3-8.
魔女狩りを誘き寄せることを目的に企画された今回のイベントは、非常に短期間で準備が行われた。
この準備期間で凝った演目を考えている余裕もなく、事前に公開しているイベントの内容はほぼ空白という有様である。
しかしその顔ぶれはマジマジ上位陣という豪快メンバーであり、彼女たちの知名度によって世間から注目されていた。
恐らく魔女狩りのメンバーも、何処からかこのイベントの話を耳にしているに違いない。
「うわっ、何時もとは毛色の違う客が居るな…。 揃いの法被姿って、何処かのアイドルライブでもあるのかよ」
「マジョルが新曲を披露するから、似たようなものでしょう」
「マジョルの新曲公開、イクゾーとの合同挑戦企画のネタだし会議、魔女狩りの件が無ければ普通に楽しめるのに…」
魔女狩りを誘うという目的のため、今回のイベントでの日時・場所は事前に告知していた。
公開撮影という名目で観客を入れてイベントを開き、その模様はマジマジでもリアルタイム配信される。
イベントの開始時刻が迫っている中で、既に会場となる魔法学部の実験場には多数の客が入っているようだ。
千春たちは客に紛れ込ませた魔法少女研究会の人間が送ってきた隠し撮りから、集まった客層を確認していた。
軽く目を通した限りでは、魔女狩りと思われる黒いフードの人物は見当たらないようだ。
幸運にも参加者たちが自主的にイベント案を持ち寄ってくれたので、最悪魔女狩りが現れなくても何とか尺は稼げる筈だ。
「一応確認しておくけど、何かあったら俺の近くを離れるなよ。 リュー、悪いが香を頼むぞ」
「□□□□!!」
「分かってますよ、お兄さんも気を付けて下さいよ」
魔女狩りのターゲットされているNIOHを生み出した魔法少女の片割れ、NIOHチャンネル主の香。
今回のイベントで彼女の替え玉を用意するかは最後まで悩んだが、結局千春の近くに居た方が安全という結論になった。
相手の心を読める例のサイキック系魔法少女の問題もあるので、替え玉を読まれて千春不在の状態で香が襲われる可能性を考慮した結果である。
念のために護衛役として知り合いの魔法少女から使い魔を借りて、わざわざ護衛役としても付けておいた。
魔法少女の方はイベント会場から遠く離れた場所に居るため、例の魔法少女殺しの能力も防げる筈だ。
千春は何度も共闘したことがある小さなドラゴンに対して、その頭を撫でながら香のことを任せた。
いよいよ始まった合同コラボイベント、そのオープニングを飾ったのは魔法少女アイドルのライブである。
実験場内に設置された特設ステージ上で、可愛らしいアイドル衣装に身を包んだ少女が生歌を披露する。
マスクドナイトNIOHのオープニングテーマとして作成されたらしい曲は、特撮系らしいノリのいい曲だった。
そしてマジョルの歌に合わせて切れのいいダンスを披露している、揃いの法被軍団。
この図だけ見ると完全にマジョルのライブであり、掴みとしては十分であろう。
「よーし、もう一曲…」
「はい、終わり終わり。 予定が詰まっているんだから、何時までも尺を使っているなよ」
「ああん、NIOHさんの意地悪ぅぅぅ!! はいはい、解りました…」
「引っ込めー」「マジョルちゃんに男が近付くなー」「お前はあの年増といちゃつていればいいだよ」
「って、こら! 舞台に物を投げるな!!」
気持ちよく歌い終わったマジョルが調子に乗って二曲目に移ろうとするが、残念ながら今日は彼女の単独ライブでは無い。
一応はイベント企画者である千春が慌てて舞台に上がり、マジョルの暴走に待った掛けようとする。
マジョルの方は不満げに舞台裏へと下がって行き、千春は怒れるマジョルファンからの洗礼を受けてしまう。
投げ込まれるゴミの雨に晒されながら、千春は足早と舞台裏へと避難していった。
「ああ、酷い目にあった。 客層が悪いなー、マジョル」
「ええ、この位はお遊びだもん。 それにあれはマジョルに差し入れなんだよ」
「何時からかお決まりの展開になりましたよね、あの変則的な差し入れ…」
「何時もは私に投げつけられるんですよね…、あれ」
「マジかよ…」
