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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
222/384

6-22.


 本来であれば消灯時間を迎えて、静かな夜を迎えている筈だった病院の駐車場。

 しかし今では駐車場側の病室の電気は付けられており、患者や病院関係者たちが恐々と窓からその戦いを覗き込んでいた。

 か細い電灯と病院側から洩れる光に照らされた駐車場で、黄金の鎧を纏う戦士と黒い異形が交差する。

 マスクドナイトNIOH・AH-UNの型の姿となった千春は、AHの型に由来する膂力とUNの型に由来する超感覚を駆使して偽渡りと渡り合っていた。


「どうした、そんなものか!!」

「ヲヲヲ、ヲヲヲ!!」


 実を言うと千春はこの瞬間まで、偽渡りを相手に手加減して戦っていた。

 偽渡りを作り出した魔法少女と思われる奇跡の子、志月を尋問するための材料としてこの戦いが中継されている事は把握している。

 理想を言えば志月から自白を促すまで、出来るだけ偽渡りとの戦闘を長引かせたいのだ。

 千春の立場としては白奈の命が第一なので、状況によっては偽渡りを倒すことを優先することは伝えてある。

 そもそもマスクドナイトNIOH・AH-UNの型は強力な分、千春に掛かる負担も大きいのでお世辞にも長期戦向きではない。

 そして先ほどから本気を出してきた偽渡りを相手にこれ以上戦闘を長引かせるのは難しく、千春はそろそろ潮時であると判断しよとしていた。


「"…ごめん、最後で詰めを誤ったわ。 志月ちゃんが偽渡りの魔法少女であることはほぼ確定したけど、本人からの自白を取る前に家から追い出された"」

「"おいおい、自称ジャーナリストさん。 もうギブアップかよ、これが本職ならスッポンの如く相手に喰らい付いて…"」

「"不本意なドクターストップよ。 志月ちゃんが突然倒れちゃったの、多分そっちの使い魔が本気を出したせいね。 今は病院まで搬送中、もう少ししたらそっちに来るんじゃない…"」

