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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第一部 魔法少女専門動画サイト"マジマジ"
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7-3.


 "渡り"、それが魔法少女の業界内で密かに噂されている、複数のクリスタルを持つ特異なモルドンの異名だそうだ。

 その名の通り渡りのモルドンは絶えず移動しており、その街で活動する魔法少女に襲い掛かるらしい。

 渡りのモルドンは圧倒的な力で魔法少女を倒してしまい、彼女たちが持つクリスタルを喰らうと言う。

 まさに数か月前にウィッチを襲ったモルドンの特徴と一致しており、あの蜥蜴型モルドンが渡りであることは間違いないだろう。


「マジマジとかで配信している目立ちたがりの魔法少女はまだ被害に遭ってない事もあって、まだ表立った噂にはなってないみたいよ。

 けど被害者はどんどん増えている、その内マジマジにも出てくるんじゃない?」

「"渡り"ですか…」

「こんな話もあるわよ。 最初の頃は渡りのクリスタルは他と同じ一つだけだった。 けれども魔法少女たちのクリスタルを食べ続けることで、口の中にもう一つのクリスタルが出来たって…」

「魔法少女のクリスタルを取り込んで成長しているってことか? そんなことが…」


 魔法少女とモルドンが持つクリスタルは色こそ違えど、その姿形は全く同じである。

 見るからに互換性のある魔法少女のクリスタルを、モルドンが取り込めるということはあり得ない話ではない。

 それに最初からクリスタルが二つモルドンが出現したと言う話より、他からクリスタルを取り込んで二つにしたと言う方が納得できる。


「しつもーん、その渡りって奴に魔法少女が何人もやられているんですよね? だったら渡りのモルドンのクリスタルはもっと沢山あってもいいんじゃ…」

「あ、それもそうか…。 ウィッチさん、実はクリスタルが三個も四個もあったなんてことは…」

「多分、無いと思います…。 クリスタルは結構目立ちますから、他にあったのなら戦闘中での流石に気付きますよ。

 あのモルドンのクリスタルは体に一つ、口の中に一つの計二つで間違いありません」

「交換レートが違うのか? 魔法少女のクリスタルを十個喰ったら、自分のクリスタルが一つ増えるとか…」

「そんな、ゲームじゃ無いんだし…」


 モルドンが魔法少女のクリスタルを一定数喰らえば、クリスタル二つのモルドンにランクアップ出来る。

 まるでゲームのシステムのようなことが、どうやらこの現実世界で起きているらしい。

 仮にモルドンと魔法少女のクリスタルのレートが一対一だったら、誰も倒すことが出来ないとんでもない化け物になっていただろう。


「あ、天羽ちゃん、良い線突いているわよ。 多分、これは一種のゲームなのよ。 ふざけたゲームマスターが運営するね…」

「…その心は?」

「ウィッチが活動不能になった途端、新しい魔法少女が誕生してマスクドナイトNIOHが生まれた。

 渡りにやられて再起不能となった魔法少女の所もそうらしいわよ、都合よく代わりの魔法少女が一人二人誕生したって…」

「うわっ、そういう事かよ…。 元々不自然な話とは思ってたけど、あからさまだな…」


 モルドンは魔法少女しか対抗できず、魔法少女が居なければ人類に成す術はない。

 仮にウィッチが渡りのモルドンにやられた後、都合よく千春たちがマスクドナイトNIOHとして活動していなければ街はどうなっていただろうか。

 近くで活動している魔法少女を助けを求めるしか選択肢が無く、助けが来るまでにどれだけの被害が出るか分かった物ではない。

 しかし実際はそのような展開にはならず、ウィッチの穴を埋めるようにマスクドナイトNIOHが誕生した。

 この街のことだけ見れば偶然と言えるかもしれないが、渡りに魔法少女を倒された他の街でも同じ展開が起きれば作為的な意思を考えざるを得ない。

 ゲームマスター、魔法少女とモルドンの戦いを仕切る存在が居る事はほぼ明白であろう。

 自分たちが遊戯卓の駒の一つにされていることを自覚した千春たちは、苦い顔を浮かべるのだった。











 魔法少女と言う超常的な力を持つ存在が現れて、それに対する都合のいい敵としてモルドンが現れたのだ。

