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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第四部 始まりの魔法少女
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4-2.


 惜しくも魔女狩りを取り逃がして意気消沈していた千春たちは、戻ってきた控室で更なる衝撃を受けることになる。

 一向に開かない控室の扉を不審に感じた千春たちは、魔法学部の人間に頼って部屋を開けて貰った。

 恐ろしいことに室内は完全に無人であり、控室に居た筈の朱美は内側から鍵を掛けたまま姿を消していたのだ。

 千春たちは慌てて部屋の中を探し始めるが、朱美を見付けることは出来なかった。


「あいつのバッグ、中身がぶちまけられている。 財布があるから単なる物取りじゃ無いよな…、取られたのは携帯だけか?」

「私たちの荷物は大丈夫だ、ちゃんと全部あるよ」

「マジョルの方もオッケー」


 控室の中で荒らされていたのは朱美の荷物だけであり、千春を含む他の参加者たちの荷物は無事であった。

 唯一手を付けられたのは姿を消した朱美の荷物だけであり、彼女の財布には手を付けられた様子は無い。

 無くなっているのは朱美が取材メモ代わりにも使っていた携帯や端末だけであり、これが単なる物取りの犯行で無い事を示していた。

 そしてこれが単なる窃盗犯罪で無ければ、朱美自身と彼女の端末を持ち去った犯人候補は自ずと絞り込まれる。


「あの魔女狩りたちは囮だったのか、本命は朱美を攫うのが目的か…」

「あ、朱美さん、大丈夫なんでしょうか?」

「分からん、流石に殺す事は無いだろうが…。 朱美からNIOHの秘密を聞き出す気か、無駄なことを…」


 魔女狩りが本当に朱美を攫ったとして、その目的は一体なんだろうか。

 一番考えられるのは友香の時と同じ理由、千春の弱点となるNIOHを生み出した魔法少女の片割れを聞き出すためだろう。

 客観的に見て朱美はNIOHに最も近い人間の一人であり、彼女であればNIOHの秘密を知っていても不思議ではない。

 しかし千春は朱美にもNIOHの秘密、妹の彩雲がその魔法少女であることは伝えていない。

 魔女狩りの作戦は不発に終わることが確定しているが、秘密を知らない朱美に対して奴らがどんな仕打ちを与えるだろうか。


「…魔女狩り絡みでなく、単なる犯罪の可能性もある。 とりあえず此処の責任者、教授に話をしないとな…」

「まだ近くに居るかもしれない、私たちは近くを探索してみるよ…」

「そうだな、研究会の連中にも手伝わせるか…」


 千春たちは魔法学部の粕田教授に朱美が攫われた可能性があることを報告して、周辺の捜索を開始したのだ。

 しかし魔法学部内に設置された監視カメラの中で、誘拐されていく朱美の姿が断片的に撮影されていたことで状況は一変する。

 イベント用の荷物に偽装した人間一人が隠せる荷物を運んでいる姿、イベントの最中に魔法学部を離れていく車両の姿。

 それらは状況的に見てそれが朱美を攫った魔女狩り一派の物であることは間違いなく、朱美は既に車で遠くまで運ばれたらしい。

 そして警察への説明などは粕田教授が担当してくれることになり、イベント参加者たちは一端解散となるのだった。






 何時もより早く閉店を迎えた喫茶メモリーの中で、千春たちが険しい顔を浮かべている。

 粕田教授の通報によって警察組織が朱美の行方を捜してくれている筈なので、素人である千春たちに出来る事は何もない。

 流石に行方不明者の探索まで手伝えないので、マジョルやイクゾーなどの他のイベント参加者たちの姿も店内に無かった。

 誘拐時の映像や逃走に使った車両の姿も残されているのだ、これだけの情報があれば朱美をすぐに見つけてくれるかもしれない。

 しかし相手は必要悪として魔法少女の力を使う魔女狩りたちであり、ただの警察が魔法少女に敵わないことははっきりしている。

 警察の人たちには悪いが、彼らの力でどれだけ魔女狩りに対抗できるだろうか。


「まさか朱美さんが狙われるなんて…。 下手すれば私も…」

「友香…、大丈夫よ」

「大丈夫でしょうか、朱美さん」

