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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第一部 魔法少女専門動画サイト"マジマジ"
22/384

6-4.


 変身した千春の姿は、青い鎧のUNの型。

 見るからに危ない鎌を持つモルドン相手に素手はまずいと判断したらしく、即座にヴァジュラを手に取る。

 柄の中心部分を起点にヴァジュラの上下を数十度曲げて、銃型に変形させた千春は銃口を相手に向けた。

 放たれるは雷撃、ヴァジュラの先端から稲妻の如きエネルギー弾が放出された。


「■■、■■■■!?」

「はぁ、こっちの弾を切り裂いた!? 漫画かよ…、まだまだ!!」


 迫り来る銃弾に対してモルドンが取った行動は迎撃、何とモルドンは自慢の鎌でそれ切って捨てたのだ。

 回避や防御するくらいの事はすると思っていたが、流石に弾丸を真っ二つにされるとは予想外である。

 一瞬呆気に取られた千春だが、負けじとヴァジュラから次々に閃光を放っていく。

 夜の街に雷の如きの閃光が、異形の怪物に向かって降り注いだ。


「…■■■!!」

「ちぃ、来るか!?」


 連射される弾丸を全て防ぐのは難しく、モルドンの体は徐々に傷ついていった。

 しかし急所と言えるクリスタルだけは片腕の鎌でしっかり守っており、その動きに衰えは見られない。

 そしてモルドンがただやられている訳も無く、銃撃を掻い潜りながら千春に向かって飛び掛かる。

 距離を潰されては飛び道具は不利だと判断した千春は、ヴァジュラを真っ直ぐに戻して両刃を展開させた。

 モルドンの鎌と千春のヴァジュラの刃が交差した。


「いっけー、NIOH!! モルドンなんて真っ二つだ!!」

「凄いなー、このバイク! おい、この羽凄いぞ。 これで空を飛んでるのか…」

「□□□□!、 □□□!!」

「止めなよ、健司くん。 嫌がってるよ」


 モルドンと戦っている千春の背後では、シロに庇われている子供たちの姿があった。

 マスクドナイトNIOHやバイクと一体化しているシロに興味津々の子供たちの表情には、先ほど前の恐怖の表情は見えない。

 待ち望んだヒーローの登場は、少年たちに安心感を与えていた。











 空へと消えた千春が帰ってこず、戦闘音らしき音が聞こえてきたら待っている訳にもいかない。

 音を頼りに遅まきながら現場に辿り着いた天羽たちが見た光景は、子供たちを庇いながらモルドンと戦う千春の姿だ。

 車の中で慌ててマスクを付けた天羽は、正体を隠すつもりが無いらしい素顔の寺下と朱美と共に千春たちの元へと駆け寄る。


「ああ、もう!? 何やっているのよ、お兄さんは…。

 君たちはマスクドナイトNIOHに助けて貰ったのかな?」

「ああ、動画の人だ!! うわっ、俺たちも動画に出られるのかな!!」

「うん、あのお兄さんが助けてくれたんです」

「格好良かったよなー。 バイクで空からぴゅーって飛んできてさ…」


 シロに守らている子供たちの所まで来た天羽は、携帯を取り出して撮影を開始する。

 千春とモルドンの戦闘シーン撮影を朱美にお願いした天羽は、状況的に千春が助けたらしい子供たちにインタビューを行う。

 マスクドナイトNIOHのチャンネルの動画を見ていた子供たちは、すぐに天羽の事を察したようだ。

 マジマジに登場する自分たちの姿を想像しながら、少年たちは天羽の携帯の前で楽し気に感想を語る。


「痛っ…」

「あら、血が出てる。 ごめん、ちょっと携帯を持っててくれる。 ええっと、ハンカチは…」

「まずは傷口を洗った方がいい。 この水を使いなさい」


 モルドンの逃走中に転んでしまった勉が、今更ながら転んだ時に付けた傷の痛みに気付いたらしい。

 傷の痛みに対して目に涙を浮かべる少年の姿に、天羽が慌てて手当を施そうとする。

 背後で天羽たちの様子を見ていた寺下も現れて、手に持ったミネラルウォーターのペットボトルを使う様に促した。


「ああ、危ない!? モルドンの鎌が当たっちゃう!!」

「おお、上手く避けたぞ! マスクドナイトNIOHの反撃だ!!」


 怪我の手当て中の勉を無視して、亮太と健司は千春とモルドンの観戦に熱中していた。

