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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第四部 始まりの魔法少女
233/384

1-6.


 多数の魔法少女への襲撃、魔法学部の施設破壊・所有していたクリスタルの強奪、果てには白奈がその短い生涯を終える切っ掛けにもなった一連の事件。

 その実行犯は志月という名の魔法少女と、渡りのモルドンの姿を真似た彼女の使い魔である事実は疑う余地は無いだろう。

 しかしこんな大掛かりな事件を、少し前まで病院で長期入院していた少女が一人だけで企てられるとは思えない。

 どのような手段で志月は被害に遭った魔法少女たちの居場所を突き止めたのか、ただの少女が最後まで尻尾を出す事なく犯行に及ぶことが出来たのか

 志月と言う哀れな少女を影で操った黒幕的な存在が居るであろうことは、千春たちの共通認識であった。


「あくまで消去法だが、魔法学部が黒幕であれば全て納得できる。 お前たちはその証拠集めのために、このイベントの影で動いていたんだろう? どうだ、何か分かったのか?」


 魔法学部は魔法少女の研究のために、独自のルートで彼女たちの情報を収集している。

 そのコネクションを活用して、引退した元魔法少女たちから研究用のクリスタルを買い取っていた程だ。

 彼らであれば志月に魔法少女の情報を流せるだろうし、先の魔法学部への襲撃も事前に打ち合わせ済みの茶番であったかもしれない。

 ただし魔法学部が志月と繋がっている証拠は皆無であり、そもそも彼らが志月に手を貸すメリットも見当たらない。

 それは他に志月を支援できるような者が見当たらないと言うだけの、本当に消去法で導き出した容疑者でしか無かった。

 しかし他に候補も見付からない現状であれば、唯一の容疑者に探りを入れるのも手であろう。

 千春は魔法学部の敷地内で行われているイベントに託けて、裏で調査していたと思われる朱美たちにその成果を尋ねる。


「…はぁぁぁぁ。 ……ちょっとこっちに耳を貸しなさい」

「なんだ、内緒話か?」


 朱美は嫌に長い溜息を付いた後、自分の隣を指さしながらこちらに近づく様に指示する。

 恐らく周囲に話を聞かれないように声を抑えて会話をするのだと判断した千春は、素直に朱美の傍まで近寄る。

 そのまま朱美の隣に移動した千春は、自身の耳を彼女の口元の方に近づけた。

 それを見た朱美は徐に手を伸ばして、目の前にある千春の耳を力一杯に引っ張り上げたでは無いか。


「…いてぇぇぇぇぇぇっ!? な、なにをする、朱美!!」

「肝心な所で抜けているわねー、バカ春! 私たちが今居る場所がどこなのか、少しは考えなさい!!」


 耳を引っ張り上げられた千春は痛みで悶えながら、朱美に対して抗議の声をあげる。

 しかし朱美はそれを無視して、先ほど自分が引っ張った千春の耳元に顔を近づけて小声で囁く。


「…盗聴されているかも」

「!?」


 朱美の放った言葉を聞き取った千春は、瞬時に真顔となってその意味を考える。

 盗聴、この場での会話が誰かに聞かれていると言うのか。

 慌てて周囲を見渡すが、千春たちの周囲にはこちらに聞き耳を立てている不審者の姿は見えない。

 千春は朱美の考えすぎでは無いのかと一瞬考えるが、目の前の様子を見てすぐにその結論を翻す。

 それなりに長い付き合いである千春は、今の朱美が冗談やおふざけを言っているのでは無い事が理解できたのだ。


「…例えばあんたの大好きなヒーロー物、そこに分かりやすい悪の組織が居るとするわね。 その組織が何らかのカモフラージュとして一般向けの施設を作ったとして、そこに何かしら細工するわよね?」

