2-0. "魔法少女"を狩る者たち
"魔女狩り"、世界の異端者である魔女を排除する者たち。
中世の時代に行われていた魔女狩りの被害者の中に、どれだけ本物が居たかは定かではない。
もしかしたら当時にも超常的な力を持つ者が本当に居たかもしれないが、その殆どは冤罪だったろう。
そんな古き時代と比べたら、現代に蘇った私たちの魔女狩りは正当な物であると言える。
何しろ彼女たちはその不浄の力を誇る様に示しており、自分たちが人外であると自ら明言しているのだ。
人非ざる力を持った化け物、そんな奴らをこの世界にのさばらせておくわけにはいかない。
「ねぇ、"フォース"。 こいつ、最近ウザいよね…。 私たちの最初の生贄に、丁度いいんじゃない?」
恐らく何年も使われていないであろう、朽ちた工作機械があちこちに見える廃工場。
電気すら通っていないようで明かり一つ無い薄暗いこの場所に、どういう訳か三人の若い少女たちが集まっている。
その中で一番若い恐らく中学生くらいの少女は、可愛らしいリボンを頭に付けてワンピースを身に着けていた。
どうも廃工場には似つかわしくない姿をした少女は、自らの携帯を掲げながら隣に居る少女に話しかける。
「何、"シックス"? ああ、あの偽渡りにやられた雑魚か。 どう思う、"セカンド"?」
"フォース"と呼ばれた少女は、髪を少年のように短くしている高校生くらいの少女であった。
何かのスポーツ競技をしているらしい彼女の衣装は、機能性のみを追求したような地味なスポーツウェア姿だ。
自分に向けて携帯を差し出してきた少女、"シックス"の方に顔を向けて差し出された携帯画面を確認する。
彼女は目の前に出された携帯の画面、そこに映し出されているとある魔法少女のSNSページであった。
「NIOHとの繋がりもあるみたいだし、最初の獲物としては悪く無いわね。 良い提案よ、"シックス"」
フォースから意見を求められた最後の一人、"セカンド"と呼ばれた少女はある意味ではこの廃工場に一番相応しい姿をしていた。
年齢的にはフォースと同年代と思われるが、見た目から受ける印象は彼女とは正反対である。
葬式にも出るかのような黒一色の衣服、そして手入れが行き届いている長く艶やかなロングヘア。
更に前髪の一部を意図的に伸ばしているようで、顔の左半分が黒髪で完全に覆われているのだ。
廃工場に現れる幽霊のような姿をしたセカンドは、シックスが持ち掛けた提案に納得したらしい。
この世界に突如現れた異物にして汚点、魔法少女。
世間の連中はモルドンという脅威と戦う彼女たちを受け入れており、あろうことか人気者として祭り上げていた。
しかしそもそも魔法少女という化け物が居るから、同類の化け物であるモルドンが現れているのだ。
殆どの人間は愚かなことに魔法少女に取り込まれてしまったが、僅かながら世界の真実に気付いた者たちが居た。
魔法少女を全て排除すれば世界は正しい形を取り戻す、彼らは魔法少女の消滅を心から願っていた。
そして彼らの一部は受け身の姿勢を止めて、自らの意思で世界を正そうと行動を開始する。
「いいわ、最初のターゲットはこいつよ。 さぁ、始めましょう、私たちの復讐を…」
「いよいよ、この時が来たか…。 腕がなるわ!!」
「魔法少女なんか、全員消えちゃえばいいのよ…」
明らかに本名では無い奇妙な呼称を使う彼女たちは、見た目や年齢から共通項の見えない奇妙な集団であった。
若い少女には似つかわしくない何処かの工場跡に屯する彼女たちは、一見ただ雑談を楽しんでいるように見えた。
しかしその何気ない口調とは裏腹に、彼女たちの瞳には狂気と呼べる程に激しい敵意の感情が伺える。
魔法少女を敵視する謎の少女たち、彼女たちはただただ復讐の時を待ち望んでいた。
かつて復活した"渡り"に遭遇して辛うじて逃げ切り、後に"偽渡り"の奇襲を受けてクリスタルを喰われた不幸な魔法少女丹心。
