1-5.
第三種目の早食い対決は、使い魔ミャーの圧勝で終わりを迎えた。
食後の休憩を兼ねて休憩時間を挟む予定になっており、第四種目は今から一時間後に行われることになる。
解説役である千春も同じように休憩することとなり、中継が切られている放送席で寛いでいた。
使い魔愛好会が用意した飲み物を口にしながら、今日の相棒である実況役の深堀と雑談に興じている。
「そういえば使い魔でも、食事を取る奴と取らない奴が居るよなー。 うちのシロとかは、そもそも口自体無いしなー」
「食事は使い魔の必須条件では無いのでしょう。 食事はエネルギー補給の手段では無く、単なる嗜好でしかない。 多分、食事を取らなくても使い魔が死ぬことはありません。
結局のところ、生みの親である魔法少女次第なんでしょう」
「ホープの件もあるしな…」
使い魔が食事をとることが出来るのは、あくまで創造主である魔法少女がそのように願って生み出されたからに過ぎない。
生物の姿をした使い魔は、普通の生き物と同じように食事を取る物だと魔法少女が意識・無意識的に判断しているのだろう。
事実としてぬいぐるみの姿をしたシロはそもそも食事をする口が存在せず、飲まず食わずで今日まで過ごしてきた。
あの痛ましいホープも定期的にモルドンは食していたようだが、本当に食事が必要であれば断続的にしか出現しないモルドンの摂取だけで生存できた筈が無いのだ。
「多分、使い魔の性格も生みの親の魔法少女ありきなんだろうな? その辺はあんたたちの専門だろう?」
「そうですね、ガロロちゃんやミャーちゃんが分かりやすい例です。 日常モードは犬のような姿をしているガロロちゃんは、真面目で主人に忠実。 猫のような姿をしたミャーちゃんは、気まぐれで余りいう事を聞かない。
恐らくこれも親である魔法少女が無意識の内に、犬や猫の特徴をイメージしてしまたったのでしょう」
「狼や虎の性格や特徴なんて、未成年の女の子が把握している訳ないもんなー。 馴染みのある生き物に寄せて来るのは、仕方ないことか…」
魔法少女の能力は、彼女たちが意識的・無意識的に思い描いた形が具現化した物である。
そして犬や猫の姿をした使い魔を想像した時に、余程ひねくれた人間でも無ければ元ネタである存在の特徴を意識してしまう。
もしかしたら犬の姿をした猫のような性格の使い魔も居るかもしれないが、大抵の使い魔は元ネタと似た性質を持つことになる。
ただし使い魔の中には龍のような架空の生き物や、ぬいぐるみのような非生物を模した使い魔も居る。
それらの使い魔は元ネタが居ないこともあり、生みの親である魔法少女自身の感性が大きく影響されるだろう。
「しかし意外に面白い対決になりましたね、今回のイベントは。 下手したらマジゴロウさんの圧勝で終わるんじゃ無いかと、心配してましたが…」
「そんなに真美子…、マジゴロウとあのプリンセスって子に差があるのか?」
「魔法少女プリンセスさんも使い魔系ジャンルでは上位に食い込んでいる強豪ですので、ギリギリ勝負が成り立つくらいの相手ではあります。
しかしあのマジゴロウさんと比べると、やはりね…」
五番勝負の第三種目を終えて、今の所は魔法少女プリセンスが先に2勝とリードしている状況だ。
仮に第四種目も魔法少女プリセンスが勝利したら、第五種目を迎える前に勝負は決着することになる。
どうやら現在の状況は深堀にとっては予想外らしいが、それだけ使い魔系ジャンルにおけるマジゴロウは圧倒的な存在なのだろう。
確かに魔法少女の使い魔に興味がある者ならば、ほぼ確実にマジゴロウの名前を知っている筈だ。
魔法少女の使い魔=マジゴロウという方程式が成り立つほどに、マジゴロウの知名度はマジマジにおいても際立っていた。
