狩りを誘き寄せるために企画された、マジマジランキング上位メンバーを集めた豪華イベント。

 イベントの最中に行われた、魔女狩りの犯行による朱美誘拐事件。

 攫われた朱美を情報源にして電撃的に行われた、マスクドナイトNIOHを封じるための喫茶店メモリー襲撃。

 そして魔女狩りの主要メンバーが一網打尽にされた、キングモルドンによる廃工場襲撃。

 立て続けに事件が発生した長く目まぐるしい1日が終わり、そこから数日の月日が経過していた。


「ふぅ、何とか片付いたな…。 後は扉が直せれば店を再開できますね、店長」

「業者さんが忙しいみたいでね、修理は来週になるみたい。 それまでは通販の仕事に集中かな」


 魔女狩りとの戦闘で荒らされた喫茶店メモリーの店内は綺麗に片付き、壊れた机・椅子も予備の物と交換できた。

 しかし盛大に破壊された扉はまだ修理されておらず、未だにブルーシートが張られた痛々しい状況である。

 この扉の修理が完了するまでは、残念ながら店を再開することは難しいだろう。

 ただし店内奥の作業場は無傷のため、店長自慢のコーヒーを自宅へと届ける通販業務については支障無い。

 店の方を再開するまでは、千春たちは通販作業に集中することになるだろう。


「…千春、とりあえず何か飲み物を頂戴! あんたのまずいコーヒーでもいいから」

「朱美、今は休業中だぞ! コーヒーは出さないからな」

「調理スぺースは無事だから、コーヒーくらいは淹れられるよ?」

「こいつを甘やかさないで下さいよ、店長。 それで、何の用だ?」


 店の片付けなどをしている所に、不機嫌そうな様子の朱美がブルーシートを捲って入ってきた。

 休業中の店に訪れた客の相手などしてられないと、千春は朱美に対して塩対応を取る。

 優しい店長が自分からコーヒーを淹れそうになった所を止めつつ、朱美に対してわざわざ店に来た理由を尋ねた。


「今朝、連絡があったの。 病院に運び込まれた魔女狩りの連中が目覚めたらしいんだけど、妙なことになっているみたいなのよ…」

「妙な事って何だよ」

「みんな魔女狩りのことを全く覚えてないのよ。 自分があの廃工場に居た理由も分からずに、混乱しているらしいわ」

「はぁ、何だよそれ…」


 ゲームマスターが繰り出したキングモルドンは、見事にその役目を遂行したらしい。

 病院に運び込まれた魔女狩りたちの記憶は完全に処理されており、彼らは廃工場での出来事を全く覚えてないそうだ。

 それだけでなく魔法少女に対する恨みの念も綺麗さっぱり消えており、その影響で魔女狩りとしての記憶も失っていた。


「言い逃れじゃ無いのか。 お前を誘拐した罪から逃れるための…」

「…あそこの廃工場に、私の誘拐に使った車もあったそうよ。 魔法学部から提供された監視カメラ映像が捉えていた、私が誘拐された時に使用された車両と一致したらしいわ。 物的証拠があるのに、そんな幼稚な言い訳をすると思う?

 それに現場の廃工場には私の荷物なんかもあった、私があそこに捕まっていたことは言い逃れ出来ない事実よ」

「それは…」

「記憶の処理までするなんて、ゲームマスター様の抑止装置とやらは優秀よね。 ああ、こうなったら慧ちゃんをどうにかして見付けないと…」


 朱美としては魔女狩りたちの口から、あの廃工場で起きた出来事が判明することを期待していたのだろう。

 しかしキングモルドンの手によって彼女たちの記憶は全て処理されており、謎は謎のまま残ってしまった。

 ゲームマスターの抑止装置とやらの被害を受けた魔女狩りたちから情報を聞き出せないのなら、残るルートは一つしか無い。

 あの夜にキングモルドンの襲撃を一早く察知して、朱美と共に逃げ出した有情 慧と言う名の魔法少女である。


「あのサイキック魔法少女か…。 一体何の目的があって、魔女狩りに協力したんだろうな…」

「彼女の雇い主は別に居たんでしょうね…。 朋絵ちゃんが言っていた通り、あの子は魔女狩りに潜入したスパイだったのね」

「雇い主? あの慧って子について何か分かったの?」

「魔女狩りの人たちが目覚めるまで時間があったから、慧ちゃんについて詳しく調べたのよ。 そしたらあの子の目的が何となく見えてきたのよね…」


 あの廃工場の一件から数日間の間に、朱美は独自のルートで慧のことを追っていたそうだ。

 千春が喫茶店メモリーの片付け作業に勤しんでいる間、一回も店の方に顔を出さなかった理由はそれだったらしい。


「あの子が一時期、魔法少女の力で暴れていたのは知っているわよね? それで街に結構な被害が出たらしいんだけど、魔法少女絡みもあって被害者たちは全員泣き寝入りしている状況なのよ。

 正気に戻った慧ちゃんは自分が被害を与えた店なんかの手伝いをしていたらしいけど、その程度では何の慰めにもならない。 被害が大きすぎて、店を閉じるしかない程に追い詰められている人も居るらしいわ」

「魔法少女絡みの被害は有耶無耶にされて終わるって奴か…。 まさに実感しているよ…」


 魔法少女とモルドンは力の差異があれども、共に人外と言う他ない強大な力を持っている。

 ただの人間では対抗できない両者の激突の余波で、街中に被害が出る事は少なくない。

 普通であれば被害を出した魔法少女やモルドンがその罪の問われて、何らかの責任を取らなければならない筈だ。

 しかし基本的に魔法少女が引き起こした損害は、不可思議な力が働いて有耶無耶にされてしまう場合が殆どだった。

 実際に魔女狩りの襲撃を受けて被害を受けた喫茶メモリーについても、魔法少女絡みと言うことで保険などは降りる事は無いだろう。

 それは過去に慧が自ら引き起こした被害も同様であり、彼女の手によって生活が苦しくなった人間が少なからず居るのだ。


「けれども少し前から、慧ちゃんの被害を受けた人たちに支援の手が伸びたらしいわ。 そしてこの支援金が支給されるようになった頃と、慧ちゃんが魔女狩りに接触した時期は一致する…」

「慧って子は罪滅ぼしのために、魔女狩りに潜入したって言うのか? 街への支援を条件にして…」

「支援金を出しているのは聞いた事の無い団体だったけど、調べてみると他にも同じように支援している例があった。 この団体を追えば、慧ちゃんを見つけられるかも…。

 あの抑止装置とやらの情報を掴んでいる事といい、その団体には何かあるわね」

「はぁ、お前は懲りない奴だなー。 あんまり無茶すると、また攫われるぞー」


 過去の罪を清算するため、慧は自分が荒らしてしまった街への支援と引き換えに魔女狩りへと潜入していた。

 それが現在の慧が住む街の状況を調べた上で導き出した、朱美の推測であった。

 未だに慧が姿を晦ましているということは、まだ彼女の仕事は完了していないのだろう。

 これまで朱美は魔法少女について調査する過程で何度も危険な目にあっており、つい先日は誘拐までされたのだ。

 しかし彼女はそれに全く懲りる事無く、あくまで謎を追及するために前進し続けるつもりらしい。

 何度も死にかけながらも戦いを止めないヒーロー気取りの自分が言える話では無いが、千春は朱美の相変わらずの様子に溜息を付くのだった。


 

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