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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第四部 始まりの魔法少女
280/384

5-2.


 廃工場に居た魔女狩りメンバーの内、唯一の生き残りとなったフォースの口から昨晩の惨劇が語られる。

 蜘蛛の姿へと変形した謎のモルドン、キングモルドンは巨体に似合わぬ素早さでフォースたちに向かってきた。

 近接戦闘に向かないセカンドとシックスを庇う様に、フォースは前に出てそれを迎撃しようとする。

 そしてキングモルドンの刃のように尖らせた前足の一撃と、フォースの死神の鎌が交差した。


「きゃぁぁっ!」

「■■■!!」


 普通のモルドンであれば、戦闘用に能力を構築された魔法少女の膂力に適う筈が無い。

 しかしキングモルドンはそんな常識を嘲笑うかのように、容易くフォースの鎌を体ごと弾き飛ばしてしまう。

 フォースは受け身もままならず、悲鳴と共に地面へと叩きつけられてしまった。


「こいつ、くらぇぇぇ!!」

「■、■■!!」

「え、体が…!? いやぁぁ!?


 シックスはフォースに気を取られているキングモルドンに対して、携えたバイオリンで死の演奏を奏でる。

 バイオリンから放たれた衝撃波はキングモルドンに放たれるが、それが相手に命中することが無かった。

 なんと音の衝撃はぶつかる寸前に、キングモルドンの体が再び黒いカビ上に分解されて衝撃波をいなされたのだ。

 カビの集合体は黒いクリスタルを中心に再構築されて、今度は四つ足の獣型モルドンの姿になる。

 そのままキングモルドンは野獣の如く、その牙を光らせながらシックスに向かって飛び掛かった。


「…よう、面白そうなことになっているな!!」

「サード!? 遅いわよ…」

「悪いな、暇過ぎて眠っちまってな…。 それよりなんだこいつは、渡りの親戚か?」

「似たような物よ。 少なくとも普通のモルドンとは別物の化け物ね」


 間一髪の所でシックスを救ったのは、今まで姿を見せなかった新たなる魔女狩りの実働メンバーである。

 魔女狩りの制服と言うべき黒いローブを身に着けておらず、動きやすさを重視した色気のない運動着姿をしている高校生くらいの少女だ。

 サードと呼ばれている少女はキングモルドンに対して奇襲をかけて、シックスの体に触れる寸前だった相手を吹き飛ばす。

 普通のモルドンであれば致命傷なっても可笑しくない一撃であるが、相手は何のダメージも受けていない様子ですぐに戦闘態勢に戻っていた。

 この一合で相手が普通のモルドンで無いと悟ったサードは、実に楽しそうに微笑みながら獲物である長剣を構える。






 サード、彼女もまた魔女狩りに所属する魔法少女の一人である。

 しかしこれまでの対マスクドナイトに向けた作戦において、彼女は一度も現場に出る事は無かった。

 その理由はただ一つ、サードが綿密に立てた作戦をぶち壊すリスクを懸念してのことである。

 他の実働メンバーと違ってサードには魔法少女に対する強い恨みを持っておらず、どちらかと言えば愉快犯的な目的で魔女狩りに名を連ねている不届き者であった。

 下手すればマスクドナイトNIOHと言う難敵との正面戦闘に発展しかねない本作戦において、サードを参加させるのはリスクが大きすぎたのだ。


「はははは、何だよこいつ! 本当にモルドンかよ!!」

「■■!!」

「何なんだ、こいつは…」

「痛い、痛いよ…」


 本作戦中は拠点の防衛と称して蚊帳の外に置かれていたサードであるが、その実力は折り紙付きである。

 魔法少女と戦えると言う理由で安易に魔女狩りへ参加している、戦闘狂でもあるサードは実に楽しそうにキングモルドンと矛を交える。

 しかし楽し気な表情の割には押されているのは明らかにサード側であり、キングモルドンは全くダメージを受けた様子が無い。

 少し離れた場所にはキングモルドンにやられて戦線離脱したフォースとシックスの姿があり、共に相手から受けた痛みに悶えている。


「そんな物ですか、サード。 策など弄さなくても、NIOHを倒せると豪語していたあなたの実力は…」

「あの金ぴかフォームじゃ無ければな、あれはスペック差が開きすぎて無理無理。 それにこいつはその金ぴかフォームでも無ければ対抗できない、渡り級の化け物みたいだぜ。

 ただの弱っちいモルドン相手には飽き飽きしてたが、こんな大物と戦えるとはなー」


 魔法少女に対して特別な恨みを持たないサードの能力は、純粋な戦闘向けに構築された物である。

 女の細腕ではとても震えそうにない長剣を軽々と振り回し、その動きには躊躇いが全く見られない。

 魔女狩りに所属する以前も何人かの魔法少女と交戦経験もあったらしい彼女の戦闘力は、実働メンバーの中では随一であろう。

