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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
196/384

5-16.


 それは偽渡り、使い魔ライフとの戦いが始まる少し前だった。

 朱美が準備した偽SNSを見ているならば、恐らく偽渡りは今夜此処に現れる筈だ。

 偽渡りたちがクリスタルチェイサーの存在を信じているならば、彼らは正体を隠し続けるために一刻も早く障害を排除しなければならない。

 今日のために極秘裏に千春と縁のある魔法少女たちをこの牧場に集めており、戦力としては十分であろう。

 しかし千春は戦いの前に一つの悩みがあった、目の前で反復横跳びをやっている白いぬいぐるみ調の使い魔のことである。


「〇、〇、〇、〇っ!!」

「いや、もういいから…。 お前が元気なことは分かったから…」


 当初の千春は彼の相棒と言うべき使い魔シロを、今宵の偽渡りとの決戦に参加させない腹積もりだった。

 最近のシロの状態を見ていた千春は、シロの生みの親である白奈の体調に問題があると考えていた。

 間接的とは言え、未だに病院で療養中の少女に負担を掛ける訳にはいかないだろう。

 そんな千春の考えを敏感に察知したシロが、こうして自分は元気だから大丈夫だと積極的にアピールしてきたのだ。

 確かに千春に見せてくれた切れのいい反復横跳びを見る限りでは、シロの状態が万全であるように見える。

 しかし昨日までのシロが定期的にフリーズしていた事を考えると、今夜のために無理しているとも考えられた。


「遅くにすみません、今いいでしょうか? ちょっと白奈の事を聞きたくて…」

「はい、構いません…」


 確かに戦力的に考えても今夜の戦いにシロが出てくれた方がいいが、それが原因で白奈に何かあっても困る。

 今から白奈の所に行く訳にはいかないし、電話などを掛けても恐らく今のシロと同じように問題無いと主張してくるに違いない。

 そこで千春は以前に連絡先を聞いていた、病院で白奈を担当している白衣の天使に電話を掛けたのだ。


 結論として千春は白奈の担当看護師である山下のゴーサインが出た事もあり、シロの参戦を決めた。

 医療従事者の立場である山下は、当然のように偽渡りとの戦いにシロを巻き込む事には消極的であった。

 しかし山下は白奈の意思を尊重して、白奈の望みを叶えて欲しいとも言ってくれたのだ

 その口調から個人的にも賛成している訳では無いようだったが、一応は担当看護師からの許可も取れた。


「いいか、お前はあくまで援護だけでいいからな。 あんまり積極的に前に出るなよ、ずっと空から弾幕を張ってればいいから…」

「○…〇○」


 魔法少女が自身のクリスタルを破壊された時に受ける反動、"ノックアウト"。

 普通の魔法少女であれば長くても半日くらい気絶するくらいだが、病弱な白奈だと話が変わってくる。

 白奈の体を心配した山下からシロのクリスタルは絶対に守って欲しいと釘を刺されており、千春自身もそのつもりだ。

 千春はシロに対して安全重視で後方支援に徹しろと指示し、シロは若干不満そうだが頷いてくれた。

 作戦が上手く行けば戦いは一方的な物となり、シロが危険な目に合う事も無いだろう。

 偽渡り…、使い魔ライフの実力を過小評価していた千春はこの時、今夜の戦いをあくまで楽観視していた。


「これが終わったら、また白奈の所に見舞いへ行こうな。 そうだ、この牧場の特製アイスを土産に…」

「○○!!」


 今夜の戦いが上手く行けば偽渡りの一件も片付き、後回しにしていた白奈の見舞いにも行くことが出来る。

 慢心している千春はシロの頭を撫でながら、もう戦いが終わった後のことを話し合う。

 シロは千春に構って貰えて嬉しいようで、楽し気な声を出しながら喜んでいる様子だった。






 千春からのヘッドバッドによって迎撃を妨害されたライフは、このまま上空から落ちてくる投げ網に絡み取られる運命であった。

