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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第四部 始まりの魔法少女
248/384

2-8.


 マスクナイトNIOHこと千春の登場は、魔女狩りの少女たちに取っては余程想定外の事だったのだろう。

 死神のマスクやフードで顔を隠した彼女たちの表情は見えないが、明らかに動揺している様子が窺える。

 しかし暫くして腹を括ったのか、彼女たちのリーダー格と思われるフード姿の少女が徐に口を開いたのだ。


「…NIHOと女があの街に入った事は、私たちも確認しています。 そのNIOHが此処に姿を見せたということは、私たちの策を早々に見破ったのですね?」

「あんまり大人を舐めるもんじゃ無いな、小娘の小細工なんてすぐに分かったよ…。 後は空を一飛びして戻ってきたのさ、そのお陰でシロがダウンしちまったがな…」

「例の使い魔ですね…」

「シロちゃん、頑張ってくれたのね…」


 さり気なく朱美の手柄を横取りした千春は、あたかも自分の力で魔女狩りの作戦に気付いた風に語っていた。

 経緯はどうであれ魔女狩りの思惑を理解した千春が、トンボ返りで街まで戻ってきたことは事実である。

 呑気に地上を走っていては間に合わないと、シロと一体化したバイクで空を飛んできていた。

 その道中に朱美経由で寺下から連絡が入り、友香が狙われている事実を知って直接この場所まで来たのだ。

 長距離飛行による帰還はシロに大きな負担を与えたのか、友香に手渡されたシロはまるでスイッチが切られたかのように微動だにしない。

 ぬいぐるみのように固まっているシロに対して、友香はその頭を撫でてその活躍を労った。


「でもいいのかしら、あの魔法少女から話は聞いたのでしょう? 私たちの能力も…」

「そうです、千春さん! 奴らは魔法少女の能力を封じるんです、千春さんも…」

「…だったら、俺は何で変身していられるんだ?」

「あっ…」


 魔女狩りはこちらを嘲笑うかのような態度で、彼女たちが持つ特異な能力について触れる。

 実際にその力を受けて魔法少女の力を封じられた友香は、焦ったような千春に警告を与えた。

 魔女狩りの被害に遭った丹心や友香は、魔女狩りの前では魔法少女の姿になれず力を使うことが出来なくなったのだ。

 しかし千春は全く動じる様子は無く、未だに赤い鎧のヒーローは健在であった。


「…魔法少女の力は万能じゃない、魔法少女の力を封じるお得意の能力にも制限があるんだろう。

 多分、そのフードのどちらかが魔法少女の力を封じている。 自身を中心とした一定範囲内に居る魔法少女を対象に、その能力を封じるって所かな?」


 魔法少女の能力が全知全能であれば、魔女狩りの少女は世界中の魔法少女の力を封じることも出来ただろう。

 しかし残念ながら魔法少女は与えられたリソースの範囲内でしか能力を構築できず、この魔法少女殺しの能力にも何らかの制限がある筈なのだ。

 魔女狩りを前にした丹心や友香が力を失った所を見ると、恐らく魔法少女殺しを持つ当人を中心とした一定の範囲しか効果を発揮しないのだろう。

 そしてこの事実は、マスクドナイトこと千春が今の魔女狩りの天敵であることを示していた。


「知っての通り俺の力は他の魔法少女から貰った物で、そいつは少なくとも此処には居ない。 お前たちの魔法少女を封じる能力の効果範囲にはな…」

「だから千春さんを街から追い出したのね!? それに千春さんに能力を譲渡した、魔法少女の存在を聞き出そうとしたのも…」

「……」


 能力の範囲内に居る魔法少女を対象とするのであれば、千春の力を封じるには彩雲と香がこの場に居る必要がある。

 しかし当然ながら二人の魔法少女はこの場に居らず、魔女狩りは千春の能力を封じられない。

 魔女狩りのリーダー格は千春の言葉に対して肯定も否定もしなかったが、先ほどまでの饒舌が消えた時点で暗に認めているような物であった。

 そして舌戦の不利を悟ったのか、死神が苛立たし気に千春に向かってきた。


「ごちゃごちゃ五月蠅いんだよ、この仮面野郎!!」

「友香は友達と一緒に下がっていろ、すぐに片を付けてやる」

「千春さん!!」

「お、お願いします…」