 しかし残念ながら彼女の知る戦闘レベルは、最大でも同格の魔法少女レベルでしか無い。

 今彼女が矛を交えるキングモルドンはサードが経験したことの無い相手であり、正直勝ち目は全く見えて来ない。


「どうします、避難した方が…」

「仕方ありませんね…。 サード、もう少し粘ってください、この拠点を放棄します」

「了解ー、まあ何とかなるだろう」


 廃工場には数字のコードネームを持つ実働メンバーとは別に、彼女たちと支援するサポートメンバーも居る。

 彼らも騒ぎを聞きつけてセカンドたちの元に集まっており、キングモルドンと死闘を繰り広げているサードの姿を恐々と見ていた。

 傍から見てもサードの劣勢は明白であり、このままでは最後の砦である彼女が敗れるのも時間の問題であろう。

 冷静に戦況を判断したセカンドは拠点からの撤退を決めて、それを受けたメンバーたちは準備に取り掛かり始める。

 殿役を任されたサードは貧乏くじを引いたにも拘わらず、相変わらず楽し気に微笑みながらキングモルドンに向かって行った。






 今になって思えば、あのキングモルドンの最優先目標はセカンドだったのだろう。

 セカンドが拠点の廃棄を決めて撤退の準備を始めた時、キングモルドンの様子が明らかに変化したのだ。

 小手調べは終わりとばかりに体の中心に見える黒いクリスタルは怪しく光り出して、次の瞬間にその体は再び無数のカビに分解された。


「こいつ、何を…」

「■■!!」

「なっ!? 私を無視して! 逃げろ、セカンド!」

「えっ…」


 無数の黒カビは新たな体を形作ることなく、器用にサードを避けながらその背後で撤退の指揮を執っていたセカンドに向かって行く。

 せめてもの抵抗としてサードが黒いカビたちに剣を振るうが、その斬撃は空を切るだけで何の効果も得られない。

 そのまま黒いカビたちはセカンドたちの元へと辿り着き、彼女とその周辺にいた他の人間たちの顔に取り付いてしまう。


「なっ!? っっっ…っ!!」

「やめ、っっっ…っ!!」」

「い、っっっ…っ!!」

「セカンド!!」

「いやぁぁぁっ!?」


 黒いカビに顔を覆われた者たちは口を封じられてしまい、悲鳴すら出せずにその場で苦しみだす。

 しかしその苦痛は十数秒で終わり、彼らはその場で力尽きたかのように崩れ落ちていく。

 それはセカンドも例外ではなく、彼女も他の魔女狩りメンバーと共に廃工場の地面へと倒れ伏してしまった。

 その悍ましい光景を前に他の魔女狩りメンバーから悲鳴が生まれ、まだ若いシックスなど涙を浮かべている。


「ふざけるなぁぁ! お前の相手は私だぁぁぁ!!」

「■■?!」


 自分を無視されたことに怒りを覚えたサードは、危険を承知で広域に展開している黒カビの集合体へと突っ込む。

 目指すはその最奥にある黒いクリスタル、モルドンであるならばそれが急所であることは間違いない。

 地上付近に展開している黒カビたちをなるべく避けるため、サードは天井付近に跳躍して頭上からクリスタルへと向かう。

 サードは剣を前に構えながら体ごとキングモルドンに向かって落ちていく、その軌道はクリスタルへ一直線である。

 このまま行けばサードの剣が黒いクリスタルに届いて、この難敵を撃破出来たかもしれない。


「■■、■■!!」

「なっ、おまえ…!? あぁぁぁぁっ!!」

「サードぉぉぉっ!!」


 しかしサードの剣が届くより早く、キングモルドンの行動が一足早かった。

 寸前で再び体を形作ったその姿は、渡りのモルドンを思わせる蜥蜴のような顔であった。

 否、その厳つさから恐竜型とも言うべき姿となったキングモルドンの顎から、黒い閃光が離れたのだ。

 その極太の光はサードの体を容易く飲み干してしまい、そのまま廃工場の天井を貫いて空へと吸い込まれていく。

 恐竜型の姿となったキングモルドンの光線をまとも受けたサードは、そのまま地面へと墜落してピクリとも動かなくなる。

 魔女狩り実働メンバーのまとめ役であったセカンド、戦闘能力だけなら頼りになったサード。

 組織の精神的支柱であった彼女たちの敗北は、フォースの心を折るには十分過ぎる光景であった。


「どうしよう…。 フォース! フォース!! え、何処に居るの…。 いや、いやぁぁぁっ」

「■■…、■!!」


 シックスが気付いたときには隣で転がっていたフォースの姿は消えており、辺りを見渡しても彼女の姿は見えない。

 慌ててフォースを探すシックスであるが、そんな悠長なことをしている間にも状況は動いていた。

 気が付けば自分以外のメンバーは全て廃工場に倒れており、目の前にはあの強大な黒い異形の姿があるでは無いか。

 そして廃工場に居た魔女狩りたちはキングモルドンによって全て処理されたのだ、無様に逃げ出した死神を除いて…。



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