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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第四部 始まりの魔法少女
241/384

2-1.


 一人は千春の妹である彩雲(あやも)

 一人は千春と共に魔法少女専門動画サイトのマジマジで、動画作成に勤しんでいる協力者の(かおり)

 千春は二人の魔法少女から能力を託されたことで、"マスクドナイトNIOH"と言う名のヒーローとなった。

 あくまでその力の源は彼女たちであり、千春は彼女たちの代理人としてそれを使っているだけに過ぎない。

 そして魔法少女の力の源であるクリスタル、それが破壊されると持ち主である魔法少女は気絶する程のダメージを受けてしまう。

 俗に"ノックアウト"とも呼ばれている衝撃は、当然ながら千春では無く大本である彼女たちへと向かうことになる。


「あーあ、噂通りノックアウトの衝撃は辛かったなー。 本当、一瞬で意識を失うんですよ、あれ…。 壊されたクリスタルも、まだ治って無いし…」

「その件については何度も謝っているだろう、根に持ちやがって…」


 あの病院での"偽渡り"との戦いの最中、相手の策略に嵌った千春は少女たちから預かったクリスタルの一つを砕かれてしまう。

 それは千春の動画作りの相棒である香から預かった、青色のクリスタルであった。

 クリスタルが破壊された衝撃は自宅に居た香に襲い掛かり、彼女は椅子に座ったまま気絶してそのまま一晩過ごしたらしい。

 自室に籠って勉強している振りをしていたので、家族の前で気絶するという最悪の状況は回避できたのが不幸中の幸いだろう。

 偽渡りとの戦いから1か月以上経った今でも、香はノックアウトで受けたダメージのことを根に持っているようだ。


「だから今日はこうして、動画撮影に付き合ってやっているんだろう! 久々のNIOHチャンネルの動画作成だ、気合を入れてくぞ!!」

「○! ○○!!」

「ちょっと、置いて行かないで下さい! 全く、お兄さんは…」


 香は千春に対してノックアウトに関する不満を絶えず口にしているが、実の所を言えばそこまで気にしていなかった。

 白奈を守れず、一連の事件を引き起こした黒幕の手がかりすら掴めず、ただ悪戯に時間が過ぎていく。

 何も出来ない無力な己に絶望して、無気力状態だった千春のことを香は密かに心配していたのだ。

 しかし千春は最近になってようやく普段の調子を取り戻してくれて、以前のように香の我儘にも全力で付き合ってくれている。

 千春は気合を入れるとの宣言通り、まるで子供のように香たちを置いて夜の街を走りだしてしまう。

 彼の背後を相棒のシロが短い脚をトコトコと動かしながら着いて行き、香は遠くなっていく彼らの背中を楽し気に見ていた。


「お兄さん、すっかり元通りねー。 良かったわね、彩雲ちゃん」

「はい、これもマジゴロウさんのお陰です」


 身内である兄の暴走は恥ずかしいのか、笑みを浮かべている香の隣に居る彩雲は若干呆れている様子だ。

 しかし千春の妹である彩雲としても、兄が元気になったことは嬉しい限りである。

 千春が元気を取り戻した切っ掛けは、先日に行われた魔法少女マジゴロウの使い魔対決イベントだった。

 そのお祭り騒ぎに強制的に巻き込まれて、祭りの熱狂に取り込まれた千春は無気力な自分をかなぐり捨てて踊り始めてしまう。

 恐らく朱美の入れ知恵もあっただろうが、マジゴロウこと真美子のナイスアシストと言えるだろう。


「マジゴロウ、思わぬダークホースの登場ね。 この前のイベントの件もあって、NIOHヒロイン議論がまた活発になっているわよー」

「はぁ…」


 世間でも千春と真美子の急接近は話題となっており、一部界隈で話題となっているNIOHのヒロイン談義が激しさを増しているようだ。

 しかし実の兄が絡んだ恋愛談義には余り興味が無い彩雲は、生返事を返すに留めていた。






 魔法少女ウィッチこと友香の占いによると、今夜この街にまたモルドンが現れる予定らしい。

 "渡り"などと言う例外でも無い限り、ウィッチの占いの精度は確かなものだろう。

 普段であればウィッチが対処してくれるのだが、今日は事前に話を通して千春が仕事をこなすことになっていた。

 わざわざモルドン退治を引き受ける理由は、同行している香が構えているカメラを見れば一目瞭然だろう。

 今夜は香のクリスタルを破壊されたことへの詫びを兼ねた、久々のマスクドナイトNIOHチャンネルの撮影会なのである。


「何か懐かしわね…、この感じ…」

「朱美さんも居れば完璧でしたね…」

「あいつは調べ物で忙しくてな…。 まあ、今日の所はこのメンバーでやって見るさ」


 最初の頃はマジマジで活動している他の魔法少女たちと同じように、動画ランキングや視聴者数に一喜一憂するだけであった。