よく見れば舞台上に投げ入れられた物はただのゴミでは無く、お菓子やぬいぐるみなどの品々である。
実はあれはマジョルに対するファンからの差し入れであり、あの一連のやり取りは一種のお約束であった。
普段のライブでは彼女のマネージャーがマジョルの暴走を止める係であり、あれを投げられる係らしい。
今日の所はその役目を千春が引き受けることになり、マジョルに対する熱烈な差し入れをぶつけられたようだ。
「これならエンディングにした方が良かったか…。 いや、あの曲を最後に回すのも…」
「マジョルさんの曲でイベントを締めたら、今回のイベントの主役が彼女になってしまいますよ。 この順番は正解ですって、お兄さん」
「まあ、今更イベントの進行を考え直しても仕方ないか。 さーて、魔女狩りの連中は何時頃来るかな…」
「来るならすぐじゃ無いですか、このイベントが気に喰わないなら最後まで見ているは…」
千春たちが舞台から引いた後、現れたスタッフたちが次の準備を始めていた。
準備と言ってもこの後の予定は幾つかのテーマに分けられるが、ほぼ参加者たちの座談会で終始することになる。
参加者たちの椅子と会議用のホワイトボードなどを置けば、次の演目の準備は完了だ。
舞台袖で次の出番を待ちながら、千春と香は魔女狩りの登場を待ち構えていた。
結果だけ言えば、香の予想はずばり的中であった。
マジョルのオープニングライブが終わって、いよいよマジマジ上位陣による豪華座談会が始まろうとしていた時である。
参加者たちの自己紹介が終わって最初のテーマが発表されようとした時、その強烈な音が彼女たちの耳に飛び込んで来たのだ。
「あぁぁぁ!?」
「五月蠅いぃぃぃぃっ!?」
「いやぁぁぁぁっ!?」
「☆☆!?」
舞台上に立つ魔法少女たちが突如、苦悶の声を漏らしながら椅子から転げ落ちる。
彼女たちは耳を手で強く抑えて、外から聞こえてくる音を遮断しようとしていた。
マジゴロウの膝の上に居たガロロも同じ状況のようで、地面に蹲りながら耳に前足を当てていた。
「だ、大丈夫、お姉ちゃん!!」
「マジョルさん!!」
しかし全ての人間が苦しんでいる訳では無く、何故かイクゾーの妹やマジョルのマネージャーには影響が出ていないらしい。
彼女たちは慌てて悲鳴をあげている少女の元へと駆け寄り、二人で手分けして舞台裏まで運んでいく。
「なんだ!? 耳がどうにかなっちまいそうだ…」
「ぁぁぁぁ、何よこの音!?」
「□□□□!?」
千春と香も彼女たちと同じ状況に陥り、それは護衛として隠れていた使い魔リューも同じであった。
いきなり耳元で最大音量の不協和音を聞かされたようであり、千春は他の魔法少女たちと同様に自身の耳を塞ごうとする。
しかしこの音は千春たちの頭に直接叩き決まれているようであり、幾ら耳を閉じても聞こえてくる音量が減る事は無かった。
「な、なんだ!? マジョルたちはどうしたんだよ?」
「まさか襲撃!? 噂は本当だったのか…」
「何よ、この酷い音は…」
舞台上の演者たちの突然の狂態を前に、魔法学部に集まった観客たちの間で戸惑いが広まる。
よく見ると観客たちの中には千春と同様に、苦しそうに耳を抑えている者も居た。
状況から察するにこれは魔法少女に関係する者にしか聞こえてこない音であり、魔法少女でない者には通じないのだろう。
魔法少女が生み出した使い魔に対しても効果を及ぼしている所を見ると、これは例の魔法少女殺しより効果範囲が広いらしい。
そしてこの状況を引き起こしたのは魔女狩りであることは確実であり、千春は未だに鳴りやまない音に苦しみながら周囲を警戒した。
興味が無い人には申し訳ないですが今日もウイニングポスト関連の雑談を一つ、プレイ中に井坂先生のクラシック予測で面白いことがありました。
時はゲーム内2001年のクラシック予想、井坂先生が上げた馬はあの名馬アグネスタキオンでした。史実通りならダービー・菊花は出てないので、ある意味では納得の予測だとこの時は思ったんです。
…まさかガチガチに史実補正が掛かりそうなら皐月賞も負けてクラシック無冠で引退するとは、井坂恐るべし!?
それはさておき、更新です。
では。




