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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第四部 始まりの魔法少女
231/384

1-4.



 子供の頃に見たアニメ映画、それが(しずく)という名の少女の原点であった。

 綺麗な衣装を着たお姫様、そして彼女の友人兼ボディーガード役の大きな虎さん。

 美しい毛皮の虎を従える煌びやかなお姫様の姿は、今でも雫の心に焼き付いていた。


「キレーなおひめさま…。 うん、わたしもあんなおひめさまになって、トラさんとおともだちになるんだ!!」


 それは大抵の子供が抱くであろう、他愛のない夢であった。

 無知な子供時代にしか持つことが出来ないであろう、壮大で現実離れした願い。

 本来であればそれは年を重ねることで直面する、現実と言う重みの前に儚く消えてしまうだけの物だったろう。

 しかし幸運にもこの世界には、不可能を可能とする文字通りの魔法の力があった。

 やがて魔法少女の力を手に入れた彼女は、見事に幼い頃の夢を実現させたのだ。

 こうして虎型使い魔のミャーを従える、雫こと魔法少女プリンセスが誕生したのである。


「やったぁ、先週より上がっている! やっぱりあの動画の方が受けが…」


 マジマジで活動している他の魔法少女と同様に、世間へ自分たちの存在を知らしめたかった。

 頼りになる虎型使い魔ミャーを従えるお姫様となった自分を、より多くの人に見て欲しい。

 そんな軽い気持ちで始めたマジマジでの活動は、今では彼女の人生そのものとなっていた。

 ランキング形式でお姫様としての知名度が数値化されることは、マジマジで活動する上での大きなモチベーションだ。

 彼女は"プリンセスショー"のランキングに一喜一憂しながら、夢中で動画作りに勤しんでいた。


「マジゴロウ、この女が居る限り…」


 マジマジで地道に活動していた雫は数年がかりで、使い魔系ジャンルのランキング上位まで上り詰めていた。

 しかしそこで彼女は一つの大きな壁にぶつかってしまう、使い魔系チャンネルの原点にして頂点である"ファミリアショー"である。

 使い魔系ジャンルにおいて長年トップに君臨するファミリアショーは、雫がお姫様として輝くためには邪魔な存在であった。

 最古参の魔法少女であるマジゴロウの歴史は古く、彼女のファミリアショーを通して使い魔ファンになった者も多い。

 先の偽渡りの一件でファミリアショーが一時的に休業状態となっても尚、根強いファンたちの後押しもあってマジゴロウはその地位を保ち続けていた。


「やっぱりずるいわ、NIOHと組むなんて反則よ! …もうこうなったらあの手しか無いわね!!」


 更にマスクドナイトNIOHと共闘したことで使い魔ファン以外からの関心も集めるようになったファミリアショーが相手では、まともな手段では勝ち目がない。

 しかし幼い頃に抱いたお姫様への憧れ、数年もの月日を費やしてマジマジの世界で這い上がってきた過去が彼女から諦めと言う選択肢を消し去っている。

 そして彼女は一か八かの賭けに出る事にした、マジゴロウのファミリアショーに対して挑戦状を叩きつけたのだ。


 魔法少女同士の対決は、過去にマジマジの世界で何度も行われているイベントだった。

 人を超えた力を持つ魔法少女はそれだけで注目を集める、そんな彼女たちが対決するのだ。

 映画やアニメのような非現実的でど派手な戦いが、現実の世界で繰り広げられるのである。

 マジマジで注目を集めるには打って付けの題材であるが、これは毒にも薬にも変化する劇薬でもあった。

 仮に雫とミャーが対決に勝利したら、上手く行けばマジゴロウの牙城を崩す切っ掛けになるかもしれない。

 しかし対決でマジゴロウに敗北してしまえば、雫はマジゴロウ未満と言うレッテルを背負うことになるからだ。

 そうなってしまえばプリセンスショーとファミリアショーの格付けが完全に付いてしまい、彼女は永久に二番手以下のお姫様になってしまう。


