表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
221/384

6-21.


 志月と偽渡りの繋がりを証明する一番の方法は、何処かに隠れている偽渡り自身を見付け出すことだろう。

 朱美が主導した情報操作により、使い魔の匂いを嗅ぎ分けるガロロと言うジョーカーの存在はまだ志月たちに知られていない筈だ。

 魔法少女と使い魔が常に距離を置いているとは思えないので、ガロロを使って志月の周辺を探れば偽渡りと一緒に居る瞬間を掴むことも出来ただろう。

 しかしそれには一つ問題がある、追い詰められた志月たちが実力行使をした時に対処できる戦力が千春しか居ないのだ。

 それならば千春も一緒に志月の周辺を探れば解決するが、そうしたら白奈の傍から離れることになる。

 仮に千春と偽渡りが入れ違いとなり、千春の不在の病院に偽渡りが現れたら悲惨な結末となってしまう。


「少なくとも白奈ちゃんがもう少し回復するまでは、千春は病院から離れそうになかったら考え方を変えたのよ。 偽渡りが病院に現れた瞬間なら、志月ちゃんを無力化出来るって…」

「…っ!?」


 千春が病院の方で偽渡りと戦っている瞬間、朱美は使い魔が不在となり無防備となっている筈の志月の元を訪れていた。

 朱美は感情が込められていない淡々な口調で、志月と偽渡りとの繋がりに関する推測を語っていく。

 そして志月に圧力を掛けるつもりなのか、このタイミングで自分が現れた理由についても披露していた。

 確かに偽渡りこと使い魔ライフが居ない志月は無力な少女であり、魔法少女である友香を連れて現れた朱美にはとても太刀打ちできないだろう。

 抵抗する術を持たない志月は下手に口を開けば迂闊な発言をしそうだったので、無言で朱美の話を聞いているだけであった。


「そ、そんな馬鹿なことがあるか!! 私の娘がそんな事をするわけ無い、そうだろう、志月?」

「…お、お父さん」

「志月…」


 先ほどまで呆然とした表情で朱美の話を聞いていた志月の父は、此処でようやく再起動を果たしたらしい。

 自分の娘が不治の病を治すため、この画面上に映っている化け物を使って何人もの魔法少女を襲ったなど信じられる筈も無い。

 彼の理性的な部分は医者も匙を投げていた病を克服した奇跡の種がこれだったのかと、ある意味で納得した気持ちもあった。

 しかし志月の父親でもある彼は感情的な面でそのような事実を認められず、必死に朱美の推論を否定しようとする。

 そして縋る様に志月の方を見る父親の目に飛び込んで来たのは、見るからに青褪めた表情をしている娘の姿であった。

 それは自らが犯した罪を糾弾されて苦しむ罪人のそれであり、志月の父親の胸に絶望に近い感情が生まれる。


 志月は朱美に追い詰められながらも、未だに自らが偽渡りを生み出した魔法少女であるとは自白していなかった。

 しかしこれまでの彼女の反応や、偽渡りのクリスタルが破壊されることを拒む態度は自白しているも同然である。

 その証拠に志月の父親も朱美の話を信じ始めたようで、娘に対して疑いの目線を向け始めていた。

 残念ながらこれまでの話はあくまで状況証拠を積み上げた推論でしか無く、志月自身が自白しなければ彼女が魔法少女であることを証明できない。

 別に司法機関に委ねる訳でも無いので状況証拠だけでも構わないのだが、少なくとも志月自身の言葉を聞かなければ隣に居る父親は納得しないだろう。


「それなら志月ちゃんと偽渡りは、何の関係も無いのですね。 それなら私たちの方で、これを排除して何も問題は無いですね…」

「わ、私を脅す気なの!? 仮にあなたの言う通りなら、この使い魔が倒されたら私も死ぬことになるのよ?」

「違うなら問題ないでしょう? この使い魔を倒さないと一人の少女の命が脅かされるの、それなら…」


 少々卑怯であるが朱美はこのまま偽渡りのクリスタルを交渉の材料として、志月に罪を告白させようと試みる。

 そのために魔法少女研究会と連携して、わざわざ千春と偽渡りの戦いを実況中継しているのだ。

 予想通りあの渡りの姿をした使い魔は志月の生命線であり、それが倒されることは彼女の命に拘わるらしい。