「真実に気付いたヒーローを嵌める罠とかな…。 まあ、警戒するに越したことは無いか…」


 仮に魔法学部が本当に志月を裏で支援したのならば、彼らはたの新興大学の一学部に留まらない力を持っていることになる。

 それは陳腐な表現かもしれないが、悪の組織と呼べるような組織であるかもしれない。

 そんな悪の組織が作り出した実験場に何があるかは分からず、朱美が懸念するように実験場内の監視や盗聴などをしていてもおかしくない。

 あくまで可能性の話であるが、リスクを避けるためにこの場で迂闊な話をしない方がいいだろう。

 千春は朱美たちとイベント後に喫茶メモリーで集まる段取りを付けて、次の競技に向けて実況席へと戻って行った。






 朱美の懸念通り、魔法学部が誇る巨大実験場での模様は密かにモニタリングされていた。

 集められた情報は魔法学部がある大学地下に設けられた、秘密の地下研究施設に常時送られている。

 そのモニタリング情報を収集している部屋で、魔法学部の雇われ魔法少女である彩花は暇つぶしに朱美たちの会話を盗み聞きしていた。


「ほー、良い勘してるっすね。 まあ、どう考えても怪しいっすよね、うちらは…」

「ちょ、ちょっと!? 大丈夫なの、NIOHたちが此処に気付いたら…」


 彩花は明らかに魔法学部を警戒している朱美たちの様子を見て、皮肉気な笑みを浮かべていた。

 その横で同じように地下施設内で暇を持て余していた少女、仮称"志月"はNIOHたちが此処に来るのかと怯えていた。

 諸々の事情により表を歩けない"志月"の居場所は、業腹であるがこの地下施設内しか無いのだ。

 NIOHたちに地下施設の場所が暴かれて、彼らに今の自分が見付かったらどんな扱いを受けるのか。


「大丈夫っすよ…。 連中の動きを監視してましたが、流石に此処には気付いて無い様子っす。 漫画じゃあるまいし、普通ならこんな地下施設があるなんて考えもしないっすよ」

「そ、そうよね!? よかった…」


 千春が好むような架空の作品内であれば、悪の組織が地下施設と言った秘密基地を持つのは当然の事だろう。

 しかし幾ら魔法少女やモルドンと言うファンタジーな存在が居ようとも、此処は現実の世界である。

 常識的な人間であれば魔法学部という大学内の一組織が、地下にこんな巨大な施設を持っているなどとは考えもしないだろう。

 ただの一大学教授でしかない粕田が、一体どのような手管を駆使してこのような施設を手に入れたのか不思議だ。

 彩花の話を聞いてとりあえず自分の安全が確認できた"志月"は、心底安心した様子を見せる。

 今の自分の在り方については思う所はあるが、少なくともまた死ぬのは御免なのだろう。


「ΛΛΛ! ΛΛ!!」

「うわっ!? じゃれつかないでよ、タナトス」

「いやー、すっかりその子に懐かれたっすねー。 あんたが同類ってことを理解しているかも…」

「そもそも何で私が、この使い魔と一緒に居ないといけないのよ!?」


 彩花との話が終わったと判断したのか、"志月"の隣に居た異形の怪物が彼女に向かって飛び掛かる。

 魔法学部がとある魔法少女から引き取った、異形のキマイラ型使い魔タナトス。

 この地下施設内での生活が強いられている"志月"は、同じく地下施設暮らしのこの使い魔とすっかり仲良くなっていた。

 その厳つい姿に反して人懐っこいタナトスは、普段は地下施設内で寂しく過ごしていることが多かった。

 そこに現れた新たな住人であり、粕田の研究に付き合わせられる時以外は基本暇人である"志月"は格好の遊び相手なのだ。


「一応、あのガロロって使い魔の対策っすよ。 そいつと一緒にいれば、あんたの匂いも誤魔化せるっすから…。 あんたが使い魔の範疇に含まれるかどうかは、不明っすけど…」

「そもそも此処に気付かれたらおしまいじゃない、絶対こじつけの理由よね!? 私にこの子の面倒を押し付けたいだけでしょう!! ああ、組み付かないで! 分かったわ、遊んであげるから…」

「ΛΛΛ! ΛΛΛ!」


 使い魔ライフを素体として誕生した今の"志月"が、使い魔の匂いを探知するガロロの能力に引っ掛かるかは不明である。

 少なくともガロロは過去に、千春の手伝いで人型使い魔と呼ばれる存在を匂いで捉えられた。

 そんなガロロが魔法学部の施設に訪れるのだ、流石に地下施設まで鼻が利くとは思えないが何かあったら困る。

 そこで"志月"を使い魔であるタナトスと一緒にすることで、タナトスの存在を"志月"の迷彩として利用したいらしい。

 普段から言われなくても"志月"に付き纏うタナトスであるが、少し前から粕田からの指示で彼女の傍から離れるなと指示されていた。

 その命令に喜んで従ったタナトスは朝から"志月"の傍を離れることは無く、今も遊んでくれと強請っている。

 魔法学部の手によって軟禁生活を送っている"志月"であるが、この地下施設で思ったより愉快な生活を送っているようだ。



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