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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第四部 始まりの魔法少女
275/384

4-10.


 魔法少女は決して万能の存在では無く、彼女たちに与えられた能力には制限がある。

 神ならぬ魔法少女の力では死者を蘇らせることは出来ないし、100年先の未来を予知することも出来ない。

 しかし魔法少女の能力には一定の限界こそあるが、現代技術を超越したまさに魔法と言うべき現象を再現が出来た。

 魔法少女が他者を癒したいと望めば、死者蘇生こそ無理だが骨折程度なら一瞬で完治させられる能力が生まれるだろう。

 モルドンの出現予測と言う限定的な用途であれば、魔法少女は未来予知と言っていいほどの精度でそれらの情報を得られる筈だ。

 そして十代の少女たちがそんな超常的な力をフリーハンドで託された時、全ての人間がそれを良きことに使うとは限らない。


「不定形のモルドン? スライム型なのか?」

「なんなの、これ!? キモイ!? ああ、もう! さっさと始末しちゃおう!!」

「待ちなさい、シックス! 迂闊に手を出しては…」


 基本的にモルドンは何らかの生き物をモチーフとした姿をしているのだが、廃工場に現れたそれは明らかに普通とは異なっていた。

 そのモルドンを一言で言うなら黒い塊、面積にすれば数メートル四方の巨大な体を僅かに震わせている。

 体の中央には黒いクリスタルが怪しく光っており、それがモルドンであることを魔女狩りたちに伝えていた。

 嫌悪感を感じさせるその奇妙な姿に苛立ちを隠せないシックスは、早々にそれを片付けるために楽器を構える。

 目の前の奇妙なモルドンに対して警戒心を抱いていたセカンドの静止を無視して、シックスの死の演奏が始まった

 魔法少女の力によって生み出されたバイオリン、そこから放たれる音の衝撃がモルドンに向かって放たれる。


「■■■■!!」

「何!? きゃぁぁぁ!!」

「シックス!!」


 シックスの音の衝撃波を迎え撃つかのように、その黒い不定形のモルドンが変化する。

 その体を一瞬の内に変化させる、モルドンの正面に居るシックスの目には巨大な黒い壁が出来たかのように見えただろう。

 普通のモルドンであれば致命傷になる筈の音の衝撃波は、その黒い壁を全く揺るがす事が出来ない。

 津波のような黒い壁が一瞬の内にシックスの目の前に迫り、彼女の体を呑み込もうと襲い掛かる。


「…くっ!!」

「はぁはぁ、ありがとう、フォース。 な、なんなのよ、あれ!?」


 一瞬の内に死神へと姿を変えたフォースの行動が間に合わなければ、シックスの体はあの黒い塊に呑み込まれていただろう。

 間一髪で助けられたシックスはフォースの腕の中で、恐怖のせいか声を震わせながら疑問の声を漏らす。

 魔女狩りたちは訓練のために幾度か、魔法少女の敵役であるモルドンとの交戦経験があった。

 ゲームマスターの掌で踊っているようで不本意であるが、魔法少女の腕試し相手としてモルドンは手頃な相手である。

 しかし今目の前に現れた不定形のモルドンは、彼女たちがこれまで戦ってきたそれとは全く異なる相手であった。


「■■、■■!!」

「姿を…、変えた!? くそっ、今度は私が相手だ!!」


 シックスを取り逃したモルドンは再び体を不気味に蠢かして、再度その姿を変化させていく。

 そこには先ほどの黒い塊や巨大な壁の姿はなく、八本の足を持つ蜘蛛の如き姿の異形があった。

 特定の姿を持たず体を変化させていく異常なモルドンを前にして、フォースは気丈にも死神の鎌を構えながら立ち向かおうとする。


「…思い出したわ! そいつは"キングモルドン"だよ、スィート・フルーツに出てくるラスボスよ!!」

「キングモルドン!?」

「そいつはカビの集合体で、どんな姿にもなれるんだ! 劇中でも過去に出てきた敵キャラの姿になってた!!」

「スィート・ストロベリーの次は、スィート・フルーツのボスキャラですか…」


 実働メンバーの戦いを見守っていた魔女狩りのサポートメンバー、魔法少女の力を持たない成人女性が声を上げる。

 彼女が言うにはあのモルドンの姿は、少女向けアニメ"スィート・フルーツ"に登場する架空のキャラクターであるらしい。

 スィート・フルーツという作品は、魔法少女に関係する者たちに取っては無視できない物であった。