「そもそもマジゴロウさんがプリンセスさんの勝負を受けた事が不思議なんですよね。 マジゴロウさんとプリンセスさんでは、余り噛み合わないと思うのですが…」
「…どっちも使い魔系のチャンネルをやっているだろう? それが噛み合わないって…」
「お二人の衣装を見れば一目瞭然ですよ。 ファミリアショーの主役は使い魔ですが、プリンセスショーの主役はプリンセスさんなんです。
使い魔という共通点はありますが、両チャンネルの方針は真逆といっていい」
「ああ…」
マジゴロウが身に着けているのは実用性に特化したオーバーオール姿であり、お世辞にも洒落た衣装とは言えない。
プリンセスの名に相応しい、ひらひらの煌びやかな衣装を纏う対決相手とは大違いである。
ファミリアショーの主役はあくまで使い魔であり、マジゴロウは使い魔の魅力を引き出すための引き立て役でしか無い。
プリンセスショーの主役はお姫様である魔法少女プリンセスであり、使い魔ミャーはそれを引き立てるための忠実な僕なのだ。
確かに言われてみれば使い魔と言う共通点を除けば、両チャンネルの内容は完全に真逆と言ってもいいだろう。
「そもそもマジゴロウさんがこの手の挑戦を受けたこと自体も、非常に珍しいですよ。 基本的に彼女は使い魔にしか興味が無いので、使い魔同士のコラボイベントなら兎も角、対決イベントに乗るとは…」
「うーん、ガロロが復活するまで暫くファミリアショーを休業してたからなー。 休業中に離れて行ったファンを集め直すために、挑戦をうけたとか…」
マジゴロウが何より愛するのは使い魔であり、彼女は全ての使い魔を愛していると言っていい。
愛する使い魔同士が対決して勝敗を付けることに対して、マジゴロウがそれ程興味を示すとは思えない。
そう考えればこれまでの勝負の中で、マジゴロウが余り勝敗に拘っていないように見えた事にも納得がいく。
その証拠に先の戦いでマジゴロウはガロロに好きに食事をさせていた、真面目なガロロであれば彼女が一声掛ければ行儀をかなぐり捨てた筈なのに。
しかしそうであるならば深堀が言う通り、そもそもマジゴロウがプリンセスから挑戦を受けた理由が分からない。
それらしい理由を口にしてみたが千春自身も納得いくものではなく、マジゴロウに対する謎が深まるばかりであった。
実況席にずっと居ても退屈なので、千春は時間になった戻ると言って席から離れていた。
向かった場所は会場内に設置された観客席であり、今日の対決を呑気に観戦している暇人たちの所に出向いたのだ。
「あら、千春じゃない。 中々の解説振りだったわよ」
「NIOHさん、お疲れ様です!!」
「お前らなー」
観客席には朱美が魔法少女研究会の浅田と共に、ひそひそと内緒話している様子であった。
一緒に居た筈の友香の姿が見当たらないので、彼女は休憩中に席に離れているらしい。
「仕事はいいのかよ、運営さん。 他の連中は忙しく働いているようだが…」
「ははは、少々事情がありましてね。 もう少ししたら次の競技の準備に移りますがね…」
「…それで何か分かったのか。 流石にただイベントの手伝いに来たわけでは無いだろう」
「あんたも変なところで鋭いわねー。 それをもう少し学業に向けられたら、受験に失敗することも…」
「茶化すなよ、朱美!! …それで何か見つけたのか、この魔法学部で?」
今日のイベントの最中に朱美は浅田の姿を見た時、最初は単に遊びにでも来たのかと怒りもした。
しかし幾ら何でも彼女たちが白奈と志月の件を完全に放置して、こんなところでただ油を売っているとは思えない。
解説の仕事をしている間に朱美たちのことを考えていた千春は、ある結論に辿り着いたのだが朱美たちの反応を見る限りそれは正しかったらしい。
千春は軽く溜息を付いた後、今回のイベントにかこつけて魔法学部を探っていたであろう朱美たちを問いかけた。