「鍵の掛かった部屋から人が消えた、まさか…」


 喫茶店メモリーで待機していた友香たちも事情を聞かされており、攫われた朱美のことを心配しているようだ。

 特に魔女狩りに襲われた経験のある友香は他人事では無いようで、いっちーが怯える友人の手を握って元気付けていた。

 そして現場の状況を聞かされた朋絵は、愛する先輩の慧が瞬間移動(テレポート)で控室に侵入する姿を想像してしまったらしい。

 確かに慧の能力があれば扉の鍵など無意味であり、彼女が本当に魔女狩りと行動を共にしているなら真っ先に容疑者として上がる人物だ。

 流石に誘拐犯を探すスキルは持ち合わせていない千春たちは、ただただ待つことしか出来ない。

 何も出来ない状況がもどかしいのか、喫茶店メモリーに集まった千春と魔法少女たちの間に重苦しい空気が漂っていた。


「…お兄さん、今日は何時もより早くにお店を閉めるんですね?」

「あ、彩雲? どうして此処に…」

「彩雲ちゃん…」

「NIOHさんの妹さん!?」


 閉店の札が掛かっている喫茶メモリーの扉を開けて入ってきたのは、千春の妹である彩雲だった。

 彼女は店内で勢揃いしている千春と魔法少女たちの姿を興味深そうに見ながら、中に居る千春の元へと歩み寄る。

 何を隠そうこの彩雲という少女が、千春のマスクドナイトNIOHを生み出した魔法少女の片割れだ。

 彼女の正体はもう一人の片割れである香しか知らず、この秘密は朱美にすら伝えていない最大機密である。

 念のために今日は家で大人しくするように言っていた筈の彩雲が、どうして此処に現れたというのか。


「聞いて無いんですか? さっき朱美さんから呼ばれたんですよ、何か大事な話があるとかで…。 あれ、でも朱美さんが居ませんね…」

「あ、朱美に呼び出された!? それって…」


 何と彩雲は現在行方不明中の朱美の連絡を受けて、千春の居るこの喫茶店メモリーへと来たらしい。

 この店は千春のバイト先であり、千春たちが魔法少女関係の話し合いをする溜まり場でもある。

 魔法少女であることは秘密にしている彩雲も、千春の妹という立場で何度かその場に参加した経験があった。

 加えて彼女は千春とは腐れ縁と言える朱美とも仲が良く、朱美から呼び出しがあれば何の違和感も抱かずに店まで来るだろう。

 しかし当の朱美は絶賛行方不明の状況であり、少なくとも彩雲と気軽に連絡できる状況では無い。


「連絡って…、あいつから電話とかあったのか?」

「…? チャットでやりとりしただけですけど、それが何か…」


 余程古い携帯で無ければほぼ確実にインストールしているであろう、今や若者たちの主要連絡ツールであるチャットソフト。

 彩雲は朱美と定期的にチャットのやり取りをしており、今日もそのチャットを通して喫茶店メモリーに呼び出されたのだ。

 しかしチャットでやり取りをするのはあくまで文章であり、それを打った人間が本人であるとは限らない。

 そして朱美当人と一緒に確保された携帯を使って、この場に彩雲を呼び出した人間は確実に朱美では無いだろう。


「まずい!? 彩雲、今すぐ此処から…」

「…もう遅いですよ」

「なっ!?」


 次の瞬間、喫茶メモリーの扉から飛び込んで来たのはあの黒いフードの集団であった。

 千春は咄嗟にマスクドナイトNIOHへ変身しようとするが、そこで何時ものように力を引き出せない。

 そこで千春はこの場に彩雲と香という、NIOHを構成している二人の魔法少女が揃っている事実に気付いたのだ。

 足元に居たシロは電池が切れたかのように動かなくなり、床に転がったままピクリとも動かない。

 店内に居る他の魔法少女たちも千春と同じような状況になっているようで、焦燥した表情を浮かべている。

 魔女狩りセカンドが保持する魔法少女殺し、彼女を中心とした一定範囲内の魔法少女たちは等しくその力を封じられてしまう。

 仮に千春が彩雲に対しても朱美が攫われた件を伝えていれば運命が変わったかもしれないが、妹を心配させたくない兄心が最悪の結果を招いてしまう。

 まさしく絶望的な状況に陥った千春は、せめてもの抵抗とばかりに勝ち誇るように佇む魔女狩りたちを睨みつけた。


 

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