「えぇっ、何でNIOHが出てくるのよ!? それにこんな大きな会場でやるなんて、どうしよう、ミャー!?」

「00…」


 マジゴロウが魔法少女プリンセスこと雫の挑戦を受けたことにより、両魔法少女と使い魔の戦いは決まった。

 しかしその対決イベントは、あれよあれよと言う間に雫の予想外の方向に進んでいく。

 最大の誤算は何処かから今回のイベントの話を聞きつけて、協力を申し込んできた使い魔愛好会の暴走であろう。

 このイベントを通して使い魔愛好会の知名度を上げたいと言う彼らの思惑により、発起人が怖気づいてしまう程に大規模な内容になってしまったのだ。

 最早引くには引けなくなった雫は自分がお姫様であると自らを鼓舞しながら、あの強大なマジゴロウとの対決に臨んだのである。






 今後のプリンセスチャンネルのためにも敗北が許されない雫としては、第一種目の迷路対決の時は気が気でなかっただろう。

 彼女の相棒である使い魔ミャーは、やるときはやる使い魔であることは彼女も理解している。

 しかしこの使い魔はやるときにしかやらない悪癖があり、その日常モードの姿にある通り気まぐれな猫のような性格をしていた。

 恐らく彼我の能力差を判断して勝ち目が無いと判断したのだろうが、早々に勝負を放棄して昼寝を始めた時などは卒倒するかと思った。

 そして第二種目では打って変わって見事な機転を利かせたミャーの活躍により、勝負はイーブンの状態に戻せた。

 数字的には互角の戦いを繰り広げている使い魔対決は、第三種目へと移行していた。


「さー、第三種目の早食い対決も終盤! ミャーちゃんが圧倒的にリードしています」

「ガロロの方は相変わらずのペースですね。 残念ですが、これはもう勝負が付きましたね…」


 使い魔対決五番勝負の第三種目、それは早食い勝負であった。

 皿一杯に盛られた食事は事前にリサーチしていた、使い魔ガロロとミャーの両者が好む食事である。

 よーいドンで勝負を開始し、先に皿を空にした方が勝ちと言うシンプルな対決であった。

 巨大な狼や虎の姿を模した戦闘モードを持つ使い魔たちである、皿一杯の料理など簡単に平らげることが出来るだろう。

 しかし両者の戦いは、第一・第二種目と同様に予想外の展開を迎えていた。


「しかし面白い結果になりましたねー。 同じ使い魔で、これだけ食べ方が違うとは…」

「ガロロの奴はお行儀が良い奴なので…。 どちからと言えば、ミャーちゃんの方が普通だと思いますけど…」


 四つ足の獣の姿をしているガロロとミャーが食事をするとなれば、口を直接皿に近づける犬食いとなってしまうだろう。

 ミャーは皿の上の料理を勢いよく口に含んでいき、その食べかすが皿の周囲に散らばっている。

 ガロロも食べ方自体はミャーと似たような物なのだが、皿の周囲には食べかすが全く落ちていないのだ。

 周囲を汚すことなく綺麗に食事をしているお行儀のいいガロロであるが、残念ながらその食べ方は今回の対決には不向きであった。


「美味しい、ガロロ。 よく噛んで食べるのよ」

「いっけー、ミャー! 頑張れぇぇぇぇ!!」


 ガロロを躾けたマジゴロウは余裕なのか、笑みを浮かべながら楽し気に愛する使い魔の食事を見守っていた。

 マジゴロウに見守られながらガロロは、マイペースに食事を勧めていく。

 一方のミャーは意外に食い意地が張っているのか、先ほどまでの無気力な姿とは打って変わって夢中で皿の上の料理を貪っている。

 その姿は正直言って雫が思い描くお姫様像とはかけ離れているのだが、今は勝負の方が大事なのだろう。

 そしてガツガツと食事を続けるミャーを力一杯応援している雫も、残念ながら余り魔法少女プリンセスの名に相応しくない姿であった。



みなさん、あけましておめでとうございます。

年末・年始は更新が滞ってしまって申し訳ございません、また今日からボチボチ投稿していこうと思います。

とりあえず明日も投稿する予定なので、よろしく。


以上です。

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