 千春と香はモルドン退治やら、NIOHのスペックを無駄使いした企画やらを撮影して、マジマジ用の動画作りに夢中になっていた。

 モルドン退治の時には彩雲や朱美もギャラリーとして参加して、夜の街中でモルドン相手に立ち回った物である。

 しかし気楽な一魔法少女としての、マジマジでの活動は長くは続かなかった。

 家庭の事情によりNIOHチャンネルを一時休止して、受験勉強に励むようになった現在中学三年生の香。

 "渡り"のモルドン、そしてその姿を真似た謎の使い魔"偽渡り"との戦いに巻き込まれた、マスクドナイトNIOHこと千春。

 様々な事情により千春と香が運営していた、マジマジのNIOHチャンネルは事実上の休止状態となっていた。


「…■■■■!!」

「お、時間通り…。 流石はウィッチだな…」


 事前にウィッチの占いで指定された場所に待機していた千春たちの目の前に、漆黒の異形がのっそりと姿を見せた。

 頭に特徴的な角を生やした人型の牛、ゲームなどでよく見かけるミノタウロスのような姿をしている。

 言うなれば牛型モルドンというべきそれは、他のモルドンたちと同じく奇妙な鳴き声と共に夜の街に現れた。

 モルドンを前にした香は早速カメラを構えて撮影を開始して、千春は香たちを守る様に一歩前に進む。


「お兄さん、さっきも言いましたが私のクリスタルはまだ修復中です。 AHの型しか使えないですけど、大丈夫ですよね?」

「ノープロブレムだ。 何しろ俺には、新しい力があるからな! 次の動画は、俺の新フォーム紹介回だ!! なぁ、シロ?」

「○○…、〇?」


 香のクリスタルが返却されていない今の千春には、彩雲から託されたAHの型に変身する力しか残されていない。

 二つ目のクリスタルの力で実現させているUNの型とヴァジュラの武装、そして切り札であるAH-UNの型は使用できない。

 しかし相手が渡りなどの規格外なら兎も角、普通のモルドンが相手であればAHの型だけでも十分過ぎる。

 加えて今日の動画のテーマを考えれば、香のクリスタルが必要になることはあり得ない。

 千春は足元に居る白いぬいぐるみのような姿をした使い魔シロに声を掛けながら、魔法のステッキに見立てた二本指を前に出す何時ものポーズを取る。

 自分の足元で不思議そうに小首を傾げている、使い魔シロの様子に気付くことなく…。






 今日の撮影で千春は先の偽渡り戦で見せた、シロと一体化したあの姿を試すつもりであった。

 シロがバイクと一体化した時に現れる、バイクを覆う白い装甲と巨大な機械翼。

 それが千春の体にそのまま再現されて、全く新しいNIOHが誕生したのである。

 理由が分からないが無惨に破壊されたクリスタルの状態から劇的に復活した今のシロは、バイクだけで無く千春と合体する能力を手に入れたらしい。

 しかし白奈のことを引き摺っていた千春は、彼女から受け継いだシロとの一体化を今日まで試そうとはしなかった。


「よし、シロ! あの時のように俺と合体しろ!!」

「…〇!?」

「だから合体だよ、合体! ほら、病院で俺を助けてくれた奴。 何時もバイクとやっているように、俺と一体化するの!!」

「…〇、〇??」


 牛型モルドンの前でマスクドナイトNIOH・AHの型へと変身した千春は、シロに対して自分と一体化するように指示する。

 しかし当のシロは千春の指示を全く理解していないようで、小首を傾げる角度が徐々に大きくなっていく。

 やがてバランスを崩してその場に転んでしまったシロを持ち上げた千春は、その体を自分の肩に乗せてやる。


「バイクでやっている奴と同じだよ。 ほら、俺の体に飛び込んでこーい!!」

「○○、○○!!」

「頑張るんだ、シロ! お前はやればできる子だ!!」


 肩に乗ったシロは言われるがままに、千春の顔に向かって飛び込もうとする。

 しかし幾らやってもシロの体が千春と一体化することはなく、傍目からは千春の顔に自分の顔を擦り付けてじゃれついているようにしか見えない。

 千春はあくまでシロとの一体化に拘るようで、自分の顔に向かって頭突きを繰り返している相棒にエールを送る。


「■■…、■■■!!」

「ちょっと、お兄さん! 前、前!!」

「危ないです!!」

「…へっ?」

「…○○?」


 そんな千春とシロの漫才に付き合ってられないとばかりに、牛型モルドンは奇妙な唸り声をあげながら突っ込んでいく。

 香と彩雲の声でモルドンの動きに気付いた千春たちであるが、既にモルドンは目の前まで来ているでは無いか。

 避ける処か身構える余裕すらなく、牛型モルドンのチャージを無防備に受けてしまう。

 モルドンの角が千春の赤い鎧と正面衝突してしまい、静かな街中に耳障りな金属音が響き渡った。



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