 何しろ劇中に出てくる"スィート・ストロベリー"をモデルとして、この現実世界に最初の魔法少女が誕生したのである。

 夜の街に現れて破壊行為を繰り返すあの黒い異形"モルドン"も、このスィート・フルーツに出てくる敵キャラクターの名称をそのまま拝借した物だ。

 そしてこの異様なモルドンもまたスィート・フルーツの劇中に出てくる最後にして最強のモルドン、"キングモルドン"と瓜二つの存在らしい。


「…キングモルドン、そんなモルドンが居るなんて聞いた事が無いぞ。 もしかして例の偽渡りと同じ、モルドンに偽装した使い魔か?」

「分からない…、どちらにしろ私の能力は無意味でしょうね」

「こういうのはNIOHの担当でしょう! なんで私たちの所に来るのよ!!」

「今から正義の味方に登場して貰うか? 流石にそれは恥知らずも良い所だろう…」

「■…、■■!!」


 このキングモルドンが本当にモルドンなのか、モルドンに偽装した魔法少女の使い魔なのかは分からない。

 しかしそのどちらでもセカンドが持つ魔法少女に対する特攻、魔法少女殺しが効果を発揮することは無いだろう。

 先ほどのやり取りを見る限り、相手は普通のモルドンとは異なる規格外の能力を備えている。

 それに対して魔女狩りたちの能力は対魔法少女に特化しており、魔法少女ならぬこのキングモルドンに対抗するのは難しい。

 出来れば尻尾を巻いて逃げ出したい所であるが、目の前の相手は既にこちらをターゲットにしているようで簡単に逃がしてくれそうにない。

 モルドン特有の奇妙な鳴き声をあげながら突っ込んでくる八本足のキングモルドンに対して、魔女狩りたちは懸命に抗おうとする。





 魔女狩りたちがキングモルドンに対処している頃、人知れず廃工場が逃げ出す二人の影があった。

 キングモルドンの襲撃があったどさくさに紛れて、慧が朱美を廃工場の外へと連れ出したのだ。

 数度のテレポートで廃工場の敷地から出た後、そのまま後ろを見る事無く前へ前へと走り出す。


「ちょっと、一体何があったのよ!?」

「いいから走れ! 巻き込まれたく無ければ、出来るだけ距離を置くんだ」

「それならもっとテレポートを使った方が…」

「あれは余り遠くに跳べないし、疲れるんだ! 走った方が早い!!」


 何の事情も説明されずにいきなり拘束を解かれて、廃工場から連れ出された朱美は訳が分からない様子である。

 しかし慧は朱美と話す時間すら惜しいようで、決して足を止めようとはせずに駆けていく

 必死の形相で廃工場から距離を置こうとする慧に言わるがままに、朱美は彼女の後を追って闇雲に足を動かした。


「…はぁはぁ、くそっ!? 聞いていたより早すぎるぞ」

「何よ、この音! あれって私たちが居た工場跡よね…? あれは…、光?」


 ある程度離れた所で安心したのか、慧は足を止めて荒れた息を整えながら悪態を付く。

 朱美は背後から僅かに聞こえてくる何かの破壊音に気付いて、先ほどまで居た廃工場に異変が起きていることを察する。

 そして廃工場の方から夜空に向かって昇っていく、夜の闇をも上書くような漆黒の閃光が朱美の心胆を寒からしめた。


「私たちがはあれから逃げて来たのね? あれはいったい何なの?」

「魔法少女という存在を維持するための抑止装置って奴らしいぜ。 魔法少女を貶めようとする奴は、人知れずあいつに始末されるそうだ」

「そうよね…、魔法少女がこの世界に来てから十数年。 過去にもあの魔女狩りみたいな連中は何度も出てきた筈だけど、魔法少女というシステムは今も存在している。 あれがその理由なのね…」


 結果だけ言えば魔女狩りたちは、朱美に語っていたゲームマスターを揺さぶる作戦に成功したのだ。

 一体何処から手に入れた情報かは分からないが、慧の話が真実ならばあれはゲームマスター直属の駒に違いない。

 本来であればこの世界に直接的な介入をしてこない筈のゲームマスターが、そのルールを破ってまで派遣する最後の切り札。

 この世界で今も稼働している魔法少女と言う名のシステムは、そこまでして守りたい物なのだろうか。

 まさに魔法少女と言う異物の弊害を受けた慧は、複雑そうな表情で破壊音が途絶えた廃工場の方を見ていた。



昨日は久々に遠出をしたせいで、疲れたのか頭が痛くなって更新できませんでした…。

折角の三連休なので三連投稿をしたかったのですが、今週も平常通り週二更新でご勘弁を…。


では。

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