 ご都合主義の塊というべき魔法少女の影には、この状況を引き起こした黒幕が存在するというのが一般的な認識である。

 宇宙人、神、未来人、擬人化した地球の意思など、黒幕の正体にして様々な可能性が挙げられているが真実は未だに闇の中だった。

 末端の魔法少女とその関係者である千春たちが世界の謎を暴けるわけも無く、そんな大層な課題はもっと上の立場の人間に任せればいい。

 それよりも今の課題は渡りのモルドンと、その被害者であるウィッチこと早坂 友香の問題だろう。


「おい、朱美。 とりあえず渡りって奴のことは分かったが、一つ確認させてくれ。

 お前は渡りにやられた魔法少女を再起不能って言ったよな? でも魔法少女のクリスタルは、暫くすれば治る筈なんじゃ…」

「残念だけど再起不能で間違いないわ。 私が調べた限り、渡りにやられた魔法少女のクリスタルは回復した例はゼロよ」

「えっ、どういうことですか?」


 モルドンのクリスタルは破壊されたらそれで終わりだが、魔法少女のクリスタルは破壊されても暫くすれば再生する。

 再生時に持ち主の手元に無ければならないという条件はあるが、条件を満たせばクリスタルは復活する筈なのだ。

 しかし朱美の話が本当であれば、渡りにやられた魔法少女はこの例に入らずにクリスタルが回復できないと言う。


「渡りのモルドンは魔法少女のクリスタルを喰って取り込むのよ? 友香ちゃん、あなたのクリスタルの罅が埋まらないのはね、そこを埋める部分があのモルドンに吸収されているのよ」

「そ、それじゃあ…、私のクリスタルは…」

「渡りの口の中のクリスタル、それは奴が魔法少女から取り込んだクリスタルの結晶なのよ。

 多分、そのクリスタルの一部に、友香ちゃんから取り込んだクリスタルも使われているでしょうね。」


 魔法少女のクリスタルを食らうというのは、その言葉通りの意味であるらしい。 

 渡りのモルドンは魔法少女のクリスタルを取り込み、取り込まれたクリスタルは魔法少女の元には戻ってこない。

 回復する例はただクリスタルを破壊された場合であり、それを吸収された場合では話が変わるという事だ。

 クリスタルが再生できないという話にショックを受けていた早坂は、傍から見ても分かるほどに顔が青くなる。

 数年来の相棒というべきクリスタルが治る事が無いという事実が、早坂を打ちのめしてしまったらしい。


「でもね、逆を言えば奴のクリスタルを破壊すれば、友香ちゃんが取られたクリスタルを取り返せるかもしれないわ」

「確かウィッチさんは相打ちの形で、モルドンの口内のクリスタルにダメージを与えていたよな? 朱美、もしかして…」

「へー、こういう事には頭が回るのね、バカ春。 ご想像の通り、友香ちゃんと渡りが戦った後で、渡りの被害者の中でクリスタルが回復した魔法少女が居たそうよ。

 友香ちゃんの一撃があのくそったれのモルドンから、魔法少女たちのクリスタルを取り戻させたみたい」

「そ、それなら私の杖も治る見込みがあるんですね、朱美さん!!」


 モルドンの口内のクリスタルは魔法少女たちから集めた物であり、それを破壊すれば吸収されていたクリスタルは元の持ち主の元へと戻る。

 皮肉も早坂が自身のクリスタルと引き換えにした攻防は、かつて渡りの被害にあった名も知らぬ魔法少女を救う思わぬ結果を生んだようだ。

 今の話を聞いて再び希望を取り戻した早坂の顔色が戻り、強い口調で朱美に言葉を投げる。


「…それで、渡りのモルドンは何処に現れるんだ?」

「えっ、お兄さん? なんでそんな事が…」

「こいつの自信満々の態度を見れば察しが付くよ。 どうせ渡りのモルドンの居場所にも当たりが付いているんだろう?」

「…あなた、本当にバカ春? この察しの良さを少しでも勉強に使えれば、バカ春なんて呼ばれないですんだでしょうに…」

「俺をバカ春呼ばわりするのはお前だけだ!! いいからさっさと吐けよ、この聞屋が!!」


 朱美とそれなりに長い付き合いである千春は、彼女の話にまだ続きがある前提で話を促す。

 普段からお世辞にも頭脳的とは言えない千春の察しの良さを、朱美は若干気味悪がり軽口をたたく。

 しかし千春の言葉自体は否定することは無く、その想像が正しいことを暗に認めるのだった。




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