 千春には事前に偽渡りのクリスタルを狙わないように指示しており、志月も薄々これは脅しであると理解しているだろう。

 しかしそれでも自分の命が他人に握られている状況は、酷ではあるが志月を確実に追い詰めていた。

 本当であれば未成年の少女に此処まで酷いことはしたく無いのだが、白奈の命を狙った彼女たちをこれ以上放っておけない。


「…うぅぅ!?」

「!? 志月、大丈夫か、志月!!」

「え、何よ…」

「朱美さん、画面を見て下さい!!」


 画面上で千春に追い詰められている偽渡りの状況もあり、この調子で押せば志月も罪を認めるであろう。

 朱美が内心で勝利を確信したその瞬間、志月が朱美の話を遮る様に苦悶の表情を浮かべたでは無いか。

 最初は下手な演技かと思ったが、これが演技であれば女優になれる程に志月は苦しみ始めたのだ。

 隣に居る父親は慌てて娘を介抱し始めて、朱美の隣で話を聞いていた友香が先ほどから中継されていた病院の映像を指差す。

 そこには先ほどまで劣勢であった偽渡りが、突如今までにない力強さで反撃を始める様子が映し出されていた。


「これはあの時と同じ…。 偽渡りが本気になったんだ、志月ちゃんに力を回せない程に…」

「話は此処までだ、今日はもう帰ってくれ!」


 志月が苦しみ始めた直後に、千春と戦っている偽渡りが強化された。

 朱美はすぐにその因果関係に気付き、志月が偽渡りの魔法少女である証拠がまた一つ積み上がった。

 しかし理由がどうであれ志月は今にも死にそうな状態で苦しんでおり、父親としては娘を守らなければならない。

 志月の父親は娘が苦しんでいる原因が朱美であると言わんばかりに、声を荒げながら朱美を家から追い出そうとする。


「っ!? まだ話が…」

「娘を殺す気が!! これ以上、あんたたちと話す気はない!!」


 志月が偽渡りを生み出した魔法少女である事はほぼ確定したが、分からないことは山ほど残っている。

 これまでの犯行を本当に一人だけで行っていたのか、白奈を襲った理由は何なのか。

 まだ志月に聞きたい事がある朱美は、こちらを追い出そうとする父親を説得しようとする。

 しかしこれ以上娘を苦しめたくない父親は、朱美の訴えに聞く耳を持ちそうなかった。






 それは何時かの戦いの焼き増しであった。

 千春たちが魔法少女たちと共に偽渡りを追い詰めて、相手に止めを刺そうとする瞬間であった。

 偽渡りはこれまで隠していた真の実力を開放して、逆に千春たちへ逆王手を掛けたのだ。

 そして今宵の戦いでも千春のヴァジュラが偽渡りの体を貫こうとした瞬間、偽渡りの動きが急激に変化したのだ。


「ヲヲヲヲっ!!」

「くっ!? こいつ、いよいよ本気を出してきたか…」


 偽渡りこと使い魔ライフが常時発動している志月の病を抑える能力を止めて、持てる全ての力を戦闘に次ぎ込む。

 もう後が無い使い魔は再び主である志月を苦しませる事になる、全力戦闘と言う切り札を出してきた。

 急激に強化された偽渡りのパワーとスピードに面を喰らった千春は、相手のラッシュに対処するのに精一杯となってしまう。

 いつの間にか両者の攻守は逆転しており、千春は次々に降りかかる爪の斬撃を捌くのに忙しい。

 しかし残念ながら偽渡りの攻勢は、余り長続きしなかった。


「忘れたのか、偽渡り! 俺は本気を出したお前にも勝ったんだぞ!!」

「ヲヲ、ヲヲヲっ!?」


 突然の動きの変化に最初は戸惑ったが、結局の所は以前の戦いでの最終局面と同等の性能になったに過ぎない。

 落ち着いて対処すれば、千春のAH-UNの型の力で十分に対抗できる物でしか無いのだ。

 加えて偽渡りは相変わらず高速移動などの能力を使う様子は無く、両腕の爪や長い尾を使った肉弾戦しか使ってこない。

 魔法少女から奪った厄介な能力が無くなった偽渡りでは、今の千春を押し切れる筈も無い。

 折角切り札を出したのにも拘わらず、両者の戦いの均衡はまた千春の方に傾き始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