 ライフに組み付いている千春も巻き込まれてしまうが、今はライフの動きを止めるのが最優先である。

 こいつの足さえ止めれば何とかなると、千春はライフを掴む腕に力を籠めながら相手の動きを見逃すまいとしていた。

 そこで千春はどう見ても渡りのモルドンにしか見えない、目の前の蜥蜴型使い魔の口元が歪んだような気がしたのだ。

 その瞬間に頭の中で警戒信号が鳴り響き、千春は咄嗟に空中に居るシロたちに退避するよう叫んでいた。


「逃げろぉぉぉ、佐奈、シロ!!」

「えっ!?」

「ヲヲヲ!!」


 千春の警告と、ライフの上半身の背部から光線が放たれるのは同時であった。

 それは元々の能力か、もしくはライフが取り込んだ他の魔法少女の能力を組み合わせて実現したのか。

 これまでライフが何度もその大口から放っていた光線は、それ以外の箇所からでも発射可能だったらしい。

 ライフの体から延びる幾本もの光線は佐奈が放った投げ網を弾き、そのまま上空の彼女たちの元へと届く。

 残念ながら千春の警告は一歩遅かったようで、その光線はシロの機械羽を容易く切り裂いてしまう。


「○○!?」

「くっ!」

「よし、あれなら何とか…」


 機械羽を破壊されたシロは空中に留まることが出来ず、地面へと墜落していく。

 シロに乗っていた佐奈は咄嗟にシロから飛び降りて、自身の能力を使って空中を跳躍する。

 佐奈という重りが無くなったシロは、機械羽の無事な部分を動かして姿勢を安定させていく。

 上手いこと落下スピードを落とせたようで、落下は免れないがあの様子なら無事に着地が出来るだろう。

 とりあえずシロと佐奈の無事を確認した千春は、使い魔ライフに組み付いた状態のまま安堵する。

 しかし気が逸れた状態で捕まえておけるほど、限界突破した使い魔は甘くはない。


「やばっ! ああぁっ!?」

「ヲヲヲ!!」


 千春が気が付いた時には、既にライフの口元から光が溢れて出ているではないか。

 先ほど千春に妨害されたライフの大口から放たれる極太の光線、千春がシロたちに意識を向けている間に次発を準備していたらしい。

 咄嗟に千春はライフの体から手を放して飛び退き、同時にライフから光線が放たれた。

 直撃こと避けたものの光線の余波が千春の体を焼いて行き、千春は頑丈な鎧越しにも感じる衝撃と熱に苦悶の声を漏らす。


「くぅぅぅ…」

「千春さん! このぉぉ!!」

「□□□□!!」

「○○!!」

「…ヲ!!」


 そのまま他の魔法少女と同様に地面に転がってしまう千春の姿を前に、シロと佐奈とリューが怒りの声をあげる。

 佐奈は牧場の空を駆け降りて、リューもそれに続いて急降下を行い、地上に降りたシロは残った機械羽を槍のように束ねながら突撃する。

 魔法少女と使い魔たちによる一斉攻撃、ただのモルドンであれば一溜りも無いだろう。

 しかし相手は此処までに圧倒的な力を見せてきた、あの使い魔ライフである。

 佐奈たちの怒りの一撃など意味は無いとばかりライフが一鳴きすると、次の瞬間にその体がぶれ始める。

 するとそこには新たに三体のライフが生まれて、それぞれのライフが佐奈たちを個別で迎撃したでは無いか。


「分身!? まさかガロロちゃんの…、ああっ!?」

「○っ!?」

「□□!?」

「「「ヲヲ!!」」」


 佐奈たちの最大の利点であった数の利が崩されたら、最早勝ち目は無い。

 残念ながら佐奈たちの復讐戦はあっさりと潰されてしまい、千春が地面から起き上がって戦線復帰した時には全てが終わっていた。

 最後まで生き残っていた佐奈とシロとリュー、彼女たちが他の魔法少女たちと同じように地面に蹲る。

 残ったのは何時の間にか四体に増えた使い魔ライフと、マスクドナイトNIOHこと千春だけであった。


「…くそっ、くそっ!!」


 はっきり言ってしまえば、千春は今目の前に居る偽渡りこと使い魔ライフの事を甘く見ていた。

 千春の最大の敵であった本物の渡りのモルドンを基準として準備し、これだけの魔法少女が居れば負ける筈が無いと高を括っていたのだ。

