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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第四部 始まりの魔法少女
251/384

2-11.


 友香のクリスタルを回収した千春たちは、彼女の友人を家まで届けた後に喫茶店メモリーへ来ていた。

 千春としては襲われた友香も一度家に帰って休んで欲しかったが、自分は大丈夫と言って聞かなかったのだ。

 そのまま働き始めようとした彼女を休憩室に押し込んで、千春は閉店まで店の手伝いに入っていた。

 その内に街に戻ってきた朱美も合流して、何時ものように閉店後の店を借りて作戦会議が始まる。


「本当、間一髪だったよな。 間に合って本当に良かったよ…」

「あの力は魔法少女にとっては致命的です、あのまま彼女たちを放置していたらどれだけ被害が出るか…」


 休憩室で落ち着けた事によって、今更ながら先の襲撃時の恐怖が蘇ってきたらしい。

 モルドン相手とは異なる人から放たれる純粋な敵意、それはベテランの魔法少女である友香にとっても初めての経験であった。

 そしてその恐怖を味わうのは友香だけでは無い、魔女狩りたちはまだ世間に野放しになっているのだ。

 既に丹心と言う被害者が出ており、近い内に新たなる犠牲者も出てくるだろう。


「友香ちゃんが頑張ってくれたお陰で、色々と分かったわね。 奴らのやり口やメンバーの役割についても…」

「奴らの弱点もな…。 俺は特殊な例としても、あの感じなら使い魔でも対抗できるだろう」


 魔女狩りの切り札と思われる魔法少女殺し、魔法少女の力を封じる特異な能力。

 しかし千春が所持するNIOHの力が封じられず、千春の使い魔となったシロが封じられた結果を見れば何となく理屈は分る。

 あの能力は魔法少女を対象として発動する物で間違いなく、逆を言えばその場に魔法少女が居なければ効果を発揮しない。

 そうであれば単独行動が可能な使い魔もまた、魔女狩りに対抗する切り札と成りえるだろう。


「生みの親の魔法少女と別行動していればね…。 殆どの使い魔は、魔法少女と一緒に行動しているもの」

「ああ、それこそ偽渡りみたいな例外で無ければ、大抵の魔法少女には嵌るのか…。 結構考えているなー」


 マジゴロウとガロロと言う分かりやすい参考例があるため、殆どの魔法少女は使い魔をペットの延長線上として扱っている。

 日常用の愛らしい姿を持ち、モルドンとの戦闘時以外は家族として共に生活しているのだ。

 渡りを偽装して単独行動を取らされていた偽渡りと言う例外も中には居るが、大抵の使い魔は魔法少女の傍に居るだろう。

 そして使い魔と魔法少女がセットの状態であれば、先の千春とシロのように魔女狩りによって封じられてしまう。


「連中の最大の敵はあんたに間違いないわ。 そのために私たちを街の外に誘導して、その間に友香ちゃんから情報を聞き出そうとした」

「…千春さん、やっぱりNIOHは香ちゃん以外の魔法少女も関わっているのですね?」

「まあな、少し事情があってな…」


 千春は念のために彩雲が魔法少女であることを隠す選択をした、過去の自分を内心で褒めたたえた。

 仮に彩雲の秘密が漏れていたら、魔女狩りたちは何も知らない妹へ襲い掛かっていたかもしれないのだ。

 彩雲の秘密は、今のNIOHを生み出した魔法少女の片割れである香にしか知られていない。

 千春は付き合いの長い朱美にすら彩雲の秘密を明かしておらず、その沈黙の成果が今になって出てくるとは思いもしなかった。

 現状の状況で魔女狩りの連中が愛する妹に辿り着く事は、まず無いと見ていいだろう。


「あんたがそこまで頑なに口を閉ざすなら、深くは追及しないわ。 分かっていると思うけど、次に狙われる可能性が高いのは…」

「世間に知られている方の魔法少女、NIOHチャンネル主の香だよな。 何とかしないと…」


 魔法少女一人分の力では到底実現不能な、AH-UNの型の驚異的な性能。

 偽渡りとの最後の戦いでクリスタルの片割れを砕かれながらも、NIOHの姿を保っていた事実。

 マスクドナイトNIOHの誕生に二人の魔法少女が携わっていることは明白であり、最早否定はできないだろう。

 そしてNIOHを作り出した魔法少女の一人は、マジマジでの活動を通じて広く知られている。

