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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
197/384

5-17.


 彩雲が誕生させたマスクドナイトNIOHは、AHの型とUNの型という二つの形態を使い分けるオリジナルのマスクドヒーローである。

 しかし魔法少女一人分のリソースでは片方の形態しか再現できず、千春に対してAHの型のみを授けることになった。

 本来なら実現不能であったUNの型を実現させたのが、マスクドナイトNIOHの最初のファンである魔法少女の天羽 香だ。

 千春と組んで"マジマジ"での活動を始めたかった香は、交換条件として彼女が持っていた魔法少女のリソースを差し出した。

 彩雲と香、二人の魔法少女のリソースを使うことで初めて二つの形態を使いこなすマスクドナイトNIOHが誕生したのである。


「何、ほ、本当にNIOHの強化フォームがあるのか!?」

「す、凄いです。 それがあれば、NIOHチャンネルの登録者数は爆増間違いなし!!」

「よしっ、早速試すぞ。 強化フォームかー、テンション上がってきたぜぇぇ!!」

「あ、あの…」


 千春の中にはAHの型とUNの型がそれぞれ備わっており、戦況に応じて切り替えながら使っている。

 そしてNIOHのような複数の形態を持つマスクドヒーローには、お約束とも言うべき物があった。

 俗に"てんこ盛り"や"全部載せ"などとも揶揄される、各種の形態を同時に展開した強化フォーム。

 実は彩雲もこの例に倣って、AHの型とUNの型を同時に展開する形態についても構想していたらしい。

 まだ千春たちがNIOHチャンネルを始めたばかりの頃、何気ない雑談の中で強化フォームの話を耳にした千春と香は当然ながらそれを試そうとした。


「ん、なんだこれ…」

「もやもや…、何か変?」

「すみません。 実はこの形態のデザインはまだ考え中でして…」


 しかし千春が強化フォームの話を聞いて実際に試した処、その体は白い靄に掛かったような不安定な姿となった。

 実はこの時点で彩雲の中でこの強化フォームのデザインが完成しておらず、事実上強化フォームは封印されていたのだ。

 彩雲が普段持ち歩いているスケッチブックを開いて見せると、そこには大きく×印が書かれた幾つかの没デザイン案が書かれている。

 試行錯誤している彩雲の心境を現すよう、千春の体は靄のような物で覆われて隠されていた。


「天羽は彩雲の能力を拡張させる能力を作ったんだよな? 他の人間を経由すれば、こんな風に保留も出来るんだな…」

「彩雲ちゃんがその強化形態のデザインを完成させれば、多分このモヤモヤも無くなるのね。 それまで強化フォームはお預けかー」


 普通であれば魔法少女が生み出す能力の形は、それが実現した時点で確定するので後出しの修正は不可能である。

 しかし香は自身の能力を、彩雲の能力を拡張するという非常に特殊な形で実現していた。

 香自身としては能力の方向性を確定した上で彩雲に渡しているので、現時点で彩雲にまだ未確定である強化フォームの決定権が託されているようだ。

 本来であらば変更不可である魔法少女の能力を、第三者を経由することで一時的に保留可能とは少々驚きである。

 どちらにしろ彩雲がこの強化フォームのデザインを確定させながら、この靄は晴れることは無いのだろう。


「分かりました、兄さん。 後、三日待ってください! 最高の強化フォームを作り出して見せます!!」

「嫌、そんなに急がなくていいから…。 強化フォームなんて貰っても、今の所は使い道無さそうだし…」

「私としては視聴者数が落ちたタイミングで出したいなー、人気回復の起爆剤にしたいし…」


 某食通の新聞記者が言うような大言を吐いた彩雲であるが、結局彼女が強化フォームを完成させたのはそれから半年以上掛かった。

 あの年末の偽渡りとの一件の後、年が明けた頃にようやく彩雲はこの強化フォームを仕上げたのだ。


 AHの型とUNの型の二つを兼ね備えた形態となれば、普通はそれぞれの形態を合体させた物を想像するだろう。

 しかし彩雲は二つの要素を組み合わせただけの、安直なデザインでは納得できなかったらしい。

 それぞれの形態の要素を持ちながら全く新しいデザインにしたいと欲張ったことで、完成まで半年以上の月日が掛かったそうだ。

 そんな彩雲が紆余曲折を経て辿り着いたのは、ネット上で見つけた"執金剛神"の立像であった。


「執金剛神…、阿吽の元となった神! これよ、これが私の求めていた物!!」


 阿形・吽形の対となっている仁王像・金剛力士は、元は"執金剛神"と呼ばれる一つの存在であった。

