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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
199/384

5-19.


 千春と魔法少女たちと使い魔ライフの戦いの模様は、何時もの通り例の動画にまとめらた。

 その反響はこれまでで一番の物であり、動画の衝撃的な内容に人々は驚かされたようだ。

 胸部の無傷なクリスタルが露になり、渡りのモルドンの偽物であると暴かれた謎の使い魔。

 その謎の使い魔の圧倒的な力を前に、次々に倒れていく魔法少女たち。

 そんな絶体絶命の状況で登場した、黄金の鎧を纏うマスクドナイトNIOHの新たな強化形態。

 特撮作品あるあるの強化形態お披露目で行われる無双シーン、まさにそれを地で行ったAH-UNの型の活躍ぶりは特に評判になっていた。

 そしてこの動画の存在は結果的に、公開直前だった劇場版マスクドメビウスの宣伝にも繋がったらしい。


「いやー、あの動画は実にいい宣伝効果になったよ。 君を映画に招いた判断は正しかった…」

「そんな、それほどでも…」


 公開初日の舞台挨拶が終わった後、千春たちは関係者専用の控室に招かれていた。

 劇場版マスクドメビウスを手掛けた篠原監督は、実にいい笑顔で千春の例の動画のことを話題に出す。

 確かに例の動画のコメントを見ると、NIOHがゲスト出演している劇場版マスクドメビウスについて言及している物もチラホラとあった。

 監督のご機嫌な様子を見る限り、本当にあの動画はマスクドメビウスの映画に貢献していたようだ。


「本当に凄かったですよ、千春さん。 あれって全部本当の映像なんですよね、マスクド作品の戦闘シーンを見ているようでした!! 特にあの金ぴかの鎧が格好良かった…。

 千春さん、次の映画ではメビウスと一緒に戦いましょう!!」

「お、いいねー。 今回の映画ではメビウスとの共演シーンは無かったから、次はメビウスとNIOHがタッグを組むのか!!」

「ああ、そうなるとあの形態のスーツを作らないとなー。 いや、ここは新造するのも…」

「ははは、俺はオファーが来たら喜んで参加しますよ」


 劇中で主人公の永路(えいと)を演じた俳優の長谷 飛鳥もまた、例の動画でのNIOHの活躍を見てくれたようだ。

 飛鳥は興奮した様子で千春を褒め称えた飛鳥は、次の映画で彼が演じるマスクドメビウスと共演しないかと持ちかける。

 恐らく次の映画はマスクドメビウスの後継作品になる、新たなマスクドヒーローが主役となるだろう。

 しかしマスクドシリーズのお約束として、大抵は前作主人公が頼れる先輩として新マスクドヒーローをサポートをしくてれるのだ。

 飛鳥の話を聞いていた他のスタッフたちも実に乗り気であり、撮影用にAH-UNの型のスーツを用意する話まで飛び出してきた。

 恐らくリップサービスだろうが本当にメビウスとの共演が実現したら嬉しいで、千春は笑顔で飛鳥の提案を了承する。


「ふふふ、お兄さんと飛鳥くんの2ショット。 これは評判になりますよー…」

「あのー、此処で撮影した奴ってマジマジにあげても大丈夫ですか?」

「構わないよ。 一応チェックがいるから、事前にうちの広報を通して…」


 千春の連れである香と朱美は、千春が飛鳥やスタッフたちと談笑している姿を撮影していた。

 映画関係者と話す千春の様子をNIOHチャンネルに投稿できたら、マジマジで評判になることは間違いない。

 例の動画の影響でNIOHチャンネルの登録者数が急増している事も有り、香はこの映像で更に追い打ちを掛けるつもりらしい。

 朱美は一応ジャーナリスト志望らしく、香のために関係者から撮影した映像に関する許可を得ていた。


「あ、一つお願いしてもいいかな。 今日来れなかった白奈のために、飛鳥くんからサインを貰えないかな」

「ああ、撮影に来ていた子ですよね、あの犬っぽい使い魔の魔法少女の…。 いいですよ、折角だから他の出演者も…」

「頼むよ、飛鳥くん。 よかったなー、シロ。 白奈へのいいお土産が出来たぞー」

「○○」


 売店で購入したパンフレットを取り出した千春は、本日は病欠した白奈へのお土産として飛鳥からのサインをお願いする。

 その頼みを快く応じた好青年の飛鳥は、自身だけでなく他の映画出演者からのサインも貰ってきてくれるようだ。

 千春は足元に居るシロの方に笑いかけて、それに応じるようにシロが楽し気に鳴き声をあげた。






 自身が出演している劇場版マスクドメビウスを心行くまで楽しんだ数日後、千春は愛車を走らせて病院へと向かっていた。

 渡りのモルドンと渡りのモルドンの姿を扮する使い魔との件が片付いた千春は、久しぶりに白奈の見舞いにやって来たのだ。

 最近は渡り関連で色々と忙しかった事もあり、彼女と直接顔を合わせるのは数か月前の映画撮影の時以来である。