 治療のために預かった携帯を勝手に使って、実況付きで千春たちの戦闘風景を撮影していた。






 体育の剣道の授業でしか剣に触れたことの無い千春であるが、相手は剣豪では無くモルドンだ。

 技術もフェイントも無くただ鎌を振り回す相手ならば、UNの型で感覚や強化された千春の敵ではない。

 鋭敏となった視覚や聴覚で相手の動きを捉え、手に持ったヴァジュラで一早く対応していく。

 今もまたこちらに向かって袈裟切りしてきたモルドンの鎌を、数歩横にずれることで回避した。


「くそっ、結構疲れるな…。 上手いこと、クリスタルを守りやがって…」

「■■!!」


 強化された五感で戦闘を続けるのは、非常に集中力を要する事らしい。

 既に頭痛を覚える程の疲労を感じている千春であるが、残念ながらモルドンはまだ健在である。

 相手は二本ある鎌を有効利用して、必ず片方の鎌は首元のクリスタルの防御に使っているのだ。

 これまでの攻防で何でも首元を狙ったのだが、防御側の鎌で防がれて決定打を与えられない。


「だがこれで…、どうだぁぁぁ!!」

「■■…、■■!?」


 まずは相手の強固な守りを崩さなければならない、千春が取った行動は相手の攻防の要である鎌の排除だ。

 これまでと同じように相手の攻撃の鎌を掻い潜り、首元のクリスタルへとヴァジュラでを振るおうとする。

 しかしその剣の軌道は途中で変わり、向かうは首元を守る鎌の腕の付け根だ。

 首元への剣戟をフェイントとした事が功を奏して、反応が遅れたモルドンはまんまと片側の鎌を切り落とされてしまう。


「■■■っ!? …■■■■■■■■!!」

「はん、いいのかよ。 もうお前には鎌が一つしかないんだぜ!

 よーし、今からお前に最高の王の力を見せてやるよ!! …なんてな」

「ああ、マスクドキングの台詞だ!!」


 鎌を落とされたことで怒りを覚えたのか、モルドンが残った鎌を振りかざしながら突っ込んでくる。

 勝利を確信した千春はヴァジュラを構えながら、冗談交じりに現在放映中にマスクドキングの劇中の決め台詞を口にする

 一閃、モルドンの最後の一撃を紙一重でよけながら、ヴァジュラの横薙ぎがモルドンの首元に走った。

 クリスタルごと首を断たれたモルドンは、そのまま声すら漏らすことなく夜の闇へと消えた。











 少年たちがノリノリで撮影した映像は、結局マジマジに投稿されることが無かった。

 常識的に考えて両親の承諾なしに、未成年の姿をネットに上げる訳にもいかない。

 そして親に黙って夜の街に繰り出した少年たちが、どの面を下げて両親の承諾を得られるのか。

 マスクドナイトNIOHチャンネルとしては、朱美が撮影した少年たちの姿と声を排除した動画のみが投稿される事になった。


「そうかそうか、そんなに怒られたのか…。 それで良く、今日の撮影を許して貰えたなー」

「だって、マジマジに出たかったし…。 家のお手伝い1か月で許して貰ったよ」

「あーあ、モルドンとマスクドナイトNIOHの戦いが見れたことを自慢したかったなー」

「ダメだよ、この前のことは秘密だって約束でしょう。 代わりに今日の撮影があるんだし…」


 モルドンに襲われた事実を親に言いにくかった少年たちは、あの日の夜の冒険の収穫はゼロと言う虚偽の報告を家の人に伝えていた。

 そして町内ローカルニュースでその日にモルドンが出た事実を知った彼らの家族が、危険を冒した子供たちに見せた反応は簡単に想像出来るだろう。

 ただ夜の街を少し歩いただけでも死ぬほど怒られたのだ、これであの日の真実が知られたらどれほどの雷が落ちた筈だ。


「ほら…、そろそろ本場よ。 笑顔ね、笑顔」

「よーし、行くよ。 NIOHさん!!」

「ははは、俺の格好いい変身を見せてやるよ!!」


 後日、この前と同じ公園で千春と少年たちと撮影した動画。

 先日の一件で千春がうっかり正体をばらしてしまった事もあり、口止め料代わりに今回の映像が撮られる事になった。

 少年たちと共に変身ポーズを決めて変身して、彼らの前でマスクドナイトNIOHとしての力を見せて遊ぶ光景。

 "ヒーローをしてみた"と名付けられた動画は、少年たちを一時だけクラスのヒーローにするのだった。


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