 しかし蓋を開けて見れば千春たちはこの様であり、本来であれば戦いなどと縁遠い筈の若い少女たちを巻き込んでしまった。

 その中には病院で長期療養している白奈も居る、シロの参戦を許した千春は絶対に彼女を守らなければならない筈だったのに…。

 バイクと一体化しているシロが横転している姿を目の当たりにした千春は、悔し気に拳を握りしめながら愚かな自身に対する怒りを覚えていた。






 志月に対する癒しの能力を止めて、生まれて初めて全力を出した使い魔ライフはこの時点で自身の勝利を確信していた。

 生き残っているのは主である志月が最も警戒していた男、マスクドナイトNIOHのみ。

 確かにその実力は他とは一線を画しており、今のライフと渡り合った上でまだ生き残っている所は流石と言える。

 癒しの力を止めた影響で今も志月は病の苦しみに耐えている筈であり、一刻も早くこいつらを倒して彼女の元に戻らなければならない。

 志月のために働く忠実な使い魔ライフは、この戦いに終止符を打つためにガロロから奪った能力で作り出した分身たちを千春の元に向かわせた。


「「「ヲ、ヲヲ!!」」」


 分身にまで例の高速移動は出来ないようだが、分身たちの身体能力は今のライフとほぼ同等である。

 この数の分身たちが一斉に掛かれば、マスクドナイトNIOHでも全てを捌き切れずに倒されるだろう。

 本体の意思を受けた分身たちは三方に別れて、何故か棒立ちになっている千春の周囲を囲んだ。

 そして分身たちは息を合わせて、一斉にマスクドナイトNIOHこと千春へ襲い掛かったのだ。


「…ヲっ!? …ヲ、ヲヲ!?」

「「「ヲ、ヲヲヲ…」」」


 次の瞬間、ライフの本体は予想外の光景を前に驚愕する。

 分身たちが一斉に飛び掛かった事で千春の体が見えなくなった瞬間、牧場が赤と青の光で満たされたのだ。

 月明かりが照らすだけの薄暗い牧場で突如放たれた眩い光を前に、ライフは一瞬だけ目を晦まされてしまう。

 やがてライフの視界が回復した時に、そこには体を両断されて地面に転がる分身たちの姿があるでは無いか。

 分身たちは微かな呻き声を漏らしながら、許容を超えたダメージを受けた事でその体は消滅させていく。

 そして消えていく分身たちの中央に、これまで見たことの無い鎧を纏ったNIOHが立っていた。


「悪かったよ…、それが今のお前の本気なんだろう? そんな相手にこっちの都合で手を抜くなんてさ…」

「ヲヲヲ…」

「最初からこうすれば良かったんだ、そうすればシロや他の奴らも…。 ああ、もう後先考えるのは無しだ! これが…、俺の本気の本気だぁっ!!」


 それは今までのAHの型ともUNの型とも違う、全く新しいNIOHの姿であった。

 東洋風の鎧を意識した造形は変わらないが、そのカラーリングは見るも鮮やかな金色になっている。

 その金地の上にはAHの型とUNの型を思わせる、赤と青の文様が施されていた。

 金色の鎧の背部には細長い紐のような造形が、後光のように半円を描いて展開している。

 顔を覆うマスクは逆ハの字の眉を思わせるアンテナと鋭く吊り上がった目、そして食い縛るかの如く横に広がる口元のパーツ。

 手には一回り大きくなったヴァジュラを携えており、その先端から展開している両刃で分身たちを切り裂いたのだろう。

 何より目を引くには腰に巻かれたベルト、そこに光る赤と青の二つのクリスタルが爛々と輝きを放っている。

 "AH-UNの型"、彩雲が半年以上の期間を費やして完成させた渾身のNIOH強化形態の初お目見えであった。



今回は何時もより気合を入れて書いたので、少し更新が遅れました…。

いよいよこの時が来ました、恐らく特撮ファンなら薄々予想していたであろう強化フォーム回です!!

特撮番組なら絶対、劇中で挿入歌が入るシーンですよ!!


満を持して登場したマスクドナイトNIOHの強化フォーム、"AH-UNの型"。

その真価については明日の更新までお楽しみを!!

次回、ライフ戦決着です!!


では。

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