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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
210/384

6-10.


 女子生徒たちはクラス内で自然にグループを作るものであり、所属する集団の外とは余り関りを持たないものだ。

 実際に彩雲はこれまで彼女たちとは、クラスメイトとしての事務的な関りしか無かった筈である。

 そんな彼女たちが休み時間に、いきなり彩雲の前に集まって声を掛けてきたのだ。

 そしてそのグループの中に居る一人の少女の姿に気付いた彩雲は、心臓が跳ねたような衝撃を受けた。


「お願い、矢城さん。 あなたのお兄さんにお願いして、私をシロちゃんに会わせて!!」

「…どういうことですか?」


 彩雲は内心の動揺が顔に出ていないか不安に感じながら、平静を装って彼女たちと話していた。

 感情豊かな兄とは対照的な、感情を表に出す事が苦手な自分を彩雲は余り好きでは無い。

 しかしそれは彩雲にポーカーフェイスを与えており、彼女の内心の動揺を全く表に出さなかった。

 恐らく千春なら妹の僅かな感情の揺れを察せただろうが、それ程付き合いが無い彼女たちはその変化に気付いてないようだ。


 元々魔法少女の使い魔には一定の需要があり、使い魔を題材にしたマジゴロウのファミリアショーは"マジマジ"のトップ層にも位置している。

 千春たちもまだ真面目にマジマジで活動していた頃は、使い魔シロをNIOHチャンネルのマスコットとして推していた。

 その一環としてNIOHチャンネル内の一コーナーで、シロの日常生活などを撮影して投稿していたのだ。

 やがて例の動画のせいでマスクドナイトNIOHの知名度が上がるともに、彼の相棒である白い使い魔も自然に有名となっていた。


「一生のお願い! 生シロちゃんに会ってみたいの、何よあの愛らしい姿に可愛らしい動きは!? 私を萌え殺しにきているの! あんな使い魔が居たなんて…、一生の不覚だわ」

