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確かに魔女狩りのセカンドが言う通り、朱美が彩雲の秘密に気付いていたという話には説得力があった。
しかし朱美が彩雲の秘密を掴んでいたことと、その情報を魔女狩りに教えることは別問題である。
あの女が攫われたくらいで大事な特ダネ情報を口にするとは思えないが、まさか香が言う通り本当に拷問でもしたのか。
「一応確認させろ、魔法学部から朱美を攫ったのはお前たちなんだな?」
「ええ、あの方の身柄は私たちが預かっております」
「やっぱりな…、どうやって朱美から情報を聞き出した? もし朱美の奴に何かしたのならば…」
先ほどまでの話の流れでほぼ自白したような物であるようだが、この問答で朱美が魔女狩りの手に落ちたことは確定した。
この連中は何らかの手段を使って、朱美から彩雲の情報を聞き出したようだ。
朱美の身を案じた千春は彼女の無事を確かめるに、魔女狩りたちがこの情報を聞き出した方法を問い質す。
「あなたたちが考えているような手荒な真似はしていませんよ、彼女には傷一つ付けていないことを保障いたします。 あの方は快く私たちに妹さんのことを教えてくれました」
「朱美さんがそんなことをする筈…」
「自称ジャーナリストさんが魔法少女に協力していたのは、あくまで自身の好奇心を満たすために過ぎません。 決して無条件であなた方の味方で居る訳ではない、そんな彼女が己を危険に晒してまで秘密を守り通そうとしますか?」
魔女狩りたちはあくまで朱美が自主的に魔女狩りと協力して、今回の情報をもたらしたと語る。
そもそも朱美が千春たちに協力している理由は、セカンドが言う通り魔法少女に関する取材とやらの一環に過ぎない。
千春たちと手を組む以前から朱美は魔法少女について興味を持ち、独自にその謎を追っていた。
しかしゲームマスターの情報操作もあり、あくまで外野でしかない朱美の立ち位置では魔法少女たちの真に迫る情報を得ることができなかった。
そこでマスクドナイトNIOHとしてマジマジでの活動を始めようとしていた千春と香に協力して、内側から魔法少女の謎を追おうとしたのだ。
取材と言う目的のために協力しているだけの千春たちに対して、危険を冒してまで秘密を守り続けるだろうか。
「嘘だな、あいつがそう簡単に口を割るかよ…」
「…どうしてそのように思うのですか?」
「百歩譲って嵌められるのが俺だけだったなら、あいつは口を割ったかもしれない。 しかしあいつが彩雲や香を危険に巻き込むことをするかよ」
保身のために朱美が裏切ったと言う魔女狩りの言葉に対して、千春は全く動揺することなくそれは偽りであると断じる。
仮に成人している千春が危険な目に遭うだけならば、朱美は魔女狩りに対して口を割ったかもしれない。
しかし彩雲がNIOHの片割れであると知られた場合、狙われるのはまだ未成年である彩雲なのだ。
まだ大人に保護されるべき年齢の少女を巻き込むような事をする程、あのジャーナリスト志望は落ちぶれていない筈だ。
「…先輩よ! あんたたちは慧先輩の力を使って、あの女の心を読んだのね! 先輩は何処、先輩に会わせて!!」
「心を読む? そうか、あいつの能力ならば…」
それまで千春たちのやり取りを黙って聞いていた朋絵が、彼女の前から姿を消した先輩の慧が情報を聞き出したのだと断じる。
朋絵の言う通り慧は相手の心の内を読み取る、テレパシーの能力を使えた。
慧が魔女狩りの元に身を寄せているならば、簡単に朱美から彩雲の情報を読み取ることが可能だろう。
鍵の掛かった控室から朱美を誘拐した手段についても、慧のテレポートの能力があれば鍵の掛かった扉など無意味な物になる。
この一連の事件の裏側に慧が居ると確信した朋絵は、ただならぬ様子でセカンドの元へ迫ろうとする。
「そこでストップ、これ以上近づくとこの男の命は無いぞ」
「ふん、そんな男の命なんて知らないわよ! そんな物より、先輩の方が百倍重要だわ!!」
「おい、てめー!!」
「え、ちょっと…。 本当にいいの?」
朋絵を制するために死神の姿となっているフォースが、手に持った鎌を構え直した。。
その鎌は千春の首元に近付けられており、これ以上動けば千春の命が無いと言う分かりやすい警告である。
しかし先輩である慧が何より重要であるようで、死神の静止をガン無視してセカンドの元へ迫っていく。
こちらの命を軽視した朋絵の暴走には千春も怒りを見せて、その上に馬乗りになっている死神は呆気に取られてしまう。
「…フォース」
「くそっ!!」
「きゃぁ!?」
「朋絵さん!?」
指示を受けたフォースは鎌を振るい、今にもセカンドに掴みかかりそうになっていた朋絵の体を払いのける。
朋絵の体はそのまま吹き飛ばされて、店内の壁と激突した彼女は苦悶の声を漏らした。
どうやらフォースは要らぬ流血は避けたかったのか、先ほどの一撃は鎌の刃を使わない峰打ちだったらしい。
朋絵の体には切り傷は見えないようだが、あの様子だと打ち身くらいは出来ているかもしれない。
「余分なお喋りは此処までにして、そろそろ本題と行きましょう。 マスクドナイトNIOH、あなたには暫く病院生活を送ってもらいます。
殺しまではしないので、安心してください」
「やっぱり目的はNIOHの排除かよ…。 命を保証してくれるとは、お優しいことだねー」
「既にあなたも理解しているでしょうが、妹さんの秘密が私たちに知られた時点でNIOHはもう終わりなのです。 別にこのまま放置しても問題ないのですが、念には念をと言う奴ですよ」
「それはそれは、用意周到だな…」
魔女狩りたちの目的は魔法少女への復讐であり、マスクドナイトNIOHという存在は彼女たちに取って非常に邪魔な存在であった。
彼女たちの切り札である魔法少女殺しの影響を受けず、渡りや偽渡りと互角に渡り合える強大な戦闘能力の持ち主である。
そして魔法少女の守護者を気取っているNIOHが魔女狩りを放っておく筈も無く、両者がぶつかり合うことは目に見えていた。
そこでセカンドは魔女狩りの最初の目的として、最大の障害であるNIOHを排除することを定めたのだ。
この裏にはゲームマスターへの挑発目的もあり、明らかに他と待遇が異なるNIOHを潰されてどのような反応を見せるか確かめようともしていた。
「フォース、お願いします」
「…分かった」
「くぅぅ…、離せ!?」
「お兄さん!!」
魔法少女の力によって誕生した死神であれば、片腕で成人男性を持ち上げることなど容易いことである。
床に転がされていた千春の首を掴んだフォースは、そのまま千春の体を軽々と宙吊りにしてしまう。
足先が地面から離れて完全に体が宙に浮いた千春は、足をばたつかせながら拘束を振りほどこうとする。
しかし幾ら力を込めても死神の体は全く微動だにせず、千春は普通の人間は魔法少女に敵わないと言うこの世界の真理を改めて突き付けられていた。
NIOHの力を振るえない今の千春ではこの死神には到底及ばず、千春の運命は風前の灯火であった。