 インスピレーションを得るために金剛力士について調べた彩雲は、そこから執金剛神の存在に行き着いた。

 金箔で彩られた豪華な鎧を身に纏う執金剛神の姿に、彩雲の求めているAH-UNの型のイメージが固まったらしい。

 そこから香を巻き込んで数度のリテイクを経て、現在のデザインに落ち着いたという。

 彩雲が創造した渾身の"AH-UNの型"、それが使い魔ライフと言う強敵を前にお披露目することになった






 突如見たことの無い姿となり、分身たちを一掃したマスクドナイトNIOHこと千春。

 本能的に相手の実力を感じ取った使い魔ライフは、即座にNIOHに大して追撃を掛ける。

 今宵何人もの魔法少女を一撃で仕留めた高速移動を用いて、ライスの姿は一瞬の内に消えてしまった。


「…甘いぞ!!」

「ヲっ…、ヲヲ!」


 先ほどまでの千春であれば、ライフの圧倒的なパワーとスピードに食い下がるのが精一杯だったろう。

 しかし派手な金ぴか鎧に姿を変えた今のNIOHは、それまでのNIOHとは別次元であった。

 完全に相手の動きを読み取った千春は、お返しとばかりにライフの体を一回り大きくなったヴァジュラの刃で振るう。

 ライフの強靭な皮膚と圧倒的なパワーに弾かれる事無く、新しいヴァジュラの刃は相手の体を切り裂いた。

 驚いたライフはすぐさま飛び退き、慌てて負傷した箇所を癒しの力で回復していく。

 傷事態はすぐに治せそうだが、それ以上にダメージを受けた事に動揺している様子だ。


「そんな単調な攻撃が今の俺には通じない。 前に戦った使い魔ブレイブと同じだ、お前は戦い方が下手糞なんだよ!!」

「ヲヲ…」


 恐らく目の前に居る使い魔は、以前のブレイブと同様に同格相手との戦闘経験が皆無なのだろう。

 その動きは工夫が感じられない単調な物であり、これまでライフはそのスペックのみでゴリ押してきたに違いない。

 確かに千春のようにあの高速移動に対抗できる力でも無ければ、何の工夫も無く勝ててしまう。

 たとえワンパターン戦法だろうとも、相手が一定上の性能を持っていなければ戦いの土俵にすら上がれないのだ。

 ライフの分かりやすい動きはUNの型の感覚であれば簡単に読み取れる物であり、それもあって少し前の千春でも相手にどうにか食い下がることは出来た。

 AHの型と比べて非力であるUNの型ではライフのスピードに対抗できても、あの圧倒的なパワーには歯が立たない。

 そしてAHの型ならライフのパワーに喰らい付けるかもしれないが、あのスピードに着いて行けずに嬲り殺しにされるだろう。

 しかし今のAHの型とUNの型と力を併せ持つ今の姿であれば、今のライフに対抗できる性能を手に入れた千春ならば話が大きく変わってくる。



 相手が回復するのを待っている義理は無い千春は、攻守交代とライフに向かって突っ込む。

 下手に相手に余裕を与えて先ほどのように人質でも取られたら目も当てられないので、此処は押しの一手だ。

 AH-UNの型となって背部に設けられた、この姿のデザイン元である"執金剛神"立像にあった"天衣"を模した半円のパーツ。

 神の使いが持つ天の羽衣を現してた物らしいが、当然ながら千春の背中にあるこれはただの飾りの訳が無い。

 半円を描くパーツから放射される金色の光、それを推進力として千春はまさに天の羽衣を纏うが如く駆けていく。

 流石にライフの高速移動ほどでは無いが、千春は一瞬で相手との距離を詰めてしまう。


「ヲっ! ヲヲ…」

「どうした、逃げるだけだと勝てないぞ…」


 "天衣"による推進力の勢いを殺すことなく、千春はヴァジュラの刃を横薙ぎに振るう。

 それに対してライフは慌ててその場から高速移動して、その致命的な斬撃が逃れたようだ。

 しかし虚をつかれた事で一瞬反応が遅れたらしく、胸部のクリスタルに近い部分が浅く切り裂かれていた。

 急所であるクリスタルを狙われたことに驚かされたライフは、今のNIOH相手に接近戦は無謀であると判断する。

 そのままライフは高速移動で、NIOHが先ほどの推進力を持っても一足飛びで近づけない距離まで移動した。

 相手から十分に離れた所でライフの体が再びぶれて、今度は十数体もの分身が生まれた。

 どうやら接近戦は幾らでも増やせる分身たちに任せて、本体は一定の距離を保ち続ける腹積もりらしい。


 十数体の分身がNIOHに向かって突撃させると同時に、本体の方はお得意の光線での援護射撃を試みようとしていた

 分身たちが一斉に千春に向かって行くことを確認したライフの本体、その口元が強く光り始めた。

 そして分身たちが千春に飛び掛かると同時に、ライフがその口を大きく開いて例の極太の光線を放とうとする。

 しかし次の瞬間に一閃の雷光が分身たちの間を通り抜けて、発射寸前のライフの口元に飛び込んだでは無いか。


