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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
203/384

6-3.


 夜、漆黒の異形モルドンたちが姿を見せる危険な時間帯。

 今日も街や人々を恐怖に陥れるため、一体のモルドンが何処からともなく現れていた。

 それは腕の部分から蔦のような触手を垂らし、頭部には二葉のように見える物体が生えている。

 植物が人の形になったような怪物、植物型モルドンというべき存在が人気の無い道路を歩いて行く。

 このまま放置していれば他のモルドンたちと同様に、植物型モルドンは朝まで無秩序に暴れて街に多大な被害を及ぼす事だろう。


「…時間通りだな、悪いが此処から先は通行止めだ」

「■■?」


 そんな植物型モルドンに向かって、一人の若者がゆっくりとした足取りで近付いてくる。

 モルドンは魔法少女にしか倒す事は出来ない、それはこの世界の常識だった。

 どう見ても女性には見えないこの男は、愚かな自殺志願者なのだろうか。

 モルドンは自身を全く恐れていない奇妙な珍客に困惑しているのか、手にあたる蔓を揺らしていた。


「…変身っ!!」

「■っ!?」


 若者は徐に右腕を前に出し、魔法少女のステッキに見立てた二本指を構える。

 すると男の腹部が一瞬光を放ち、クリスタルが埋め込まれたベルトが展開していた。

 男はそのまま伸ばした腕を大きく弧を描いて一回転させて、元の位置に戻った所で気合の声を共に振り下ろす。

 魔法少女の伝統というべき魔法ステッキを一回転させるお決まりのモーション、それを模した男のオリジナル変身ポーズ。

 次の瞬間に男の体は光に包まれて、そこには黄金の鎧を纏ったヒーローが誕生していた。


「■…、■■!?」

「さて…、久しぶりのモルドン退治と行こうか」


 マスクドナイトNIOH。

 魔法少女の力を譲り受けた青年、矢城 千春が変身する、オリジナルのマスクドヒーロー。

 その最強形態である黄金の鎧、AH-UNの型の姿となった千春は仮面の下で不敵な笑みを浮かべる。

 対するモルドンは本能的に彼我の戦力差を理解してしまったのか、手の蔓をますます激しくばたつかせていた。

 千春はヴァジュラを変形させて、同じ方向に向けられた両端から放出されたエネルギーが大剣を形成する。

 薄暗い夜の街に誕生した金色のヒーローは、神の使いの証である天衣から光を放ちながらモルドンに突っ込んだ。






 黄金の戦士は何故か巨大な大剣を振り下ろした姿勢のまま、夜の街で固まっていた。

 その剣先には体ごとクリスタルを真っ二つにされて、無へと返っていく哀れなモルドンの姿がある。

 消えゆくモルドンの下には縦に割れた道路が見えており、その大剣の凄まじい威力を物語っていた。


「えっ、これで終わりか…」

「やり過ぎですよ…、千春さん。 普通のモルドンはこんな物ですよ…」


 余りの手応えの無さに呆気に取られている千春に対して、魔女風のローブを纏った魔法少女が溜息交じりで声を掛けた。

 千春の先輩魔法少女でありバイト先の後輩店員である友香は、ただのモルドン相手にオーバーキルしたヒーローに若干呆れ気味だ。

 友香を含む魔法少女たちを一蹴した偽渡り、使い魔ライフをも倒した攻撃をまともに受けたら普通のモルドンでは一溜りも無いだろう。


「お兄さん、もうちょっと尺を考えてよ。 久しぶりのNIOHチャンネルでのモルドン戦闘回なんだから、もう少し戦いらしいシーンを撮りたかったのに!!」

「悪い悪い、ちょっと勢い余ったわ。 この姿になるとどうも力加減がなー」


 友香に続いて話しかけてきたのは、撮影用のカメラを回しているツインテールの少女だった。

 千春の動画制作の相棒であるNIOHチャンネル主の香は、この秒殺劇に対して容赦なく不満をぶつける。

