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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第四部 始まりの魔法少女
229/384

1-2.


 仮に千春が本気で拒絶をしたら、真美子は今回の立会人の件を取り止めてくれただろう。

 しかし家賃ゼロで居候生活をしている立場を考えれば、心情的に真美子の頼みは断りにくい。

 彼女が親戚の牧場を紹介してくれなければ、今でも喫茶メモリーの休憩室で寝泊りにしていたかもしれない。

 それに千春に課せられた役目はあくまで立会人であり、あのプリンセスとやらの様子を見れば万が一にも実力を行使する事態は起きないだろう。

 千春は日ごろの恩返しと考えて、使い魔対決の立会人としての立場を受け入れていた。


「いやー、名勝負でしたね。 やっぱり使い魔はいいですねー」

「何が名勝負だよ。 相手が昼寝を始めて自滅しただけだろうに…。 そもそもガロロの分身は今回の競技に…」


 千春の敗因はイベント当日まで、無気力な態度を崩さなかった事だろう。

 立会人という立場をそのまま受け取った千春は、当日の仕事は魔法少女たちの勝負に立ち会うだけだと捉えていた。

 必要以上に深入りしなくてもいいだろうと、イベントの段取りや詳細をろくに確認もせずに当日を迎えたのだ。

 それが蓋を開けて見れば千春は半ば強引に実況席へ座らせられて、解説役という面倒な役割も振られていた。

 既に千春の解説役のポジションは決定事項のようで、この状況で文句を口にしたら折角のイベント進行が滞ってしまうかもしれない。

 渋々と解説席に座った千春は、ガロロの圧勝で終わった第一種目の迷路対決についての解説を適当にこなしていた。


「ガロロー、よくやったわね! 偉いわーー!!」

「☆☆っ!!」

「ミャー! なんであそこで寝ちゃうのよぉぉ! ああ、シンデレラショーのイメージがぁぁぁぁっ!?」

「00…」


 魔法学部の実験場に設置された巨大迷路の出口では、今回のイベントの主役たちが一喜一憂していた。

 分身を使った人海戦術で一早く迷路から抜け出したガロロは、オーバーオール姿のマジゴロウに力強く抱きしめられている。

 ファミリアショーお決まりの過剰な愛情表現を受けて少し苦しそうであるが、勝利の喜びもあってから嬉し気な様子だ。

 迷路に飽きて途中でお昼寝タイムに入ってしまった敗者のミャーは、敗北のショックは全く無いようで眠たげにしている。

 今のミャーは本来の姿である巨大な虎の姿となっているのだが、瞼が閉じかかっている今の様子からは全く恐ろしさを感じない。

 ミャーは主である魔法少女プリンセスのお説教を聞き流しながら、その場で丸くなってしまうのだった。






 魔法少女の使い魔が勝負するのであれば、それなりの場所で無ければ周辺に被害が及んでしまう。

 一昔前なら魔法少女たちはこの手のイベント会場の選定に苦労したのだが、今ではそんな苦労をする必要はない。

 魔法学部が誇る実験場、研究のための撮影を条件にして魔法少女たちに無償で貸し出されている施設である。

 実際に千春たちはこの実験場で、対渡りの公開実験やマジカルレッドとの対決イベントを開いている。

 魔法学部側も大学の宣伝を兼ねて積極的に施設を提供しており、今では魔法少女たちの大規模イベントとして定番の場所となっていた。


「会場の整備が終わったら、次はジェスチャークイズか…」

「言葉通じない使い魔を相手に、どれだけ主である魔法少女との意思疎通が行えるか。 主従の絆が試される競技ですねー」

「さっきの迷路と言い、ペットの競技会みたいだなー」


 ファミリアショーとプリンセスショー。

 マジマジで活動中の使い魔系の有名チャンネル同士の戦いもまた、この魔法学部の実験場で行われていた。

 当然のように両者の戦いはマジマジで中継されており、不本意なことであるが千春たちの実況席の様子も映されている。

 流石に一般客は入れてないが、実験場の周囲には今回のイベントの関係者たちが対決の模様を観戦していた。

 その中には冷やかしにでも来たのか、朱美や友香などの千春の知り合いの姿もあった。


「あの迷路はあんたたち、使い魔愛好会が作ったんだろう? よく出来てるよなー」