「ヲっ!? ヲヲヲっ…」

「その攻撃は見飽きたよ、あんまり弱点を外に出さない方がいいぞ。 さて、まずは一つ…」


 口内から感じる焼けるような痛みと共に、ライフは自身の力が抜けていく嫌な感覚を覚えていた。

 先ほど放った分身たちも何時の間にか消えており、その先に居るNIOHは銃撃モードとなったヴァジュラを構えている。

 分身たちを半ば無視して本体の動きに意識を集中していた千春は、ライフがあの大口から例の光線を放つ気配を感じ取ったらしい。

 その口元から放たれる光線は確かに強力であるが、奴の口内には魔法少女たちから奪ったクリスタルがあるのだ。

 自分から弱点を晒すに等しい攻撃を何度もしていたら、今のように狙い撃たれても仕方ないだろう。

 最もあの極太の光線を放つ刹那のタイミングを狙い撃てる者が、今のマスクドナイトNIOH以外に居るとも思えないが…。






 彩雲が考案したマスクドナイトNIOHは、彼女が千春に相談することなく独自にデザインしたオリジナルマスクドヒーローである。

 愛するマスクドナイトと仁王像を合体させた見事なデザインに文句など付けようがなく、千春は素直にNIOHの姿や性能を受けれていた。

 しかしNIOHの強化フォームのデザインを検討中だと知った千春に、特撮オタクらしい浅ましい欲望が生まれてしまったのだ。


「"キングカリバーぁぁぁぁ!!"」

「…強化フォームのデザインが確定してないなら、一つだけお願いがある。 俺はこれをやりたい!!

 ヴァジュラの両刃も格好いいけど、やっぱり大剣ぶっぱが男のロマンなんだよ!!」

「…分かりました、考えて見ます」


 "マスクドナイト"の劇中のワンシーンを動画で見せながら千春は、彩雲に対して強化フォームについて一つの注文を付けていた。

 千春の愛するマスクドナイトが劇中後半で手に入れた最強武器、"キングカリバー"

 動画の中で劇中の最強形態となっているマスクドナイトが、この"キングカリバー"から放たれる光線で敵を一掃していく。

 マスクドナイトファンである千春としてはこのシーンは憧れであり、出来るならば自分でもやって見たいと彩雲がに対して熱く語ったそうだ。


 出来た妹である彩雲は、兄の身勝手な我儘にもしっかり応えてくれた。

 ライフの口内にあるクリスタルの破壊に成功した千春は、残った胸部のクリスタルを破壊して止めを刺そうとする。

 しかしライフは胸元のクリスタルだけは守ろうと手で庇っており、ヴァジュラの銃撃ではあの防御は貫けない。

 千春は相手の小賢しい守りごと残ったクリスタルを破壊するため、折り曲げて銃型にしていたヴァジュラを更に変形されていく。

 ヴァジュラを柄の中心を起点に180度折曲げて、それぞれの先端が同じ方向に向けた。

 すると同じ方向を向いているヴァジュラの両端からエネルギーが放出されて、西洋剣の如き幅広の刃が出来たでは無いか。


「ははは、注文通りだよ…。 これで…、終わりだぁぁぁ!!」

「ヲヲヲヲヲヲっ!?」


 千春の要望に応じて新たに設けられた、AH-UNの型のみが備えるヴァジュラの大剣モード。

 ヴァジュラの両刃を束ねることで生まれた大剣を大上段に構えた千春は、そのまま気合と共に振り下ろす。

 彩雲と香、二人の魔法少女から託されたクリスタルから供給される凄まじいパワーが、赤と青が入り混ざった光となって大剣の刃から放出された。

 その光はクリスタルの片割れを壊されたダメージで、立っているのもやっとらしいライフを容赦なく呑み込んでいく。


「キングカリバー…、なんてな。 …うわ、マジできつかったー」


 劇中のマスクドナイトよろしく、大剣を夜空に掲げながら千春は冗談めかしに呟く。

 千春の視線の先には先ほどの攻撃の余波で焦げた地面と、暗闇の中で僅かに光るクリスタルの残骸だけである。

 どうやら千春の止めの一撃は、ライフの体を胸部のクリスタルごと吹き飛ばしたようだ。

 使い魔ライフの撃破を確認した千春はそこで限界を迎えたのか、変身を解いてその場に倒れ込むのだった。



出来ればセイバーの最終回に合わせて土日で強化フォーム回を終わらせたかったので、結果的に何時ものお話より文章量が増えてしまいました…。

まだ話が終わって無いのですが、強化フォームで無双するシーンを書き切った事でなんか燃え尽きた感じです。


前に書いた特撮系小説の時も、強化フォーム回まで辿り着いた時に達成感を感じたんですよね…。

なんか山場を越えたって感じで…。


これでライフ戦は決着、後1~2回後日談を投下して今回の話は終わりですかね。


では。

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