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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
207/384

6-7.


 喫茶店メモリー奥の作業場で、千春は今日も通販用商品の梱包作業に勤しんでいる。

 そして部外者立ち入り禁止である作業場に、当然のような顔で入り込む女性の姿があった。

 どうやらその女性は少々お冠なようで、いかにも不機嫌そうな表情で千春の方を睨みつけている。


「あんたねー、少しは段取りって物を考えなさいよ。 それでも元新聞部なの? 彩雲ちゃんは貴重な情報源なのだから、もう少し慎重に動かないと…」

「だから俺が悪かったて、何回も言っているだろう。 後、俺はずっと帰宅部だ」

「新聞部よ、数合わせにあんたの名前を部員名簿に書いといたもの」

「はぁ、何を勝手に…。 落ち着け、俺。 こいつのペースに乗ったら酷い目にあうぞ」


 小学生時代からの腐れ縁である女性、朱美は作業中の千春にネチネチと文句をぶつけていた。

 どうやら朱美は無断で彩雲から、奇跡の子こと志月の聞き取りをした事が不満らしい。

 それに対して千春は自分に非がある事を自覚しているようで、素直に謝罪の言葉を口にしていた。

 数年越しに自身の経歴詐称の事実を知って思わず怒鳴り掛けるが、大人な千春は気持ちを落ち着かせる。


「本当に悪かったよ…、少し先走った。 白奈の件もあるが、それとは別にどうも気になってな…」

「へー、意外にいい勘しているわね、千春の癖に生意気よ。 確かにその奇跡の子は、色々と怪しいそうなのよね…」


 奇跡の子、志月。

 彩雲のクラスメイトであり、まるで魔法でも掛けらたかのように不治の病を克服した謎の少女。

 本来なら千春たちは、病で苦しむ白奈を救う手段を求めて調査していた筈だ。

 しかしその調査は何時の間にか、その過程で出てきた志月の謎を追うための物にシフトしていた。


「…詳しく説明しろ」

「まず志月ちゃんが苦しんでいた病気は、実は白奈ちゃんと同じものだったわ。 そもそもあの病院は、その病気の第一人者がいるらしいから、専門家の治療を目当てに彼女たちが集まってきたのね」

「ああ、確か白奈の実家はこの辺じゃ無いらしいぞ。 治療のためにわざわざ故郷から離れて、あそこの病院に入院してきたんだ」

「志月って子の家はそれ程裕福じゃ無いから、たまたま病院が近くにあっただけらしいけどね…」

「同じ病気ね…、志月って子のは症状が軽かったのか…」


 医者にも得手不得手は存在しており、それぞれ専門としている分野は多岐に分かれる。

 あの高級ホテルにも見える豪華な病院は、白奈や志月が苦しんだ病気に対する最新治療が受けられる場所であった。

 そのために白奈は故郷から遠く離れたこの病院に単身で入院することとなり、父親とも頻繁に会えないらしい。

 そして同じ病に苦しみながらも、志月は奇跡とやらを起こして見事に回復してみせた。

 この奇跡の種が魔法少女の力であるならば、志月の症状は白奈より軽い物であったのではと千春は予想する。


「外れよ。 志月ちゃんの症状は、白奈ちゃんと同じくらい酷かったらしいわ」

「はぁ!? それでどうして白奈がベッドで寝たきりになって、その子は彩雲と学校に通えるんだ」

「だからあの子は奇跡を起こしたのよ…」

「白奈と同じ病気だった少女が、魔法少女の力で奇跡を起こした? けどそれなら白奈だって奇跡を起こせる筈だ…、一体何が違うんだ」


 残念ながら千春の考えは、朱美の次の言葉であっさり否定された。

 志月が白奈と同じ病でかつ症状も同程度だったならば、それは魔法少女の力で回復不能だった筈だ。

 それなのに片方は奇跡を起こして病院を退院しており、片方は未だに病院のベッドで苦しんでいる。

 この謎を突き止めれば、白奈を救う手段が見つかるかもしれない。

 千春の中に僅かな希望が芽生えるが、同時に志月に対する疑問がますます強くなっていく。


「本当、きな臭くなってきたわね…。 ああ、言っておくけど勢いに任せて、志月ちゃんの所に行くとかは止めてよ。 突撃取材をする手も無くはないけど、今は裏取りを優先すべきよ」