「"ちぃ、そういうことか…"」


 千春が偽渡りを倒す覚悟を決めた頃合いを見計らったかのように、事前に装着していたイヤホンマイクか朱美の声が飛び込んで来た。

 どうやら朱美は最終的に志月の父親から家を追い出されてしまい、千春に作戦失敗を連絡してきたらしい。

 使い魔からの支援が無くなった志月の体調は一気に悪化し、その急激な変化は彼女に多大な負荷を掛けてしまう。

 演技で無く志月はあの場で本当に意識を失ってしまい、志月の父親は慌てて娘を病院まで連れて行ったのだ。

 朱美の話が本当であれば、偽渡りが本気を出した事が原因で彼女は倒れてしまった。

 その因果関係に鑑みれば志月と偽渡りの関係は明白であり、朱美の言う通り彼女の犯行はほぼ確定と言えるだろう。


「"こっちももう限界だ。 そろそろ片を付けるぞ"」

「"なるべくクリスタルは避けてね。 あの感じだとその使い魔が死んだら、あの子は…"」

「"努力はするよ。 ちょっと乱暴だけど、手足を落とせば無力化できる筈だ。 クリスタルをやれれるよりはましだろう"」


 恐らく主である志月の方に力の一部を供給していた、先ほどまでの偽渡りであれば倒すのは簡単であった。

 しかし今の全力戦闘を始めた偽渡りでは、下手すればこちらが喰われかねない。

 感触として倒すだけなら何とかなるのだが、クリスタルを傷つけずにそれが成せるかは微妙な所だ。

 先の戦いで偽渡りが見せたあの強力な回復能力は、志月の病に対抗するための能力を流用した物に違いない。

 あれは偽渡り固有の能力でほぼ間違いなく、生半可なダメージならば同じように回復される筈だ。

 流石に手足を根本から落とせばすぐには回復できないだろうと、千春は偽渡りに向かってヴァジュラを振りかざした。






 千春が自身の勝利を確信しているように、偽渡りこと使い魔ライフも彼我の力量を十分に把握していた。

 理由は分からないが千春は威勢のいい口の割には消極的であり、攻めに転じて来ても一定のタイミングで引いてくる。

 恐らく千春が積極的に攻勢に出ていれば、既にライフは倒されていた筈だ。

 しかし何時までも千春が受けに回っているとは思えず、何時かはその瞬間が訪れるに違いない。


「あぁぁぁぁっ!!」

「ヲヲ、ヲヲっ!?」


 そして千春がヴァジュラを片手に突貫してくる姿を見たライフは、サービスタイムが終わったことを悟る。

 ライフの目的はあくまで白奈の命であり、此処でマスクドナイトNIOHという難敵を倒す必要は無い。

 しかし目の前に居る千春を無視して白奈の元に向かうのは難しく、運よく相手の隙を付いたとしてもこの場にはカバー役としてガロロの分身たちも控えている。

 使い魔の分身などライフの敵では無いのだが、それに対処する僅かな時間の間にマスクドナイトが来てしまうだろう。

 結局の所、目の前に居るマスクドナイトが居る限りはライフは使命を果たす事は出来ないのだ。


「ヲ…、ヲヲ!!」

「なっ、煙幕だと!?」


 そこで使い魔ライフは、密かに隠し持っていた一回限りの奥の手を出してきた。

 本物の渡りのモルドンであると偽装するために施された、最早意味があるとは思えないライフの胸元に何重も巻かれた布。

 実はその下には志月が魔法学部を通して手に入れた、対マスクドナイト用の奥の手が隠されていた。

 ライフは布の下に隠されたそれを取り出し、事前にレクチャーされた通り操作をする。

 するとライフを中心に当たりが一瞬で白い煙に包まれて、千春たちの視界を覆ってしまったでは無いか。

 ライフに向かっていた千春はあえなく煙に呑み込まれてしまい、相手の思惑通り視界を潰されてしまう。


「ガロロ、煙から離れてろ! 奴が出てきたら知らせろ!!」

「「「「☆!!」」」」


 千春は相手の逃走を防ぐために、一定の距離を保ちつつ円状に布陣していたガロロたちに声を掛ける。

 こちらと違って相手から距離を置いていた分身たちは、まだ煙に飲まれて無い筈だ。

 この状況で真っ先に考えられるのは、相手の視界を潰したライフがそのまま白奈の元に向かうことである。

 千春はガロロの分身たちに、偽渡りが煙から出てきたらすぐに知らせるように命じた。


「ふん、俺に目くらましが通用するかよ。 分かるぞ、お前の気配が…」


 万が一に備えてガロロの分身たちに指示をした千春は、そのまま仮面越しに瞳を閉じて感覚を研ぎ澄まされた。

 今の千春にはUNの型由来の鋭敏な感覚があり、例え視界が潰されても他の感覚で相手の動きを容易に掴める。

 千春は煙の中を動く微かな足音や相手の匂いを感じ取り、手に取る様に偽渡りの動きを把握する。

 どうやら相手はこの煙幕を使って逃走するのではなく、あくまで千春を倒すために利用するつもりらしい。

 背後からゆっくりと忍び寄ってくる偽渡りの気配を前にして、千春はその場で微動だにせず待ち構える。


「そこだぁぁぁ!! …なっ!?」


 そして偽渡りがヴァジュラが届く距離までやって来た瞬間、仮面の下で瞳を開いた千春は背後に振り向きながら刃を振るう。

 煙幕の中とは言えこの距離であれば相手の影を辛うじて捉えられる、確かにそこにはあの人型蜥蜴の姿があった。

 視覚だけでなく千春の強化された感覚は、確かに相手がそこに居ると伝えている。

 しかし相手の存在を訴えている千春の五感とは裏腹に、ヴァジュラの刃は何も捉える事無く空を切ったのだ。

 自身の五感とヴァジュラの感触との差異に面を喰らった千春は、驚きの声を漏らしながら一瞬硬直してしまう。

 それは何時の間にか千春の足元に来ていた、尻尾の無い小さな蜥蜴に致命的な隙を晒していた。


「…ヲヲヲヲヲヲヲっ!!」

「なっ!? あぁぁぁっ!!」


 次の瞬間に千春たちには始め見せる掌サイズの日常モードから、異形の戦闘モードに戻ったライフが無防備な千春に向かって爪を突き立てる。

 ヴァジュラを振り切った状態で固まっていた千春が気付いたときには、既にライフの鋭い爪が腹部のベルトに到達していた

 そして自身を襲う衝撃と共に、千春の耳にクリスタルが破壊された時の嫌な音が飛び込んで来た。


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