 残念ながら香の青いクリスタルが修復出来ていない現状では、NIOHの獲物であるヴァジュラを出せない。

 携えた鎌に対して無手で挑むしか無い千春は、友香たちに一声掛けてから死神に向かって行く。

 そんな千春に対してシロを預かった友香は心配げに名前を呟き、隣の友人は自分を救ってくれたヒーローに対して頭を下げていた。





 防御力が自慢のAHの型の鎧であれば、死神の鎌でも問題なく弾いてくれたかもしれない。

 しかしわざわざ刃物に自分から当たりに行くのも馬鹿らしいので、千春はその場で軽くサイドステップを踏んで鎌の軌道から外れる。

 力強く縦に振り下ろされた鎌はそのまま道路へと突き刺さり、地面に痛々しい傷跡を付けていた。

 そして千春は慌てて鎌を戻そうとしている死神に向かって、挨拶代わりに右こぶしを放ったのだ。


「くぅぅぅ!!」

「どうした、無抵抗の魔法少女しか相手に出来ないのか!!」

「馬鹿にしてぇぇぇ!!」

「ほい、ほいっと…。 おっと、隙あり!!」


 ファーストヒットを受けた死神は、続けざまに放たれた千春の挑発に対して感情的になってしまう。

 今度は地面に刺さらないように横薙ぎの軌道で、千春に向かって鎌を乱暴に振るっていく。

 その動きは確かに人間離れした鎌捌きであったが、しかし落ち着いて見れば動きを読むのは容易い。

 千春は余裕綽々と行った様子でその連続攻撃を交わしていき、その間隙を突いて今度は蹴りを放って見せる。


「あぁぁ…。 何で、何で当たらないの!?」

「魔法少女級の相手には、工夫が足りないなー! 相手はモルドンじゃ無いんだぜ!!」


 基本的に魔法少女が戦うのはモルドンと呼ばれる異形であり、その戦力差ははっきりとしていた。

 魔法少女同士が戦いでもしない限り、彼女たちが同格の相手との戦闘経験を持てないことは分かる。

 モルドンが相手ならば死神の乱暴な鎌捌きでも、十分に戦果を上げられただろう。

 しかし残念ながら相手が同格の魔法少女であるならば、モルドン相手と同じと言う訳にはいかない。

 特に不本意ながら魔法少女との実戦経験が豊富な千春には、今の死神の拙い鎌など全く通用しないようだ。


「それにこの場でその力を使えると言うことは…、魔法少女を封じる能力をレジストできるのか? いや、もしかして俺の同類か?」

「う、うわぁぁぁぁぁ…」

「そこまでよ、フォース!! NIOH、取引しない? 今日の所はお互いに不本意な遭遇だったわ、此処は痛み分けと言うことで私たちを見逃してくれない」

「セカンド、それは…」


 千春の言葉に対して明らかに動揺している様子の死神は、焦りを打ち消す様に叫びながら再び鎌を振るおうとする。

 しかし死神の特攻を遮るように、戦闘が始まってから少し離れた場所に移動していた魔女狩りのフード女が声を上げた。

 仲間から奇妙な名前で呼ばれたフードの少女は、あろうことか千春に自分たちを見逃せと取引を持ちかけて来る。


「何それ、先に襲ってきたのはそっちじゃ無い!!」

「セカンド! 私は嫌だよ、魔法少女なんかと取引するなんて…」


 魔女狩りが口にした提案は、友香だけでなく仲間からも不満の声が上がっていた。

 いきなり友人を巻き込んで襲ってきた友香から見れば、魔女狩りの提案は実にふざけたものであろう。

 そして魔女狩りの仲間も、憎き魔法少女に対して譲歩するような提案を認めたくないようだ。


「どう見ても今の状況は、こっちが圧倒的に優位だ。 やろうと思えば、お前たちを一網打尽に出来るのに、あえて見逃すなんて馬鹿な真似をすると思うか?」

「勿論ただでは無いわ…。 見逃してくれたら、これを返してあげる」

「それは…、私のクリスタル!?」

「クリスタルが人質代わりか、なる程ね…」


 そして現状で死神を圧倒している千春としても、此処で魔女狩りの連中を見逃す理由は全くない。

 既に丹心と言う犠牲者が出ている現状で、魔女狩りなんて危険分子を放置する訳にはいかないのだ。

 停戦を提案してきたフード女も現状の不利は重々承知しているようで、取引のテーブルに交渉材料を出してきた。

 それは間違いなく先ほど友香が魔女狩りによって奪われた、彼女のクリスタルに他ならなかった。



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