 電話では何度か話したが携帯越しに顔を見られるのを白奈が恥ずかしがり、画面越しでも暫く彼女の顔を見ていない。

 病院に併設する駐車場にバイクを停めた千春は、カバンからぐったりとしているシロを取り出す。


「大丈夫か、シロ? またフリーズしているのか…」

「…」

「白奈、大丈夫なのかな…」


 シロが固まる現象は今でも定期的に起きており、千春の呼びかけにも応じず微動だにしない。

 他の使い魔たち比べて白奈とシロの関係はより深い繋がりを持っており、シロの状態は白奈のそれとイコールと言っていい。

 ドクターストップで外出を止められて映画に来られなかった時点で、白奈の調子が余り宜しくないことは察せられる。

 しかし今日の面会については看護師の山下の承諾を得ており、少なくとも白奈は千春と面会できる程度の状態である筈なのだ。

 千春はシロの様子に一抹の不安を覚えながらも、それを押し殺して彼女の待つ病室へと向かう。


 高級ホテルと言っても通用しそうな、VIP専用の豪華な個人用病室。

 看護師の山下の案内を受けて千春は、久々に病院へ白奈の見舞いに訪れていた。

 彼の手には土産として持ち込んだ牧場のアイス詰め合わせと、劇場版マスクドメビウスのパンフレットがった。

 このパンフレットには初日の舞台挨拶の後、関係者控室に顔を出して出演者からサインを書いて貰ったレア物である。

 豪華な手土産を携えて、千春は意識して笑顔を見せながら白奈の病室へと足を踏み入れた。

 彼の背後で沈痛な表情を浮かべている、山下の不穏な様子に全く気付くことなく…。


「……はっ?」


 千春は目の前の光景が受け入れられないのか、呆然とした面持ちで入り口付近に固まってしまう。

 幾度か見舞いに来たことが白奈の病室、彼女のはその中央に置かれたベッドの上で横になっている。

 病院暮らしが長い白奈は、以前から色白で細身の体付きといういかにも病人というべき姿をしていた。

 しかし目の前に居る白奈は千春の記憶にある姿よりさらに痩せており、その顔は死相と呼ぶに相応しい程に青白くなっている。

 一瞬死んでいるのかと思ってしまう程だが、微かに聞こえる寝息がそれは勘違いであると教えていた。


「ね、寝てるのか…、白奈」

「薬が効いているんです。 効果が強い薬で、副作用もあって…。 もう少ししたら目を覚ましますから…。」

「薬…、そんな物は前には…。 だからシロは…」


 定期的にシロが突然フリーズしてしまう理由は、この薬とやらが原因だったようだ。

 本体である白奈が薬の効果で眠っている時、シロの方もそれの影響を受けていたらしい。

 直視するのも絶えない程に白奈はやせ細っており、そんな強い薬を常用しなければならない状態になっていると言う。


「…何時からだ、何時から白奈は!?」

「…」

「前の戦いの時も、こいつはこんなだったのか!? こんな状態の白奈を戦わせたのか!!」

「…それが彼女の望みでした」

「っ!?」


 幾ら何でも数日程度で、白奈がこんな重体になるとは思えない。

 シロがフリーズを始めた時期を考えると、彼女は少なくとも1か月前くらいから今の状態だった筈だ。

 そして先日の偽渡りとの戦いの時も、白奈は今のような危険な状態であったに決まっている。

 この看護師は白奈がこんな状態になっているにもかかわらず、シロの参戦を止めなかったのだ。

 千春の追及に対して山下は僅かに視線を落としながら、それが白奈の望みであったと語る。

 患者である白奈の体より白奈の希望を優先した、つまり彼女の体はもう…。


「…あ、千春さん」

「し、白奈! 久しぶり、何かすっかり痩せたなー。 ダイエットでもしているのか?」


 千春は年若い少女が学校にも行けず、病院で長期療養しているという事の意味を理解してなかったのだろう。

 否、そんな残酷なことを理解したくなくて、今日まで見て見ぬふりをしていたのかもしれない。

 しかし今目の前には千春が目を背けていた現実があり、そこから逃げる訳にはいかない千春はベッド上の白奈と話す。

 自分の笑顔が引き攣っていないことを願いながら、千春は白奈と何でもない会話を楽しむ。

 自身の命を省みることなく使い魔シロと言う存在を生み出した時点で、魔法少女白奈の運命は決まっていたのかもしれない…。



思ったより長くなったので、投稿を二回に分けました。明日の投稿で今度こそ、今回の話は終わりになります。


では。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シロちゃんも白奈ちゃんも長い付き合いになる… 無事でいて欲しいが、もう結末を見守るしかない [一言] いつも楽しみにしてます まさかの進化フォームは驚きました! これからも応援してます!…
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