「はっはっは、ただの工作ですよ。 それっぽく見えますが、素材はただの厚紙ですかねー」

「好きだねー、あんたたちも…」


 五番勝負によって勝敗を付けることになっている、今回の使い魔対決イベント。

 その第一種目で使用された巨大迷路が、イベントスタッフたちによって撤去されていく。

 話によると今回のイベントは使い魔愛好会という、怪しげな団体のメンバーが取り仕切っているらしい。

 どうやら使い魔界隈によっては彼らは有名な存在らしく、真美子もファミリアショーの活動で何度か世話になっているそうだ。

 千春と共に実況席に座る優男もまた使い魔愛好会の人間であり、彼は今日の勝負の審判役も兼ねている深堀(ふかほり)なる人物だ。

 魔法少女に金儲けは御法度であり、当然ながら今回のイベントも金銭的な利益は発生しない。

 彼らはあくまで純粋な趣味で、これだけの準備をしてくれているのである。


「私たちは使い魔が大好きなんですよ、ガロロちゃんとミャーちゃん。 彼らの熱い対決を見られるだけで、私たちは満足なんです。

 それに私たちだけの力では、これだけのイベントを開けませんよ。 ほら…」

「へ…、あれは会長さん!? もしかして…」

「魔法少女研究会さんは、我々使い魔愛好会と協力関係にあります。 後は魔法学部の学生たちにも、手伝って貰っていますし…」

「あいつら…」


 深堀が指し示した方を見ると、顔見知りの人物が他のスタッフたちと一緒に迷路の撤去作業をしているでは無いか。

 魔法少女研究会の浅田、よくよく見れば他にも見覚えのある研究会メンバーが忙しく働いている。

 何となく予想はしていたが、使い魔愛好会なる組織は千春と縁深い魔法少女研究会と繋がりがあるらしい。

 全く人のことは言えないのだが、研究会の連中は志月の件を放り出して密かに今日の準備を進めていたようだ。

 今日まで腐っていた自分が彼らに文句を言える筈も無く、千春は魔法少女研究会の面々に対してやるせない思いを抱く。


「使い魔愛好会は文字通り、使い魔を愛する者たちの互助団体です。 魔法少女によって生み出された使い魔は色々な面で、一般的なペットと異なります。 時には生みの親である魔法少女が持て余してしまうことも…」

「…使い魔ホープ」

「あれは痛ましい事件です。 あの当時に我々が活動していたら、ホープちゃんを救えたかもしれないのに…。 我々は使い魔がこの世界に受け入れられる手伝いをしたいのです」


 今では一般的となっている日常モードだけの姿を見れば、使い魔を他の既存のペットと同一視してしまうかもしれない。

 しかし使い魔は使い魔、魔法少女という強大な存在が生み出した常識外の存在である。

 使い魔ホープが生みの親である魔法少女に捨てられた一件のように、使い魔が人々に受け入れられなかった悲劇は少なからず起きているだろう。

 どうやら深堀が所属する使い魔愛好会と言う組織は、その名の通り使い魔たちのために活動しているらしい。

 ホープの一件は千春も思う所があり、千春は今日初めて知った使い魔愛好会なる組織に好印象を持ち始めていた。


「ガロロちゃんやミャーちゃんのような使い魔たちを助けたいと言う方が居ましたら、使い魔愛好会にご協力をお願いします! 連絡はこのアドレスに…」

「…はぁ!? 話の落ちは宣伝かよ!!」

「我々は魔法少女研究会さんと違って、知名度が低いんです! この機会に私たちのことを世間に知って貰わないと!!

 何時でも連絡待ってまーす! 我々は使い魔を愛する仲間を何時でも受け入れて…」


 残念ながら使い魔愛好会が今回のイベントに協力した理由は、純粋な使い魔に対する愛だけでは無いらしい。

 何やら千春としんみりとした会話をしていたと思いきや、いきなり自分たちの組織のメンバー募集を始めたでは無いか。

 実況席の状況は今も配信しており、マジマジでトップ層に位置するファミリアショーがメインを張る今回のイベントの視聴者数は凄まじい数だろう。

 そこで使い魔愛好会なる組織をアピール出来たならば、その宣伝効果は絶大な物に違いない。

 千春は必死の形相で使い魔愛好会を宣伝している深堀の姿を見て、先ほどまで抱いていた好印象を溝に投げ捨てるのだった。

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