 天羽 香、千春とコンビを組んでマジマジの世界で躍進したNIOHチャンネルの主である。


 そもそも千春が香と組んだ理由の一つは、彩雲の存在を世間から隠すための迷彩となるからだった。

 千春は香からNIHOの力を貰ったと言うことにして彩雲の存在を隠し、香は千春と言う世界初の男性変身者という看板を手に入れられる。

 共にウィンウィンの関係であり、実際に千春と香のコンビは仲良くNIOHチャンネルで活動できていた。

 千春が渡りや偽渡りの件で忙しくなり、香も受験対策に乗り出したことで更新頻度は激減しているが、NIOHチャンネルは今でも続けられている。


「連中、香の素性を掴んでいるかな…」

「友香ちゃんに辿り着いたくらいだもの、楽観はできないわよね…」

「どうするかなー、流石に四六時中付いている訳にもいかないし…」

「でも考え方によってはチャンスですよね、魔女狩りの連中を捕まえるための…」


 今時の若者である香はネットテラシーを熟知しており、ネット上に自らの素性を明かさないように気を付けていた。

 配信時には常にマスクで顔を覆い、身バレに繋がる情報は徹底的に排してマジマジでの動画作成に勤しんでいる。

 学校の友人たちにもマジマジでの活動は明かしておらず、年上の彼氏と付き合っているというカバーストーリーで誤魔化していた。 普通であれば魔女狩りが友香を見つけることは出来ない筈だが、彼女たちは同じように正体を隠していた友香を見付けられたのだ。

 香の元まで辿り着ける筈が無いと楽観視する訳にも行かず、魔女狩りへの対抗策は必要であった。

 しかし逆を言えば魔女狩りと接触する機会でもあり、連中を一網打尽に出来るかもしれない。

 千春たちは香の護衛と魔女狩りの対策をどうするかを、閉店した喫茶店メモリーの店内で話し合っていた。






 友香の友人である"いっちー"は、自室の机の前で険しい表情を浮かべていた。

 彼女の脳裏には記憶に新しい、友香に襲い掛かった魔女狩りたちの姿が思い返されている。

 結果的に友香は救われて、彼女も五体満足で家に帰ることが出来た。

 自分と別れた後にバイト先の喫茶店メモリーに行った友香は少し心配であるが、あのヒーローが一緒であれば大丈夫だろう。


「マスクドナイトNIOH、か…。 魔法少女を救うヒーローね…」


 彼はテレビの前で盛大に顔バレした上に、最近では銀幕デビューまで果たした有名人だ。

 意識的に魔法少女との関りを断っている彼女であっても、マスクドナイトNIOHの名前は否でも耳にする。

 それにヒーローの中の人は、自分に気を遣って魔法少女の話題を出さない友香が頻繁に口にするバイト先の先輩であった。

 あくまでバイトの先輩として楽し気に千春のことを話す友香の姿に、彼女もこれは青春(アオハル)の気配では無いかと内心でニヤニヤした物である。


「あの人が来なかったら私は、友香を助けられなかった…」


 徐に机の引き出しを開けた彼女は、その奥に放り出されていたそれを取り出す。

 過保護な母親から持たされていた防犯グッズを片手に、彼女は勇気を振り絞って友香の救援に向かった。

 しかしこれがあれば防犯グッズに頼らなくても、友香を救い出す事が出来たのでは無いか。

 友香の魔法少女の力が封じられた状況を見て、これがあっても何も出来なかった可能性は十分にある。

 それでも自らの過去を封印するために机の奥に仕舞いこんでいた物が手元にあれば、彼女一人の力で友人を救えたかもしれない。

 あの場に千春が現れなかった場合の顛末を想像した彼女は、自らの意思で選択肢を狭めていた自らの非を責める。


「私は…、私は…」


 少女はこれを何度も手放そうとしながらも、最後に躊躇いを覚えて机の奥底に仕舞いこんでいた。

 これは彼女を長年に渡って苦しめた象徴であるが、今は傍に居ない父との数少ない思い出の品でもあったからだ。

 彼女は僅かに震える手でそれを…、淡く光るクリスタルを目の前まで持ってくる。

 友香から"いっちー"と呼ばれていた少女、苺葉(いちは)は瞳に涙を浮かべながらそのままクリスタルを抱きしめた。

これで今回のお話は終わりです。

次話は早ければ来週、遅くとも再来週から始められると思います。


では。

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