「今、この子がシロちゃんに嵌っててさー。 一回直に会いたいんだって言うんだよ、いいでしょう?」

「は、はぁ…」


 休み時間に彩雲の前に現れた、三人組の女子グループ。

 彼女たちは彩雲の兄である千春の相棒と言うべき存在、使い魔シロと会わせて欲しいと頼みに来たらしい。

 恐らく彼女たちは何処かでシロの動画を見つけて、その魅力に打ちのめされたのだろう。

 シロの魅力について熱く語る中央の背の高い少女、その隣で彼女の夢を叶えてくれと訴える少し太り気味の少女。

 それに対して彩雲は返答に困っているのか、明らかに口籠っている様子であった。

 何時もなら此処で彩雲の頼れる友人泉美が割って入るのだが、彼女は運悪く教師からの雑用を命じられて席を離れている。

 単なる偶然なのか狙った行動か、彼女たちは泉美というストッパーが不在の状態で彩雲に近づいて来たのだ。


 実は自分と千春の関係が知られてから、この手のお願いをされることは彩雲の日常茶飯事であった。

 有名人の親戚が同じクラスに居るならば、その伝手を頼って会いたいと思うのは仕方ない事である。

 しかし頼まれる側としては堪ったものではなく、勝手なことを言うなと叫びたいと思ったことは数え切れない程だ。

 聡明な彩雲は一度折れてお願いを聞いてしまったら、延々とお願いを繰り返される羽目になることを理解している。

 そのため彩雲は基本的にこの手の頼みごとは、一切受け付けないように気を付けていた。


「わ、私からもお願い…、彩雲さん。 我儘だって分かっているけど…」

「志月さん…」

「いいじゃない。 お兄さんの喫茶店で、その使い魔の子を紹介してくれるだけでいいのよ」

「お願い、シロちゃんをこの手で…、この手で…」


 本来なら即答で断る筈の頼みを断れなかった理由、それは彼女たち左側に居る一人の少女の存在にあった。

 その細身の少女、志月はたどたどしい口調で仲間の少女たちと同様に彩雲へ頼みこむ。

 志月に続いて先ほどから頭を下げ続けている二人の少女も、畳みかけるように彩雲に縋りついてきた。


「わ、分かりました、兄に相談してみます。 兄次第ですので、余り期待はしないで下さいね…」

「本当にいいのっ! やったぁぁぁ、ありがとう!!」


 理由は分からないが千春や朱美が調査しているらしい、志月と言う名の病弱なクラスメイト。

 彼女が自らの意思でシロに会いたいと言ってきたのだ、これは千春たちにとって幸運なことかもしれない。

 一度千春たちに確認した方がいいと判断した彩雲は、渋々といった感じで回答を保留するのだった。






 彩雲から話を聞いた千春や朱美は、喜んで彼女たちを喫茶メモリーへ迎えることにした。

 偽渡りの再襲撃もあって後回しにされていたが、奇跡の子こと志月には未だに多くの謎が残されている。

 しかし流石の朱美も当人を通さずに、これ以上の情報収集は難しかったらしい。

 出来れば自然に志月と接触したかった所で、向こうから都合のいい話を持ちかけてくれたのだ。


「お兄さん、今日はありがとうございます」

「いいって事さ、ヒーローはファンサービスもしないとな」

「○○!!」


 数日後の休日、千春はシロと共に喫茶店メモリーで彩雲を出迎えていた。

 地元中学に通っている彼女たちに案内は不要なため、今日は現地集合という段取りになっている。

 まだ集合時間から随分と早いので、恐らく志月を含む少女たちが来るまでもう少し掛かるだろう。

 最近は白奈の調子が上向きになってきた事もあり、シロもフリーズすることなく元気一杯の様子である。


「彩雲ちゃんは余計なことを考えなくていいからね…。 学校に居る時みたいに、自然に振舞ってくれれば大丈夫だから。 千春、あんたは裏で引っ込んでなさいよ。 マスクドナイトNIOH様に見張られてたら、警戒するかもしれない」

「分かっているよ。 この手の話はお前の専門だ、俺は引っ込んでいるよ…」

「はい、大丈夫です…」


 店には既に朱美もスタンバイしており、志月から情報を聞き出す役割は彼女の担当となっていた。

 仮に志月が魔法少女である場合、マスクドナイトNIOHの存在は相手の警戒心を強める可能性がある。

 志月の心を開くためには、朱美の言う通り千春は余り出張らない方がいいだろう。

 千春たちは彩雲に対して、未だに志月を探る理由を全く説明していない。

 不信感を抱かれても仕方ないが、出来のいい妹は何か理由があるのだろうと納得してくれているようだ。


「しかし志月って子が、自分からシロに会いにくるとはな…」

「正確には志月さんのお友達ですね。 そのお友達が言うには、ぬいぐるみっぽい姿が最高だと…。 どうも彼女は動物嫌いとかで…」

「ああ、その子は生き物が嫌いなタイプね。 確かにシロちゃんは他の使い魔たちと違って、まんまぬいぐるみだから…」

「○○?」


 円方形の胴体に関節部の無い棒上の足が前後に二本、短い首を挟んだ丸い顔には目鼻口が無くクリスタルが埋め込まれている。

 その白一色の肌は生き物と言うより布製のそれであり、シロはぬいぐるみ型使い魔というべき姿をしていた。

 日常モードは子犬にしか見えないマジゴロウのガロロなど、使い魔は基本的に生き物の姿を取っている物が多い。

 幾ら使い魔が実際の生物とは異なる存在とは言え、その姿や振る舞いは本物と区別することは出来ないだろう。

 現実の生き物が苦手な少女に取っては、使い魔に対しても同じような苦手意識を持つに違いない。

 しかし生物とは明らかに異なるぬいぐるみのような見た目をしていて、他の使い魔たちと同様に自立して行動しているシロなら話は別だ。

 生き物らしさが無いシロが志月の友人のハートを打ち抜いたようで、すっかりシロに夢中になった彼女が彩雲を通して今日の約束を取り付けたのだ。

 そして志月はシロにぞっこんとなった友人の付き添いで、この喫茶店メモリーに現れることになっていた。






 そして約束の時間丁度に、彼女たちは喫茶店メモリーに訪れた。

 店に訪れた彼女たちは友香の案内を受けて、事前に彩雲と朱美が座っているテーブル席へと案内される。

 テーブルの真ん中では今日の主役と言うべきシロがちょこんと座っていて、彼女たちを歓迎するように短い手を上げて見せた。


「きゃぁぁぁっ、シロちゃんだー!!」

「○○!?」

「ちょっと、他のお客さんの迷惑だから抑えて…」

「彩雲さん、今日はありがとうございます」

「いえ、兄の許可も取れたので…」

「バカ春は仕事で忙しいから、私が代理で歓迎するわね。 ようこそ、喫茶店メモリーへ」


 夢にまで見たシロの姿を見ていきなりハイテンションな友人その1と、その暴走を止めようとする友人その2。

 その横で志月は今日のセッティングしてくれた彩雲に頭を下げており、彩雲が彼女の礼に応える。

 千春の代理と言うことで彼女たちの輪に入った朱美は、彼女たちを営業スマイルで出迎えた。



今週はちょっと更新が遅れました…、上期末で忙しかったということでご容赦を…。

明日も更新するので、よろしく。


では。

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