「分かっているよ、相手はまだ中学生だしな…」

「一応彩雲ちゃんにも注意しておかないと、下手に彼女の方で探りを入れようとして警戒させたくないもの。 全く、だからもう少し段取りを…」

「しつこいぞ、朱美! 仕事の邪魔だ、さっさと取材にでも行っちまえ!!」


 患者の個人情報など本来なら機密である筈だが、一体この女は何処からこれだけの内容を集めてきたのか。

 後が怖いので情報源については深く追求しないが、朱美がこの手の話でガセネタを掴ませられるとは思えない。

 餅は餅屋、調査の方は暫く朱美に任せた方が得策だろう。

 千春は志月に対する調査を引き続き朱美に一任することを決めて、大人しく自分の仕事を続けた。

 






 喫茶店メモリーの仕事を終えた千春は、愛車を走らせて現在の仮住まいへ帰宅していた。

 徐々に都市部から離れていくルートを走らせて、郊外にある牧場を目指していく。

 牧場でのスローライフを初めてから既に1か月以上が経過しており、悲しいことにこの道のりにも慣れてしまった。

 私有地か保護地域かは分からないが、左右に立派な木々が並んでいる道路に入った所で千春はバイクのアクセルを開ける。

 千春は早く帰ってシャワーでも浴びようと、人気が無い道に入ったことをいい事に法定速度以上のスピードでバイクを走らせていく。


「…っ!!」

「なっ…、うわぁぁ!?」


 そんな交通ルールを守らない駄目ヒーローに天罰が下されたのか、千春は道路脇の木々から飛び出してきた何かに襲われてしまう。

 ヘルメットを被って視界が制限されている千春には、いきなり黒い塊が道路の外から現れたようにしか見えなかっただろう。

 バイクのスピードを出し過ぎていた事もあり、千春は避ける暇も無くバイクごと倒されてしまう。

 それなりにスピードが乗った状態で転倒させられたのだ、下手をすれば死ぬ可能性すらあり得る危険な事故である。

 千春の体はバイクごとアスファルトの道路に横滑りして、嫌な金属音と共に道路の外に飛び出してしまった。


 この大事故を起こした下手人は、道路脇の林にバイクごと吹き飛んで行った千春の様子を窺おうとしていた。

 その動きから見てもこれは偶発的な事故では無く、明らかに千春をターゲットとした凶行である。

 あの勢いで転倒したのだ、普通であればバイク乗っていた人間の生存は絶望的だろう。

 しかし謎の刺客は見た、林の方から道路に戻ってくる一人の影を…


「…うわっ、マジでやばかった!? 本当、変身できて良かったー。 大丈夫かー、シロ」

「〇〇…」


 確かに普通であれば死んでいてもおかしくな事故だったが、幸か不幸か千春は普通では無い力を持っていた。

 あの格好付けたポーズや決め台詞を省略して、千春は転倒する刹那のタイミングで変身に成功したのだ。

 頑丈なAHの型の鎧を纏う事で事故の衝撃を受け止めた千春は、そのまま赤い鎧姿で道路の方に戻ってくる。

 その手には先ほどまで背負っていたカバンを抱えており、その中に収納していた相棒を取り出して無事を確認していた。

 シロは何時ものフリーズをしてなかったようで、若干ぐったりとしながらも千春に返事を返しくれる。


「…ヲっ!?」

「はっ…、お前は…」

「〇っ!?」


 そして千春はそこで初めて、自分を事故死させようとした異形の正体を目視した。

 鱗に覆われた体、長い口に尾、蜥蜴をそのまま人型にしたかのような漆黒のモルドン。

 世間から"渡り"と呼ばれている、千春と因縁深いモルドンの姿がそこにあったのだ。


「渡り、どうして此処に…。 って、あれ?」

「ヲヲ…!!」

「うわっ、逃げるな! ああ、でもバイクが…。 くそ、俺のバイクぅぅ!!」


 変身した千春の姿を確認した途端、渡りのモルドンの姿をした何かは即座に退散しようとする。

 千春は反射的にそれを追おうとするが、林の中に転がる愛車の存在に後ろ髪を引かれて足を止めてしまった。

 マスクドナイトNIOHの力で千春は助かったのだが、バイクの方は事故の衝撃をまともに受けて破損していた。

 変わり果てた姿となった愛車を見捨てられない千春は、結局渡りの追跡を諦めて林の中のバイクの方へと戻った。



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