偽渡りが倒されたことで奪われたクリスタルが戻り、力を取り戻した彼女は魔法少女としての日常に戻っていた。
また渡りや偽渡りと同等の化け物が出るのではと怯えつつ、今日も丹心は現れたモルドンと戦っている。
「よーし、お仕事終了! よかったー、今日も普通のモルドンで…」
その日は月が厚い雲で覆われており、か細い外灯の光が暗い夜の街を辛うじて照らしていた。
街中に現れた漆黒の異形モルドンは、この地域一帯を縄張りとしている魔法少女にあっさりと倒されたようだ。
"渡り"などと言う例外でもない限り、ただのモルドンは魔法少女の敵では無い。
袴衣装に刀を差した侍風の魔法少女は、クリスタルを砕かれたモルドンを眼下にして刀を仕舞った。
「ああ、写真を撮っておかないと…。 私のフォロワーたちに今日の勝利をアピールしないとね。 うーん、私も結構人気が出てきたみたいだし、マジマジにも進出しちゃおうかなー」
"渡り"と"偽渡り"の被害に遭った丹心であるが、その不幸な経験は思わぬ副産物を生んでいた。
これらの経緯が例のマスクドナイトNIOH動画を通して世間で知られて、彼女の魔法少女としての知名度は一気に急上昇したのだ。
学校の友人に勧められて始めた魔法少女としての公式SNSのフォロワー数は鰻登り、不幸な魔法少女は世間の人気者となっていた。
携帯を取り出した丹心は今日の戦果を写真に収めて、早速SNS上にアップロードしていく。
SNSだけに留まらずマジマジでの動画投稿も始めようかと、丹心の夢は大きく広がっていた。
しかしそんな彼女の幸せな気分をぶち壊すかのように、新たな不幸が彼女の前に現れたのだ。
「…あなたよね、2号って名前の魔法少女?」
「私の名前は丹心よ!? その呼び名は止めてくれる!! …て、何よ、あんたたちは」
何時の間にか丹心の背後に立っていた人間に声を掛けられた丹心は、抗議の声を上げながら振り向いた。
マスクドナイトNIOHたちと共闘していた時に付けられた、あの不本意な渾名で呼ばれた丹心は明らかに苛ついている様子である。
そんな彼女の目に飛び込んで来たのは、何やら奇妙な集団であった。
暗い夜道に溶け込むような漆黒のフード付きマントで体と顔を覆い隠している、得体の知れない三人の不審者たち。
当然ながら今宵はハロウィンでも無いので、時代錯誤な衣装で仮装している不審者を前にした丹心は動揺を隠せないでいた。
丹心は思わず先ほど仕舞った刀の柄に手を伸ばし、何時でも獲物を抜き放てるように構えながら相手を威嚇する。
「へー、いきなり刃物を使うんだー。 魔法少女って、やっぱり野蛮ねー」
「ふん、魔法少女なんて奴らは…」
「な、なんなのよ、あんたらは…」
この世界に魔法少女が誕生してから十数年、彼女たちの持つ規格外の力は世間に嫌と言うほど知られている。
普通の人間が魔法少女には絶対勝てない、それは今のこの世界での常識であった。
しかしこの集団はその常識を知らないのか、今にも刀を抜き放とうとしている魔法少女を前にしながら平然としていた。
丹心は魔法少女に対して全く怯えることなく、自分に対する敵意を隠そうとしない目の前の仮装集団に困惑する。
「私たちは…、お前たちの敵よ!」
「なっ!? …きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その夜、魔法少女丹心の不運伝説に新たな1ページが追加される。
"魔女狩り"の第一の犠牲者となった丹心は、傷だらけの状態で道路に転がされていた。
その周囲には砕かれたクリスタルの残骸がばら撒かれており、彼女が再び魔法少女としての力を失ったことを示していた。
無残な丹心の姿は彼女自身のSNS上に投稿されて、ネット上を通じて瞬く間に世間は拡散していった。