 今日はNIOHチャンネルを始めた頃のように、久しぶりのマスクドナイトNIOHのモルドン退治を動画にしようと意気込んでいたのだ。

 しかし蓋を開けてみら肝心の戦闘シーンは僅か数秒で終わり、これをそのまま投稿したら視聴者も拍子抜けであろう。

 千春としてもこの結果は予想外だったらしく、言い訳がましくAH-UNの型の過剰な性能について口にしていた。


 最近の千春は渡りや偽渡りの相手で手一杯だったため、魔法少女の日常業務と言うべき普通のモルドン退治は友香にほぼ丸投げしていた。

 本物や偽物の渡りのモルドン、普通のモルドンとはかけ離れた性能を持つ化け物たちと戦ってきたのだ。

 それらの経験が千春からただのモルドン、魔法少女には絶対に勝てない敵キャラの弱さを忘れさせたらしい。


「悪かったな、彩雲。 折角のAH-UNの型のお披露目なのに、こんなにあっさり終わらせて…」

「いえ、私は満足です! 格好良かったですよ、お兄さん!!」

「ええ、ええ。 強化フォームの圧倒的な性能で敵を粉砕する、実に素晴らしいですわ!! 流石はNIOH様、これぞマスクドシリーズ伝統の強化フォーム販促回ですよ」

「販促かー。 確かにこれが本家のマスクドシリーズなら、このタイミングで強化フォームの武器やグッズのCMをがんがん流しているよなー」


 千春は久しぶりに通常のモルドン退治に参加した理由、撮影中の香の隣で戦いを観戦していた妹とその友人に声を掛ける。

 マスクドナイトNIOHの生みの親でありこのAH-UNの型もデザインした彩雲、千春は彼女にその成果を直に見せたかったらしい。

 自身がデザインしたヒーローが戦う姿を見れた彩雲は、興奮しているのか僅かに頬を紅潮させながら千春を褒め称える。

 彩雲の友人であり重度のマスクドファンである泉美も同様に、劇中のマスクド作品さながらに敵を圧倒した強化形態の活躍に興奮しているようだ。

 泉美の言葉を聞いて今更ながら千春は、この戦闘がマスクドシリーズあるあるのグッズ販促のために制作された話みたいだなと自嘲する。


 マスクドシリーズは商業作品であり、スポンサーが販売するグッズの売り上げが重要視される。

 そしてマスクドファンの間では賛否両論ではあるが、明らかに販売中の商品を宣伝する目的で作られる販促回が存在することは事実だ。

 強化フォームの活躍を過剰に見せることで、それに関連させた商品に興味を持たせようと目論む展開はマスクドファンである千春も覚えがある展開だった。


「まあ、残念ながらNIOHの商品化は永久に無いんだけどな…。 魔法少女でお金儲けをしてはいけません、なんてな」

「はい、それはとてもとても残念です。 NIOH様のグッズなら、絶対に集めるんですけど…」

「はははは、それは嬉しいな…。 シロ、お前もちゃんと俺の活躍を見てくれたか」

「○○、○○〇!!」

「シロちゃんも興奮してましたよ、凄く体をばたつかせてましたから」


 千春は彩雲の腕に抱かれた白いぬいぐるみもどき、使い魔シロに向かって優しく語り掛ける。

 渡りなどのイレギュラーな相手でなければ、友香の占いで次にモルドンが現れる日時は掴むことが出来た。

 モルドン退治の予定を事前に知らされていた白奈は、わざわざ今夜のために投薬のタイミングなどを調整してくれたらしい。

 フリーズすること無く元気そうな様子のシロを通して、恐らく白奈も千春のAH-UNの型の活躍を見てくれたに違いない。

 使い魔ライフとの戦いの時はよく見れなかったAH-UNの型の活躍をしっかり見たいと言う、白奈のささやかな願いもこれで叶えられた。

 千春はシロの頭を優しく撫でながら、今も病室のベッドで横たわっているであろう白奈のことを考えていた。




連休中は時間が取れるので、とりあえず月曜までは毎日投下できそうです。


では。

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